同性婚訴訟違憲判決の爽やかさ
- 2021年 3月 19日
- 評論・紹介・意見
- 両性の平等澤藤統一郎
(2021年3月18日)
昨日(3月17日)、札幌地裁(武部知子裁判長)が、「同性婚訴訟」判決で民法規定を違憲とする判断を示した。正確には、「同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは,立法府の裁量権の範囲を超えたものであって,その限度で憲法14条1項に違反する。」(裁判所作成の判決要旨)という言い回し。
同性での結婚を望む同性愛者に婚姻を認めない民法の規定は、異性間婚姻者と比較しての差別であって、許容される立法府の裁量の限度を越えたものとして憲法(14条1項)違反であるというこの判断。インパクトが大きい。画期的な判決と言ってよい。
裁判所が作成した【判決要旨全文】が、ネットの各サイトで紹介されているが、これもA4・8頁のかなりの分量。これを要約しなければならない。
事件は国家賠償請求事件である。行政訴訟ではない。3組6名の原告が、国を被告として、《同性間の婚姻を認める規定を設けていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定》(判決が「本件規定」と呼んでいる)の違憲を前提とする国家賠償請求をしたもの。
原告の違憲の主張は、「本件規程」が、憲法24条1項(婚姻は両名の意思にのみ基づいて成立する)及び2項(婚姻における個人の尊厳)に違反し、憲法13条(個人の尊重)に違反し、憲法14条1項(法の下の平等)にも違反しているというもの。
以上の主張に対する判決の骨子は以下のとおり。
1 「本件規定」は,憲法24条1項及び2項には違反しない。
2 本件規定は,憲法13条には違反しない。
3 本件規定が,同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは,立法府の裁量権の範囲を超えたものであって,その限度で憲法14条1項に違反する。
4 本件規定を改廃していないことが,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。
以下は、共同通信が配信した、「判決要旨」の要約である。
民法や戸籍法は、婚姻は異性間でなければできないと規定している。憲法24条は「両性の合意」「夫婦」など異性の男女を想起させる文言を用い異性婚について定めたもので、同性婚に関して定めたものではない。民法などの規定が同性婚を認めていないことが、憲法24条に違反すると解することはできない。
婚姻とは当事者とその家族の身分関係を形成し、種々の権利義務を伴う法的地位が与えられ、複合的な法的効果を生じさせる法律行為だ。
民法などの規定が同性婚について定めなかったのは1947年の民法改正当時、同性愛が精神疾患とされ社会通念に合致した正常な婚姻を築けないと考えられたためにすぎない。そのような知見が完全に否定された現在、同性愛者が異性愛者と同様に婚姻の本質を伴った共同生活を営んでいる場合、規定が一切の法的保護を否定する趣旨・目的まであるとするのは相当ではない。
性的指向は自らの意思にかかわらず決定される個人の性質で、性別、人種などと同様のものと言える。いかなる性的指向がある人も、生まれながらに持っている法的利益に差異はないと言わなければならない。
日本では同性カップルに対する法的保護に肯定的な国民が増え、異性愛者との間の区別を解消すべきだという要請が高まりつつあるのは考慮すべき事情だ。同性愛者に対し婚姻の法的効果の一部ですら受ける手段を提供しないのは、合理的根拠を欠く差別的取り扱いで、憲法14条が定める法の下の平等に違反する。
国内では、画期的な判決だが、海外では、同性婚を認める国が増えている。とりわけ、先進諸国では既に常識となっており、約30の国や地域が同性婚を認めている。2019年には、台湾がアジアで初めて、同性婚を法制化した。南アフリカやブラジル、米国や台湾では、司法の判断が切っ掛けとなって同性婚が認められた。
日本でも、今回の判決によって同性婚の議論が盛んになり、この問題について考えていこうという機運につながるだろう。制度改革への第一歩となりうる。
原告らの痛切な訴えが、3名の裁判官の胸に熱く響いたのであろう。原告の真剣さ、切実さに共感する裁判官を素晴らしいと思う。原告である人間の心の痛みの訴えに、人間として共感する裁判官。このハーモニーが、新たな地平を切り拓いていく。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.3.18より許可を得て転載
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