「アベノマスク」から1年、変わった世界、変わらぬ日本の無為無策
- 2021年 4月 1日
- 時代をみる
- 加藤哲郎新型コロナウィルス
2021.4.1 日本政府の第二次緊急事態宣言は、飲食店の夜の人出を減らしただけで、感染を劇的に減らすことはできませんでした。重症者の医療受入状況を多少改善しただけで、外出抑制・自粛促進効果を失い、解除するとまもなく、今度は第四波の到来です。変異株によるリバウンドは、避けられません。この日本の感染対策の無為無策の背後に、関東軍防疫給水部(731部隊)と軍馬防疫廠(100部隊)の亡霊が作用している問題について、3月13日、NPO法人731部隊・細菌戦資料センタ第10回総会で、「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影」と題する記念講演を行いました。その内容は、you tube で速報されましたが、その後主催者側で、当日の報告レジメ・パワポ原稿にもとづき最終版を編集してくれましたので、12月の第3波直前に行ってyou tube に入っている「ゾルゲ事件」「スパイの妻」講演の映像と共に、ご笑覧ください
●「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影 」https://www.youtube.com/watch?v=l6YAsTQxDto&t=864s
(パワポ資料はPDF:https://xa0007.blogspot.com/2021/03/731100_28.html)
ちょうど1年前の2020年4月1日、日本政府の第25回新型コロナウィルス感染症対策本部が開かれました。そこでの当時の安倍首相の演説の目玉が、「本日は私も着けておりますが、この布マスクは使い捨てではなく、洗剤を使って洗うことで再利用可能であることから、急激に拡大しているマスク需要に対応する上で極めて有効であると考えております。そして来月にかけて、更に1億枚を確保するめどが立ったことから、来週決定する緊急経済対策に、この布マスクの買上げを盛り込むこととし、全国で5000万余りの世帯全てを対象に、日本郵政の全住所配布のシステムを活用し、一住所あたり2枚ずつ配布することといたします」—-海外からは「エープリル・フール?」とびっくりされた、いわゆる「アベノマスク」配付宣言でした。この日、東京では66名、大阪では34名の感染が確認されました。千葉県での10名の感染については、一人一人の年齢・居住地・職業、直近の行動態様、濃厚接触の有無についての詳しい報告がありました。「アベノマスク」がピント外れの愚策であったにしても、4月7日にはじまる第一次緊急事態宣言下では、二桁の感染者数に恐怖し「自粛」する緊張感が、まだあったのです。日本はいわゆる第一波のピーク直前で、国内感染者累計2384人・死者58人でした。世界の感染者は100万人突破、死者の5万人ごえが、大きなニュースでした。私の『パンデミックの政治学』(花伝社)は、主としてこの第一波から夏の第二波までを分析しています。
それから1年後の世界は、大きく動いています。感染認定者1億3000万人・死者300万人近くで、100年前の「スペイン風邪」の惨状に近づいていきます。アメリカでは大統領が変わり、中国ではウィグル族や香港市民への強権発動が見られました。ワクチン接種はようやくはじまりましたが、厳しいロックダウン下でも、ヨーロッパでの感染対策をめぐる政府の人権・自由制限とそれに対する市民の異議申し立て、コロナ禍でも見られたアメリカのBLM運動やベラルーシ、香港、タイの民主化運動、最近のミャンマー・クーデタにいたる社会変動がありました。ナショナリズムの強まりと社会の分断、人種民族差別やヘイトスピーチが蔓延する中で、それに対するさまざまな抵抗も見られました。この一年の日本の特殊性は、世界と同じ社会分断・格差拡大を狭い島国で内向きに経験しながら、それに対する民衆の抵抗・異議申し立てが弱く、権力者・強者が危機便乗型支配と私利私欲実現を目指すのに対して、民衆内部での「自助・共助」が自粛自警団やマスク警察、感染者差別や医療従事者差別に容易に転化していく姿がみられたことでした。「東京オリンピック・聖火リレー」強行と自民党内の「国旗損壊罪」立法の動きは、その極致です。ちなみに、1940年の「幻の東京オリンピック」の際に、開催そのものに懐疑的な軍部から出された「聖火リレー」の対抗案は、ギリシャからではなく天孫降臨の地宮崎から東京への「神火リレー」案でした。2021年の倒錯した「東京2020オリンピック聖火リレー」は、「神の国」の「お寺と海と神社ばかり」という、なにやら「紀元2600年祭神火リレー」に似た、復古主義的「共助」に乗った感染拡大導火線になりそうです。
「アベノマスク」決定から1年経った日本は、累計感染認定者数が50万人に、死者数が1万人に近づいています。1年前の第一波の累計を、一日で上回りそうな勢いです。4月1日は、日本の官庁・企業や学校にとっての新年度です。予算執行も、新年度に入りました。2020年度の新型コロナ対策で支出された日本の国家予算、もとはといえば国民の税金は、はたして感染対策に有効だったのでしょうか。感染第3波までの流れ、なかなか進まないPCR検査、相変わらずの医療体制とベッド数逼迫、医療従事者・看護師不足、進まない治療薬開発と間に合わなかった国産ワクチン、経済対策としてのGoToトラベルやGoToイートに比例しての感染の波の再発と飲食店時間制限の繰り返し、ささやかな休業補償では隠しきれない失業者・生活困窮者増大、社会全体での格差拡大と外国人労働者差別、等々。「アベノマスク」の布マスク2枚配付が、おしゃれな不織布マスク市場に変わった程度の変化で、経済復興に従属した感染対策、「自助・共助・公助」の「自助」優先・「公助」欠落の基本は変わりません。ちょうどもう一つの「緊急事態宣言」、3・11東日本大震災・フクシマ原発事故後の緊急・復興予算38兆円の10年後の後追い取材で、検証なきインフラ整備、被災者・被災地抜きの「復興事業」の実態、「復興」名目での便乗予算の流用・無駄遣いが顕わになったように。
私の3月13日の講演では、「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の3つの影」を、(1)世界の感染症対策を「人間の安全保障」から「国家安全保障」の生物兵器・バイオハザード・バイオテロ問題にした、日本の戦時細菌戦・人体実験とオウム真理教、(2)国立感染症研究所・東大医科研などコロナ対策専門委員会に受け継がれた731部隊・100部隊のデータ独占・秘密主義の伝統、(3)731部隊・100部隊関係者の生き残り策としての占領期ワクチン製造と「ワクチン村」への流れ、と論じています。(2)は、私の他に、上昌広さん『日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか』(毎日新聞出版)や山岡淳一郎さん『感染症利権』(ちくま新書)らも論じています。(1)については、ウィルス学者山内一也さんの多くの著作、日本獣医学会ホームページの連載「人獣共通感染症」連続講座のほか、旧ソ連における生物兵器開発と開発事故の実態を暴いたケン・アリベック『バイオハザード』(二見書房)が、ヒントになりました。(3)は、『満州における軍馬の鼻疽と関東軍』(文理閣)の著者である獣医学者・小河孝さんと共に探求を進めている関東軍軍馬防疫廠=100部隊研究の中間報告で、斎藤貴男さんや故芝田進午さんの日本型ワクチン研究開発史をベースにしています。弁護士の深草徹さんから、学術論文データベ ースに、「学術会議任命拒否ーー憲法の視座から見る」の寄稿がありました。河内謙策著『東大闘争の天王山ーー「確認書」をめぐる攻防』(花伝社2020)への『図書新聞』2月27日号に書いた私の書評と共に、アップします。3月末発売の『初期社会主義研究』誌 第29号に、「コミンテルン創立100年、研究回顧50年」という学術論文を寄稿しましたが、発売されたばかりですので、本サイトへのアップは次の機会にします。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4822:210401〕
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