禁酒令・灯火管制に見回り隊、「神火リレー」が消えそうなので自衛隊出動と学徒動員、それでオリンピック強行?
- 2021年 5月 2日
- 時代をみる
- オリンピック加藤哲郎新型コロナウィルス
2021.5.1 4月25日に、日本政府の第三次緊急事態宣言発動です。東京の感染者数が高止まりから増勢に転じ、感染力の強い変異株が早くに入った大阪・兵庫はすでに医療崩壊、自宅待機のまま亡くなる人まで出てきました。もともと第二次緊急事態宣言の解除が早すぎました。まだ東京で毎日300人も感染していたのに、7月オリンピックを開催したいがために3月25日からの福島「聖火リレー」開始に合わせて第二次宣言を解除し、そのリバウンドに変異株が重なって三回目、全国的な第四波です。5月11日まで4都府県となっていますが、誰もそれで抑え込めるとは思っていません。翌週IOCのバッハ会長が来日するので、それまでに高止まりにして蔓延防止等重点措置に移行する算段でしょう。そのための「緊急事態」指標が、酒類提供禁止の飲食店禁酒令、夜のネオンを消す灯火管制、違反する居酒屋・路上飲酒をチェックする見回り隊です。相変わらずPCR検査拡大・医療体制集中整備はなく、生活補償なき自粛・休業要請です。医療従事者のワクチン接種さえできない段階で、人の流れは大きく変わらず、介護施設や学校にもクラスター発生です。
新型コロナウィルスによる死者は、日本でも1万人を越えました。世界の死者数320万のなかではアメリカ57万、ブラジル40万、インド20万等々に比して大きくはありませんが、東アジア・太平洋ではインドネシア、フィリピンと共に突出し、中国全土の2倍、韓国の5倍、オーストラリアの10倍以上です。「Xファクター」は確かに欧米との比較で効いたと思われますが、それは台湾・中国・韓国・ベトナム等では遺伝学的に有効であっても、「清潔好きの日本文化」などではなかったことも分かってきました。感染者数の60万も、世界192か国/地域の中で38番ほどで、もはや極端に少ない国という評価は消えました。台湾やニュージーランド、あるいは大国でも中国がいうなら別ですが、日本が「コロナに勝利した証し」を語る資格がないことは、明らかです。感染はおさまるどころか、世界で1億5000万人、インドの1日30万人感染・3000人死亡を始め、変異を重ねて広がり続けています。
これに対して世界では、ワクチン接種による自己免疫型抑え込み、2回接種とPCR検査での「ワクチンパスポート」による日常生活回復が目指されています。ワクチン生産国であるアメリカやイギリス、それに中国やロシアでは、ワクチン接種が進んでいます。併行してワクチン調達・輸出・援助の米中「ワクチン外交」が展開されます。イスラエルやアラブ首長国連邦(URE)は、その素早い外交力でワクチン接種6割・4割を完了しています。この面では、日本はおそろしく稚拙・無力でミゼラブル。医療大国と自称してきたのに国産ワクチンを作れず、世界一の同盟国と誇ってきたアメリカからも十分分けてもらえず、接種率1%以下という超後進国。未だに医療従事者分さえ調達できず、高齢者用の日程も不確かで、いずれにせよ希望者全体に行き渡るのは、来年以降となります。
4月25日に、「聖火リレー」は「神火リレー」になりました。「東京五輪の聖火リレーは25日、宮崎県での初日を迎えた。全国16府県目。天の岩戸伝説など、神話ゆかりの高千穂町を出発」ーースポンサー企業宣伝車の騒音・お祭り騒ぎや国営放送化した公共放送の反対意見無視・消去はそのままで、菅首相の願った五輪ムードの盛り上がりはなく、自治体予算を使った神がかりの祈祷です。もともと3.11からの「復興オリンピック」と銘打たれた2020東京オリンピックは、新型コロナ感染に対する危機管理としては、科学の眼を曇らせる疫病神でした。福島原発事故の「アンダー・コントロール」の嘘からはじまって、本来他にまわしうる膨大な税金を、電通等協賛企業の官民癒着に費やしてきました。開催予定の半年前にコロナウィルス第一波を迎え、日本では感染者数を小さくみせるためにPCR検査を拡げないという、本末転倒の感染政策が採られました。厚労省医官・感染研・地方衛生研・保健所の「行政検査」とデータ独占、政府の経済復興優先・「補償なき自粛・休業」路線がはじまりました。世界的パンデミックで1年延期が決まっても、隔離した感染者のための集団病棟や軽症者・無症状者用の宿舎などに最適な有休施設をオリンピック用に多数確保しながら、リザーブからはずして感染対策にまわすことはできませんでした。結局手洗い・マスクや3密回避という、もはや日常化し警鐘効果をなくしたルーティンのほかは、飲食店の酒類販売禁止、ステイホームを促すネオン灯火管制、大量のアルバイトを使った繁華街パトロール・見回り隊など、「日本精神」で一億玉砕を叫んでいた時代と似た、神がかった精神主義です。「神火リレー」とは、1940年の「幻の東京オリンピック」の日中戦争による「返上」のさい、右翼・国粋主義者が軍部と結んで主張した、ギリシャからの「聖火リレー」に代わる高千穂・出雲から採火した神道リレーでした。
もっともIOCのバッハ会長から「日本国民の精神は賞賛の的です。粘り強さや、へこたれない精神を日本国民が持っていることは、歴史を通して証明されています」などとおだてられて、菅首相も小池東京都知事も、「無観客でもオリンピック実施」の構えをくずしません。そこで出てきたのが、日本的精神主義と対を成す、軍事的危機管理、自衛隊の治安出動です。まずは感染対策として必須のワクチン接種、5月から東京・大阪での新型コロナウィルスワクチンの大規模接種センターに、「医官や看護官による組織的活動が可能な唯一の国の組織である自衛隊」があたることが決定されました。「7月末までに高齢者への接種完了」のためだそうです。なぜかそのニュースは、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が日本看護協会に500人の看護師派遣を要請、医師200人も数ヶ月必要と申し入れ、それでなくてもコロナ対策最前線で要員不足で悲鳴をあげている医療従事者の「国策動員」の仕方が問題になっている局面で流れました。大阪で実際にはじまった「トリアージ」「命の選択」の全国版に、いよいよ関東軍731部隊の末裔である自衛隊衛生科が、「有事」として出動しそうです。医官も看護師も1000人以上はいるので、ワクチン接種ばかりでなく、オリンピックにも動員可能です。「災害派遣」のような法的根拠は後付けされるでしょう。極めつけが、海外からの観光客は断ることを決定し、国内でも観客参加が危うくなったところで報じられた、東京都の「東京五輪の観戦に小中学生ら81万人を動員計画」「 感染拡大最中に各学校に通達、観戦拒否すると欠席扱い」というスクープ。昨年12月に東京都の幼稚園から小中学校に日程案が送付済みで、「競技場への移動は電車やバス」だといいます。狂気の「学徒動員」計画です。
オリンピック決行はいまや、菅内閣の最重要な政治日程です。こうした「緊急事態」下のオリンピック強行に、安倍亜流内閣で人心を失いつつある菅首相の意向と焦りがあることは当然です。4月の日米首脳会談は、屈辱の冷遇外交でした。夕食会も開けず、ハンバーグでは会談したが、米国のオリンピック参加の確約はとれませんでした。米中冷戦さなかに半世紀ぶりで台湾問題を共同声明に明記した米国支援で、昨年は習近平を国賓待遇で招待していた対中関係は、深刻です。民主党バイデン政権で米国も国際的流れに復帰した脱炭素革命に便乗して、福島第一原発汚染処理水の海への投棄決定、福井県知事による40年以上の老朽原発の再稼働承認のバックラッシュです。この外交政策や、感染対策のもう一つの柱である医療体制デジタル化、マイナンバーカードでの国民総監視を含めた危機管理の全体像の下絵を描いているのは、どうやら政治家ではないようです。官邸官僚といわれる、首相が重用する高級官僚たちのようです。
政府のオリンピック感染対策の会議を仕切っているのは、杉田和博官房副長官、例の日本学術会議6人任命拒否の仕掛け人です。日米首脳会談で首相に付き添い訪米しワクチン確保に動いたのは、厚労省でも外務省でもなく、どうやら「官邸のアイヒマン」国家安全保障局長北村滋のようです。杉田・北村はともに警察官僚出身、40年前の中曽根内閣・後藤田官房長官期からはじまった、危機管理を通じた旧内務官僚復権の頂点です。厚生労働省も、旧内務省では、地方支配の一機構でした。こうした問題を含め、日本の感染対策の無為無策の背後に、関東軍防疫給水部(731部隊)と軍馬防疫廠(100部隊)の亡霊が作用している問題について、3月13日、NPO法人731部隊・細菌戦資料センタ第10回総会で行った、「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影」と題する記念講演は、you tube で。弁護士の深草徹さんから、学術論文データベ ースに、「学術会議任命拒否ーー憲法の視座から見る」の寄稿がありました。河内謙策著『東大闘争の天王山ーー「確認書」をめぐる攻防』(花伝社2020)への『図書新聞』2月27日号に書いた私の書評、3月末発売の『初期社会主義研究』誌 第29号に寄稿した学術論文「コミンテルン創立100年、研究回顧50年」と共に、本サイトへアップしておきます。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4830:210502〕
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