減紙続く新聞 生き延びる方策は?
- 2021年 5月 6日
- 評論・紹介・意見
- 新聞隅井孝雄
先日私の家に読売新聞がやってきて、「今日から一週間新聞を無料配達させていただきます、よろしければ購読をお願いします」と言ってきた。しばらくして再度やってきた読売の人が購読を勧めた。私は出身が日本テレビだし、心が動いたが、すでに3紙購読しているので丁重にお断りした。“販売の読売”と言われるが、購読すると答えたらどんな景品がつくのかを聞きたかった。
日本の新聞の発行部数減が止まらない。
2020年10月の調査(新聞協会)によると、新聞の全国総発行部数は3509万1944万部だった。日本の新聞の最盛期は1990年、その時は5367万5000部を記録した。30年間に、1858万3056(34.6%)が消えうせたことになる。
主要全国紙の21年1月度の発行部数は次の通り。読売7,310,734, 朝日4,818,332. 毎日2,025,962, 日経1,946,825, 産経1,223,328(日本新聞協会ABC部数)(注:ABCとは新聞雑誌の実売部数を調査する第三者機関)。昨年同期比でみても読売58万部、朝日43万部、毎日28万部を減らしている。 .
日本で情報メディアの雄として君臨してきた新聞も、今や経営危機にあえぐまでに至った。朝日新聞の場合2020年9月期の中間決算で419億円の赤字を計上した(前年同期は14億円の黒字)。社員の希望退職者100人以上日の募集を始めた。朝日以外も産経新聞や毎日新聞が19年に希望退職を実施しているほか、共同通信でも20年に自然減や採用抑制で式社員を300人規模で減らす方針を明らかにしている(ダイアモンド誌3/27)。
テレビ、新聞、雑誌、ラジオの4媒体広告費もインターネットの流れが強まった。2020年度ではマスコミ4媒体広告費2兆2536億円に対して、インターネット広告費は2兆2290億円と迫り、逆転目前とみられる。
しかし私は新聞が今の苦境から脱出するカギは必ずあると思う。
見習いたいニューヨーク・タイムズの電子化
アメリカを代表する新聞、ニューヨーク・タイムズは2020年12月、電子版の有料購読者が前年比48%増、509万人に達したと発表した。1年間で166万人増えたという。アプリや紙媒体を含めると総有料購読者は750万人をこえる。
「新型コロナウイルスの感染拡大や米大統領選を通じて、米国民の間で信頼できる情報や質の高い報道への関心が高まったことが有料読者の拡大につながった」といわれる(2/5日経新聞)。またトランプ元大統領に対する批判の姿勢に揺るぎがみられなかったことも、信頼感の要因となったとみられる。
私は1986年から1999年までニューヨークに滞在していたが、そのころのニューヨーク・タイムズは100万部前後を推移する“ニューヨーク地方紙”にすぎなかったことを考えると、隔世の感がある。今は全国紙というより、全世界紙といえるかもしれない。
ニューヨーク・タイムズは2008年のリーマンショックの際、広告収入がガタ減りし、経営危機に陥った。その際本社ビルの一部を売却して凌いだ。そして2011年有料電子版の発刊をスタート、編集局の体制を、紙媒体の編集、印刷、発送、配達の体制から、電子版中心のデジタル体制に全面切り替えをしたことが今日の成功につながった。
記者の数も、1,550人(2019年4月)から1,700人(2020年4月)に増強、また、2020年第2四半期には、電子版の売り上げ(購読料と広告収入)が紙媒体を初めて上回った。(2020.12.22文春オンライン)。編集面でも読者の知りたいこと、読者に知らせたいニュースを満載し、特ダネも相次いでいる。
日本では日経新聞が電子版で最も成功しているといわれている。電子版読者数は76万244件と発表した(1/15 日経オンライン)。紙媒体との合計は275万3376件。朝日新聞も電子版拡大に力を入れているが有料読者は32万件にとどまっている。
世界ですすむIT企業の報道記事対価支払い
オーストラリア議会は2月25日、米グーグルやフェイスブックなどIT大手に対し「ニュース記事使用の対価の支払いを求める法案」を採択した。
グーグルやフェイスブックは当初反発していたが、法案の一部が修正されとことから妥協が成立した。グーグルはオーストラリアで発行しているニューズ・コーポレーションなど主要メディアと記事使用料の支払いを合意、フェイスブックも報道機関に対価を払う「フェイスブック・ニュース」を英、米で開始するとともに、オーストラリアでも一部メディアとの間で支払いを合意した(2/25時事通信)。
オーストラリアの記事支払い料系統図、(毎日新聞3/26より)
EU閣僚理事会では2019年の著作権改正案の採択の際、IT大手がニュース記事を掲載する場合、公平な使用料をメディアに支払うよう義務づけた。それに基づき、グーグルはフランスの報道各社と交渉し、メディアの発行部数と、サイトの月間閲覧数などを参考に支払金額を決定することで合意している(1/22日経新聞)。
米国では「大手ITのような民間企業が国家に脅しをかけることは、独占企業のおごりにほかならない」(米エイミー・クロブシャー民主党上院議員)との声が上がった。米国議会では超党派の議員による「ジャーナリズム競争・保護法」が提出された(3/10)。報道機関に対し記事配信料に関する大手ITとの集団交渉を認める内容だ。IT大手マイクロソフトが同法案への支持を表明したことから、可決の機運が高まっている。英国やカナダも同様な法案を検討しているようだ(4/22毎日新聞)。
終わりに一言
数多くの専門記者が日夜隈なく取材し、真実に迫り、豊富な情報を届けている報道機関は社会にとって欠かせない機能だ。
海外では新聞を重要な基幹メディアとして守る動きが活発だ。新聞のオンライン化が急速の進み、しかもIT大手の広告収入を注入することで、新聞の機能を守っていこうという動きも見て取れる。
日本でも新聞の衰退を黙って見過ごすのではなく、重要な社会機能の一環として見直すとともに、新聞企業自体も海外メディアにならい、電子化を一層進めることが求められる。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion10834:210506〕
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