あなた何様? わたくし、IOC様ですよ。
- 2021年 5月 15日
- 評論・紹介・意見
- 澤藤統一郎
(2021年5月14日)
私が、IOC広報担当責任者 マーク・アダムズです。一昨日(5月12日)のIOC理事会のあとにバッハ会長に代わって記者会見を行った、あのアダムズです。
記者会見では私の思いが日本の皆さんに十分には伝わらなかったようですので、少し補充して、東京オリパラを目前にしている日本の皆様にコメントします。なおここだけの話しですが、バッハ会長には感情的でイレギュラーな発言が多く組織としてはハラハラせざるを得ません。その点は、お宅の国の前首相だった安倍晋三さん、全組織委員長だった森喜朗さんとよく似ています。みんな、とてもトップの器ではないのです。バッハさんの話よりは、私の発言をIOCの意思とお考えください。
私があの会見ではっきりさせたかったことは、日本国内の事情がどうであれ、「東京オリパラ2020」は必ず開催するということです。私たちは、けっして言われているほど愚かでも無鉄砲でもありません。世界と日本のパンデミックの状況も、日本の世論もよく知っています。その上で、IOCの利益のために必ず開催と言っているのです。
もう少し付け加えるなら、私たちIOCは、日本の皆様の国民性についてもよく研究し、知り尽くしているつもりです。第2次大戦時の米国が、日本人の精神構造をよく研究して、天皇制を残しつつ戦後処理に成功したようにです。
日本の皆様が、これまでのオリンピックとは異なる高いハードルを乗り越えねばならないことはもとより承知です。場合によっては感染再拡大のリスクあることも反対論者の言うとおりでしょう。それでも、東京オリパラは必ずやるのです。仮に、そのオリパラでパンデミックが再燃したとしても、それは現地の責任で、IOCが引き受ける問題ではありません。
なぜそこまでしてもオリパラをやるのか。理由は三つ。三つしかありません。「カネ、カネ、そしてカネ」です。ニューヨークタイムズに寄稿されたジュールズ・ボイコフ教授の仰るとおりです。
もっとも同教授は、「カネ、カネ、そしてカネ」を、なにか不純で不潔なものというイメージで描こうとしていますが、私どもはけっしてそうは考えません。今の世の中、お金は大切です。お金は神聖で美しい。オリンピック競技の勝者には、「金」「銀」が与えられるではありませんか。あれは、「金貨メダル」「銀貨メダル」という意味なのです。これを拝金主義というのであれば甘受するまです。
今われわれの前には二つの道があります。東京オリパラを中止することなく、何とかやり遂げれば、「カネ、カネ、そしてカネ」が手に入ります。しかし、これを中止すれば、「損、損、そして大損」が押し寄せてきます。その場合の金銭的損害や負債の処理は考えるだに恐ろしい。開催実行は当然ではありませんか。
パンデミックのコントロールが困難なこともよく分かっています。フクシマの事態をアンダーコントロールすることと同様の難事ですが、やめる理由にはなりません。あなたの国も困難承知で東京オリパラを招致したではありませんか。
選手団派遣をボイコットする国が出てくることはやむを得ません。が、IOCとしては、当該国の感染蔓延の事態にはさしたる関心はありません。隔離されたアスリートのワクチン接種が実行されていればよいだけの話で、幸いにファイザー社にはだぶついてきたワクチンがあります。これを特別枠として提供してもらえるのですから、多くの国に選手を派遣していただけるものと考えています。
日本の世論が、コロナ禍への恐怖と、オリンピック準備がコロナ対策への障害になるのではという疑念から、「東京オリパラ開催反対」に固まりつつあることは承知をしていますが、実はこの点は大した心配をしていません。
一昨日の記者会見では、「世論には浮き沈みがある。我々は耳を傾けるが、世論に動かされることはない」「トーキョー開催が決まった8年前には、世論が支持していた」「開催されれば世論が大会を強く支持すると確信しています」と申し上げたとおりです。
あの8年前のブェノスアイレスをお忘れか。あなた方の国のトップは、あんなにもはしゃいで、東京オリパラ招致の成功を喜んで見せたではありませんか。今は、コロナの恐怖で表面的にはオリンピック歓迎のムードに陰りがありますが、なに、開催すれば、世論なんてコロリと変わります。日本国民が、簡単に感動と誇りに思うオリパラになるものと確信していますよ。日本の世論なんて、その程度のものでしょう。
だいたい、一昨日の理事会では、東京大会のプレゼンテーションが行われたのですよ。組織委員会の橋本聖子会長からも武藤事務総長からも、中止に関する議論はまったく出ませんでした。日本の委員の発言をみる限り影響するほどの影響するほどのオリパラ返上の世論があるとは思いもよりませんね。
ローマの昔以来、市民はサーカスがお好きなのです。江戸・東京の市民も見世物が大好きだったではありませんか。オリンピックこそは、これ以上ない最大のサーカスであり見世物なのですから。
それに日本の皆さんは権威に弱い。お宅の国には、まだ天皇制というものがあるそうではないですか。IOCは権威ですよ。現代の貴族です。オリンピックは、日本の国民性と相性がよいのです。しかも、皆さん、いったん決めたことをやめようと言い出すことができない国民性。失礼ながら、この辺に付け込んで、IOCから日本の皆様に、「支援と理解を伝え、連帯を示したい」と思います。
誤解のないように繰り返しますが、IOCは東京オリパラがコロナ拡大の舞台となってよいと言っているわけではありません。でも、開催国の首相も主催都市の首長も、「しっかりと、安全安心な大会を開催する」と言っておられるのですから、その言を信頼すると言うことなのです。それが出来なければその人たちの責任で、IOCには関心のないことなのです。ですから、いかなる事態になったとせよ、IOCの責任を問題にするがごとき不埒なことを言わないよう予め釘を刺しておきたいのです。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.5.14より許可を得て転載
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〔opinion10877:210515〕
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