危険を冒して取材するジャーナリストに敬意を表する。
- 2021年 5月 16日
- 評論・紹介・意見
- ジャーナリストミャンマー澤藤統一郎
(2021年5月15日)
我々一般人は、ジャーナリストの目と耳と筆を通じて、世の中の出来事を認識している。これなくして意見の交換も議論も成立しない。ジャーナリストとは、民主主義にとって掛け替えのない大切な人々なのだ。とりわけ、危険な最前線で貴重な情報を発信する国際記者には敬意を表するしかない。ミャンマーで逮捕され、帰国させられた北角裕樹さんの会見ビデオを視聴して改めてそう思う。
だから、民主主義に敵対し人権を蹂躙する勢力は、ジャーナリストを嫌う。取材の自由も、発表の自由も認めたくない。今、ミャンマーの国軍がそのような典型的事態にある。
昨日(5月14日)、国連の報道官は記者会見で、ミャンマーでは84人のジャーナリストが逮捕され、このうち少なくとも48人は現在も拘束されていると発表した。その上で、軍による報道機関への締めつけに深刻な懸念を表明した。そのうえで「表現の自由と報道は市民の自由を下支えする人間の基本的な権利であり、守られなければならない」と述べて、軍に対してすべてのジャーナリストを解放するよう要請したという。
現在も拘束されているという48人の国籍は明らかではないが、その人たちの安否が気遣われる。このような勇気ある大切な人々を世界の世論が守り抜かねばならない。拘禁されていた北角さんが釈放されて無事に帰国したことには、ひとまず胸をなで下ろす思いであるが、視点を変えれば、国軍側はうるさいジャーナリスト1人の排除に成功したのだ。なんとも複雑な気持ではある。
昨日(5月14日)午後10時過ぎ到着直後の成田での北角さんの記者会見は、落ちついた好感の持てるものだった。この人の発信する記事には信用がおけると思わせる印象だった。
最初に、自分を救出する運動に礼を述べ、大要「自分は記者だから、ヤンゴンで起こっていることを伝えたいという気持ちがあった」「しかし、帰国せざるを得なくなり、悔しい」「ミャンマーの人々から世界に伝えてくれと言われたことがたくさんあるので、多くの国の人たちに伝えていきたい」「これから、ミャンマーで起こっていたことを知ってもらう活動に取り組みたい」と述べている。
会見の最後に、英語でミャンマーの人たちに語りかけた。「勇敢に抗議を続ける、ミャンマーのあなた方は未来に向けた希望だ」と締めくくった。衒いのない、自然な語り口だった。
現地で自分は暴力を受けることはなく、取り調べの最中に机をたたかれ、「お前のことを刑務所に入れることができる」と脅しの言葉を掛けられた程度だったという。レンガ造りの長屋のような独房に入れられ、食事を楽しみにし、運動をするように心がけた。ペンを持つことを禁止され、「どうやって克明に記憶しようかと、何回もあったことを反すうした」と振り返った。ジャーナリストとしての使命感に溢れたものだった。幸い、彼に対する右翼からのバッシングはないようだ。
以下に、「ミャンマーで拘束されているジャーナリスト北角裕樹さんの釈放を求める有志の会」によるコメント(抜粋)を引用させていただく。全面的に賛意を表したい。
4月18日の不当な拘束以来、一刻も早い解放を求める署名が3万6千人以上も寄せられていました。解放を後押しした国内外の多くの皆さんのアクションに感謝し、ミャンマー市民と日本や世界をつなぐ「架け橋」を担ってきた北角さんが無事に帰国する喜びを分かち合いたいと思います。
ヤンゴンに在住する北角さんは、2月1日にミャンマー国軍が権力を握った直後から、クーデターに抗議するミャンマー市民のデモの様子などを取材。一時拘束などの国軍側の圧力に屈することなく、「ミャンマーで起きていることを知って、ぜひ国際社会から圧力をかけてほしい」と願うミャンマーの人たちの思いを代弁し、SNSや独自のネットワークを駆使して発信してきました。国軍側は「虚偽ニュースを拡散させた」という不当なレッテルを貼って拘束しましたが、北角さんが伝えてきたのはミャンマーで起きている真実であり、ミャンマー市民の切なる願いです。
日本ではかつて、紛争地域などの取材中に拘束されたジャーナリストや家族などに対して、「反日」や「自己責任」という言葉が浴びせられるという事件が起きました。また、日本政府が帰国後のジャーナリストのパスポート発給を拒否するという事態も続いています。このような私たちの目と耳をふさぐような行為は、民主主義社会として恥ずべき行為です。今回、解放された北角さんに対しても、今後の発信や取材・渡航活動に制約をかけるようなことはあってはならないことを日本政府に強く求めます。
北角さんは拘束の数日前のビデオメッセージのなかで、「ミャンマーの人にとって『デモクラシー(民主主義)』というのは『未来』と等しい言葉です。自分たちの国が民主化して発展していくことで、自分たちの暮らしがよくなるという夢が、2月1日のクーデターで閉ざされた」と語っていました。いまなお、ミャンマーでは「未来」を奪う軍事政権による市民やジャーナリストなどへの弾圧が続いています。ミャンマー国軍に対して、国内外の皆さんと連帯し、いまも拘束されている市民やジャーナリストなどの早期解放を求めるとともに、いちはやく民主主義のプロセスに復帰し、ミャンマー市民が「未来」を実感できる状況を取り戻すことを呼びかけます。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.5.15より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=16895
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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