SJJA& WSJPO【西サハラ最新情報】425 モロッコが不法移民をスペイン領に送った理由
- 2021年 5月 26日
- 評論・紹介・意見
- サハラスペインモロッコ平田伊都子西サハラ
世界中がイスラエルのガザ市民に対する猛空爆を止めようと必死になっていた5月17日、イスラエルの友好国モロッコはスペイン領セウタに、8,000人以上の不法移民を送り込みました。 この数字は、スペインを始めとしBBC英国TV、AFP()、ロイター()、などなどが共有しています。
なぜ、モロッコはスペイン領土セウタに不法移民を大量に送り込んだのか? 理由は明快です。 ①セウタとは?、②西サハラはモロッコの物、③捏造情報でEUを脅迫するモロッコ、と、説明していきます。
① スペイン自治都市セウタ:
セウタとメリリャは、スペイン本土から海を隔ててモロッコ北部の海岸沿いにある、スペインの飛び地領土だ。 両都市ともスペイン自治都市で、ここはアフリカのモロッコではなくヨーロッパのスペインになる。地中海と大西洋の境界線にある両都市周と周辺一帯は、紀元前7世紀頃から海上交通や軍事要所として栄えてきた。710年にイスラム教ウマイヤ朝が占領し、1415年にポルトガル王国支配下に入り、1668年、正式にポルトガルからスペインに割譲される。1956年のモロッコ独立で周辺一帯はモロッコ領となったが、セウタとメリリャはスペイン領土として残された。
アフリカや、特にモロッコの若者にとって、スペインは<憧れの天国>で、この自治都市に何としてでも潜り込もうと、命をかける。モロッコと両市の国境には緩衝地帯が設けられ、一般の国境と同じようにモロッコとスペイン両国が、国境線を管理している。特にセウタはよりスペイン本土に近いため、不法移民斡旋業者の誘導で、モロッコからの不法侵入を繰り返してきた。アメリカに憧れる中南米の人々と同じだ。
ところが、多くて100人程度だったのが、5月17日から18日にかけて8.000人以上の不法移民が一挙に、セウタとモロッコ間にある緩衝地帯に侵入した。モロッコが検問所のゲートを開けたからだ。BBC英国TVなどで流された映像では、金網のゲートを開けて不法移民を緩衝地帯に導くモロッコ兵やモロッコ警察の姿がハッキリ映されている。不法移民の中には子供連れの母親もいれば老人もいる。一行は高くて強固なスペインのフェンスを登れず、海に向かう。モロッコ側の海岸から泳いでスペイン側に辿り着くと、待ち受けていたスペイン沿岸警備員に保護される。結局、6,500人がスペイン当局から強制送還された。残りは、行方不明だとか、、未遂不法移民は、悪びれる風もなく顔出しでインタヴューに答えていた。「俺は働いてみんなを食わせなきゃならないのに、モロッコに職などない。また、挑戦するさ」と、男は拳を振り上げる。「海なんて怖くないよと、息子たちにも教えてやんなきゃ、、モロッコのほうがズッと恐ろしい」と、母親は語る。
この日、海と闘う人々の、たくさんの写真がネットに流れた。なかでも、赤ん坊を浮き輪で助けるスペイン沿岸警備員の姿は感動を呼んだ。
② 「西サハラはモロッコの物」(ナセル・ブリタ・モロッコ外務大臣):
モロッコ外務大臣ナセル・ブリタは何度も何度もしつこく、「トランプ前大統領の<モロ
ッコによる西サハラ領有権承認発言>を追従するように、分離主義者の犯罪人ガリを逮捕せよ」と、モロッコ国王モハンマド6世陛下の考えをスペインに発信している。
モロッコ外務大臣は、4月21日に西サハラ難民大統領兼ポリサリオ戦線事務局長のブラ
ヒム・ガリ氏が、コロナで重体に陥りヘリコプターでスペイン北部の病院に搬送された時、
「奴はテロリストの犯罪者だ。他人のパスポートでスペインに密入国した。即刻、モロッ
コに引き渡せ」と、駐モロッコ・スペイン大使を召還し、駐スペイン・モロッコ大使を
モロッコ本国に帰国させた。因みに、駐スペイン・モロッコ大使はモハンマド国王陛下の
妹で、駐アメリカ・モロッコ大使も王女で、主要各国の大使は王族で固めている。そして
モロッコ外務大臣はスペインに、「何が起きても知らんぞ!原因は全てスペインにある」と。
報復の予告をした。
そして、5月17日、モロッコは約8,000人の不法移民をスペインに越境させた。モロッ
コ国王モハンマド6世陛下のこの行動は、父王ハッサン2世の緑の行進を彷彿させる。45
年前の1975年、ハッサン2世は約10万人(モロッコ発表35万人)の失業者を当時のス
ペイン領西サハラに送り込み、越境させた。人数こそ違え、モロッコ王室の脅し行為は昔
も今も変わらない。
一方、脅かされたスペインは「コロナに感染したブラヒム・ガリ氏は、人道的配慮で受
け入れた」と、モロッコに反発した。そして、スペインのアランチャ・ゴンサレス・ラヤ
外相はモロッコの大使を呼び、モロッコの治安当局が移民数千人のセウタ流入を唆したこ
とに「不快感」を表明した。記者会見で「国境管理は従来も、またこれからもスペインと
モロッコの共同責任であるということを(大使に)念押しした」と語った。
スペインのサンチェス首相は、5月18日、急きょセウタとメリリャ入った。
③ 捏造情報でドイツやスペインなどEUを脅迫するモロッコ:
モロッコよりのAFPは5月19日、「アナリストらは、自国の西サハラでの主権をスペインに認めさせるための外交的圧力が目的だった」と伝えた。ロイターも同日、「モロッコがスペイン政府に圧力をかけるため、不法入国を容認したとの指摘がある。モロッコが実効支配する西サハラの独立運動指導者ブラヒム・ガリ氏を、スペインが国内の病院に入院させる決定をしたため、との見方だ」と、専門家の意見として報じた。BBC英国TVも同じ論調だ。4月、モロッコはドイツとスペインに、「モロッコの西サハラ領有権を認めろ」強要し、モロッコの要求を断った両国に国交断絶を通達した。4月20日にコロナ感染で重体のブラヒム・ガリ西サハラ難民大統領の入国を認めたスペインを非難し、「偽パスポートで入国した犯罪人ガリを逮捕しろ!このままじゃ済まさないぞ、モロッコは!!」と、モロッコはマフィアもどきの台詞でスペインに迫った。かくして、スペイン領セウタに8,000以上の不法移民を侵入させたのだ。モロッコにはテロリスト予備役が無数にいる。スペインにはモロッコ不法合法移民が100万人以上いる。ヨーロッパを戦慄させた2017年、2018年の連続テロ事件は、モロッコ移民二世が巻き起こした、、
西サハラ難民キャンプのSPS西サハラ通信社やAPSアルジェリア通信社などが、モロッコによる捏造情報を覆した。
相変わらず「ブラヒム・ガリが他人のパスポートでスペインに不法入国」と主張するモロッコに、「スペイン外務省は、ブラヒム・ガリ西サハラ難民大統領が彼自身のパスポートでスペインに入国したことを確認」と、SPSとAPSが反論した。そのうえでSPSとAPSは、「モロッコはEU諸国をモロッコの思惑通りに操り、<西サハラはモロッコ領土>という捏造を植え付けようとした。が、大失敗した」と、モロッコの裏工作崩壊を伝えた。
スペイン北部ログローニュでコロナ治療中のブラヒム・ガリ
西サハラ難民大統領兼ポリサリオ・リーダー
2021年5月20日、タレブ・オマル西サハラ難民政府駐アルジェリア大使が、国連事務総長西サハラ個人特使にかねてから噂されていたスタファン・デ・ミストゥラ氏(74才)を推しました。スタファン氏はイタリアとスウェーデンの国籍を持ち、40年以上のキャリアを誇る国連外交官です。
モロッコも彼を承認しますように、、 そして、西サハラ紛争の両当事者、モロッコと西サハラが、一日も早く交渉の席につきますように、、
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「サラー西サハラ難民アスリート」の出版情報です。
著者:平田伊都子、写真構成:川名生十、画像提供:アマイダン・サラー、SPS、
定価:本体1,800円+税、
発行人:松田健二、
発行所:株式会社 社会評論社、東京都文京区本郷2―3―10、電話:03-3814-3861
同じ「社会評論社」が出版してくださった「ラストコロニー西サハラ(2015年)」、「アリ 西サハラの難民と被占領民(2020年2月)」にも、お目を通してください。
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Youtube2018年7月アップの「人民投票」(Referendum)もご案内。
「人民投票」日本語版 URL :https://youtu.be/Skx5CP3lMLc
「Referendum」英語版 URL: https://youtu.be/v0awSc25BUU
Youtubeに2018年4月アップした「ラストコロニー西サハラ」もよろしくお願いします。
「ラストコロニー西サハラ 日本語版URL:https://youtu.be/yeZvmTh0kGo
「Last Colony in Africa] 英語版URL: https://youtu.be/au5p6mxvheo
WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名生十 2021年5月26日
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion10932:210526〕
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