ワクチン接種を考える
- 2021年 6月 1日
- 評論・紹介・意見
- ハンガリーワクチン新型コロナウィルス盛田常夫
ほんの2ヶ月前まで、ハンガリーはコロナ禍第3波の真っただ中にあり、1日の感染者が1万人に迫り、病院での治療者は12,000名、そのうち人工呼吸器装着者が1,500名に上り、医療崩壊の危機に直面していた。その後、ワクチン接種が加速化し、5月末現在、人口の半数が1回目の接種を受け、2回目の接種を受けた人は人口の3割を超えた。
この結果、新規感染者は激減し、5月26日の1日の新規感染者数は213名、病院での加療を受ける患者数も1,373名、人工呼吸器装着者は3ヵ月前の10分の1(148名)に減り、1日の死亡者数も41名と2桁の状態にまで落ち着いた。
EUのワクチン配分が遅々として進まない中、ロシアのワクチンや中国のワクチンを積極的に輸入し、市場で入手可能なワクチン接種を進めた結果、コロナ禍第3波は終息した。これにともない、夜間の外出禁止が解かれ、病院への入院患者(コロナ患者を除く)の見舞い訪問が可能になり、レストランや商店が営業を再開することになった。バスや電車などの密閉空間でのマスク着用は依然として義務化されているが、開放空間でのマスク着用は任意となった。次第に平常の生活を取り戻しつつある。
明らかにワクチン接種が進むことによって、とりあえずはコロナ感染が終息を迎えつつある。
ワクチン接種を回避する人々
ハンガリーで接種の希望登録をしている人は人口の6割である。子供を除くと、およそ人口の3割の成人(300万人)が接種を回避している。他の欧州諸国でも、ワクチン接種を回避する人々は人口の3~4割に達する。ロシアでは人口の6割がロシア製ワクチンの接種を回避している。
ハンガリーは欧州で唯一、西側製のワクチンに加えてロシア製と中国製のワクチンを接種している国だが、政府を支持する層は積極的に中国製ワクチンを接種する傾向がある。逆にロシアでは政府への不信感からワクチン接種を望まない人が多い。現在、ハンガリーではワクチンの在庫があり、ワクチンの選択に自由度がある。政府は在庫の状況を見ながら特定ワクチンの接種の奨励を行っているが、一番人気はファイザー製で次がモデルナ製である。ファイザー製ワクチン接種の公示がでると、多くの人が接種を希望し、すぐに入荷分が底を突く状況になっている。これにたいし、中国製のワクチンは常にだぶついている。
政府はどのワクチンも効果は同じと政治的キャンペーンを繰り広げているが、若い人々はネットを通して、中国製ワクチンの効果がファイザー製やモデルナ製に比べて落ちることを良く知っている。また、中国製ワクチンは「マッチポンプ」のようだから、ワクチン接種で中国政府の評判を上げるようなことはしたくないと考える人も多いだろう。私も最初はロシア製の接種が提示されたが、プーチン政権を助ける気はないのでこれを断った。開発で苦労した科学者には悪いが、プーチン政権はワクチン輸出を政治的に利用しているので、それを助ける気にはならない。かなり後回しにされるかなと思ったが、意外に早くファイザー製の接種提示が届いたので、これを受けた。
もちろん、政治的理由ではなく、ワクチンそのものへの不信感から接種を受けない人も多い。接種は強制されないので、医者であっても受ける義務はない。確かに従来の伝統的なワクチン開発に比べて、かなり速いスピードでワクチンが開発されている。したがって、未知な部分があるワクチンを受けたくないという意思は尊重されなければならない。ただ、ハンガリー(欧州)では政治的推奨キャンペーンはあっても、アメリカのようなプリミティヴナで陰謀論的なワクチン排除の言論は稀である。
さらに、基礎疾患を持っている人や薬剤アレルギーを持っている人、きわめて高齢の人々には、どの種類のワクチンであれ奨励できない。これらの人々は感染環境そのものから隔離された状態に置かれているのが望ましい。ワクチン接種で重篤になる高齢者や基礎疾患保持者は、かなり高い確率でコロナ感染でも重篤になると考えられるからである。
私がワクチン接種を受けた理由
ハンガリーではワクチン接種を希望する人は、政府のHPにアクセスして登録しなければならない。優先順位にもとづいて、順次、ワクチンの種類と接種の日時が示され、それを受けるかどうかの回答が要求される。私は2月末になるまで登録しなかった。今までインフルエンザのワクチン接種も受けたことがなく、感染環境にいないので接種は不要と考えていた。しかも、昨年11月に心不全の診断を下されていたので、接種しない方が良いと考えていた。
その後、mRNAベースのワクチンの機序(効能メカニズム)を知り、しかもアレルギーがない限り、基礎疾患があっても問題ないことを知り、ファイザー製の接種を受けることに決めた。昨年、突然に一時的な呼吸困難に陥ることが何度かあり、もしかしてこれがコロナの症状かと疑った。コロナではなかったが、呼吸困難な症状を経験して、これがコロナ感染の重篤状態に類似した症状だと確信して、感染を防ぐことにプライオリティを置くべきだと考え、接種を受けることを決めた。
私は中距離走やハーフマラソンを走っていたので心肺機能はかなり強い方だし、薬剤アレルギーもないので、ワクチン接種も問題ないと考えた。これまでの経験から免疫力もあるから、mRNAは自分の体に効くはずだと考えた。実際、副反応は2回の接種とも、体温が1℃上がる状態がまる1日続いただけでとくに問題なかった。腕の痛みは3日ほど続いたが。
医学(医術)には生と死が共存
mRDAベースのワクチンにたいして、人工的な物は受け入れたくないという人が多い。また、遺伝子が操作されるようで怖いと言う人もいる。しかし、現代の医学で人工的でないものを探すのは難しい。薬剤は皆、人工的な化学薬品である。白内障の治療でも、目に人工レンズを入れる。この技術はそれほど古いものではない。だから、人工レンズがどれほど持つのか確定的なことは言えないが、多くの人々が人工レンズの恩恵を受けている。ステントにしても、あるいはプロテーゼにしても、人工的な開発物が人々の生活を助けている。
もっとも、外科的な人工物に比べて、内科の薬剤治療はかなりのリスクが伴っている。「降圧剤は一生飲み続けなければなりません」という医師は多いが、私はこのような医師を信用しない。薬剤は一時的に使用するから薬なのであって、永遠に服用しなければならないものを薬と呼ぶのがおかしい。薬剤を常用することの副作用に誰も責任を持っていない。薬を常用することは薬剤依存以外の何物でもない。
また、抗がん剤という呼称もおかしい。抗がん剤の効能はかなり疑わしい。腫瘍細胞と正常細胞を同時に殺傷する薬剤は確実に体力を消耗させる。残念ながら、現代の医学には悪性腫瘍を治癒させる力はない。腫瘍が小さくなることが治癒ではない。腫瘍再生や転移する悪性腫瘍を抗がん剤で治癒させることはできない。治療に苦しみ、人として意味ある生活を送れなくするような治療は意味がない。そういう事例を数多く見ている。だから、数ヶ月あるいは1-2年の意味のない延命のための抗がん剤治療は受けたくない。
外科的な腫瘍治療でも同様な疑問がある。佐藤経明先生が87歳で胃がんが見つかり、ほどなくして胃の全摘手術を受けられた。手術前のあるレセプションで同席した折、食事を楽しみながら、近々手術を受けるというお話をされたので驚いた。私はその歳になって、大手術を受けることに疑念を呈したが、佐藤先生は「もしかして私のがん細胞は元気だから、転移の可能性があるかもしれないから」と答えられた。知人の大学病院の消化器科専門医にも疑問をぶつけたが、「全摘が標準治療です」との回答に驚いた。若い人から老人まで、一律に全摘手術というのは可笑しくないか。高齢者の場合、全摘すればまともな食事ができなくなる。そうすれば体力が落ち、老衰が始まる。外科手術をせず、放置しておいても数年は確実に生きられるはずである。無駄な苦しみを味わうこともなく。しかし、佐藤先生は手術から1年余でこの世を去られた。現代医学に万全の信頼を寄せられていた結果がこれである。
人類が医術を編み出した時から、医術は試行錯誤の道を辿ってきた。「治療」の試みは多くの死を伴ってきた。医術から医学に進歩した現代でも、人体の治癒のメカニズムは多くの謎に包まれている。普通の医者は定型的な疾病を診ているだけで、個別患者のヒストリーや個体に即した症状を見ているわけではない。医者が下す一般的な診断はあくまで一般論であって、それが個別患者を本当に救うことになるかは確かではない。
こういう視点からみれば、今次のコロナワクチンについても疑念をもつ人々がそれなりの割合で存在することは自然である。それでもなお、私はmRDAベースのワクチン開発に将来医療の一つの可能性を見た。人体に免疫細胞を生成させるために、ウィルスの外形を模した疑似餌のようなスパイクたんぱく質を生成する情報を送りこみ、ウィルスに対抗できる免疫細胞を創出させるメカニズムは画期的である。この手法は他の疾病の治癒にも利用できるはずである。mRNAのナノ粒子はスパイクたんぱく質生成情報を送り届ければ、すぐに体外に排出される。いわば触媒的な作用を行う、きわめてクリーンな手法である。しかも、感染しない、重症化しないというワクチン効能が9割以上というのは画期的である。
ただ、人によって、スパイクたんぱく質が生成された時に、過剰な生体反応が起き、深刻な副反応が起きる可能性がある。しかし、そのような個人はコロナウィルスに感染すると、同じような生体反応を惹き起こすと推測される。だから、ワクチン接種そのものを否定しては医学の進歩がない。
この点に関して、スパイクタンパク質を生成させるメカニズムによって、生体反応が違うようだ。アストラゼネカのワクチンの場合は、不活性化したアデノウィルスを媒介としてスパイクたんぱく質を生成させるが、細胞核にスパイクたんぱく質が入ると、たんぱく質が変異して、それが血栓を惹き起こす可能性が指摘されている。mRDAベースのワクチンではスパイクたんぱく質が細胞核に入ることはなく、細胞質に留まるから血栓を惹き起こすメカニズムはないと考えられる。
いずれにせよ、複数の基礎疾患のある人や高齢者、アレルギー反応が強い人は、ワクチン接種を回避するだけでなく、感染そのものを回避する必要があるが、とくに疾患やアレルギーのない人はワクチン接種で身を守り、社会活動に復帰するのがコロナ克服の唯一の道だと思う。
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