戦争体験記を読む
- 2021年 6月 19日
- 評論・紹介・意見
- 小原 紘戦争韓国
韓国通信NO671
今年94才になる叔母が戦争体験記を書き始めた。17才の女学生が親元を離れ、飛行機の部品作りに動員され、米軍機の空襲に逃げまどった日々。
叔母の母親、つまり私の祖母は仙台市民で「二度と戦争はしてはいけません」が口癖。そして、105歳で亡くなるまで、毎年七夕飾に平和の鶴を折り続けた。叔母は、そうした母の戦争体験を思い出したようで、自らの体験を記録に残したいという。
叔母の挑戦に刺激され、手許にある戦争の体験記録集を読みなおした。敗戦時3歳だった私の記憶には空襲警報発令の声とサイレンの音しかないが、「記憶にございません」ではすまされない地続きのような感銘を受けた。
学生時代に読んだ『きけわだつみのこえ』、最近読んだ『被爆アオギリと生きる-語り部・沼田鈴子の生涯-』、秋葉洋の『天皇陛下と大福餅』にまけず、普通の市民、労働組合や地域の人たちの記録も胸に響く。なのに、戦争責任も曖昧なまま、反省もなく繁栄を追い続けた76年間。二世・三世の国会議員の姿からその思いは深まるばかり。手記を書いた人たちは存命なら全員が80才を超える。記憶と思いをどう伝えればいいのか。<写真/仙台の反核「折り鶴」風景>
<徴用工判決に揺れる韓国>
2018年10月の韓国大法院(最高裁)の徴用工判決以降、日韓関係は悪化の一途をたどった。今年1月に着任した姜昌一(カンチャンイル)韓国大使は、首相はおろか外相と面談もできないでいる。信じがたい日本政府の厚顔無恥ぶりである。嫌韓に染まった日本政府と、それを煽り続けてきたメディアの責任は大きい。
日本政府に損害賠償を求める元従軍慰安婦のソウル地裁判決(本年1月8日)に続き、3か月後、同種別件の裁判では日本の「主権免除」を認める逆転判決が下された。
6月7日には徴用工裁判で大法院判決と異なる判決。下級審なので大法院判決が覆ることはないが、予想外の判決に波紋が広がった。
原告85名、三菱重工等日本企業16社を被告とする今回の訴訟。2018年10月の大法院判決―原告4名に新日鉄住金(現日本製鉄)に各1億ウォン(約980万円)の支払い―とは対照的に原告の請求を退けた。
判 決は個人の請求権を認めたが韓日請求権・経済協力(1965)を理由に、請求はできないとした。さらに請求権協定によって奇跡的な経済発展を遂げた事実をあげ、日韓関係は悪化させてはならない。韓日米関係の重要性にまで踏み込んだもの。
判決に対して原告側は「人権より国家の都合を優先させた」と批判、即時控訴の意向を表明。『ハンギョレ新聞』は社説で最高裁判決を否定した「荒唐無稽な論理」と地裁判決を批判した。
「すべて解決済み」を主張する日本政府と同一歩調のわが国のメディア。そのなかでも朝日新聞デジタル版(6/8)の記事は目を引いた。「却下は妥当」という名古屋大学の水島朋則教授のコメントを載せていた。
両政府の反応は、日本が「韓国が責任をもって対応することを求める」(加藤官房長官)と突き放したのに対して、韓国側は「動向を注視、判決と被害者の権利を尊重しながら日本側と協議する」と話し合いに期待をにじませた。
今回の判決とその反響から見えたものがある。
韓国にも様々な意見を持つ人がいるのは当然だ。法理より政治を優先させる裁判官もいる。日本にも政治を優先させる裁判官はゴマンといるので別に驚きはしない。また文在寅政権が日韓関係を悪化させたという見方は韓国にもある。日本政府の主張と同じ理由で「却下」した今回の裁判官はその好例と言える。
<問われる日本のヘイト体質>
安倍首相は発足当初から文在寅が嫌いだったはず。ローソクデモで追放された朴槿恵前大統領は獄中へ。市民革命から生まれた文政権と政治の私物化を指摘されながらも政権を維持した安倍政権とはうまくいくはずはなかった。
文政権は、自国の歴史3.1独立運動、4.3済州島事件、光州事件などに光をあて、歪められた歴史を再検証した。貧困層救済のための経済改革、教育改革、言論改革に力を注ぎ、北朝鮮の統一問題に積極的に取り組んだ。一方では日韓条約の解釈をめぐる賠償問題についても積極的だった。被害者に寄り添う政権の姿勢が日本側から危惧された。
それが決定的になったのが前述の2018年の徴用工判決だ。日韓条約を理由に補償を認めない日本政府を前に、個人補償に道を開いた韓国の大法院判決によって韓国政府は「窮地」に追い込まれる形になった。
これまで何度も繰り返し述べてきたが、解決は難しそうだが簡単。個人の請求権はあるという両国の共通認識を土台にすれば解決は可能だ。ここまでもつれた原因は日本政府の韓国嫌いが決定的だ。作られた嫌韓感情を利用して解決をさぼりづけてきた日本政府。
私たちは政府の主張の根拠をもっと知るべきだ。あわせて韓国側の主張、中でも判決文の趣旨も知る必要がある。戦争ができる憲法のもとでは政府の一方的な主張で戦争になる。過去の歴史を思い出せばわかる。韓国が大法院の判決を取り消すべきという乱暴な意見がある。それこそ力で相手をねじ伏せようとする戦争直前の発想に他ならない。
オリンビックが強行されようとしている。責任は誰も取らないファシズム社会の到来。
戦争体験記を読んで気づいたこと。個人へ戦争被害の補償が全く行われなかったこと。
千葉県・手賀沼湖畔に巨大Tシャツが出現した<写真>。「我孫子アートな散歩市」(6月6日まで開催)への出品作品のひとつ。憲法9条13条21条を今こそ考えよう(Think NOW)と訴えていた。
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