現在の財政・金融問題から
- 2021年 7月 1日
- スタディルーム
- 大上俊男
一、財政ファイナンスまっしぐら(通貨増発歯止めなし)!
安倍政権(当時)は、日米の協調でのグローバル資本主義(多国籍資本中心)によるアジア太平洋圏支配―そのために、TPP推進と労働と全生活領域での社会的規制の撤廃、戦略特区*1等(「岩盤規制」を壊せ!)を国家主導で推進し、そのことに向けての国民合意の基盤づくりを狙って、“物価を2%上げるのを目標とする”、“そのために中央銀行が国債*2を買入れ・引き受ける等して株高を作り出す”ことに奔走してきた。
しかしその反人民性は、ますます明らかとなっている。
*1 戦略特区…安倍政権は2014年、東京圏・関西圏・新潟市・兵庫県養父市・福岡市・沖縄県の6区域の国家戦略特区を認定した(その後も追加認定あり)。日米政府間による「年次改革要望書」に対する2003年5月の報告書には―「米国政府は、日本政府が構造改革特別推進本部を設置し、2003年4月に第一弾認定として57の特区を立ち上げたことを特に歓迎する。…米国政府は、特区で成功した改革の措置が迅速に全国規模で適用されることを期待している」とある(『国家戦略特区の正体』郭洋春2016より)。
*2 国債…日本政府が財政上の必要から発行する債券(国の借用証書)。満期まで持っておれば利子および元本は戻る(償還)(ことになっている)。短期国債(償還期間6ヵ月・1年)、中期国債(2年・5年)、長期国債(10年)、超長期国債(20年・30年・40年)等がある。長期金利が低下(需要が増え国債価格は上昇)している局面で、民間銀行が保有国債を売却すれば利益が発生する。長期金利が上昇すれば(国債価格の下落により)、大きな含み損が発生し、市場の状況によっては換金・売却できない可能性もある。
当のリフレ派(浜田によれば、本人の浜田宏一、岩田規久男、山本幸三(自民党)、中原伸之、高橋洋一、本田悦朗等)が言うには(浜田宏一・安達誠司著 『世界が日本経済をうらやむ日』2015.1.30)―
「日銀は2%のインフレ*1目標を採用して、強力な金融緩和*2を」との安倍首相の政策は画期的であり、金融政策が一番重要と考える。リフレ政策とは、「デフレが続く」との予想を、日銀の大幅金融緩和によって、「これから緩やかにインフレになる」との方向に変え、投資と消費を喚起して失業率を下げ、景気を回復させる政策をいう。
(世の中にお金が出回るはず→早めにお金を使った方が有利だと思わせることで、株と土地等の価格が上がり、消費が増えるはず―筆者注)
「マネーを増やすには、国債を日銀が引き受ければいいだけ」(←財政法第5条により基本的に禁止されている―筆者注)/「最下層の人の所得を上げるには、たとえ格差が広がっても、最高層を上げるべきだ。最下層を上げるには全体のパイを増やすのが簡単だから」(高橋洋一『「借金1000兆円」に騙されるな!」)
*1 インフレ:一定期間にわたって経済の価格水準が全般的に上昇すること。一般的な価格水準が上昇すると、1単位の通貨で購入できる財・サービスの数が減る。インフレの一般的指標はインフレ率で、一般物価指数(通常は消費者物価指数)の長期的な変化率を年率換算したもの。実物的要因、需要、供給そして、貨幣的要因(貨幣供給量の増加)と財政インフレ(政府発行の公債を中央銀行が引き受けることにより貨幣供給が増加して発生―ハイパーインフレの要因となることが多いとされる)等(ウィキペディア参照)。
*2 金融緩和:「日銀が供給する現金(日銀券と硬貨)と民間金融機関が日銀に預けているお金(日銀当座預金)との合計」(これをマネタリーベースといい、この貨幣量により日銀が直接コントロールできる貨幣量が分かる。なお経済に流通する通貨量をマネーストック(マネーサプライ)という)の供給量を増やすこと。
これまで(2013.3就任の黒田の以前)日銀は、満期の近い国債を購入して、国債保有者として大きくならないように配慮してきた、とされる。
ただし、普通国債(建設国債・赤字国債。60年で償還すればよいルールとされている)の償還額の一部を借り換える資金調達のため発行する国債(借換債という)については、市中での発行のみならず、(国会決議の範囲内で―実態は?)日銀による借換債の直接引き受け(直接購入)がなされてきた(日銀乗換)。2010年度では、国債発行総額155.6兆円のうち新規国債が44.3兆円で、その借換債は111.3兆円だった(政府の一般会計「歳入」には新規国債額しか表記されない。借換債は特別会計で処理される)。2013年度には、その借換債発行が115.5兆円ともなり、新規国債発行額の44.2兆円を合わせて、同年度の国債発行総額は159.7兆円となる。
これで、以下の財政法が順守されているといえるのか。
財政法第4条 ①国の歳出は、公債または借入金以外の歳入をもって、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
同第5条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。(→日銀による国債引受(マネタイゼーション)の禁止、市中消化の原則→政府の財政節度を失わせ、通貨増発の歯止めがなくなり、悪性インフレとなるのを防ぐため。しかし“但し書き”により、償還期限が来た国債を日銀が借り換えることにより、実質的な日銀による国債引き受けが行われており、無制限な引き受けとなりうる)
もはや、いわゆる“財政ファイナンス”の次元に入っている―財政ファイナンスとは、政府が発行する国債等を中央銀行が直接引き受けることなどにより、中央銀行が政府の財政赤字を穴埋めする形で資金を出すことで、通貨増発に歯止めがなくなるとされるもので(財政法第5条で禁止されている〔財政法第4条は、原則非募債主義―例外として建設国債の発行〕)、その次元に入っているという。
日銀は毎年80兆円もの長期国債を買い入れてきたが、巨額の国債を消化できなくなった時(次に述べるような財政悪化の下で)、国債価格が急落して金利が急騰する可能性は十分に見通される(その時同時に、中小企業でも銀行借入金利の上昇、住宅ローン負担増、年金の給付削減、政府国債利払い増・社会保障大幅カット等)。しかも日銀に出口がない状況まで突っ込もうとしていると言わねばならない。
国の財政の現状を示す、国債・借入金・国庫短期証券(TB)を合わせた国の総債務残高(「国の借金」)の経緯
国の2014年度予算では(以下の他に政府関係機関予算がある―国際協力銀行等全額政府
出資の4法人)、一般会計では約96兆円、特別会計では400兆円超(国債整理基金、外為資金、財投、エネルギー対策、年金、農業共済再保険等18)。両会計の純計(2014年度当初予算ベース、兆円、%)は合計237.4兆円
国債費91.4兆円(38.5%)、社会保障関係費78.6(33)、地方交付税交付金等19.2(8)、財政投融資17.3(7)、公共事業関係費7.1、文教科学5.6、防衛4.9等
国の財政で一般会計の歳入総額のうち、新たな借金(新規国債発行額)の占める割合=国債依存度は、2015年度36.5%(2009年は51.5%)(海外では2015年度で、アメリカ15.5%、フランス25.4%、ドイツ0.1%等)。2016年度予算の一般会計歳入は96兆7218億円、うち税収57.6兆円、新規国債発行34.4兆円(国債依存度は36%)。
「国の借金」は、2014年度末で過去最大の1062.7兆円―国際通貨基金(IMF)の予測
では、日本の政府債務残高は2014年、GDP*の246.4%(過去最高を更新)。少なくとも2020年の251.6%まで増加傾向に歯止めがかからない(アメリカは100%付近で安定)―これは、第2次大戦中と変わらない(1944年の、政府債務残高の国民総生産比は204%)(2010年の日本の公債はGDPの198%)
[2015.5.8財務相発表では「国の借金」は2014年度末時点で1053兆3572億円になった。13年度末から28兆4300億円増え、過去最大を更新した。国債が881兆4847億円(13年度から27兆7211億円増)、政府短期証券は116兆8883億円(1兆1999億円増)、借入金は54兆9841億円(5207億円減)だった。2015年度末時点での「国の借金」は、1049兆3661億円になった(2016.5.うち国債910兆8097億円で、経済規模の約2倍)]
*GDP:国内総生産は、一定期間内に国内で産出された付加価値の総額。GDPの伸び率が経
済成長率。付加価値=(ある企業の総産出額)-(購入した原材料・燃料等の中間生産物の価値)
「ユーロ圏では過剰財政赤字を是正する手続きの開始要件として、グロス(総額。ネットは正味を指す 筆者注)の政府債務残高(対GDP比60%)という指標が採用されている」(『図説日本の財政(令和元年度版)』2020.2.13株式会社財経詳報社)
リフレ派は言う「日本は対外純資産*(=対外資産-対外負債)が320兆円余ある」(資本の海外進出)。景気が回復すれば税収も増える―それを信じて、財政ファイナンスになりふりかまうな、と?!
*対外純資産:日本の対外純資産残高(政府・企業・個人の対外資産-外国から国内への投資等)は、2005年181兆円(公的資産81、民間100)、2006年215兆円、2009年266兆円、2013年末で325兆円(対外資産797-対外負債472)とそれまでの最大だった。2014年末では366兆8560億円(前年比12.6%増)でそのおよその構成比は、公的部門2割、民間(銀行)2割、民間(銀行外)6割。円安で海外に持つ外貨建て資産価値が増えたこと、海外での企業のM&A(合併・買収)。2位の中国は214兆3063億円、アメリカはマイナス482兆円(2013年末)。
各国の2020年の政府債務残高(「国の借金」、対GDP比)についてのIMFの発表(2020.10.14)によれば(見通し)(一般政府なら国・地方・社会保障基金の合計ベース)―
世界全体では、98.7%(19年の83.0%から+15.7)。「先進国」では125.5%
日本は266.2%(19年から+28.2、世界で突出)、米国131%、ユーロ圏101%
(IMFの2019.4発表では235%で、全188ヵ国中で最下位)
財政とは「政府ないし公的部門が国民生活の安定充実とその発展を目的として行う支出・投融資活動と、それに必要な資金の調達」。資源配分の調整、経済の安定化、所得の再分配等がある/国が租税を国民から徴収できる根拠とは、「租税が現に国民の義務として徴収されている(罰則付きで)ことは否定できないが、それは、国民が、現在享受している一般的利益(自己の利益だけではない)を守るために、自らに課すことに同意した(議会の議決)義務である」 (『日本の財政はどうなっているか』湯本雅士 岩波書店 2015.11.18参照)
税の払込と支出のあり方は、主権者たる人民のすべてが人間らしい生活と権利の維持発展のために決められるべき―応能負担、公債不発行、所得再分配の原則の下で。
日本には「納税者権利憲章」がない。
2020年度「国家予算」一般会計 歳入(所得税・法人税・消費税等、その他収入-「埋蔵金」、公債金) 歳出(一般歳出-地方交付税交付金等除く、地方交付税交付金等、国債費)
なお特別会計で処理される借換債の発行は毎年110兆円の規模。
2020年度の日本の国債発行残高は、1000兆円を超える見通し。
国債発行高合計 1026兆9785億円(2020.6末速報)、その保有者別内訳は―
日本銀行 490兆3435億円 47.7%
生損保 216兆6305億円 21.1%
銀行等 14.5%
海外 7.4% 等
日本の名目GDP(2020年4-6月期 年率換算)は505兆3920億円(前4半期比 -7.6%)
国の借金「長期債務残高」(2021.3.28) 3月末に1000兆円超(1010兆円―赤字国債695、建設国債284、借入金など26)で、地方は190兆円。見込み合計1200兆円超 GDPの約2.2倍―後世代への付け回しを毎年くり返し、約1200兆円も積み上がってしまった。
2020年度の一般会計歳出は175兆円(うち新規国債発行112兆円超-単年度で100兆円超は初)
21年度一般会計予算(107兆円)―歳入のうち税収57兆円、新規国債44兆円で公債依存度41%。歳出のうち一般歳出67兆円、地方交付税等16兆円、国債費24兆円
国と地方の長期債務残高(2021年度政府案)1209兆円(対GDP比216%)
IMF2021.4月版によると―2020年政府債務残高 日本はベネズエラ(304.13%)、スーダン(262.52%)に続つづいて第3位の256.22%で、4位はギリシャ(213.10%)、7位イタリア、17位アメリカ(127.11%)。
国債の累積―償還可能性への疑問―さらに国債を発行しようとすることへの拒絶反応―国債の売り圧力増(国債価格下落)―長期金利上昇
政府・日銀*は、マネタリーベースの拡大に一層突っ込んできた。
*日銀の役割とされるもの―①銀行券発行の独占②銀行の銀行(銀行が持つ日銀の預金口座=日銀当座預金)③政府の銀行④金融政策の担当者
マネタリーベースは2015年4月時点で295兆円に膨れ上がってきた。従って、日銀の国債保有はとめどなく膨れ上がってきた(2016年の時点ですでに国債の1/3を保有―日銀保有分は360兆円)。2020.4末時点ではさらに合計510兆円超へと膨れ上がってきた(日銀券残高110兆円超円、日銀当座預金400兆円-法定の準備預金はこの内の10兆円前後)(以下の日銀2020.2.4「営業毎旬報告」参照)。
今や日銀は、国債残高999.7525兆円のうち、445.9347兆円(44.6%)を保有している(財
務相「平成31年度国債発行計画について」より2018年12月末現在)。ほかには、銀行等が18.3%、生損保20.6、公的年金4.6、年金基金3.1、海外6.1、家計1.3、その他1.0を保有 (2014年末までは、民間金融機関が最大で56.1%―銀行33.8、保険22.3)。
加えてETF(上場投資信託):日銀の保有残高約24兆円(2019.1末時点)―時価で東証一
部の約4% (黒田以前では年間4500億円だった)。
さらにGPIF(年金積立管理運用独立行政法人 2018.12末の積立金総額151.3607兆円)の株式拡大―2014.10 国内債券35%(←60)、国内・外国株を各25%(←合計24)に投資基準を変更。
2014.10から株価引き上げ等
2015.11.30 7~9月期運用成績(含み損)が7.8899兆円の赤字
2016.7.29 15年度に5.3兆円の運用損失
国家公務員共済も資産構成見直し―2015.2 国内株式8→25%、国内債券74→35%、外国株8→25%、外国債2→15%。
→日銀とGPIFを合わせた公的資金が東証一部(約1970社)で、4社に1社で筆頭株主となっている(日経2016.8.29)。
日銀の債務超過→通貨への信認の崩壊へ
ふつう「債務超過」とは、貸借対照表(B/S)で負債が資産を超える状態を指し、純資産はマイナス、信用を損ない倒産の危機にあるとされる。
「日銀のバランスシート(貸借対照表B/S)に関する基本的な考え方」では、「1.資産の満たすべき要件(1)健全性―日銀が債務超過となり政府の財政的な支援に依存せざるをえなくなると、自らの判断で適切な政策や業務の運営を行うことが困難となるとの見方が広がり、その結果、適切な政策や業務の運営が脅かされる恐れがある」(『日本銀行の機能と業務』日銀金融研究所2011.3.30)としている。
日銀は、自己資本(資本勘定+引当金勘定)/銀行券残高が10%±2%にあることを健全性の目安としてきたが、金融政策の独立性の維持のためには、B/Sで損失を生まないことと考える主要中央銀行は多い、とされる。
→日銀券ルールでは、長期国債の買入(長期国債の長期保有)の上限を日銀券発行残高とする、とされてきたが…(とっくに崩壊している)。
民間金融機関等からすれば、財務省の国債入札時、その価格が元本(例えば100円)を上回るオーバーパー(金利の形で計算しなおせばマイナス金利の状態)で国債を仕入れても(110円)、入札価格を上回る値段(120円)で日銀の国債買い入れオペに出せれば稼げる。日銀は満期まで保有しても、財務省からは元本相当額(100円)しか返してもらえず、20円の大損をする。
「(2016.8.31時点での)日銀の保有長期国債で8.82兆円の損失を抱えており、日銀の自己資本(引当金勘定+資本金+準備金)約7.6兆円を上回っている」「2016.12.31時点では損失は約9.9兆円に拡大している」(小黒一正法政大教授 2017.5.9)
2019.2.28時点では損失はさらに12兆円余へと拡大している(自己資本は8.42兆円)
〔普通なら、中央銀行の主な収益は、“国債などの資産からの利回り収入”と“金融機関の日銀当座預金への支払い利息”との差から生じるのだが…〕
「日銀の出口戦略に伴うリスク/2%の物価目標を達成した際…市中の名目金利も2%を超えて上昇していくことも想定されるため、日銀は市中金利を上回る金利を銀行の超過準備に付与しなければならない/毎年数兆円規模の損失が発生すると指摘されている/万が一にも損失が想定外に拡大し引当金や準備金を上回ってしまうと、いよいよ日銀は債務超過に陥る」(自民党行革推進本部「提言書」2017.4.19)
日本経済研究センター(2018.3):金融緩和の出口について―2022年度に2%上昇の物価目標達成したとき、24年度からの7年間の(日銀の)損失は計19兆円→自己資本(8兆円)が吹き飛ぶ(日本経済新聞 2018.6.7)
日銀のバランスシート(B/S)で当座預金が390兆円ある。金利1%あたり3.9兆円の費用が発生する。日銀の自己資本は8.2兆円。すぐに債務超過になる(2019.3.12予算委員会公聴会 河村小百合公述人)。 金利1%上げると、年間で390×0.01=3.9(兆円)の利払いが増える―日銀の自己資本が吹き飛ぶのは時間の問題←当座預金のお金が海外に逃げ出す(日本に融資先もなく)のに、利上げできない
日本銀行2020.2.4 営業毎旬報告(令和2年1月31日現在) 兆円
資産(578.3) 負債・純資産(578.3)
国債 486.2 発行銀行券 108.97
長期国債 475.3 当座預金 403.3
国庫短証 10.8 等
社債 325.8
金銭の信託 28.5 引当金勘定 6.1
貸付金 48.8 資本金 0.0001
外国為替 6.7 準備金 3.25
等 (自己資本残高) 計9.35
(日経電子版2020.4.30より)
日米欧の中央銀行の国債など資産購入拡大
2020年末 約2400兆円(GDPの約6割、前年末比1.5倍)
金融危機の2008年末では、600兆円を下回った
日銀は612兆円の資産量―2020年末には650兆円の可能性
(2020.7.31の日銀B/Sでは、総資産665.885兆円のうち国債526兆円、株式(ETF)33兆円、J-REIT6240億円等)。自己資本は約9.7兆円、負債のうち日銀券114兆円、当座預金約457兆円等。
日銀2021.3期決算
総資産714.5566兆円(前期比18.2%増)
国債 532.1652兆円(+9.5%)
貸出金 125.8402兆円(2.3倍)
ETF 35.8796兆円(+20.7%)
マネタリーベース 649.9142兆円(2021.5)
うち日銀当座預金 528.5430兆円
日銀券 116.3336兆円
貨幣 5.0376兆円
次の貸借対照表(2013→2020年)の左側は国債とその他、右側は当座預金・日銀券とその他
日銀は保有国債をそのうち売らなければならない(日銀保有国債は、償還までは平均7.6年)が、売ろうともその動きによって国債価格が下がり、長期金利が上がる。
国債の買い入れは不可能。日銀による国債買い減を市場が認識したら、①国債価格の下落、②金利上昇、③円安、④国債発行難による政府財政悪化、が同時に起こるとされる。
政府・中央銀行の財政の信用は、①将来財政赤字は減る、②借入を増やさずに国債の利払いを続けられる、③国債の純償還(国債の減少)も可能―との国民の予測から来る、とされる。
財政ファイナンス―赤字の穴埋め、これを中央銀行がとめどなく引き受けている状態(政府の歳出が租税等の収入を上回ることによる収入不足を、公債の発行で調達)→デフォルト(国家債務不履行)、つまり国家破産の現実を見ない、見せない。
国内産業の空洞化(TPP11等)
労働力流動化の促進、民営化・規制緩和等
東京はじめ大都市集中と垂直統合
日米軍事一体化、人民監視、戦争できる国づくり
二、問題をつかむ視点のために
以下は齋藤壽彦氏の諸提起より(太字 筆者)
「不換銀行券が流通する大きな根拠は、国家から強制通用力を与えられていること/不換銀行券は、中央銀行と市中銀行との取引関係を通じて流通過程に入っていく。銀行券に対する社会的需要に応じて流通していく…それは市場が銀行券を貨幣として信認しているという側面を示すもの。中央銀行の資産の劣化が進めば中央銀行の信認に傷がつき、不換中央銀行券に対する信認が低下する。兌換が停止したとはいえ、中央銀行が不良資産を抱えるようなことがあってはいけない」(『信頼・信任・信用の構造』2010.4.1泉文堂より―以下の各項同)
「貨幣の支払約束は「信用取引」の核心であり、債権・債務関係はこの取引の結果として成立する、取引関係者間の法的権利・義務関係である。…信用という概念を経済学上の概念としてとらえる場合には、将来における貨幣の支払が約束された取引と規定する」
「銀行は預金の一部を支払準備として残して、その他を貸出などに運用して利子をかせぐ/特定の銀行に対する信用の失墜は一挙に銀行一般の信用の喪失に拡大していき、経営状態がそれほど悪くない銀行までもが取付けにあうおそれがある」
「債券による資金調達、債券への資金運用は、信用という取引形態の側面を意味している/債券は同じ有価証券であっても債権債務関係の存在しない株式とは異なっている/銀行信用も債券取引、債券信用も金利によって大きく影響される」
「国家が強制力を有するとはいえ、国民の信認なしで国家が貨幣高権*を実際に発揮することは困難である」
*貨幣高権:国家が貨幣の鋳造権と発行権を独占する権利
「当面の国民の税負担の増大を軽減または回避する方策として、国債が発行される/深刻なインフレーションを招いている国の政府を市場は信頼しない。…通貨管理がきちんとできていない政府が財政・経済をうまくコントロールできるはずがないと考えるからである/国債は資本の還流によってではなく、国家の租税徴収権によって保証されている。公信用における貨幣支払約束は将来の税に立脚して(いる)…。公債発行による資金調達は税の先取りにほかならない/「近代的租税制度が国債制度の必然的補足物である(マルクス『資本論』)/公債の信頼性は、国家などの財政状態によって左右される。租税収入を基礎とする国家などの支払い能力が、公信用(公債)の信用度を規定する。これは公債の発行条件、とりわけ公債の発行価格に反映される。財政逼迫がきわめて深刻で将来の償還が危惧されるような場合には、公債の信頼度が低下し、国家にとって発行条件が不利となる。公債の信用を維持するためには大幅な財政赤字を回避し、財政収支の均衡化にできるだけ務めることが必要となる」「公債発行によって調達された資本は、政府固定資本形成などに振り向けられたものを除けば、支出されてしまって存在しなくなっている。したがって、公債証書に表示された資本価値は、現実資本価値とほとんど無関係である」
“国家が関わる公信用の一形態である「国債」の「信用」の核心は、財政の維持可能性、持続可能性…を社会が信じて認めるということ、現存する政府債務の長期的な償還可能性” “プライマリーバランス*(基礎的財政収支。即ち国債発行収入などの債務性資金を除いた財政収入と国債元利払いなどの債務性資金支払いを除いた財政支出との収支)は財政のフロー面を示す指標である/国・地方合算のプライマリーバランスの赤字構造は2024年度になっても解消しないと見込まれている”(「日本財政の持続可能性に対する信認の構造」2017.3.3 同氏の論説より)
*プライマリーバランス:2016.6の閣議決定「2020年度プライマリーバランス黒字化」はどこえ?(2016予算ではプライマリーバランス10.8兆円の赤字)。2025年度までに黒字化の目標、しかし目標年度を「再確認する」とも記す(2021.6「骨太の方針」)。
以下は反緊縮グループの主な主張「反緊縮のマクロ経済政策諸理論とその統合」(松尾匡 2019.2.28)より
「不完全雇用のデフレ不況下においては、狭義のヘリマネ*で企業に対して設備投資補助金や雇用補助金を出し、同様に狭義のヘリマネで居住者全員への一律の給付金を出し、税負担の効果をマクロ的に相殺する」
*ヘリコプターマネー(国語辞典『大辞泉』第2版では掲載なし):[補説]中央銀行は通常、市場に資金を供給する際、対価として民間金融機関が保有する国債や手形などの資産を買い入れる(買いオペレーション)。ヘリコプターマネーの場合、そうした対価を取らずに貨幣を発行するため、中央銀行のバランスシートは債務だけが増え、それに見合う資産は計上されず、債務超過の状態になる。その結果、中央銀行や貨幣に対する信認が損なわれる可能性があるため、平時には行われない。
「このヘリマネは、究極の理想としては、中央銀行制度を廃止した政府通貨でなされるのが望ましいが、それが現実的でなければ、政府が国債を中央銀行に直接引き受けさせて得た資金を使うのでもよい。それも困難ならば、中央銀行が買いオペする一方で政府が国債を市中消化で発行して得た資金を使うのでもよい。いずれも経済学的にはさほどの違いはない」
「景気の拡大に合わせて、この設備投資・雇用補助金や給付金を縮小していき、物価安定目標のインフレ率を超えたときには、これを停止する。その過程で、累進課税や法人税のビルドインスタビライザー(筆者注:自動安定装置)の効果も加わって、大企業や富裕層へのネットでの増税効果がだんだん高まり、総需要、特に設備投資需要が減退することで、インフレが抑制される」
「公衆の貯蓄決定から切れたところで、無から作られた貨幣でなされる投資は、銀行の私的判断ではなく、人民の民主的なコントロールによってなされるべきである。筆者は信用創造廃止論者の問題意識をこのようにとらえている。これはすなわち社会主義への志向にほかならない/労働者協同組合などが本当の意味で生産手段共有の内実を持つためには、全社会的な規模での投資の社会化がなければならない。それは、民主的国家の手への信用の集中という『共産党宣言』の命題に戻ることである」
「以下の論点は、MMT(現代貨幣理論 筆者注)やポジティブ・マネーから…ニューケインジアンにとっても共通している見解である―(要約)
・通貨発行権を持つ国家が破綻することはない。
・課税は市中の購買力を抑えてインフレを抑制する手段であり、財政収支の帳尻をつけることに意味はない。
・不完全雇用の間は通貨発行で政府支出をまかなってもインフレは悪化しない。
・民間が貯蓄超過なら財政赤字は自然なことである。
・政府・中央銀行を「統合政府」で見る 」
「中央銀行が資産として保有する政府の債務は、両者を統合してみると相殺される/実際、日銀保有国債は、将来インフレを抑制するために、政府から満期償還を受けて減らしたり、売りオペしたりする分以外は、永久に日銀の金庫の中で維持される」
以下は「中央銀行の債務性と政府紙幣の特質に関する研究」(小栗誠治2010.3 滋賀大学経済学部Working Paper No.126より)―
「現代の不換銀行券は、金や銀との兌換がなくなったとしても、引き続き日本銀行にとって債務としての性格を有しているというのが日本銀行の見解である。なぜならば、銀行券の保有者に対してその価値を護ることが中央銀行の責務であるが、それは中央銀行が適切な金融政策の運営を行うことによって達成することができる…からである。…そうした金融政策への信認そのものが銀行券発行の担保になっている」 「兌換銀行券の場合は、銀行券発行には金等の本位貨幣の準備が必要とされるが、不換銀行券の場合はそうした制約をもたず自由な発行が可能である。しかし兌換が停止されていても、日本銀行は銀行券を発行すれば必ずその見返りとなる資産を保有している。…原則としてこれらは優良資産であるというのが中央銀行の原則である。したがって仮に銀行券の債務の弁済を求められた場合、日本銀行はこれらの優良な見返り資産の返済を求めることによって、…銀行券の債務を完了させることができる」
「インフレーションのような購買力が極めて不安定な状況においては、どんなに強制力があっても額面での流通は困難となる場合が多い。…強制通用力が政府紙幣や不換銀行券を流通させる唯一の根拠とはなりえない」「歴史を振り返れば、法律的な概念である通貨高権は政府に残したまま、現実の通貨の発行権限を中央銀行に譲ることによって、健全な通貨の基礎を作るというのが、近代的な資本主義の仕組みの一番根幹のところである。資本主義の発展の中で、政府紙幣がなくなり、国債の中央銀行引受けが禁止され、中央銀行の独立性が強調されるようになった歴史をよく理解すべき」
以下は『MMTはなにが間違いなのか?』(ジェラルド・A・エプシュタイン 2020.12.31東洋経済新報社)の「日本語版に寄せて」より―
「MMTのマクロ経済政策アプローチの中心は次のことにある。自らの主権通貨を発行する政府はその支出のために事前に収入を得る必要がなく、…。なぜなら、「政府の銀行」である中央銀行が「主権通貨を発行」しさえすれば、政府による財政支出は積極的、または自動的にファイナンスされるからである。そして、主権通貨発行に基づく財政支出は、経済が完全雇用に達するまで、過剰なインフレーションなどのマイナスの影響を伴うことなく拡大できる」「MMT派は…金融不安定性の高まりを抑制するための金融制度の規制策の必要性についてほとんど論じていない/金融不安定性の高まりは、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大し始めた2020年3月、世界の金融市場において突如として顕在化することになった。2007~09年の世界金融危機の発生以降、主要国の中央銀行は10年間以上にわたって超金融緩和政策を継続してきた。この超金融緩和政策の下、企業、ヘッジ・ファンド、プライベート・エクイティ・ファンドなどは、主にシャドー・バンキング・システム(影の銀行システム)を通じた大規模な短期借り入れに依存しながら、自らのバランスシートを危険な水準まで膨張させてきた」「MMTのように制度的な分析を欠いたマクロ経済政策アプローチを採るならば、信用膨張に伴うリスクが顕在化し、金融資産の投げ売りを契機に突如として金融危機が発生する…可能性について等閑視することになる」
(「訳者解説」の「4、エプシュタイン氏によるMMT評価の概要」より―「MMTによれば、主権通貨発行によって財政支出が行われるため、その財政支出を賄う事前の税収と借入を考える必要がない。中央銀行は「政府の銀行」として専一的に機能する。具体的には、中央銀行が政府発行の国債を引き受けることによって、低金利での財政支出の自動的ファイナンスが可能となる。政府はこの財政支出の増大を通じた総需要の拡大によって完全雇用を達成させようとする/MMTが想定するような政府と中央銀行とが統合されたバランスシートは、ほとんどの国において存在しない」)
参照―『財政崩壊を食い止める』(神野直彦・金子勝 2000.11.28 岩波書店)
「債務管理型国家。これが私たちの提案だ。これ以上財政赤字を増やさないが、すぐには財政赤字も返さないという政策である。つまり一種の債務「凍結」に近い状態を作り出し、時期を限定せずに長期間で財政赤字を返済してゆくのだ。この改革のキーワードは、自立とサスナビリティ(持続可能性)である」(42ページ) 「まず国の金融資産と金融負債=国債を、一つの資産負債会計として独立させて一種の債務「凍結」を行う」「国有資産(国有地)に土地を含めない」(42~43ページ) 「国債費の膨張を抑制することを目的とする。その際期限を区切らず、より有利な条件の時に、金融資産を売り国債の償却を図った方がよい」(46~47ページ) 「資産負債会計と経常会計を分離する」「経常会計は主に二つの役割を負う。①資産負債会計に対して国債利払費を供給する機能。②個人および地域に関するミニマム保障と調整の機能」(52ページ)
三、世界の動き
変動相場制と資本・金融自由化
資本主義の確立期からつい最近の1971年までは、大なり小なり金との交換を保証されたものが通貨として成立してきた。その意味では、価値尺度、流通手段、支払手段、将来への保蔵などの機能のあるものとして、歴史的にはほゞ金がその役割を担ってきた(「希少性」など)。 そして一国での金の保有量によって国の通貨の発行限度が決まり、これを前提にして金は国際間の取引の決済手段としても機能してきた(金本位制)。
金本位制下での金準備(一般的に「外貨準備」とは、対外決済に使う外貨の公的保有量をいう)は、その国の国力そのものを意味するものとなるので、各国は競って、輸出に力を注いできた(帝国主義国間競争の激化)。
世界恐慌の1930年代に突入して、各国は金本位制から離脱して管理通貨制(不換銀行券としての貨幣の政治的管理―宇野弘蔵は「価値尺度の骨髄を抜いたようなもの」とした、外国為替相場の不安定性)を採用し、国家の経済過程への政策的介入による世界恐慌からの脱出を試みたが、各国経済の分断と対立―帝国主義戦争へと突入していった。
戦後の管理通貨制は、それに対応する特殊な国際的為替協定機構との連携なしには資本主義を支える通貨・金融機構としては存立できず、アメリカの圧倒的な金準備を基礎に「ブレトンウッズ-IMF(国際通貨基金)体制」(IMF―世界銀行)が成立した*。
*国際通貨制度への動き:ブレトンウッズ体制の成立過程でのケインズ案―清算同盟
・国際通貨バンコールの創設―金本位制に変わり、金など30種類の基礎財をベースにして国際的に通用する通貨を発行するというもの。
・世界の手形集中決済所のようなもの…各国公的当局の持ち込む収支尻を相殺させあう場所。その際の決済通貨として「バンコール」という新通貨を創設。
・多額の信用創造は実際上米国の負担となる可能性が大きいことから、ホワイト案に近い形で進んだ。
「為替相場の安定を促進し、加盟国間の秩序ある為替取り決めを維持し、そして競争的為替切り下げを防止」するとの理念を掲げ、①各国は自国通貨を出資し、その範囲内で外貨借り入れが可。外貨が不足する国で融通し合う、②各国の通貨をドルで表示し、その対ドルレートの維持に努め、レートは協定で定める(固定相場制)、こととした。
それは1オンス=35ドルで、アメリカによって管理された金を基礎とするドル支配の金為替本位制である。ドルを基軸通貨(キーカレンシー。国際的決済に広く使われ、各国が外国資産としてその通貨建て資産を多く保有する)としたものだが、「社会主義」に対抗するドル供与の位置が大きかった-IMF体制は圧倒的なアメリカの資金力と工業力(輸出競争力)そして軍事力を土台にしており、金とドルとの兌換をアメリカが約束したことが、ドルが国際通貨として機能できた制度的保証であった。
しかしその後のドル危機(米の軍事援助と資本輸出によるドル散布、EEC・日本での独占体の再編強化、ベトナム反革命戦争による国際収支赤字→金準備大幅減少→ドルへの信任の動揺)に対するドル防衛策もかなわず、ついに1971年8月、ニクソン「新経済政策」による「金・ドル兌換制停止」・「10%の輸入課徴金導入」をもって他国通貨の切り上げを迫り、1973年2月より「変動相場制」(金への交換性はない)となった。
全世界人民抑圧のための国際協調の下、80年代前半にかけて、外国為替相場が日々の市場の需給によって変動しうる変動相場制およびIMF下での資本取引の全面自由化、金利自由化の世界的拡大によって、金融のグローバル化と情報技術の進展―多国籍企業主導のグローバル資本主義によるマネー経済が不可避的に拡大し、各国経済の連動、信用不安などがもたらされてきた。即ち―
① 通貨そのものが投機的取引の対象になった。
② 金利の国別の差異、各国の様々な市場での有価証券などの価格変動を為替相場の変動と組み合わせて大きな利益の機会が現れた。
③ リスクヘッジの新しい取引形態の拡大、それとともに投機的取引の拡大。
④ 情報通信技術革新
等が進行してきた。
世界の金融・資本市場は、1970年代以降のユーロ・ダラー市場/大量のオイルマネー/種々の金融商品、などで急拡大し、80年代の情報化/各国の規制撤廃、などでさらに飛躍し、世界的なネットワークの整備もあり、統合度も高まった。そうしたグローバル資本主義を主導するものこそ、巨大多国籍企業体制である。「「ユーロ市場」*1と呼ばれる国際金融・資本市場の出現と急膨張、これらを舞台として国際金融資本が大きな役割を演じるようになった」。国際金融資本が全世界で自由に巨額資金を展開するのに好都合の便宜を提供しているのが、世界各地のオフショア金融センター*2である。
*1 ユーロ市場:ある国の通貨で表示された金融取引が、その通貨の発行国以外で行われる市場で、各国当局による規制、課税、市場慣行をかなり免れているのが特徴である。
1970年 460億ドル
1975年 世界全体の外貨準備高を上回る規模に成長(推定)
*2 タックスヘイブン・オフショア金融センター…オンショア金融(国の規制が適用)に適用されている諸規制が免除されている。世界のGDPの1/3の規模で、銀行の対外融資の約半分はオフショアを経由。対外直接投資の約半分はオフショア市場向けとされる。タックス・ヘイブンの特徴は、①まともな税制がない②固い秘密保持法制がある③金融規制やその他の法規制が欠如していることで、「世界経済の危機に果している機能」から見れば「タックス・ヘイブンもオフショア金融センターも同じ」であり、①ロンドンとニューヨーク②群小のオフショア金融センター③椰子の茂るタックス・ヘイブンの3つがある(『タックス・ヘイブン―逃げていく税金』志賀櫻2013)。日本に1986年発足の東京オフショア市場があり、「国家戦略特区」を使って東京を「アジアの国際金融センター」にすべきとの提言がなされている。
1985年の先進諸国によるドル高是正の協調介入(G5蔵相会合-プラザ合意)は、以後の怒涛のごとき国際資本移動と多国籍企業による世界制覇へとつながってきたが、それは必然的に世界金融の不安定性の拡大を伴わざるを得ず、その都度実体経済にますます強烈な反作用を及ぼしてきている。
宮崎義一著『複合不況』によれば、ドラッカーはある論文の中で(1986年)、「この10年の間に、世界経済の構造そのものに、3つの基本的な変化が起こった」として、「(3)財・サービスの貿易よりも、資本移動が世界経済を動かす原動力となった。財・サービスの貿易と資本移動は、分離していないかもしれない。しかし両者の関係は、著しく弱まり、さらに悪いことには予測不能となった」「資本移動、為替レート、金融というシンボル経済が、財・サービスという実物経済からほとんど独立して、世界経済のペースメーカーとなった」と指摘している。
「グローバル資本主義の翼の下に」(『世界』1994.6)によれば、80年代から90年代にかけて多国籍企業が規模とシェアを拡大してきた要因として3点をあげている。
(1)東ヨーロッパの「社会主義経済」が解体し(1989年、ベルリンの壁崩壊-筆者注)、中国、ベトナム、キューバに資本主義経済が浸透し、世界市場が広がった。
(2)経済と金融の規制緩和と民営化で、新しい活動領域が開かれた(電気、ガス、鉱山、鉄道、航空、テレコム、銀行、保険など)。
(3)情報技術の急激な革新と普及で、瞬時に大量の資金を動かせるようになった。
国境を超えて世界的規模で経営活動を展開する多国籍企業は、海外諸国に子会社、系列会社、合弁会社などを設立し(直接投資)、各種の経営資源(人、資本、技術、経営能力など)の移転により、商品市場の拡大や資源の確保、海外の安い労働力など生産資源の、社会的自然的な人間活動の有様を全く度外視しての「最適地」利用を行ってきた(剰余価値の最大化に促進されての争奪戦)。
なお(多国籍企業と結びついて展開されてきた)帝国主義諸国による「経済援助」の本質について、以下を確認しておきたい。
「国家独占資本主義の特徴の一つは、その本質規定から導き出される金融資本の資本蓄積、資本投下の重要手段としての国家の経済的機能、ことに国家財政を利用することである。国家は…巨大な資本をその手に集中しているゆえ、巨大な経済的機能も果たしうる力量をもっている。金融資本は(国家の財政を)…国内的には、直接補助費、長期低利の融資、公共事業、地域開発の名によるインフラの充実のために利用するとともに、対外的には、発展途上国に対する経済援助の名で利用し、直接・間接の形態で独占的超過利潤の取得を追求しようとする。つまり先進資本主義国全体で年間数十億ドルから百数十億ドルの国家資本を輸出することによって、私的資本が発展途上諸国で直接に商品販売市場、原材料、投資市場を獲得し、独占的超過利潤をあげうる政治的=経済的条件をつくりだすとともに、政治的に不安定な発展途上諸国あるいは私的資本にとって危険で当面独占的超過利潤取得の可能性の弱い諸国をも資本主義世界経済体制に引きとめることによって、資本主義の外延的発展を確保し、長期的にみて私的資本にとっての独占的超過利潤獲得の条件を作り出して行こうとする、これが国家独占資本主義の一機能としての経済援助である」(『現代国際経済論』1980年-「現代経済学叢書」)。
90年代に入り、資本輸出(海外投資)のうち海外への証券投資が直接投資を大きく上回ってきた。その背景の大きな一つに短期資本の投機的動きが多くなったことがある。
「世界の金融資産規模(株式・社債・国債・預金の総計)は近年急増し、2006年には167兆ドルとなり(1990年は43兆ドルだった)、実体経済に対する比率は、1990年の約2倍から、2006年には(名目GDP*48.6兆ドルに比べて)約3.5倍へと拡大してきた」
1980年 12兆ドル → 世界のGDPに対する割合 約1.1倍
1990年 43 〃 → 〃 〃2 倍
2005年 120 〃 → 〃 〃3.4倍
2006年 167 〃 → 〃 〃3.5倍
(2010年には200兆ドルとの報告も)
*GDP(国内総生産)…一定期間内に国内で産出された付加価値の総額(ある企業の総産出額-購入原材料・燃料等の中間生産物の価値)。GDPの伸び率が経済成長率。付加価値には労働力の価値と剰余価値が含まれる(具体的には、人件費、支払利息、動産・不動産賃借料、租税公課、営業純益等)。
2011年末現在の世界のデリィバティブ*市場での想定元本は705兆ドル、そのうち648兆ドルが店頭取引(その店頭取引の9割近くは、金利や通貨関連)。
1998年末―想定元本:84.2兆ドル、店頭:70兆ドル
2007年末―想定元本:587兆ドル(世界GDPの11倍超)、店頭:508兆ドル
*デリィバティブ(金融派生商品)…為替、債券、株式その他の「原資産」から派生的に作り出すもので、スワップ(将来のある時点で、キャッシュ・フローをあらかじめ定めた契約で交換する)、先物、オプション(ある将来時点で、現時点で契約した価格で原資産を購入・売却する)が中心。その取引の9割前後が監視外の取引で、市場参加者の大半は銀行・証券会社等。
なお世界の外国通貨売買取引額は(世界でのお金のやりとりの規模を推し測るものさしとして用いられる。取引の90%近くはドルを相手とするもの*)―
グローバル市場での外国為替の1日の平均取引額(国際決済銀行BIS)
2001年 1兆2000億ドル
2004年 1兆9000億ドル(うち99%が短期金融資本取引(ホットマネー)によるもの-以下もほぼ同じ)
2007年 3兆3000億ドル
2010年4月時点 約3兆9810億ドル(うち先物・スワップ・オプションが約7割)
2013年 5.3兆ドル―そのうち実需に伴うものは1割を切る
*外為市場取引の通貨別内訳(2010年4月及び2013年4月時点、合計で各200%)
ドル建て:84.9%/87.0%、ユーロ:39.1/33.4、円:19.0/23.0、英ポンド:12.9/11.8、オーストラリア・ドル:7.6/8.6、スイスフラン:6.4/5.2…、人民元:0.9/2.2等(世界の外為市場取引の片方は殆どが米ドル)
外為取引の主要市場の規模 (シェア %)
英 米 日 シンガポール - スイス
2004 31.3 19.2 8.3 5.2 - 3.3
2007 34.1 16.6 6.0 5.8 - 6.1
2010.4 37 18
<架空資本が架空資本を増殖(現実の労働とその成果に限界づけられず、上限がない―つまり実体と乖離)するが故に、その暴力的価値破壊は避けられない>
諸人民の自律的生存権と連帯協同を壊す多国籍資本の横暴をさらに拡大強化するTPPを許さない!
[参考資料] TPP秘密交渉の正体(山田正彦著 2013.12 竹書房)、検証TPP-全国フォーラム(2015.12.9)、TPP協定の全体像と問題点(2016.1.20 TPPテキスト分析チーム)等
一、拡がる自由貿易協定とTPP
二、投資(9章)
三、金融サービス(11章)
四、国境を越えるサービス貿易(10章)
五、政府調達(15章)
六、国有企業及び指定独占企業(17章)
七、内国民待遇及び物品の市場アクセス(2章)
八、医療分野:18章「知的財産」、10 章「国境を越えるサービスの貿易」、11 章「金融サービス」、9章「投資」、26 章「透明性及び腐敗行為の防止」など
九、知的財産(18章)
十、労働(19章)
四.「株式会社制」について
(1)株式会社の概略
ある高校生向けの教科書では、「株式会社」について次のような説明がされている。
「企業には株式会社や有限会社(2006年の新会社法施行で廃止)などがあるが、多くの株式会社の場合、企業の所有者である株主と事実上の企業の管理運営者である経営者が分離しており(所有と経営の分離)、経営者は、株主の利益も考慮にいれた経営を行う」(『新現代社会』高校教科書・教育出版、2007年)
「所有と経営の分離」-所有は株主、管理運営は経営者-実はこうした内容を強調するのには、次のような背景もある。
「自民党総裁選の候補者にいま求められているのは、株式市場を資本主義経済の中心と位置づけなおし、経済再生を果たした80年代の米国や英国のような「株式立国」実現のための国家戦略を明確に示すことである」(日経新聞2001)
2002.7 “日本の銀行は古い、アメリカ型金融システムへ転換させるべき-株式を中心とする直接金融システムへ”(「金融システムと行政のビジョン懇談会」小泉政権の金融担当相の私的懇談会)
2008.10 麻生政権 金融資本市場安定化-「貯蓄から投資へ」の大合唱-それは世界金融恐慌を目の当たりにしても、なおかつ止まない。
そして、株主利益最大化を企業目的とする「株主資本主義」の現実は、例えば次のようなものだった。
株価連動での経営者報酬や大手企業の90%でストックオプション(自社株購入権)導入
従業員持株制度(ESOP)、退職後の企業年金は401kで運用
GE(ゼネラル・エレクトリック)はこれらをいち早く採用
競争優位を望めない事業切捨て。従業員大幅削減。成長性高く、儲かる事業に資源集中。
金融子会社(GEキャピタル)がグループ利益の4割占める。高株価維持-株式市場での自社株買戻し。
ヨーロッパ、アメリカ、日本の会社法を比較研究したKraakman et al.(2004)によれば、株式会社の特質とは、①法人格、②出資者(株主)の有限責任、③持分の自由譲渡性、④取締役会への経営権の委任(所有と経営の分離)、⑤出資者(株主)による所有、であり、これら5つをかね備えたものが株式会社の基本形だとしている。しかしそうした規定の背後にある矛盾をつかむ必要がある。
株主とは、「株式」の所有者である。利潤の追求を目的とする企業である会社とは、法人*の一種であり、その法人である会社が、“会社の資産”を所有している。そして法人として、外部の個人や企業などと契約関係を結ぶ―それは個人間の「私的」契約ではなく、「社会による承認」を負っており、従って法人とは、本質的に公共的な存在である(岩井克人『会社はこれからどうなるのか』99p)。
*法人には、利潤追求を目的とした会社、農協や生協や労働組合など利潤は追求しないが構成員の利益を目的にする中間法人(特別法に基づく)、学校や宗教団体や医療機関など公益を目的とする公益法人、芸術・学術などの目的のため寄付された財産を法人と見なした財団法人、そしてNPO法人(非営利組織)がある(同書107p)。
会社には、会社のために会社に代わって経営を行う(意思表示や行動をする)権限のある経営者の存在が不可欠である。株式会社の経営者は、委任契約に基づく株主の代理人ではなく(個人企業や共同企業でのオーナーと経営者との関係は委任契約に基づくもの)、会社の「信任受託者」であり、資本機能―即ち剰余価値の最大化のための労働者への強制労働と専制支配の直接の担い手にほかならない。
この「信任受託者」には自動的に「信任義務」があり、第一には、自己の利益でなく信任関係の相手(すなわち会社)の利益にのみ忠実に仕事を行うこと(「忠実義務」)、第二には、その仕事はそれぞれの立場に要求される通常の注意を払って行わねばならないこと(「善管注意義務」)が、法的強制力をもって義務づけられている(同書118p)。しかし会社及び「信任受託者」は、「公共の福祉」に反することは許されず、その増進にともに努める義務があるのは、言うまでもない。
様々な社会的資金からの、広範で大量の出資をはかりつつ、それらを集中して一つの巨大な独占体のための結合資本として成り立たせるために、資本主義的発展が見出した唯一の形態こそ、「法人としての株式会社」にほかならず、法人としての株式会社形態(制度)には、資本主義の次に来る社会的結合生産の現実化への準備をはらみつつも、現段階では私有財産制の内容が一から十まで貫徹されている。
株主には自己の出資分以外にはまったく責任を問わない、とされている。会社の儲けに当たっては相応の分配を得る(インカム・ゲイン)―利益分配だけ享受する存在だと居直っている。出資分をいつ売ろうが自己の見込み次第(キャピタル・ゲインを求めて)―社会がこれらを制度的に保障する(自由譲渡できる)ことによって、株式会社は成り立っている。
個々の出資者(株主)の持ち分である株券(利潤への比例的な所有名義)は、それら結合資本の運動とは独自に運動する擬制資本*となる。普通の商品なら社会的な投下労働量(ある時代と社会状態下での、普通の生産条件での普通の強度や熟練と責任・緊張をもっての)による価値規定を中心にしながら需給変動があるのに、株券の価格変動にはそうした中心となるものがない。
*擬制資本…架空資本・空資本ともいう。資本制社会では、一定の貨幣を投じて得られる定期的な収益はすべて利子(お金がお金を生む、その基準はない)に擬制され、その背後に、収益を利子率で割る(これを資本還元又は資本化という)ことで得られる利子生み資本が実在するかのように見られる。この架空の利子生み資本を擬制資本という。公社債・株式などの価格、さらに土地価格がこれである。擬制資本の成立は、利子生み資本の形成によって深められた資本の物神性を一層強化するものであり、またこれにより単なる債務請求権ないし利潤請求権を代表するにすぎない有価証券も、商品となって利子生み資本の投下分野を拡大するに至る(『経済学辞典』、傍点は筆者)。
そうした株式流通の社会的広がりを支えるのが、証券市場であり、広い意味での信用制度である。
「所有が株式の形で存在するので、その運動自身、その移転は純然たる取引所投機
の結果となる」(『資本論』)
「資本市場の組織化が進むにつれて、投機が優勢となる危険性が高まっている。世
界最大の資本市場の一つ、ニューヨークでは投機の影響力は絶大である。…投機家は
企業活動の堅実な流れに浮かぶ泡沫としてならばあるいは無害かもしれない。しかし
企業活動が投機の渦巻きに翻弄される泡沫になってしまうと、ことは重大な局面を迎
える。一国の資本の発展がカジノでの賭け事の副産物となってしまったら、なにもか
も始末に負えなくなってしまうだろう」(ケインズ『一般理論』)
「(M&Aに関連して)上場株式会社は、制度上、会社をもののように売り買いできる。」
「一般に低収益事業があれば、その会社の株価が下落し、株主の不満は高まる。…
株主の支持を得られない経営者の企業は、買収の標的になる」
「投機には、①流動性の供給、②アービトラージ(裁定取引)によるファンダメン
タルズ価値と証券価格の乖離の縮小、という大きな効用がある。市場参加者が、長期の投資家ばかりであれば、投資対象である株式は、頻繁に売買されないことを意味する。…多くの投資家が毎日多くの売買を増加させるからこそ、長期の投資家も売りたいときにいつでも証券を売ることができる」(『上場会社法制の国際比較』藤田勉 2010.10)
資本所有は、株式会社では、一方では、投下資本片の持ち分に対する個々の株主のすでに述べたような権利となり、もう一方では、それら資本片の「結合資本」である会社資産に対する法人たる会社自体の所有となる。そして、法人たる株式会社は、生産手段を所有しない直接的生産者に対し生産手段の排他的所有者であり、その会社の目的たる利潤獲得の「器官」=人格的担い手たる経営者の指揮監督権限をとおして、労働力を支配して生産過程を支配し、流通過程を含んで剰余価値を取得する(資本機能)―それこそが、現代企業-株式会社の活動の「推進的動機であり規定的目的」である。
少数の大株主による株式会社支配が実現されているとしても、それは以上のような基本的関係の内において展開されるほかない。
「結合資本」の成立を期して資本所有と資本機能は統一され、それと同時に、結合資本を構成する各投下資本片の持ち分に備わる権利が分離され擬制資本として独自の活動を展開することとなる。もちろん前者と後者(株式会社及びその経営者と、各出資者)とは相互に深くつながっている。それが故に大量の社会的資金の動員が可能ともなり、そうしたことを前提に、少数の大株主が現実には自己に有利に会社を運営するのである。
はじめに高校生の教科書を紹介したが、「所有と経営の分離」をただ受け入れるだけでいいのか。むしろ法人たる株式会社においては、多くの分散株主にとっては「所有権」とはキャピタルゲインを求める権利に切り詰められている。そして会社の人事を掌握できる支配株主であれば、会社資本の所有も現実資本を動かすことも、一体に違いない。
(2)日本の株式会社の特徴
日本の株式所有の最大の特徴は、銀行と事業会社を合わせた法人が圧倒的に高い比率を占めていることであり、日本の会社では会社同士が相互に株式を持ち合っている(「株式の相互所有」)。
「高度成長期に定着した事業会社同士の株式持合いは、株価下落期に突入して20年以上経た今でも大きく減少していない」(金融関係を含めて実際には約40%になるという)(『上場会社法制の国際比較』)
これは、株式会社の3原則の一つとされる「資本充実・維持の原則」に反しており、不公正支配を行っているものとされる(奥村宏『株のからくり』)。アメリカやイギリスでは機関投資家*が過半数の株式を所有しているとともに、大企業間で相互に取締役の兼任関係がある(インナーサークル)という。
*機関投資家…豊富な資金をもち、株、債券などの売買で利益を上げようとしている会社や組織をさし、保険会社(受取った保険料で株などに積極的に投資)、年金、投資信託委託会社、投資顧問会社、投資ファンドなど。
株式会社については、会社の債権者保護の観点から、次のような原則が言われてきた。
①資本充実・維持の原則
資本充実の原則:資本金額に相当する財産が現実に会社に「拠出」されねばならない。
資本維持の原則:資本金額に相当する財産が現実に会社に「保有」されねばならない。
②資本不変の原則:いったん確定された資本金額は、任意に減少することはできない。
しかし、2005年の新会社法制定によって、それまでの最低資本金制度(会社設立時に、株式会社は1000万円、有限会社は300万円が必要)が廃止され、「資本金1円でも株式会社ができることになり、資本金を全く無視した株式会社を許している」
すでに1997年12月より純粋持株会社の設立が解禁(戦後の独占禁止法を改定)となり、自らは事業をせず、専ら株式を保有することを目的とする会社の設立が相次いできた。
・外国ファンドが日本の株式保有の首位、市場の売買高の70%のシェアを持つ。
日本株の最大株主になった外国法人(2014年)-外国法人等31.7%、金融機関27.4%、事業法人等21.3%、個人その他17.3%(2019~20年、日本の金融機関と外国人投資家とも30%弱の株式を保有)
日銀、年金基金(GDIF)が大株主へ(2016年)―それらを合わせた公的マネーは、東証一部の4社に1社にあたる474社の筆頭株主。株式保有額は2016年3月末で約39兆円(5年前に比べて約25兆円増)(以上日本経済新聞2016.8.29付)。
・日本経団連の意思決定―役員企業の大株主構成の特徴(外国資本、日本の二大信託銀行(マスタートラスト、トラスティ・サービス))→投資収益の最大化の追求
・企業の内部留保、2014年度は過去最高の354兆円(財務省。2011年は266兆円)。なお2014年度の名目GDPは約489兆円。
・日本企業によるM&A 2011年 10兆4155億円(前年比57%増)、うち海外企業を対象としたM&Aは、6兆2665億円(同67%増)。2013年には日本の対外直接投資全体の半分近くが、日本企業による海外企業のM&A。
・6大都市銀行が3メガバンク(みずほ、三井住友、三菱UFJ)に統合され、信託、生保、損保、証券の各分野で再編が進む。三菱UFJは米モルガン・スタンレー(投資銀行)に資本参加。90年代末以降、大手企業及び外国企業に対する3メガバンクの協調融資増加。そこに政府系金融機関も参加。
大銀行・大企業の多国籍化の進展
(3)「法人格」について
「法人」とは、法律によって「人」とされており、自然人以外で、権利能力(権利義務の主体たる資格)を認められた存在ということである。
会社は自分自身の財産を持ち、会社の名で訴えまた訴えられる。
民法第43条には、「法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」とあり、定款の目的を遂行するのに必要ならすべての行為が含まれるとされている(八幡製鉄事件判決)。
法人の必要性として言われているのは-
・構成員全員を契約当事者や権利主体とすれば、法律関係が錯綜する。
・団体独自の財産がないと活動できない。共有だと分割請求できる(民法第256条)。
法人が単独で法律行為(法律上の効果を生ずる行動)を行うことができるか否かを、法人の行為能力といい、以下の諸説がある―
法人擬制説では、法人とは法が特に擬制した権利義務の帰属点にすぎないから、行為能力を認める必要はなく、代理人たる理事の行為の効果が法人に帰属するとする。
法人実在説では、法人はみずから意思をもち、それに従い行為するのであり、法人の行為能力が認められるとする。
法人否定説では、法人は法の擬制にすぎず、その本体は法人の財産、法人財産の管理者、財産で利益を得る者等。
法人には社団法人(広義)と財団法人(広義)の二つがある。社団法人は、人(法人も含む)の集合体(社団)に法人格が与えられるもの。その集合体の財産や取引を、個々の構成員の財産や取引から法的に分離できる。財団法人は、財産の集合体(財団)に法人格が与えられるもの。
法人のうち、①営利を目的とするものを営利法人、②そうでないものを非営利法人という。[営利=法人が外部的経済活動によって得た利益をその構成員に分配すること]
営利社団法人のことを会社といい、会社法は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社を定めている。会社という社団の構成員を「社員」と呼ぶ(株式会社では「株主」と呼ぶ)。
株式会社などの営利法人は、法律に基き設立登記を済ませてはじめて、権利能力を取得できる。不動産登記や銀行預金などは法人名義で行うことができる。法人に対して債権を有している者にとっては、法人自体の財産のみが責任財産となり、法人の構成員個人の財産は責任財産とならない(構成員の物的有限責任制)。
<人として生きる権利及び公共的福祉への責任に基いての、営利第一を追う株式会社との対抗>
1)法人格否認の法理(判例)
会社の法人格を「特定の事案に限り」、その事件の解決に必要なときは法人格を無視し、法人とその背後の社員とを同一視して取り扱う法理。類型としては、濫用事例(法人格が濫用されている)と形骸化事例(法人格が形骸化している)があるとされる。
法人格の付与は、社会的に存在する団体について、その価値を評価してなされる立法政策によるものであり、これを権利主体として実在させるに値すると認められる場合に法技術に基づいて行われるものにすぎない(現状)。
会社法では、「株主利益の最大化」が利害調整の基準とされる。「企業の社会的責任」については、会社の長期的利益から見て役立つとして要求する議論もあり、会社は株主のみならず種々の利害関係人(ステークホルダー)の利益を考慮して行動すべきとの見解もある。
2)不法行為能力
会社の代表機関がその職務を行う際に他人に損害を加えたときは、会社は不法行為に基づく損害賠償責任を負い(民事責任)、同時に代表機関を構成する自然人自身の不法行為責任を排除しない。
3)法人の刑事責任、企業の不正に対する両罰規定
・会社法上は、法人には犯罪能力がないとする刑法理論を前提とし、会社自体を処罰せず、行為者である自然人(取締役…)を処罰する。刑法では法人を処罰できない。
・不正競争防止法、独占禁止法、銀行法、保険業法、証券取引法、知的所有権法、訪問販売法、公害処罰法等の分野では、行為者自身のほか法人も処罰する両罰規定*が置かれる。法人には自由刑ではなく罰金刑であるが、高額化しつつある。
*両罰規定…違反行為をした者と、法人としての会社の両方を処罰するというもの。最近では「三罰規定」という考え方があり、独占禁止法では、上記に加えて法人の代表者(経営者)をも罰する規定を設けている。
・法人への処罰としては罰金刑のほか営業停止、会社の解散命令が考えられるが、解散してしまえば責任を負う主体がいなくなってしまう。これが株式会社の根本的限界の一つである。
4)株主は、みずから出資し経営者を選んでその企業活動の過程に参加して会社の営業活動に関与し、そこから継続的な利益を獲得する存在なのであるから、営業活動によるすべての不正行為や損害責任行為に対しては、それを“不知”と居直ることは許されず、相応の責任を負担するべきである。ことに支配株主自身の固有の全資産も同時に、その責任賠償範囲に含み、全存在をもって責任負担せねばならない。これがなければ、とりわけ日本の「会社」組織は、常に自己の犯した不法行為の結果から逃亡するのであり、それを未然に改めるようには決して進まない―その直接の全過程を最もよく知りうる現場からの勇気ある指摘こそ、一歩前進へのカギに違いない(労働組合の独立性、自主性が問われる―とりわけ日本において)。
五、グローバル資本主義による人類史的破局への道に対決し、反核・人権・自治に基づく再生可能な新世界を建設しよう!
労働は商品ではない!
現代資本主義は、金のウラづけに基づく金本位制を去り、管理通貨制の「国際協力」(米ドルを基軸にした)に基づいて全商品経済が営まれており、かつ、「資本の商品化」の完成形態たる株式資本を資本活動の基本とすることによって増々マネー経済化を不可避とする多国籍企業主導のグローバル資本主義としてその矛盾を深化拡大してきた。
したがって今日の「資本の運動」は、人々の生活に有用なモノやサービスを生み出す協同による人間労働とその価値形成に対して、独自の架空の世界的規模での最大利益獲得競争に突撃する―「資本の商品化」の終末を我々の眼前にさらしている。
今こそ社会的に有用な人間労働が正当に評価されることを基礎に、継続的な人間生活にとって必要な諸資源が再生・循環してゆく協同社会への道が不可欠となっている。そのためには、現在の直下に、すべての働く人々の社会的有用労働が正当に評価されうる労働者相互の団結が企業横断的に組織され、それを基礎にして剰余価値の最大化を「推進的動機かつ規定的目的」とするほかない資本主義制度を根本的に変革してゆく国境を超えた国際的協力が不可欠である。
多国籍企業の「最適地主義」による海外低賃金及び国内非正規雇用の利用、との闘い
国際資本移動への規制徹底
「国家」を利用しての資本取引、「国家」をすり抜けての資本取引、膨大な金融資産の秘匿蓄積―これに対し、①多国籍企業の財務情報を把握し厳密に課税する②各国の口座情報を自動的に交換できるシステム作り③あらゆる金融資産の取引ごとに課税する、等の必要性が指摘されている(「多国籍企業をどのように規制するか」上村雄彦2016.6.19提起文より)。国境を利用した租税の回避反対。
国際労働基準の確立―ILO「ディーセントワーク」
「権利が保護され、十分な収入を生み出し、適切な社会保護が供与された生産的仕事」(1999年、第87回ILO総会で承認)
反貧困*1、雇用*2(常用雇用・直接雇用・平等雇用が基本原則)、賃金(全国一律最低賃金アップ、同一価値労働同一賃金の原則に立った仕事別賃金)と労働時間短縮(ワークシェアリングとの結合)、社会保障(住宅、医療、年金及び育児・教育等)
*1 2014年6月時点で生活保護受給世帯数約163.5万世帯、受給者数216.4万人。
*2 労働者全体のうち非正規労働者は、2014年に戦後最高の37.4%(約1960万人)、うち「やむを得ず非正規で働いている人」は約5人に1人(総務省労働力調査)、2015年には37.5%が非正規。
独占企業とその株主責任の追及
金融資本への自己資本規制強化。原発・環境汚染企業、安全衛生無視企業を放置、傍観した責任-当該職場に働く労働者についてもその職務に相応する責任は問われる。内部告発の権利。
農民の暮らしの解体と食の安全無視、生態系破壊との闘い
アジア諸地域民衆生活の自立的確保への相互連携
税制―人間の暮らしを支える税制を。税負担の平等=応能負担原則および生存権―基本的人権の維持発展のために税を使う原則―税を人々の手に
投資優遇税制等の廃止、所得税・住民税の最高税率引き上げ、大企業への法人税率引き上げ(ヨーロッパ諸国の法人実効税率は日本より低いが、企業の社会保険料負担率は日本より高く、合計では日本企業の負担率より高い)、消費税反対
社会的共通資本*1の維持強化を基礎に、地域から実体経済の回復
公共財・公共サービスの保持充実。持続可能な、生態系と共に豊かに生きうる社会 「GDPを指標とした成長」(「途上国」からのグローバルな剰余価値の収奪をも自国利害に組み込んで成立する)とは区別された「豊かさ」の追求
産業・企業への労働者規制―企業横断労働組合の強化・拡大、労働者協同組合*2
国際連帯ですべての人民抑圧戦争阻止、沖縄人民解放 核兵器・原発即時廃棄、人権*3・民主主義・地域自主権
*1 社会的共通資本:⓵土地、大気、土壌、水、森林、河川、海洋などの自然環境、②道路、上下水道、公共的な交通機関、電力、通信機関などの社会的インフラ、③教育、医療、金融、司法、行政などのいわゆる制度資本(『社会的共通資本』宇沢弘文より)
*2 労働者協同組合法:2020.12.11に衆参全会一致で成立、施行は公布後2年以内
第一条 この法律は、各人が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就労する機会が必ずしも十分に確保されていない現状等を踏まえ、組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、及び組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織に関し、設立、管理その他必要な事項を定めること等により、多様な就労の機会を創出することを促進するとともに、当該組織を通じて地域における多様な需要に応じた事業が行われることを促進し、もって持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とする。
第三条 組合は、次に掲げる基本原理に従い事業が行われることを通じて、持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とするものでなければならない。
一 組合員が出資すること。
二 その事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること。
三 組合員が組合の行う事業に従事すること。
2 組合は、前項に定めるもののほか、次に掲げる要件を備えなければならない。
一 組合員が任意に加入し、又は脱退することができること。
二 第二十条第一項の規定に基づき、組合員との間で労働契約を締結すること。
三 組合員の議決権及び選挙権は、出資口数にかかわらず、平等であること。
四 組合との間で労働契約を締結する組合員が総組合員の議決権の過半数を保有すること。
五 剰余金の配当は、組合員が組合の事業に従事した程度に応じて行うこと。
3 組合は、営利を目的としてその事業を行ってはならない。
4 組合は、その行う事業によってその組合員に直接の奉仕をすることを目的とし、特定の組合員の利益のみを目的としてその事業を行ってはならない。
5 組合は、特定の政党のために利用してはならない。
6 組合は、次に掲げる団体に該当しないものでなければならない。
一 暴力団(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第二号に掲げる暴力団をいう。次号において同じ。)
二 暴力団又はその構成員(暴力団の構成団体の構成員を含む。以下この号において同じ。)若しくは暴力団の構成員でなくなった日から五年を経過しない者(第三十五条第五号において「暴力団の構成員等」という。)の統制の下にある団体
第六条 組合の組合員たる資格を有する者は、定款で定める個人とする。
第八条 総組合員の五分の四以上の数の組合員は、組合の行う事業に従事しなければならない。
2 組合の行う事業に従事する者の四分の三以上は、組合員でなければならない。
第十一条 組合員は、各一個の議決権及び役員又は総代の選挙権を有する。
第十三条 組合員の持分は、譲渡することができない。
第十四条 組合員は、九十日前までに予告し、事業年度末において脱退することができる。 第十五条 組合員は、次に掲げる事由によって脱退する。
一 組合員たる資格の喪失
二 死亡
三 除名
第十六条 組合員は、第十四条又は前条第一項の規定により脱退したときは、定款で定めるところにより、その払込済出資額を限度として、その持分の全部又は一部の払戻しを請求することができる。
第二十条 組合は、その行う事業に従事する組合員(次に掲げる組合員を除く。)との間で、労働契約を締結しなければならない。
一 組合の業務を執行し、又は理事の職務のみを行う組合員
二 監事である組合員
第六十六条 理事は、各事業年度に係る組合員の意見を反映させる方策の実施の状況及びその結果を、通常総会に報告しなければならない。
2 理事は、次の各号に掲げる事由が生じたときは、当該各号に掲げる事項を、その事由が生じた日後最初に招集される総会に報告しなければならない。
一 就業規則の作成 当該就業規則の内容
二 就業規則の変更 当該変更の内容
三 労働協約の締結 当該労働協約の内容
四 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第四章に規定する協定の締結又は委員会の決議 当該協定又は当該決議の内容 (第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇)
*3 人権:ここでいう人権とは、国際的にも支持されている、何人によっても(国家が緊急事態にあっても、その国家によって)絶対に破られてはならない人権を指す。(日本の憲法でいえば、第11条:「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利」、第12条:「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」等)
・生命に対する権利(ジェノサイド禁止、侵略戦争禁止、大量破壊兵器禁止)
・拷問、残虐な刑の禁止
・奴隷状態の禁止(女性や子供の人身売買、売買婚、強制売春を含む)
・遡及的刑事罰の禁止、公正な裁判への権利
・思想・良心・宗教の自由及び表現の自由(「表現の自由の権利行使には一定の制限」-国際人権規約・自由権規約第19,20条)
・法の前の平等、人種差別禁止、追放・送還の禁止
・児童の権利
・人民の自決権
・武力紛争時の人道的基準の遵守
・生存権(全ての人が最低限、適切な食料、栄養、衣類、住居、治療に必要な条件などの生活のかてを享受することができる)
・労働の権利及び労働三権
・社会保障
・抵抗の権利
・参政権など
万人が平等の基本的な人権を確保するには、今日のグローバル資本主義の生産のあり方を根本的に変革し、人間がモノとして扱われる現代社会のあり方を変革しなければならない。そのためには何よりも、主要な生産手段を社会的所有へと転化することが不可欠であり、労働者人民による抵抗権-革命権の発動をもって実現することができる。
この抵抗-革命の闘いは、労働者階級が自立した階級として行動することによって、同時に全地域、全世界の被搾取・被抑圧・被差別人民が平等の権利と義務に基づいて協同することによってのみ、達成できる。
以下は、筆者が2020.11.10に提出した、
「現在および今後のパンデミック(感染症の世界的大流行)に対峙して(案)」より―
一、はじめに
(1)自然(海、山、川、土壌、空気、そして生物、森林、太陽光等)を、自分たちの都合に合わせ加工して生きてきた人間は、今、放射能の恐怖(核兵器・原子力発電・放射性廃棄物等)を絶望的に深刻化させつつ、グローバル資本主義の下での雇用・福祉改悪と自国第一主義の台頭の真只中で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行に遭遇している。
新型コロナはこの秋~冬それ以降と、2年は続く。今回のウイルスが収まっても何年後には(あるいは重なって)又別のウイルス、それも更に悪性のウイルスが来ることをも覚悟し、可能な限り事前から十分に備えなければならない。(以下では『知っておきたい感染症・新版』岡田晴恵著2020.8.10等を参照)
近年になっての幾度かの感染症大流行の背景には、グローバル資本主義が求める世界各国・地域間の垂直的な依存と支配構造の深化、儲け本位の自然生態系への侵出がある。このあり様の見直しこそが問われる。パンデミックとの対峙の只中でこそ、剰余価値率最大化をめぐる競争―その独占的支配力の存立のための現政治社会体制の維持強化に対抗し、地域自律化と全国的・全世界的共同による全ての人々の生存権をはじめとする基本的人権の確保前進を確信できる新社会を、今こそ現実のものにして行こう!
現政権は今回のパンデミックという事態を、「緊急事態条項」の創設(憲法を改悪して、国会のチェックなしに政権に都合よく人権否定できる、法律と同じ政令を出せるようにする)に利用せんと狙ってきたが、、「現行憲法の『公共の福祉』で対処できる」(志田陽子・武蔵野美大教授 朝日2020.5.3)―生存権をはじめ基本的人権を基底に。
憲法25条 国民の生存権保障、国の社会保障的義務、公衆衛生の向上、増進
⦁ すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
⦁ 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障および公衆衛生の向上およ び増進に努めなければならない。
基本的人権は永久不可侵の権利(憲法97条)であり、ことに生存権を保障するべく国には、「社会福祉、社会保障、公衆衛生の向上・増進に努める」義務がある。その上で、人権相互の矛盾・衝突を調整し実質的公平を成り立たせるために「公共の福祉」(憲法12,13,22,29条)がある。その基本に立って現在の新型コロナによるパンデミックに対処するため全力をあげる必要がある。それを意図的に為さないで「改憲」に利用するなど、断じて許されない―生存権をはじめ基本的人権及び公共の福祉の推進に基づく対処の全世界的協力を!
五、現下の新型コロナへの対策の只中で、特に上記した高病原性の鳥インフルエンザの人-人感染型への変化等を警戒しつつ、最悪のシナリオをも想定した事前の態勢づくり―それも世界に及ぶそれ―が求められている―その真只中から新世界建設へ!
⦁ 1)対処するに足りる医療・衛生体制の確立、十分な検査、感染者治療の実施
2)PCR検査の拡充(集団契約、世田谷方式等)―その世界的協力
⦁ 必要な公的補償の確実な実施―そのためには、軍事費カット・全原発即時廃炉と大
企業・富裕層優遇の諸制度改革等の実行を見据える。新型コロナ禍をも利用しての“労働移動促進―非正規拡大、労働時間規制撤廃、解雇自由”を許さない!
(2019年度の企業内部留保475兆円(2020.10.31財務省)―8年連続の過去最高更新)
(3)スーパーシティ、マイナンバー(国民総背番号制へ)―監視国家・戦時国家化へ
(4)世界的協力による対感染症体制の確立、充実とその只中からの自律的地域社会づくり(グローバル資本主義打破)と、世界のすべての人々の生存権はじめ基本的人権を支え、自然生態系との共生めざす国際協力の推進を!
① 以前からエイズ、結核、マラリアの三大感染症に苦しむアフリカ、アジアの人々。アフリカは新型コロナの流行拡大中で、医療体制に深刻な影響を与えかねない、という(2020.6.22付東京新聞)。三大感染症に対して、国連の持続可能な開発目標(SDGs)は「2030年までの流行終息」を目指していることを踏まえつつ、パンデミック対策を確立、充実させねばならない。
その中で、病原体の分析、ふるまいの把握と対策―治療薬さらにワクチン開発―その全世界共同での推進と全世界の必要な人々に確実に届けることが不可欠。
但しこの追求、研究の諸過程で、以前から、病原体の操作・管理不備で漏出してしまったり、または戦争・テロのために意図的に利用する動きもあり、これへの徹底対決が不可欠だ(参考資料1)。来年1月22日の発効が決まった「核兵器禁止条約」(50ヵ国・地域の批准)の日本の批准実現と結合して、菅政権と闘う必要がある。
② 世界的な人とモノの流れがストップ―ことに医療関係、食糧、エネルギー等は、それらが届かない人々―社会的弱者への更なる生活破壊、生死に直結する→基本的生活資源を支え得る自律的地域社会づくりの不可欠さ、そして全世界レベルでの協力こそ不可欠―更なる経済危機の深刻化とファッショ的反動化に対峙しつつ。
現政権 敵地攻撃、原発推進、改憲
行政権力の自律・肥大化
日本・世界経済崩壊的危機―日本の借金財政 日銀 海外生産依存等*
―まとめとして-(「安倍政権の進める財政・金融破綻と戦時経済化への道を総力かけて打破しよう!(補足後)」2019.12.22筆者文書より)
〇 ますます実体経済から遊離する金融経済の肥大化阻止。
〇 国の財政活動での将来世代への付け回し阻止。大企業・富裕層優遇税制改革、不当支出カット。
〇 再生エネルギーへの全面転換。人倫に反するAI化阻止。食料自給率向上、農林漁業の再生、大自然との共生。
〇 誰もが長く安心して社会的に有用な労働を続けられる社会環境の実現。それぞれの地域で人々が自立して生活できる環境実現のための公共政策の実現。人権と抵抗権。
〇 反戦、反核、反天皇制。過去の植民地支配の清算。沖縄人民、全世界人民との連帯。
(参考資料1)
病原体の分析、ふるまいの把握と対策―治療薬さらにワクチン開発―その全世界共同での推進と全世界の必要な人々に確実に届けること。この追求、研究の諸過程で、病原体の操作・管理不備で漏出してしまったり、または戦争・テロのために意図的に利用する動き―に関連して、以下の諸点に留意が必要
「2011年秋には人為的に遺伝子が改造された変異H5N1ウイルスも試験管内で作製されており、今後、自然界だけでなく実験室内からも危険なH5N1ウイルス発生してくる可能性が高い」「研究のために作製されるウイルスが生物兵器化される懸念があることから、こうした研究はデュアルユース研究(軍事民生共有研究)と呼ばれる」「生物兵器は一歩間違えば人類絶滅の可能性もあり得るし、その使用が当事者にしかわからないため、大変危険な兵器となりうる。特にインフルウイルスは感染力が強く、1~2ヵ月で全世界に広まる可能性を秘めている。作製したそのウイルスが非常に強い致死力を持っているならば、核兵器以上の危険極まりない殺人兵器となり得る」(『新型インフルパンデミックを防ぐために』外岡立人著 2013.7.4岩波ブックレット)
2012.11.30「科学・技術のデュアルユース問題に関する検討報告」(日本学術会議・同検討委員会報告を日本学術会議幹事会で承認)
「科学・技術の用途の両義性に関わる規範」(デュアルユースの日本語を用途の両義性とす)
(Ⅰ.前文)「科学者・技術者は…自らの成果が人類の福祉、社会の安全に反する目的のために使用されていないか、常に見守り判断し行動する責務がある。…科学・技術の悪用または誤用の可能性につき、科学者・技術者、および社会と政府に注意を呼びかけるとともに、科学者・技術者自らが持つべき規範を表明する」
(Ⅱ.規範本文)「…意図的または無知・無視に起因する科学・技術の悪用を防ぐように努める。また人類の福祉と社会の安全に反する結果に至る行為を拒否し、社会及び環境が不当な危険にさらされる状況に対し、責任ある態度を取る」「…人を欺かない公平な共同体・社会の構築により、透明性を保った中で対処する」
(Ⅲ.本規範の展開)「…本規範は、科学・技術の破壊的行為への転用の可能性につき問題が提起されたことを契機に作成された…」
<参考資料2> 国際輸出管理レジーム(通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント等)、化学兵器禁止条約、生物兵器禁止条約(細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びの廃棄に関する条約)、核兵器不拡散条約、カルタヘナ議定書(生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書)
2014.1.23提言「病原体研究に関するデュアルユース問題」(日本学術会議・基礎医学委員会・同分科会)
(4.具体的な対処法)「…病原体研究においては、用途の両義性への配慮の観点から、実施する研究が脚注5に示す7項目に直接的または間接的に関係するかを常に確認するとともに、感染防止のための適切な対処法や病原体不拡散のための処置を講じなければならない。そのためには、具体的危険性は何か、そして、その危険を回避するにはどのような措置が最も有効なのかについて、常日頃より議論する雰囲気作りが大切である」
(脚注5-病原体研究における用途の両義性に関わる研究項目の例)1.病原体の感染性や病原体が産生する毒素等の毒性を増加させる研究、2.臨床的もしくは農業的な正当性なく免疫機構を破壊する研究、3.病原体や毒素に臨床上もしくは農業上有効な予防法または治療法に対する抵抗性や、これらの検出法に対する無効化能を付与する研究、4~7略。
2014.3.20日本学術会議提言:我が国のバイオセーフティレベル4施設の必要性について
「有効な治療法がなく特に致死率が高いものはバイオセーフティレベル4に分類されており、高度な安全設備を備えた実験施設(RSL-4施設)の中での適切な封じ込め環境下で安全に取り扱われることが必要/現在、世界中の19ヵ国で、40施設以上のRSL-4施設が整備されている/わが国で(は)…今日に至るまでRSL-4病原体を取り扱う施設としては稼働していない」「RSL-4施設の目的としては次の3つ…国内でRSL-4病原体による感染症が発生した際の診断…基礎研究および診断法やワクチン・治療薬開発等の応用研究…感染症研究者およびRSL-4施設の運営・管理や緊急時対応のための人材育成」「バイオセキュリティの観点からその安全性管理や施設運営には国が責任をもってかかわるべき」「早急にRSL-4施設を整備する必要がある」(注:現在、国立感染研村山庁舎に施設指定がなされ稼働中で、長崎大学で2021年完成が目指されているという)
2017.3.24「軍事的安全保障研究に関する声明」(日本学術会議)
「日本学術会議が1949年に創設され、1950年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を、また1967年には同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発した…2つの声明を継承する。/研究の自主性・自律性、そしてとくに研究成果の公開性が担保されなければならない。/防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」(2015年度発足)では、…政府による研究への介入が著しく、問題が多い。/研究の適切性をめぐっては、学術的な蓄積に基づいて、科学者コミュニティにおいて一定の共通認識が形成される必要があり…」
→防衛装備庁によると、予算額は制度が始まった15年度は約3億円だったが、17年度からは毎年約100億円に増額(2020.10.15付東京新聞)。防衛装備庁は「軍事用に応用できる民生技術」を求める。
なお安倍政権当時は2016.4.26に、毒ガスを含む化学兵器や生物兵器の一切の使用につい
て、憲法9条は「禁止していない」との答弁書を閣議決定している(核兵器と同様に時の政治判断の問題との扱い)。
2020.9.28 菅義偉首相が日本学術会議が推薦した新会員候補6人の任命を拒否した―理由
は示せなかったが(“戦争できる国家への邪魔者は消す!”)、明らかな法律違反でも平気で
強行―日本学術会議は10.2に、理由の説明と6人の速やかな任命を求める「要望書」提出。
日本数学会や日本物理学会など自然科学系の93学会が10.9、緊急声明を出した等。
→自民党、ありかた検討PT。河野行革担当相、検証へ。
670の学協会や大学・大学人はじめ自然保護団体・消費者団体などから抗議声明
以下は、筆者が2021.2.14に提出した、
「超監視国家化を狙うデジタル改革関連法案を許すな!」より―
Ⅰ] 安保法制強行改悪、日本学術会議会員6人任命拒否(2020.9.28)に続く、デジタル改革関連法案―21年通常国会へ提出(成立してしまった!)
「令和4年度末にはほぼ全国民にマイナンバーカードが行き渡ることを目指し、マイナンバーカードの普及を加速化する」(菅首相、国・地方の検討ワーキンググループで2020.9.25など)
① デジタル社会形成基本法案(高度情報通信ネットワーク社会形成(IT)基本法は廃止)―インターネットによるデータの最大限の利活用の推進
② デジタル庁設置法案―デジタル庁、9月1日発足を見込む。マイナンバー制度関連を所轄し、デジタル関連予算を一括管理。首相をトップに他省への更生勧告権など―「行政の縦割り打破」。
③ デジタル社会形成関係整備法案―個人情報関係3法を一本化。押印・書面手続き見直し。国家資格にマイナンバー等々。
④ 公的給付支給用に預貯金口座登録を可能にするための法案
⑤ 本人同意でマイナンバーに預貯金口座を紐づける法案
→金融機関が口座開設時に顧客の番号の提供を求める義務を規定するなどマイナンバーの利用を促すが、番号と口座のひも付けの義務化は見送る、というが…
⑥ 地方公共団体情報システムの標準化のための法案―情報システムを国基準に一元化。
Ⅱ]現行の法制度は
(1) マイナンバー制度-2016.1からマイナンバー法の本格運用
→マイナンバーと言っている番号法の正式名は「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」である。
①マイナンバー(個人番号):住民票のある人に12桁の番号通知。法人に法人番号(13桁)。当初はその利用範囲を、社会保障(年金、労働、福祉・医療その他)、税、災害及びその他条例で定める地方公共団体事務(社会保障・地方税・防災その他)としていた。
→刑事事件捜査、破防法、暴対法、組織犯罪処罰法など治安のためとされれば、特定個人情報(個人番号を内容に含む個人情報)の提供が認められている!
“犯罪の合意”を処罰する「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法(2017・6・15成立)は、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為が行われたときは…刑に処する」として、「共謀罪」対象277の罪名を挙げている(例「組織的な威力業務妨害や恐喝」など)。
②マイナンバーカード(ICカード):強制ではなく、任意による申請。交付時には本人確認の「顔認証システム」が実施される(→指紋やDNAと同じ)。
国はその「利便性」として、「身分証明書に利用。個人番号を確認する場面での利用(就職、転職、出産育児、病気、年金受給、災害等)、公的付加サービスの利用、電子証明書による民間部門を含めた電子申請・取引等で利用」を挙げ、カードを入手するよう必至で促している。
③マイナーポータル(特定個人情報の情報連携):政府が運営するオンラインサービス。「子育てや介護をはじめとする行政手続きがワンストップでできたり、行政機関からのお知らせを確認できる」。利用者証明用電子証明書を搭載したマイナンバーカードの入手が必要。
④マイナンバー法附則第6条4項「民間における活用を視野に入れて」―例えば個人の医療情報をビッグデータとして研究機関や民間企業に提供するとか、オンラインバンキング(インターネットで本人と金融機関のコンピュータをつなぎ、振込や残高照会などを行うシステム。入力データは保存される)はじめ、各種の民間オンライン取引での利用等←お金のやり取りをデジタルですることとなる。
(2) 現行の個人情報保護法制
①「第3条(基本理念) 個人情報は、個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきものであることにかんがみ、その適正な取扱いが図られなければならない。」
委員長と委員8人からなる個人情報保護委員会(内閣府の外局―内閣総理大臣の所轄に属する行政委員会)―マイナンバーなどの個人情報保護の取り組み、特定個人情報の監視・監督などを一元化。
②原則として本人同意としているが、これがきわめて怪しい―我々は、事業者によるプライバシー・ポリシー(個人情報保護方針:個人情報の利用目的や管理方法をまとめたもの)を熟読できているのか。また同意しないと、スマートフォンの主なサービスを使えない等)。プライバシー・ポリシーに「共同利用」(顔認証データを含む個人情報を受けた者以外も、その個人情報を利用する等)する旨を定めておけば、個人情報の「第三者提供」(すぐ次の項にある)には該当しないとされている(即ち本人の同意は不要)。
③要配慮個人情報(人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪歴、犯罪被害歴など)については、その取得について本人の事前同意を求めているが、ふつうの個人情報はオプトアウトの手続き(事後に本人の求めで提供を停止することとしていること―主に名簿業者が該当する)をすれば、本人同意なしに第三者に提供可→ふつうの個人情報をプロファイリング(Ⅳの(2)を参照)することで要配慮個人情報を探ることは禁止されていない。なお日本では、インターネット事業者によるウェブの閲覧履歴の収集・利用は好き放題、ともいわれている(『ビッグデータの支配とプライバシー危機』宮下紘 2017集英社新書)。
→ブログやSNS(会員制交流サイト)、オンラインショップ、コンビニ、カーナビ等から集められた(要配慮個人情報やふつうの個人情報も含む)巨大で複雑なデータ(ビッグデータ)が保管され、取捨選択され処理されて、マーケティングなどに利用される。
④ネットワーク上の識別番号であるIPアドレス(インターネット上の住所のようなもの)などは、保護やコントロールの対象となる「個人情報」でない、とされる。
Ⅲ]現状
(1)進行するパンデミック・コロナ禍を政治利用―学校・医療等のオンライン化(「GIGAスクール構想」すでに2019・12に補正予算に組み込まれた―産学協同 『世界』2021年1月号)、テレワーク(「働き方改革」をも狙う)、ワクチン接種にマイナンバー紐付け、接触確認アプリと感染者システム(ハーシス)・QRコード*の利用、さらにはスマートフォン・自動車の位置情報-GPS(衛星利用測位システム)による追跡をも可能としてゆく。(中国での強権的なデジタル監視システム)(2020.5.11朝日新聞「記者解説」等)
*HER-SYS(ハーシス):厚労省が開発した新型コロナ感染者情報把握・管理支援システムのことで、医療のデジタル化を含むデジタル庁設置・デジタル化推進とマイナンバー制度強要の動きに組み込まれたものである。軽症者や濃厚接触者を含む全患者一人一人の検査結果や症状の経過を継続的に記録し、医療関係者で共有する機能がある。保健所から陽性と判断された人への連絡と連動。
* QRコード方式:施設や店舗にQRコードを張り出し、来訪者を把握(メールアドレスを収集等)、感染者発生時に行政から利用者に連絡する。大阪府や神奈川県等の各自治体で採用されている。
特措法・感染症法改悪―当初の「予防的措置」の名称を変えた「まん延防止等重点措置」
新設(緊急事態宣言前でも首相が知事に指示可能に)―現政権は今のパンデミックを改憲
「緊急事態条項」の創設に利用せんと狙ってきている。それは今回のデジタル改革関連法
案(超監視国家化)にも貫かれている。
(2)マイナンバーカードの強引な拡大推進(今時点で普及率は約2割超という)
①健康保険証:保険証枚数8700万枚。21年3月予定。カード持参者の顔を撮影してカードの写真と識別するという。
②運転免許証:免許証枚数8200万枚。都道府県の警察が管理する(交通違反者の免許証の確認はマイナンバーカードのICチップ(個人認証ができる)に読み取り端末をかざして行う)。26年一体化予定。
③医師免許等の国家資格にも。
④さらに預貯金口座とも一体化へ。
(3)以下のような用途・活用に広がる「顔認証システム」
・入退室管理(オフィス、工場、マンション) ・決済(小売店、ホテル、飲食店)
・端末ログオン(PC、スマホ)←不正アクセスやなりすましの防止
・なりすまし防止(銀行、受験会場、イベント会場) ・来訪者の探知(ホテル、店舗)
・受付(アミューズメント施設、店舗) ・警備・防犯(市中、空港税関)
・見守り(介護施設)
(4)NSA(アメリカ国家安全保障局)の監視では、国内での電話の傍受はじめ、アメリカ国外の人を対象としたインターネットのメール、添付ファイル、画像などの監視(直接インターネットに入り込み、メールなどの内容を読み取る)が行われていたという(2013、エドワード・スノーデンの告発)。日本の諜報活動との連携。
Ⅳ] EUのGDPR(一般データ保護規則 2018・5施行)について(以下『AIと憲法』山本龍彦編著を参照)
(1)「(本規則は)自然人の基本的権利および自由、ならびに特に彼らの個人データ保護に対する権利を保護する」(1条)→日本の個人情報保護法と比較。ここで言われている「権利」とは、日本の憲法13条からして、自己情報コントロール権―プライバシー侵害を許さない、の意だ。
「「個人データ」とは、識別された又は識別され得る自然人(以下「データ主体」という)に関するあらゆる情報を意味する。識別され得る自然人は、特に、氏名、識別番号、位置データ、オンライン識別子のような識別子、又は当該自然人に関する物理的、生理的、遺伝子的、精神的、経済的、文化的若しくは社会的アイデンティティに特有な一つ若しくは複数の要素を参照することによって、直接的に又は間接的に、識別され得る者をいう」(4条)
(2)“プロファイリングに対して異議を唱える権利(中止請求権)”(21条)
データ管理者は、データ主体の利益等を乗り越える「やむにやまれぬ正当な根拠」を示さ
ない限り(その証明責任は管理者側にある)、プロファイリングのための情報処理を中止
しなければならない。ガイドラインによれば、「管理者の単なる経済的利益」はこれに該
当せず、「伝染病のまん延を予測するためのプロファイリング」は「やむにやまれぬ正当
な根拠」に当たり得るとされている。
→日本には明確な法規制がない。
*GDPRは「プロファイリング」を、「自然人に関する特定の個人的側面を評価するために、特に、当該自然人の職務遂行能力、経済状況、健康、個人的選好、関心、信頼性、行動、位置もしくは動向を分析または予測するために、個人データを用いて行うあらゆる形式の自動化された個人データ処理」と定義(4条)。
(3)“自動処理のみに基いて重要な決定を下されない権利”(22条1項)
ガイドラインによれば、「管理者は、人間の関与をでっちあげることにより22条を潜脱
することはできない」とする―社会保障の受給資格の否定、国境への立ち入り拒否、当
局による高められたセキュリティ手段または監視の標的化等や、排除や差別をもたら
すような決定、オンラインのクレジット(信用、信用貸しなど)申請の自動拒否、いかな
る人間的関与もないデジタル化された採用活動などが想定されている、とされる。
(4)“透明性の要請”(13条2項、15条1項、35条3項)
「公正と透明性を確保するために」、管理者は、①(前項の)自動決定(への規制)が存在することはもちろん、②当該決定の「ロジックに関する意味のある情報」、③「その処理の重大性およびデータ主体に及ぼす想定される帰結」を主体に告知しなければならない。22条の例外が適用される場合(自動決定が許容される場合)には、主体の側は①~③の情報にアクセスする権利を有する等。
Ⅴ] 対峙すべき諸課題
(1) 日本国憲法では―
前文:われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する
権利を有することを確認する。
第11条:国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国
民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に
与へられる。
第12条:この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを
保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて 常に公共の
福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
自民党改憲案第12条:この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。
第13条:すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
自民党改憲案第13条:全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
改憲案では、人権間の調整原理である「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に変え、国家の秩序維持のためには人権抑圧も当然としている。
(2)人権否定へとつながる「データ共同利用権」を法的に導入せんとしている!
「デジタル庁の創設に向けた論点」(デジタル改革関連法案ワーキンググループ第2回資
料1-1)として、「21世紀の基本的人権“データ共同利用権”の確立」が叫ばれている―個
人情報保護法制での「共同利用」は個人情報取扱事業者への規制(個人の同意のルール含む)
が中心、等とする。「データ(パーソナルデータ含む)への第三者からの一定条件でのアクセ
スと利用を可能とする」
(3)スーパーシティ法(改正国家戦略特区法)―2020年6月公布・9月施行
“AI、ビッグデータを活用し、大胆な規制改革等により、社会のあり方を根本から変える
ような都市に向けて”特区指定公募中(~21.3.26)
*当法案に先立つ2017.2に安倍首相(当時)は、「「国家戦略特区」を更に一歩進め、自動走行やドローンなどの近未来技術の実証実験が、一層スムーズに、またスピーディに行えるよう、安全性を確保しつつ、手続きを抜本的に簡素化する仕組みを直ちに検討してまいります」とし、店舗でのキャッシュレス化と無人化、顔認証システムの全面導入も有り得るとしていた。
→自律的技術の研究開発から自律型致死兵器システムへ
(以下は2020.2.9筆者提出文より転載)
自律型致死兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems LAWS)関連技術の多くは、民生用で使用される技術でもある(例えば自動車の自動走行、航空機の自動航行など)。「有意な人間の関与」は何の規制にもなりえない上に、完全自律型兵器と半自律型兵器の間に、どんな区別ができるというのか。兵器でなければどんな自律型技術でも良しとしていいのか(それらの技術にはいつでも誰でも自律型兵器への転用可能なものがある)。そもそも「自律化技術」そのものに根本的問題はないのか。LAWSはその最悪の実例となりうるにすぎず、以下で「自律化技術」そのものを問い返すことから考えていきたい。
(1)AIは人間の判断を超えるスピードで大量のデータを処理しており、人間がその誤作動を予測したり、急きょ途中で訂正すること等不可能とされ、AIが統計的処理に基づいて判断するに至った根拠すら、人間にはわからない(ブラックボックス化)。従ってその間に悪意ある操作をされても殆どわからない。
(2)AIはある限定された枠組み(フレーム)の下では、並外れた計算力をもって力を発揮できるが(前もってデータを予測し、決められた手順で大量の入手データを操作して、結果を出力し、その結果に応じて手順が自動的に変更される―変更の仕方も前もって決められている)、現実に起こりうる、これとは限定できない問題を前にしては、無力である(フレーム問題といわれる)。そもそも(人間には当たり前の)「何が大事か」という価値観に沿って目標を設定したり、臨機応変に、適当に問題に対処できない。コンピュータは、言葉の概念、本当の意味を理解していない(『ビッグデータと人工知能』より「記号接地問題」西垣通)。暴走の危険性も指摘されている(道具的収斂)。
(AIは意識-ものごとや言っていることが分かるということ-を持たず、倫理はにある。AIの判断の正当性を裏付けることはできないとの見解がある)
(3)「自律性」とは「認知=判断=行動、そしてその行動結果を認知して、さらに次の行動につなげる、という「認知行動サイクル」に途切れがないこと」(「人工知能の仕組み」高橋恒一より)というが、なぜその判断に至ったのかは、人間には分からない。あらかじめ目的や目標や制約条件をAIにわかるように記述できる課題ならば(但しその取扱いデータによるクセや傾向が反映され、バイアスが生じうる。不当な差別にもつながりうる)対応できるが、その時その時に「何が大切か」、その多次元な状況に応じて必要な目的を設定し対処することはできない(それは生命活動と直結する)。「人間の知的能力はもともと多次元的なもの〈生物は自生するもの、その作動の仕方は「自律的」〉で、最大の特長は、状況に応じて臨機応変に問題に対処できること。機械は、設計された仕様からはみ出せないので、柔軟で多次元的な存在ではない」(『ビッグデータと人工知能』西垣通)。
(4)日銀デジタル通貨への動き→いよいよ、通貨はどこえ?!
「デジタル通貨」が世界レベルで加速している(「中央銀行デジタル通貨:基本的な原則と特性」2020.10 第1次報告書・中央銀行グループ共同作業シリーズ カナダ・欧州・日本・スウェーデン・スイス・イングランド・連邦準備制度理事会・国際決済銀行。
日本銀行の「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」(2020.10.9)によれば、「中央銀行デジタル通貨」(CBDC)とは、「既存の中央銀行預金とは異なる、新たな形態の電子的な中央銀行マネー」。
日銀が取り組み方針の対象とする一般利用型(個人や一般企業を含む)CBDCに求める機能と役割は―1.現金と並ぶ決済手段、2.民間決済サービスのサポート、3.デジタル社会にふさわしい決済システムの構築。
日銀は、中央銀行と民間部門による決済システムの2層構造を維持する、2021年度の早い時期から実証実験を開始する、としている。
「決済」とは、売買代金の支払いなど、経済取引におけるお金の受払いや証券の受渡しのことをいう。各国には中央銀行とその下に民間銀行があり、当該国の通貨の決済システムが構成される。決済手段には、①中銀発行の「銀行券」(=現金通貨、利用主体に制限なし)、預金通貨として、②「中銀当座預金」(利用主体は金融機関など)③「民間銀行預金」(企業や家計など広く一般で保有)、がある。
電子マネー(スイカやパスモ等)は、商品やサービスの代金の決済を現金と同じ価値をもつ電子的なデータの送受で行う仕組みだが、インフラ不全発生時には使えない(ドコモ口座、ペイペイ等で決済サービス悪用される被害も)。
仮想通貨(暗号資産)(インターネット上でやり取りできる財産的価値、裏付け資産をもたない)―ビットコイン等。
フェイスブックが中心となったリブラ構想
既存の各国通貨の信用を取り込んだ暗号資産であるステーブルコイン
ユーザーから要求あればいつでもリブラを既存通貨に交換する
価値の裏付けとして米ドル、ユーロ、円等(その後、米ドル、ユーロ、英ポンド、シンガポール・ドルのみ例示)の世界の主要通貨建ての資産(銀行預金、短期国債など)を保有するリブラ協会が発行。
「既存の国際的な通貨システムを介さずに、独自のネットワークを通じて瞬時かつ安価に国際的な決済を行うことを可能とするもの」
既存の金融システムへのアクセスをもたない層をも金融秩序の中に取り込む。
「ステーブルコインは、…民間主体が発行する価値の安定した通貨としてグローバルに利用が広がることを期待される。…(しかし)個々の取引が安全に行われるのか、価値を安全に保蔵できるのか、といった点の確実性がまだ定まらず、…金融の不安定化の端緒となりかねない。さらに、マネーロンダリングやテロ資金の授受の温床とされかね(ず)、とりわけグローバルなステーブルコインが各国通貨に代替する手段となった場合、通貨主権が侵害されかねず、金融不安低下化につながりかねない」
「グローバル・ステーブルコインへの資金流出は、…先進国であっても、財政事情が相当に悪化し、財政破綻が切迫しているようなケースや、極端な低金利でも起こり得るのではないか」(以上「ステーブルコインが通貨・金融秩序にもたらす課題」河村小百合 JRIレビュー2020.4.23)
「2020年7月に公表された政府の「骨太の方針」では日銀によるCBDCへの取り組みがうたわれているが、財政事情が悪い中銀が従来の銀行券や預金通貨に加えて、新たな形態のデジタル通貨を発行するとしても、当該中銀の同じバランス・シートのもとで発行する以上、信任が得られない」(『中央銀行の危険な賭け』河村小百合 朝陽会2020.10.10)
「仮に「デジタル円」が発行される場合も、スマホに現金をチャージして利用する方法などが想定される」「(最近増えてきたキャッシュレス決済と)大きく違う点は、どこでも誰でも使えるようになる点と、信用リスクがない点」「課題となるのはサイバー攻撃やマネーロンダリングなどに対する安全管理」「デジタル通貨の議論を一変させたのは、米フェイスブックが昨年6月に発表した「リブラ」計画」「リブラに最も早く反応したのは中国…「デジタル人民元」をいち早く普及させることで、現金の世界のドルやユーロに代わる通貨覇権を狙っているとみられる」(2020.3.23東京新聞「計画進むデジタル通貨」)
「3メガバンクなどが参加するデジタル通貨の検討会が2021年度に大規模な実証実験を始める。NTTグループやJR東日本、セブン&アイ・ホールディングス、関西電力など30超の企業・団体が参加し、デジタル通貨の効果や実現に向けた課題を検証する」(2020.11.18読売新聞オンライン)
デジタル通貨に追跡コードをつける(どこで何を買ったか、いくら預金しているか等)。
以下は、筆者が2021.4.26に提出した「気候変動」より―
Ⅰ はじめに―予防原則を踏まえて
「1992年に採択された国連気候変動枠組条約(1994発効)では、1992年の「リオ宣言」第15原則で示された予防原則のこの分野での具体化として、その第2条に「究極の目標」として、「気候系生態系に悪影響を及ぼさない水準での温室効果ガスの大気中濃度の安定化」が定められた。また、条約第3条では「締約国は、気候変動の原因を予測し、防止しまたは最小限にするための予防措置を取るとともに、気候変動の悪影響を緩和すべきである。深刻なまたは回復不可能な損害のおそれがある場合には、科学的な確実性が十分にないことをもって、このような予防措置をとることを延期する理由とすべきではない」と規定している」
(『予防原則・リスク論に関する研究』第16章より 2013 日本科学者会議・日本環境学会編)→後ろの「資料1」を参照
Ⅱ 人類の成立および気候変動の諸要因
1、水はなぜ必要か(以下『地球学入門』等参照)
体の60%(重量%)が水。新生児では80%が水。骨の50%、筋肉の75%は水。腎臓では1日180ℓもの水を使って、老廃物を処理し沪過している。そのため人間は1日2.5ℓの水を必要としている。水は体中で第一に溶媒の役目、第二に生命現象の主役であるタンパク質が機能を果たすのに水が必要。なお細胞を作っているタンパク質は20種類のアミノ酸より成る(アミノ酸:炭素化合物にアミノ基とカルボキシル基が結合した分子)。
水の循環(地球には総計137万km3の水があり、そのうち97.2%が海水、2.8%が陸水)
現在の地表近くの温度の範囲では、水物質(水、氷および水蒸気)の三相のいずれも存在可能で、温度の変化に応じて相変化する。即ち水蒸気を含む大気、大量の水を貯える海洋と湖、河川、水を含む土壌、および雪氷のいずれもが存在しうる。
水は地上近くで溜まった熱をもらって、空の上方に運び(蒸発)、そこで熱を外に出す(降水)。この熱はいずれ地球の外へ捨てられる。地球は冷えてしまわない-太陽からどんどん熱がくる。地球の空気の温室効果(水蒸気など)。
2、二酸化炭素(CO₂)を作っている炭素も地球を循環-その中で20億年かけて空気中の二酸化炭素が減っていった
① 二酸化炭素は水に溶けて炭酸をつくる。空気中のCO₂も少しずつ海に溶けてゆく。溶けたCO₂は、海水中にあるカルシウムやマグネシウムと結合して海底に沈んでゆく。それが岩になってゆく(CaCO3炭酸カルシウム→石灰石)。この岩は大陸の下にもぐりこんでゆく。深くもぐると高温と圧力でCO₂に戻り、火山の爆発でCO₂ガスが吐き出される。この中で空気中のCO₂は徐々に減ってきた。
② もう一つ、植物の光合成。葉の緑のところでCO₂と水をくっつけ、太陽の光を使い、でんぷんと酸素を作る。地球に植物が生まれたのは29億年くらい前。この頃から光合成で空気中のCO₂が減り、酸素が増えてきた(地球大気に酸素が含まれるようになったのは23億年前との説あり)。CO₂→でんぷん→動物が食べて分解→そのときに出るCO₂を体外に捨てる。
地球ができて10億年の頃、細菌のような生物が生まれ(生命史38億年ともいわれる)、やがて光合成植物も生まれてきた。それからは光合成もありCO₂がさらに減り、酸素が増えていった。陸上に生物が現れるようになったのは、地球が生まれて40億年後のこと(それまでは海の中-紫外線が強いので)。
3、大気はなぜ必要か[空気:乾燥空気(窒素、酸素、アルゴン、CO2)+水蒸気]
人間が通常の生活を営めるのは、十分な酸素がある標高4,000m付近まで(標高5,000mになると大気中の酸素分圧は平地の約半分になり通常の生活はできない)。呼吸によって取り入れた酸素によって、ぶどう糖やでんぷんなどの栄養素を酸化分解して、エネルギーのもととなるATP(アデノシン三燐酸)を生産している。
4、適当な温度はなぜ必要か
人間の体温は通常36~37℃。これより1~2℃体温が上昇しただけで、正常な活動をできなくなる。人間の血液の80%余りは水で、従って100℃以上の環境では血液も沸騰する。水は常圧下では0℃で凍結する。人間が快適に過ごせるには、18℃前後の限られた温度の中だけ。
5、太陽系惑星の比較(宇宙の誕生は137億年前、46億年前に太陽と8惑星が生まれた)
地球型の惑星(水、金、地、火)…岩石の固まり、小さく軽い
木星型 〃 (木、土、天、海)…水素などのガス、大きく重い
大気 表面温度
金星 濃い大気(二酸化炭素96%、表面から60km上空に硫酸の雲)。圧力は地球の90倍。 470℃(CO2による温室効果)。
海はない。大陸地殻もない。
生命も存在しない。
地球 1気圧の大気(体積比で窒素78%、酸素21%、二酸化炭素0.03%、アルゴン0.93%)。 15℃
火星 薄い大気(圧力は地球の0.6%。二酸化炭素95%、窒素2.7%) -23℃。水がある(帯水層)。
惑星の表面温度を決める主な因子
①太陽からの距離(太陽放射の量)―遠いほど、その惑星が受容する太陽放射量(電磁波)は少なくなる。
②惑星表面の反射能力(アルベド)―雪・氷で覆われていると、入射エネルギーの46~86%が反射されてしまう。砂漠では24~28%が反射されるが、森林に覆われていると3~10%が反射されるだけで、地球全体では太陽放射の30%が反射されている。
③温室効果ガス―地球に入射する太陽エネルギーは可視光線部に極大がある。大気中に含まれる水蒸気や二酸化炭素は可視光線に対しては透明だが、赤外線をよく吸収して、大気の温度を上昇させる。地球への太陽放射の入射エネルギー(1380W/㎡)×70%=実際の入射量(966 W/㎡)。これから地球の放射平衡温度を求めると、-18℃となるが、実測された平均表面温度は+15℃。この差が温室効果ガスによる温度上昇。地球にはもう一つ温室効果ガスの貯留槽がある―海洋と氷床。二酸化炭素は炭酸塩岩に[炭酸H2CO3-重炭酸塩HCO3-炭酸塩CO3‐炭酸カルシウムCaCO3]、水蒸気は液体の水、氷として固定されている。
6、「産業革命*以前は、人間活動の自然環境に対する影響は微々たるものであった。しか
し20世紀後半から、人類の活動は自然環境を大きく変えるほど増大している/化石燃料の
大量消費による地球温暖化は、今や国際的な大きな問題となっている/自然のリズムの中
で、地球の気候はどのように変動してきたのであろうか?…その原因は」(以下は要約)
*産業革命:18世紀中(1769 ワット蒸気機関改良)~19世紀中 イギリス「世界の工場」
(1)太陽放射量の変動
過去2000年間の歴史を遡ると約400~500年周期で太陽活動が変化しているようだ。
(2)地球の軌道要素の変動
公転軌道の変化(円形に近いのか、長楕円形か)は受容する太陽放射量を変化させる。地球の自転軸は23.5度傾いていて、そのため四季が生じるが、その傾斜角は変わる。地球の赤道半径が極半径より長いので、太陽と月の引力によって自転軸はゆっくりコマ回し運動(歳差運動)をしている。これらが複合して、数万年から数十万年の周期で太陽放射の受容量が変動している。
(3)地球内部からの熱と揮発成分の放出
火山活動で放出される二酸化炭素の量は海洋底の拡大速度によってコントロールされており、そうした変動は数百万年~数千万年の時間スケールで起こっている。
(4)地球上のテクトニックスプロセスの変動
大陸の分裂や衝突、山脈の形成と隆起、海洋底の拡大と閉鎖などのテクトニックプロセスは、数百万年あるいは数千万年の長い時間の中で気候システムを非常にゆっくり変化させている。
(5)大規模火山活動
Ⅲ 気候変動への世界の動き(とりわけ「特別報告書」)と、日本政府の危険な動き
1988 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、世界気象機関と国連環境計画により設立
1992 国連気候変動枠組条約採択(1994発効)
1997.12 第3回締約国会議(COP3) 京都議定書(2005発効)
排出権売買/2008~12の5年間でCO2はじめ温室効果ガス排出量を、先進国全体で最低5%削減(1990年比)めざす→アメリカ離脱
2007 第4次評価報告書公表 温暖化は「人為起源の可能性が非常に高い」
2005年時点のCO2濃度は379ppm(ほかに水蒸気1~3、メタン1.77等)―産業革命以前は280ppm(水蒸気1~3、メタン0.7等)。過去65万年間の自然変動の範囲の「180~300ppm」を大幅に上回る。過去100年間に地球の平均気温は0.3~0.6℃上昇、海面は10~25cm上昇。
2009 コペンハーゲン合意
[世界主要国の温室効果ガス排出量 2010年換算約427億t-中国23%、アメリカ16、インド5.7、ロシア5.4、日本2.9、ブラジル2.6、ドイツ2.1等]
2014.11 第5次評価報告書統合報告書公表(以下、環境省2015.10より)
世界の気温、過去132年間(1880~2012)で0.85℃上昇
2100年に大気中のCO2濃度0.07%と予測(←海洋面からの増加分含まれず)
ポイント ①気候システムの温暖化には疑う余地がない ②人為起源の温室効果ガス排出が、20C半ば以降の観測された温暖化の支配的原因 ③今世紀末の気温上昇は、現状を上回る追加的な温暖化対策を取らなかったら(産業革命前と比べて)2.6~4.8℃となる可能性高い ④2℃目標―2050年までに40~70%削減(2010比)、21C末までに排出をほゞゼロ [北極海の海氷消失。海面水位、海水温度上昇。災害(大雨、台風、洪水等)による被害者増大(年間1億人―現在の約5倍)。食料危機と栽培領域の変化]
→日本の約束草案(2015.7 気候変動枠組条約事務局へ提出―温室効果ガス削減量)
2030年度に2013年度比▲26.0%(2005年度比▲25.4%)の水準(約10億4200万t-CO2) にする(2050年80%削減)―エネルギー起源CO2▲21.9%、その他温室効果ガス▲1.5%、吸収源対策▲2.6%→2030年時点での電源構成は(総発電電力量1兆650億kWh程度のうち)、再生可能エネルギー22~24%、原発20~22%、火力56%(石炭26、LNG27、石油3)程度、省エネ35%減が目標。
2015.12 COP21 パリ協定採択(159ヵ国 2016.11発効)→アメリカ批准
世界の平均気温上昇を、「産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃未満に抑える努力をする」―21C後半に人間活動による世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロまで削減する
→各国は「約束草案」(INDC)実現へ
2018.10.8 IPCC「1.5℃目標」に関する特別報告書
「約束草案」を実現できても「パリ協定」の削減目標に達しない、と指摘。
(パリ協定に提出されている現状の各国の目標では3℃の上昇が見込まれる、との意見もある)
①現時点ですでに(産業革命前に比べて)1.0℃(可能性の高い範囲は0.8~1.2℃)上昇―異常気象、海面上昇、北極の海氷減少など。このままのペースでは2040年前後(2030~2052年の間)に1.5℃になる可能性が高い。
②悪影響のリスクは1.5℃では現時点より顕著に大きく、2℃では更に大。(1.5℃の方が安全)
③1.5℃に止めるには、2050年前後にはCO2排出量を実質ゼロ、メタンなども大幅削減。
現時点(1.0℃)でも大変で、1.5℃だともっと大変、2℃だと更に更に大変。せめて1.5℃で止めたい。
海面上昇 ・2℃に比べ1.5℃だと2100年時点で10cmほどおさえられる(1.5℃で26~77cm)。
・1.5℃でグリーンランドの氷床不安定化の臨界点を超える可能性、2℃ならその可能性更に大。これが起きると数百年~数千年かけて海面は数m上昇する。
温水域のサンゴ 1.5℃で今より更に70~90%失われ、2℃で99%以上失われる。
「特別報告書は、(2100年までに)地球温暖化を(産業革命前に比べて)2°C以上ではなく、1.5°Cに抑えることによって、多くの気候変動の影響が回避できることを強調しています。例えば2100年までに、地球温暖化を1.5°Cに抑えた場合、世界の海水面上昇は2°Cの温度上昇の場合に比べて10cm低くなります。夏季に北極海が氷結しない可能性も、気温上昇2℃の場合の10年に1回以上に対し、1.5°Cの地球温暖化の場合には1世紀に1回となります。1.5°Cの地球温暖化の場合、サンゴ礁は70~90%減少しますが、気温上昇が2°Cに達した場合、サンゴ礁は事実上全滅(99%超が死滅)してしまいます。」(さらに熱波に見舞われる世界人口、少なくとも(5年に1回)1.5°Cで約14%、2°Cで約37%で約17億人増加。洪水リスクにさらされる人口増、海洋の年間漁獲高減など)
「報告書によると、地球温暖化を1.5°Cに食い止めるためには、土地、エネルギー、産業、建築、輸送、都市のそれぞれで「急速かつ広範な」移行が必要となります。全世界の人為的な正味二酸化炭素(CO2)排出量は、2030年までに2010年の水準から約45%減少させ、2050年頃に「正味ゼロ」を達成する必要があります。つまり、その時点で残る排出量はすべて、大気からCO2を除去することによって相殺しなければならないのです。」(他の報道によると、「今世紀半ばの実質排出量ゼロには、土地、エネルギー、産業、建築、輸送、都市などの社会のあらゆる部門で、急速かつ広範な、かつてない変革がなされなくてはならないとする。具体的には、「森林伐採の停止と数十億本の植林」「世界の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を70〜85%にして化石燃料の使用を減らし、石炭火力発電をゼロに近づける」「大気中からCO2を回収し貯留する技術の開発を進める」などの取り組みが必要だとしている。」)―特別報告書政策決定者向け要約より(カッコ内は筆者注)
温暖化のカギは「赤外線」のゆくえ
一般的に、温かいものからは赤外線が出る(人体からも)。地表は太陽光で温められているので、地表からも赤外線が出る。この赤外線がそのまま宇宙へ逃げてゆくと、地球の平均気温は約-18℃となってしまう―大気が、地表から出た赤外線の一部をせき止めている。
人間が放出しているCO2は1年間で約80億t(炭素換算量。化石燃料の使用年間64億t、
森林伐採など16億t)。そのうち50~60%が海・森林に吸収されず、大気中に残存。[炭素
循環では、毎年約2100億tのCO2が自然界から排出、約2138億tのCO2が自然界に吸収。
その差分が人為的排出の吸収分]
海洋・極地付近のメタンハイドレート(CH4 海底に積もった有機物。温度・圧力変化に敏感、
1~2℃の変化で急速に崩壊しガスと水に分離)が崩壊すると、温室効果係数でCO2の24倍
のメタンが雪崩的に発生(最悪のシナリオ 日本近海の埋蔵量100兆m3)。
(全国地球温暖化防止活動推進センター JCCCA)
1993 環境基本法
1998 地球温暖化対策推進法
2002 エネルギー政策基本法
2018.7 第5次エネルギー基本計画
菅は2020年に、CO2排出量を2050年までに実質ゼロにする、とした。
2020.12.21 経済産業省、2050年時点での電源構成の「参考値」として、再生可能エネル
ギーで50~60%、原発と火力(化石燃料)合わせて30~40%、CO2を出さない水素・アンモ
ニアによる火力で10%を提案(有識者会議で)―発電部門は国内の温室効果ガス排出の約
4割を占める。
→2019年度の電源構成比(速報値)は、再生可能エネルギー18%、原発6%、火力(化石燃料)76%。
2020.12.25 菅政権、2050年の脱炭素社会に向けた「グリーン成長戦略」発表
核燃料を燃やす「小型炉」「高温ガス炉」の開発も含む!(老朽原発など原発再稼働―延長強行)
2050年をめざす核融合発電計画(2040年代の発電試験開始が計画されている)!
2022年までに宇宙部隊100人規模で発足へ(拠点 空自府中基地)
2021.4.6 超監視国家をもくろむデジタル改革関連法案、衆院本会議で強行可決
→核戦争できる国づくり(憲法改悪)、「核兵器禁止条約」(2021.1.22発効)は否定、そのための、現下のパンデミック利用と「2050年カーボンニュートラル」を許さない!
Ⅳ 予防原則を踏まえた気候変動との闘い
エネルギーのあり方
(日本のエネルギー自給率 12% 資源エネルギー庁2021.3.11資料
一次エネルギー供給での化石燃料依存は、2019年で89%、原子力2%)
省エネルギー 生態系・環境保全 地域自主・自立を支える全国的・世界的協力(現下のパンデミックに抗しつつ)
小水力を含む水力発電、羽根のない風力発電、地熱発電、高温岩体発電等
バイオマス、天然ガス(森林はメタンを吸収)―化石燃料のCO2排出量の割合(石炭100:石油80:天然ガス55)、メタンの温室効果はCO2の23倍であり注意
ヒートポンプ、水素エネルギー(再生可能エネルギーを使って水を電気分解して取り出す等)
二酸化炭素回収貯留(CCS)等
以下の二つの提言を見据える―
{1} 全ての原子力発電の廃止及び自然エネルギーへの全面転換の促進に関する基本法案(骨子案) 〈略称〉原発ゼロ・自然エネルギー基本法案(2018.1.10) より
第三 基本方針
一 運転されている原子力発電所は直ちに停止する。
二 運転を停止している原子力発電所は、今後一切稼働させない。
三 運転を停止した原子力発電所の具体的な廃炉計画を策定する。
四 原子力発電所の新増設は認めない。
五 使用済み核燃料の中間貯蔵及び最終処分に関し、確実かつ安全な抜本的計画を国の責任において策定し、官民あげて実施する。
六 核燃料サイクル事業から撤退し、再処理工場等の施設は廃止する。
七 我が国は、原子力発電事業の輸出を中止し、人類の平和と安全のため、かつての戦争被爆及び原子力発電所重大事故の当事国として、地球上の原子力発電全廃の必要性を世界に向けて発信する。
八 急速に進んでいる省エネルギーをさらに徹底させる。
九 太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等の自然エネルギーを最大限かつ可及的速やかに導入する。自然エネルギーの電力比率目標は、平成42年(2030年)までに50%以上、平成62年(2050年)までに100%とする。
十 地域経済の再生のため、各地域におけるエネルギーの地産地消による分散型エネルギー社会の形成を推進する。
第四 国等の責務
一 国の責務
国は、第二及び第三の基本的な理念と方針に則り、全ての原子力発電の廃止及び自然エネルギーへの全面転換を実現する責務を負う。そのため、次に掲げる法制、財政、税制、金融上の措置その他の措置を講ずる。
1 原子力基本法、原子炉等規制法、エネルギー政策基本法、経済産業省設置法等の改正を行う。
2 原子力発電の円滑な廃止のため、原子力発電施設を保有する電力事業者の企業会計等に関する特別措置を講ずるとともに、廃炉技術者の育成及び廃炉ビジネスの海外展開を支援する。
3 原子力発電関連地域及び関連企業の雇用確保、及び関係自治体の経済財政対策を行う。
4 省エネルギーの徹底のため、全ての建築物の断熱義務化、公共施設の省エネルギー及び自然エネルギー利用の義務化等
5 自然エネルギーへの迅速な転換のため、自然エネルギーによる電気の送電線網への優先的な接続及び受電、農作物生産と発電の両立を図るソーラーシェアリングの促進等
6 分散型エネルギー社会形成のため、エネルギー協同組合の創設及び同組合の設立支援等
二 地方自治体の責務
地方自治体は、国の施策に準じて必要な施策を講ずるとともに、地域の実情に即した施策を策定し、実施する責務を負う。
三 電力事業者の責務
電力事業者は、全ての原子力発電の廃止及び自然エネルギーへの全面転換の促進に自主的に取り組み、国及び地方自治体が講ずる施策の推進に全面的に協力する責務を負う。
[2] Renewable Pathways 脱炭素の日本への自然エネルギー100%戦略 2021年3月 自然エネルギー財団 より(一部省略)
第 1 章 はじめに
「すでに気候変動の影響は顕在化し、社会に甚大な損害を与えており、年々深刻化している。 IPCCの1.5℃特別報告書が警鐘を鳴らすように、すぐにでも気温上昇を1.5℃以下に抑える行動を開始しなければ、人類は気候変動による壊滅的な被害に直面することになる」
「自然エネルギー財団は、2019 年 4 月に「脱炭素社会へのエネルギー戦略の提案―2050 年 CO2 排出 ゼロの日本へ」を発表し、「エネルギー効率化」と「自然エネルギー」を脱炭素戦略の中核に置き、排出ゼロを 実現する戦略として、次の 5 つを提案している。
1. 2030 年までに自然エネルギーで電力の 40~50%を供給
2. 石炭火力発電を 2030 年以前にフェーズアウト
3. 日本から素材産業の新たな脱炭素ビジネスモデルを創出
4. ゼロエミッションビル戦略
5. EV 化とエネルギー効率化による運輸部門の脱炭素化の追求 」
「 研究におけるシナリオ設定は、石炭、原子力に頼ることなく、パリ協定の 1.5℃目標を達成するべく、2030 年で石炭火力、原子力発電を停止し、できる限り自然エネルギーを導入する設定とした。そのうえで、グリーン 水素・電力の輸入、自然エネルギー導入や電化の速度、需要の水準を変えて感度分析した。
分析の結果、いずれのケースでも自然エネルギーがコスト最適化によって大量に導入されていくが、グリーン 水素等を輸入するケース(BPS_Import)が、電力需要、自然エネルギー必要量、コストの点から実現性が高いと評価できた。そのため、自然エネルギー財団の戦略提案は、このケースを前提としている」
第 2 章 2050 年 GHG 排出ネットゼロへの道筋
第 1 節 エネルギー需要の推移と排出量の推移
「2050 年では、すべての部門で、「エネルギーの効率化」と「自然エネルギー転換」が進展し、エネルギー起源の GHG 排出は、ほぼゼロとなる。排出量は、パリ協定が目指す 1.5℃目標に沿うように、2030年には2010 年度比で 45%削減する道筋をとり、2020 年から2050 年までの排出量の総計は 17GtCO2eq となる(図 3-省略)。部門別にみると、家庭部門、業務部門からの排出は電化の展開により、早い段階から削減が進むが、産業部門では高温熱を使用する産業プロセスで、グリーン水素・グリーン合成燃料への転換が2050 年に近くならないと進まないため、最後の段階まで GHG 排出が残る)
資料1 「AI技術の暴発以前における予防原則の適用は果たして可能か」2019.8.22筆者文より
12、AIの国際会議「国際人工知能会議」の2017年会合(8.19~25)で、「自律型ロボット兵器」―自動巡航ドローン兵器や自動走行戦車、自動追尾ミサイル等―の禁止を呼びかける公開書簡に、25か国116名のAI・ロボティスク分野の著名人が署名(「一度開けられたパンドラの箱を元には戻らない」として迅速な対応を求めた)。
日本政府は2019.3.22、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)での自律型致死兵器シス
テム(LAWS)に関する国際会議にあたって「作業文書」を提出した―「日本は、完全自律型
の致死性を有する兵器を開発しないという立場。有意な人間の関与が確保された自律型兵
器システムについては、ヒューマンエラーの減少や、省力化・省人化といった安全保障上の
意義がある」「致死性兵器に用いられる可能性があるといった安易な理由で、自律化技術の
研究・開発の規制は現に慎むべき。ルールの対象範囲は、致死性があり、かつ有意な人間の
関与がない完全自律型兵器とすべき」
3.25~29にスイスで開かれたCCWの会合では、アメリカやロシア等の反対で、規制に向
けた話し合いはまとまらなかった。
二 予防原則
1、リオ第15原則(1992)
「予防的取組方法(precautionary approach)は、環境を保護するため、各国の能力に応じて広く適用されなければならない。深刻な、あるいは不可逆的な危害の脅威のある場合には、完全な科学的確実性の欠如を理由に、環境悪化を防止するための費用対効果の大きな対策を延期してはならない」
2、予防原則に関するウィングスプレッド会議/声明(1998)
「有毒物質の排出と使用、資源の開発、環境の物理的変更は、人間の健康と環境に影響を及ぼす重大な意図しない結果をもたらした」
「既存の環境規制や施策は、特にリスク評価に基づくものは、人間の健康と、より大きなシステムで人間はそのほんの一部である環境を適切に守ることができなかった」
「人間の行為に対し新しい原則を導入する必要がある」「人間の行為が危険を伴うかもしれない…ので、人々は…もっと注意深く進める必要がある」「従って、予防原則(Precautionary Principle)を実施する必要がある。:ある行為が人間の健康あるいは環境への脅威を引き起こす恐れがあるときには、たとえ原因と結果の因果関係が科学的に十分に立証されていなくても、予防的措置(precautionary)がとられなくてはならない」
「証明の責務は市民にではなく、行為を行おうとする者にある」「予防原則を適用する過程は公開され、知らされ、民主的でなくてはならず、影響を受けるかもしれない関連団体を参加させなければならない。また何もしないということも含めて代替案について十分に検討しなくてはならない」
3、「科学と予防原則に関するローウェル声明」(2001.12)(2001.9.20~22、科学と予防原則に関する国際会議に17ヵ国85人以上の科学者が参加)
「我々は1998年の予防原則に関するウィングスプレッド声明を再確認するとともに、この原則の有効な実施にあたって、下記要素が必要であると信じる:
・国連人権宣言にある通り、健康なそして生命を維持する環境に対する個人(および将来の世代)の基本的な権利を支持すること
・被害が起きている、あるいは起ころうとしている信頼できる証拠が存在する時には、たとえその被害の正確な特性や程度が完全には理解されていなくても、早期警告に対する行動を起こすこと
・社会の要求にあった最も安全で実施可能な措置を特定し評価すること
・本質的に危険な行為を行おうとする者に対し、徹底的に調査してリスクを最小にするとともに、独立した検証の下、必要性に合致した最も安全な代替案を選択する責任を負わせること
・全ての関係者と共同体、特にその政策決定により潜在的に影響を受ける人々の参画を拡大する、透明で包括的な意思決定プロセスを採用すること
予防原則の有効な適用には関連科学分野の研究だけでなく、その研究及びその成果に伴
う不確実性を明確にすることが必要である。予防措置の政策決定は一貫して“健全な科学”
でなくてはならない」
「我々は、人間の行為には必ずリスクが伴うと理解している。しかし、より健康的で経済的に持続可能な将来を目指して確実に進みながら生態系と健康への被害を守る科学と政治の完全な可能性を社会が認識していないことを我々は強く主張する」
4、ユネスコ・科学的知識と技術の倫理に関する世界委員会による「予防原則」(2005.3)
「序文 …環境に配慮して生まれた予防原則は、それ以来、はるかに広い範囲を持つ倫理原則に成熟し、政策指針としての予防原則の潜在的な価値を想定すべきである。…」
(以下は、日本学術会議の2012.4.9「提言―放射能対策の新たな一歩を踏み出すために」の文中の<用語の説明>より)
「議論の出発点とし(予防原則)の定義として、「人間の活動が、倫理的に受け入れがたい悪影響を与える可能性があるが、それが不確かなとき、その悪影響を避けるあるいは最小化する行動をとらなければならない。ここで、倫理的に受け入れがたい悪影響とは、命や健康を脅かすあるいは重篤かつ取り返しのつかない、現在または将来の世代間に対して不公平なものとなる、あるいはその影響を受ける人の権利を十分に尊重しないにも関わらず課される人間あるいは環境 への悪影響を指す」を提案している。この提案の中で、悪影響の可能性自体の判断は、科学的分析を前提にするのが望ましいとされている、対策の選択を検討する際には、科学的分析が継続中であることも推奨されている。また、ここでいう不確かさとは、因果関係や、悪影響が及びうる範囲となる場合を想定しているが、それに限定する必要はないとも述べられている。また、この定義における行動とは、悪影響が生じる前にそれを取り除くあるいは最小化することを目指して行われる介入とされており、行動の選択を行う際には、その結果の良い面と悪い面とを配慮と、行動を行った場合と行わない場合の意義についての倫理的評価行い、生じうる悪影響の重篤性に応じたものとなることが望ましく、行動は、一般参加型のプロセスの結果として選択されることが望ましいとされている」
5、『ロボット―AIとヒトの共生にむけて』(平野晋 2017.11 弘文堂)の「Ⅴシンギュラリティ・2045年問題」の「3予防原則とシンギュラリティ」より―「①安全性が証明されるまでは新規な研究開発を停止すべきという考え方-「予防原則」-と、逆に②危険性が証明されるまでは研究開発を続けるべきという考え方-「許可不要な技術開発」―との、2つの思想的な対立が存在する。前者①はヨーロッパに顕著に見かける思想で、後者②はアメリカで見かけることが多い。」
* 「予防原則が提案するところは、ある産業の工程やその汚染物質のリスクについて我々に確証がない時に、我々がそれが安全であることを確信できるまで、我々はその操業を許すべきでない、というものである」(欧州放射線リスク委員会 2010年勧告・第3章科学的原理について、より)
以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔study1173:210701〕
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