大健闘のハンガリー 2020サッカー欧州選手権
- 2021年 7月 3日
- カルチャー
- サッカーハンガリー盛田常夫
ハンガリーは、前回優勝のポルトガル、世界選手権優勝のフランス、強豪ドイツの優勝候補チームが凌ぎ合う「死の組」に入った。戦前の論評によれば、ハンガリーは最下位で、勝ち点も取れないだろうという評価だった。確かに緒戦のポルトガル戦に0-3で敗れた時には「あぁ、やっぱり」と思った人は多い。ところが、次戦のフランス戦を引き分け、最終戦のドイツ戦で勝利すれば決勝トーナメントへ進む可能性が出てきた。しかし、ポルトガルに4-2で勝利したドイツに勝てるとは誰も思わなかっただろう。しかし、最後の望みをかけて、ハンガリーチームは死闘を繰り広げた。
ドイツは引き分けでも決勝トーナメントへ進めるが、ハンガリーは勝利することが絶対条件である。この試合、ハンガリーは立ち上がりの10分過ぎに、右40m付近からシャライ(フライブルグ所属)がゴール前に陣取るサライ・アダム(マインツ所属)へ絶妙なクロスボールを送り、これをサライはヘディングで仕留めた。ワン・ツーパンチのような一瞬の攻撃で、名手ノイアーの左手下を潜ってゴールした。見事な先制である。もちろん、試合は始まったばかりで、これで試合が決まると思った人はいないが、これがドイツの焦りを生んだ。フランスのエムバペとベンゼマの強力フォワードを押さえたハンガリーである。早い時間に同点にする必要があった。しかし、ドイツはボール支配率で圧倒するが、なかなか決定的なチャンスが作れず、前半を終えた。
攻めあぐねていたドイツだが、66分にハンガリーのゴールキーパー・グラーチ(ライプツィッヒ正ゴールキーパー)がハイボールを取り損ね、ボールがゴール前に高く舞い上がった。これをドイツのフォワード、ハヴェルツ(チェルシー)が押し込んで同点になった。何とも後味の悪い失点である。キーパーが目測を誤った失点である。これでハンガリーのファンが一挙に消沈してしまった。「健闘はここまでか」と思った人は多い。
ところが、である。ゲーム再開直後に、ボールがハンガリーの前線におくられ、サライがポストプレーで、小さなロブをペナルティエリアに突進したフィオラに送り、キーパーと交錯しながらヘディングでボールを押し込んだ。ゲーム再開から1分も経たない速攻だった。これでハンガリーファンが狂喜した。まだ勝利の女神はハンガリーを見放していない。このままゲームを終えれば、ドイツがグループリーグで敗戦、ハンガリーが決勝トーナメント進出という番狂わせが起きる。
土壇場の奇跡に希望が見えてきた終盤84分、ドイツがゴール前の密集で攻撃し続ける中、途中出場のゴレツカ(バイエルン・ミュンヘン)がゴールを決めた。ハンガリーの一縷の望みが絶たれた瞬間である。後7ー8分、攻撃を防いでいれば、決勝トーナメントに進めた。その光りが潰えた。
ドイツは辛うじて引き分け、グループ2位(ポルトガルと同率だが、対戦成績で上位)で決勝トーナメントに進むことになった。
ドイツを最後まで苦しめたハンガリーには惜しみない拍手が送られた。惨敗が予想されたFグループで、ハンガリーは2分1敗の成績で2020年欧州選手権は終わった。ハンガリーのチーム力が上向いていることは事実である。エースアタッカーのゾボスライ・ドミニク(ライプツィッヒ)を怪我で欠いた今回の欧州選手権である。治療期間が長引いているが、秋のW杯予選には間に合うだろう。久しぶりのW杯参加の期待が高まった欧州選手権の健闘であった。
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