やはり東京オリ・パラは中止すべきだ 理念も国民の支持も失い、コロナ感染再拡大の懸念も
- 2021年 7月 7日
- 時代をみる
- 岩垂 弘新型コロナウィルス東京オリンピック
あと2週間余に迫った2020東京オリンピック・バラリンピツクはやはり中止すべきだと思う。なぜなら、どう考えても、内外の多くの人に祝福され、円滑に運営され、なおかつ開催国にレガシー(遺産)をもたらすような大会になるとはとても思えないからだ。
2020東京オリ・パラを中止した方がいいのではと考える理由の第一は、その開催理念がいったい何なのか分からなくなってしまったからである。
東京都がどんな狙いで2020オリ・パラを東京に誘致したのか私は知らない。だが、よく知られるように、2013年9月7日にアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたIOC総会で安倍首相(当時)が「世界有数の安全な都市、東京で大会を開けますならば、それは私どもにとってこのうえない名誉となるでありましょう。フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御(コントロール)されています」と、2020オリ・パラを東京に招致したい旨の演説をおこなった。「フクシマ」とは、2011年3月11日の東日本大震災に伴って起きた東京電力福島第1原子力発電所の事故である。
ともあれ、この時のIOC総会で2020オリ・パラの東京開催が決まったことから、以来、東京オリ・パラは「復興五輪」と呼ばれるようになった。「日本政府は、東京オリ・パラまでに東日本大震災被災地の復興を成し遂げ、その復興ぶりを東京大会で世界に向かって誇示したいんだろう」。私は、そう思ってきた。
しかし、東京オリ・パラが近づくにつれて、政府関係者や五輪関係者から「復興五輪」という言葉はあまり聞かれなくなった。
確かに、この10年で被災地の鉄道、道路、防潮堤、港湾などのインフラは復旧した。しかし、事故を起こした福島第1原発について言えば、1~6号機の廃炉作業が完了するのは、東電によれば事故から30年ないし40年後という。また、福島第2原発の1~4号機の廃炉にはこれから先44年かかるという。それに、政府は先ごろ、福島第1原発から排出され続けているトリチウム汚染水の処理に困って海洋放出を決めたが、漁業関係者は反対の姿勢を崩さない。
そればかりでない。福島県では、原発事故で居住地を追われ、今なお故郷に帰れない避難者が少なくない。最近、総務省から発表された2020年国勢調査の速報値によれば、福島第1原発周辺12市町村の人口は計12万4198人。原発事故前の2010年には計20万5900人だったのに比べると、6割にとどまっている。
「フクシマ」は、アンダーコントロールされていない。復興までには、まだかなり時間がかかりそうだ。これでは、2020東京オリ・パラを「復興五輪」とは呼べない。大会の組織委員会関係者も政府関係者も内心、そう思うようになったのではないか。
で、「復興五輪」に代わって登場してきたのが「人類がコロナに打ち勝った証し」だ。これは、安倍前首相が20年3月の主要7カ国(G7)首脳とのテレビ電話会議で「(東京大会は)人類がコロナに打ち勝った証しとして完全な形で実施したい」と、次いで今年2月20日に菅首相が記者団に「人類がコロナとの闘いに打ち勝った証しとして、安全安心の大会を実現したい」と語ったことに由来している。
ところが、こうした大会理念の変更も再度変更せざるをえなかった。その後も、新型コロナウイルスの感染が収束せず、むしろ、感染拡大を繰り返してきたからだ。このため、「コロナに打ち勝てない」菅首相は6月2日に記者団にこう語らざるを得なかった。
「(東京大会は)まさに平和の祭典。一流のアスリートが集まり、スポーツの力を世界に発信する」
要するに、2020東京オリ・バラの理念は「復興」→「コロナ」→「平和」と三転してきたのだ。
「平和の祭典」。素敵な名称だ。だが、自治体なり政府なりが「平和の祭典」の開催を目指すとしたら、それには、日ごろ、世界平和の実現に向けて努力してきたという実績が求められるのではないかと私は考える。そうした実績があってこそ、「平和の祭典」の主催者にふさわしいし、何よりも世界のアスリートに歓迎されるに違いない、と思うからだ。唯一の戦争被爆国の政府でありながら、核兵器禁止条約に参加しない日本政府に「平和の祭典」をお膳立てする資格が果たしてあるだろうか。
中止した方がいいのではと考える第2の理由。それは、日本国民の多数が、この7月に東京オリ・パラを開催すること望んでいないからだ。
今年3月の共同通信の世論調査によれば、東京オリ・パラを「中止するべきだ」が39・2%、「再延期すべきだ」が32・8%、「開催するべきだ」が24・5%。今年5月の朝日新聞の世論調査では、東京オリ・パラについて「中止」43%、「再び延期」40%、「今夏に開催」14%という結果だった。つまり、少し前には、国民の7割から8割が東京オリ・パラの今年7月開催に反対していたのだ。
国民に支持されないオリ・パラなんて、なんとも寂しいし、第一、開催の意味がない。なら、即刻やめるというのが自然の流れというべきだろう。
中止した方がいいのではと考える第3の理由は、新型コロナウイルスの感染が、東京オリ・パラの開催によってさらに拡大するのでは、という懸念だ。
すでに、3度目の緊急事態宣言が6月20日に解除されて以来、東京都内では、感染の拡大が続いている。こういう事態の中で東京オリ・パラを強行すれば、感染はさらに拡大するのではないか、とみる人は少なくない。
東京オリ・パラには、海外から選手約1万5000人と大会関係者約9万人がやってくると言われている。これに日本人観客が加われば五輪に関わる人流は膨大な数になる。これまでの日本政府のコロナ対策は、後手、後手の連続だった。膨れ上がる人流を迎えて、日本政府は新型コロナの爆発的感染を防ぐことができるかどうか、なんとも不安だ。
メディアは、現在欧州各地で行われているサッカー欧州選手権で、観戦者の間で新型コロナウイルス感染者が増加している、と伝えている。日本人として軽視できないニュースだ。
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