本間宗究(本間裕)の「ちきゅうブッタ斬り」(315)
- 2021年 7月 13日
- 評論・紹介・意見
- 本間宗究本間裕金融
1970年代と2020年代との違い
現在、海外で議論されていることは、「1970年代と現在との類似点」であり、実際には、「スタグフレーションの再来懸念」や「貴金属価格の急騰予想」などである。しかし、私自身は、この点について、「大きな注意」が必要だと感じているが、実際のところ、「1970年代に発生したスタグフレーション」というのは、私が名付けた「信用本位制」の初期段階に発生した「金融混乱」であり、一方で、現在は、「信用本位制の崩壊に伴う金融混乱」とも言えるからである。
より詳しく申し上げると、「商品と通貨の時間的な変遷を、具体的な数字でとらえる方法」により、「1971年のニクソンショック以降、きわめて劇的な大変化が発生した状況」が見て取れるのである。具体的には、人類史上、初めて、「通貨と貴金属との関係性が切り離された」という事実により、「1970年代の金融混乱」が引き起こされたわけだが、当時の「金融市場」は、現在とは比較にならない程の「小さな規模」であり、また、「国家の財政」もきわめて健全な状態だったことも理解できるのである。
そして、最も注目すべき出来事は、やはり、「1980年代の初頭に誕生したデリバティブ(金融派生商品)」が、その後、「天文学的な金額」にまで大膨張した事実であり、その結果として発生した「デジタル通貨」の存在である。つまり、現在、必要とされることは、「実物(リアル)商品」と「金融(デジタル)商品」、そして、「実物(リアル)通貨」と「デジタル通貨」との違いを正確に理解することである。
より具体的には、本当の意味での「インフレ(通貨価値の下落)」を理解するためには、現在の「デジタル通貨がリアル商品へ流れ込み始めた事実」を認識する必要性が存在するわけだが、実際には、「金融界のブラックホールに隠されていたデジタル通貨が、徐々に、実体経済のリアル商品にしみ出した状況」のことである。別の言葉では、「2008年前後のGFC(金融大混乱)」、すなわち、私が想定する「金融大地震」以降、「デリバティブのバブル崩壊」を隠蔽するために、世界の主要な中央銀行が、結束して、「超低金利状態の蓋」で「金融界のホーキング放射」という「デジタル通貨の漏れ出し」を防いできた点である。
しかし、現在では、「デジタル通貨の枯渇」により、「紙幣」などの「リアル通貨」の発行を余儀なくされている状況となっており、その結果として、今後は、「国家財政の破綻」が伴う「1991年のソ連や「1923年のドイツ」などのような、本格的な大インフレが世界を襲う展開も想定されるのである。(2021.6.3)
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FRBのリバースレポ
6月3日の「日経新聞」に掲載された「FRBのリバースレポ」に関する記事は、典型的な「大本営発表的なコメント」だったものと感じているが、この理由としては、「リバースレポ」を実施する理由として「市場における資金余剰」が指摘されているからである。つまり、「米国の中央銀行であるFRBは、市場に滞留した資金を回収するためにリバースレオを実施した」とコメントされているが、実際には、「資金繰りに窮したFRBが、国債などを担保にして、短期資金を調達した状況」だったものと考えられるのである。
より具体的には、「約800兆ドル(約880兆円)」にまで大膨張した「FRBのバランスシート」に関して、今までは、「民間部門からの資金借り入れ」により「国債などの買い付け」が実施可能な状況だったのである。しかし、最近では、「資金の調達方法」として、「リバースレポ (逆現先)」という、かつて「日銀が多用した手法」が使われ始めたことも見て取れるのである。
つまり、「保有している国債などを担保にして、短期資金を調達する方法」については、当然のことながら、「金利を支払う必要性」が存在し、現在の「日銀」のように、「マイナス金利の状況下では、リバースレポの実施が難しい状況」とも言えるのである。別の言葉では、「金利が上昇したために、リバースレポの実施が可能になった状況」でもあるが、一方では、「資金繰りのひっ迫度合いが、急速に増加した状態」とも想定できるのである。
より具体的には、「1991年のソ連」で発生した「長期国債の発行が難しくなり、短期国債の発行に頼り始めた段階」と同様の状況のようにも思われるが、当時の「ソ連」は、「わずか数か月という期間で、紙幣の大量増刷を始めざるを得なかった」という事態に陥ったのである。つまり、現在の「世界的な金融情勢」としては、「世界全体が、1923年のドイツ、あるいは、1991年のソ連のような状態に陥った段階」とも思われるが、不思議な点としては、「当時と同様に、誰も、将来に危機意識を持っていない状態」となっている事態とも言えるようである。
別の言葉では、「アウシュビッツの恩赦妄想」と同様に、「どれほど無謀な金融政策が実施されようとも、決して、過去の大インフレは再来しない」というような「根拠なき楽観論」に支配されている状況とも思われるが、「歴史の残酷さ」については、数多くの証拠が存在するとともに、往々にして、「人々の楽観論」と反対の方向に向かうことも、過去の歴史が示すとおりである。(2021.6.4)
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世界的なボトルネック・インフレ
6月3日の「日経新聞」に、「物流渋滞によるインフレの加速懸念」を危惧する記事が掲載されたが、この点には、より大きな秘密が隠されているものと感じている。つまり、「ペントアップ・デマンド(繰り越し需要)」が、その後、「劇場の火事」のような「ボトルネック・インフレ」を引き起こすメカニズムに関して、今回の「コロナ・ショック」は、単なるきっかけにすぎず、その背後には、「デジタル通貨とリアル通貨」、そして、「デジタル商品とリアル商品」という、より巨大な「秘密の仕組み」が働いている可能性である。
より具体的には、「需要(デマンド)」が発生する必要条件として、「マネー(お金)の存在」と「人々の興味と関心」が指摘できることになるが、現在の状況としては、「史上最大規模のデジタル通貨」が「小さな規模のリアル商品」へ向かい始めた状況とも考えられるのである。つまり、「1990年代後半」から始まった「デリバティブの大膨張」により、「2008年前後」までは、「大量のデリバティブ(デジタル商品)」と同時に「大量のデジタル通貨」が造り出された状況だったのである。
そして、その後は、「QE(量的緩和)」という「民間資金を借りて国債を買い付け、超低金利状態を作り出す政策」が取られたわけだが、現在では、「日米欧の中央銀行」において、「資金的なひっ迫状態」が発生しているものと考えられるのである。つまり、「米国のリバースレポや社債の売却」からも明らかなように、「現在の米国では、国債の買い付け資金を、どのようにして調達するのか?」という大問題が発生している可能性のことである。
そのために、これから予想される展開としては、史上最大規模の「デマンド・プル(需要の増加)が引き起こすインフレ」と「コスト・プッシュ(費用の増加)が引き起こすインフレ」が重なり合う状況が考えられるのである。つまり、「大量の紙幣増刷」という「リアル通貨の大膨張」が「デマンド・プルのインフレ」を引き起こすものの、一方で、「リアル商品の物流」については、今回の「コロナ・ショック」からも明らかなように、「時間的な遅れの問題」が存在することも理解できるのである。
別の言葉では、過去20年あまりの「金融界のブラックホール」の内部では、「デジタル通貨とデジタル商品との間で、瞬間的な取引と決済が可能な状況」だったが、今後は、「リアル商品とリアル通貨との間で、費用と時間がかかる取引や決済が主流になる状況」も想定されるわけであり、このことが、「金融界」のみならず「実体経済」における「白血病」を意味しているものと感じている。(2021.6.5)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
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〔opinion11100:210713〕
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