中根誠『プレス・コードの影』の書評を書きました。
- 2021年 7月 20日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子
占領期のGHQの検閲については、関心があり、これまでも、調べたり、書いたりしてきました。このブログにもありますように、ある研究会の中根さんレポートも聞かせてもらいました。今回、『歌壇』に1頁の書評を書きました。「うた新聞」(8月号)にも短い新刊紹介を書くことになりました。
2021年2月28日
「諜報研究会」は初めてかも~占領期の短歌雑誌検閲(1)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2021/02/post-dd6eed.html
20217
『歌壇』2021年7月号より
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中根誠『プレスコードの影』
現代の言論統制への警鐘 内野光子
本書は、メリーランド大学プランゲ文庫に拠った奥泉栄三郎編『占領軍検閲雑誌目録・解題』(雄松堂書店 一九八二年)により国立国会図書館のマイクロフィルムを利用して、GHQによる短歌雑誌の検閲の実態を解明しようとした論考である。対象は、短歌雑誌一一一誌、三三一冊。発行地で分けられた検閲局別に、雑誌のタイトルごとにまとめている。検閲局に提出された短歌雑誌のゲラ刷、事後検閲移行後は出版後の誌面を「プレスコード」に従ってチェックした痕跡がわかる文書を一部画像で示す。検閲のために英訳された短歌・散文を起こし、英語で記された違反処分の理由・コメント部分の和訳も付す。文書は不鮮明なタイプ印刷や手書きもあり、判読が困難な個所も多いだけに、作業には、苦労も多かったと思う。検閲局が、各雑誌の編集方針をレフトからライト、その間に、センター、コンサーバティブ、リベラル、ラディカルといった仕訳をしていたこともわかる。
著者の分析によれば、『人民短歌』と右翼系とされる『不二』の違反処分の量は後者が多く、前者では、最初の検閲で違反とされたものが上司により「OK」となった例が多い。左翼系への検閲は寛容であったことを示しているとする。
戦前の内務省による検閲と異なり、GHQによる出版物の検閲は、基本的には痕跡を残さない手法がとられていた。天皇賛美、広島・長崎の原爆、占領軍・米兵に言及する短歌・散文、検閲自体に触れる作品や記事にはとくに厳しかったが、当時は、削除されていることに気づかなかった読者も多かったはずである。
戦前も占領下も、時の権力による検閲ではあったが、GHQによる検閲を体験した歌人たちは、決して多くを語らなかっただけに、本書の意義は大きい。表現の自由が保障されているはずの現代でも、すでに行政や教育・研究、マス・メディアなどへの監視は強化され、国民、表現者への言論統制は、巧妙かつ深化している。その危機に対して、自粛への道を歩まないためにも署名や声明などに甘んじず、一人一人が何をなすべきかを問う警鐘の一書としたい。
初出:「内野光子のブログ」2021.7.20より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2021/07/post-633868.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion11125:210720〕
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