「日本政府は核禁条約に参加せよ」の大合唱 被爆76年の「8・6広島」
- 2021年 8月 9日
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広島は8月6日、「被爆76年」を迎えた。新型コロナウイルス感染症が全国的に拡大する中、広島市では、この日を中心に、市当局や平和団体よってさまざまな記念の催しが行われたが、各団体の催しがこぞって表明したのは「日本政府は核兵器禁止条約に参加せよ」という政府への要請・要求だった。
一刻も早く条約締結国に
核兵器禁 止条約は2017年7月、国連の会議で、国連加盟国193カ国のうち122カ国が賛成して採択された。核兵器そのものを非合法化する初めての国際条約で、核兵器の開発、実験、生産、製造、保有、貯蔵、移譲、使用及び使用の威嚇を禁止するのみならず、これらの禁止行為の奨励や誘導を禁止するという国際政治史上画期的な条約である。
条約に署名した国のうち50カ国が批准すれば、その90日後に条約が発効することになっていたが、批准国が50に達したので、今年の1月21に発効。その後、批准国が増え、現在の批准国は55カ国だ。
これに対し、日本では、今年1月21日の国会で、菅首相が「わが国の立場に照らし、条約に署名する考えはない」と名言。「わが国の立場」とは、日本政府が、米国の「核の傘」に依存する安全保障政策をとっていることを指す、とみられている。
恒例の広島市主催の平和記念式典は6日午前8時から、いつもの平和記念公園内に特設された式典会場で行われた。昨年は新型コロナウイルス感染拡大を防ぐ観点から、式典会場内の参列者席を例年の1割以下の880席にしぼったが、今年も同様の席数となった。各国大使、被爆者代表らが参列した。
式典での平和宣言の中で、松井一実市長は、こう述べた。
「核軍縮議論の停滞により、核兵器を巡る世界情勢が混迷の様相を呈する中で、各国の為政者に強く求めたいことがあります。それは、他国を脅すのではなく思いやり、長期的な友好関係を作り上げることが、自国の利益につながるという人類の経験を理解し、核により相手を威嚇し、自分を守る発想から、対話を通じた信頼関係をもとに安全を保障し合う発想へと転換するということです。そのためにも、被爆地を訪れ、被爆の実相を深く理解していただいた上で、核兵器不拡散条約に義務づけられた核軍縮を誠実に履行するとともに、核兵器禁止条約を有効に機能させるための議論に加わっていただきたい」
「日本政府には、被爆者の思いを誠実に受け止めて、一刻も早く核兵器禁止条約の締約国となるとともに、これから開催される第1回締約国会議に参加し、各国の信頼回復と核兵器に頼らない安全保障への道筋を描ける環境を生み出すなど、核保有国と非核保有国の橋渡し役をしっかりと果たしていただきたい」
これに先つ8月3日にオンラインで開かれた原水爆禁止日本協議会(原水協)の原水爆禁止2021年世界大会国際会議では、主催者声明が発表されたが、そこには、こうあった。
「核兵器を使わせず、その完全廃絶へと前進するためには、国際的な世論の発展とともに、核保有国や核依存国の存在を欠かせることが欠かせません。核兵器禁止条約が成立して以降、NATO(北大西洋条約機構)諸国の中にも、禁止条約支持の世論の広がりを背景にした積極的な変化が生まれています。禁止条約参加を支持する圧倒的な世論を築き、核固執の政治から脱却するときです」
「とりわけ、核兵器の破滅的な結末を、身をもって知る被爆国・日本の動向は大きな意味をもちます。日本政府が、国民世論に応えて禁止条約を支持し、『核抑止力』への依存から脱却するならば、核兵器廃絶への世界の流れを大きく後押しすることになるでしょう」
一方、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)は被爆76周年原水爆禁止世界大会・広島大会を5、6の両日、オンラインで開催したが、大会に提出された基調は、こう述べていた。
「日本政府は、核兵器国のみならず、多くの非核保有国からも支持を得られていないと、核兵器禁止条約そのものに反対してきました。また、『核兵器禁止条約がめざす、核兵器廃絶実現という究極的な目標は共有している』としながらも、朝鮮民主主義人民共和国の核・ミサイル開発は、日本及び国際社会の平和と安定に対する重大かつ差し迫った脅威であり、それに対応するには、日米同盟下で核兵器を保有する米国の抑止力を維持することが必要だとしています」
「日本政府の『核兵器禁止条約は安全保障の観点が踏まえられていない』という主張は、これまでの被爆者の思い・行動とは相容れないものです。私たちは『核抑止力』という欺瞞を許さず、日本政府に『核の傘』からの離脱を求めるとともに、条約への署名・批准を引き続き強く迫らなければなりません」
条約に一言も触れなかった菅首相あいさつ
ところで、平和記念式典では毎年、首相のあいさつがあり、今年は菅首相が登壇した。首相はあいさつ中で核軍縮に触れたが、その部分は、予定された原稿ではこうなっていた。
「広島及び長崎への原爆投下から75年を迎えた昨年、私の総理就任から間もなく開催された国連総会の場で、『ヒロシマ、ナガサキが繰り返されてはならない。この決意を胸に、日本は非核三原則を堅持しつつ、核兵器のない世界の実現に向けて力を尽くします』と世界に発信しました。我が国は、核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり、『核兵器のない世界』の実現に向けた努力を着実に積み重ねていくことが重要です。近年の国際的な安全保障環境は厳しく、核軍縮の進め方をめぐっては、各国の立場に隔たりがあります。このような状況の下で核軍縮を進めていくためには、様々な立場の国々の間を橋渡ししながら、現実的な取組を粘り強く進めていく必要があります。
特に、国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石である核兵器不拡散条約(NPT)体制の維持・強化が必要です。日本政府としては、次回NPT運用検討会議において意義ある成果を収めるべく、各国が共に取り組むことのできる共通の基盤となり得る具体的措置を見出す努力を、核軍縮に関する『賢人会議』の議論等の成果も活用しながら、引き続き粘り強く続けてまいります」
ところが、「世界の実現に向けて力を尽くします』と世界に発信しました。我が国は、核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり、『核兵器のない世界』の実現に向けた努力を着実に積み重ねていくことが重要です。近年の国際的な安全保障環境は厳しく、」の部分を読み飛ばしてしまい、式典後の記者会見で陳謝するという、なんともお粗末な一幕もあったが、要するに、首相は核兵器禁止条約に一言も言及しなかったのである。
しかも、首相は、式典後の記者会見で「核兵器禁止条約に署名する考えはない」と語った。
首相あいさつは、すぐ平和団体側からの反発を引き起こした。式典直後に開かれた、原水禁の被爆76周年原水爆禁止世界大会・広島大会閉会行事で冒頭のあいさつに立った金子哲夫・原水禁共同議長は「平和記念式典では多くの人が核兵器禁止条約に触れていたが、唯一、菅総理だけはこの条約に一言もなかった。そんなことでは、原爆慰霊碑の前に立つ資格はない」と声を荒げた。
被爆者団体、野党からも「不勉強かつ不誠実。菅首相の基本的姿勢が表れた」「あまりにも不誠実で、情けない」といった声が上がった。
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