米NBC視聴者激減 今後の五輪混迷
- 2021年 9月 2日
- 評論・紹介・意見
- NBCオリンピックテレビ放送隅井孝雄
アメリカの3大テレビネットワークの一つNBCネットワークが五輪放送権の独占を続け、五輪に支配的な影響力を発揮していることは今では知らない人はいない。
IOCnは「無観客でも、NBCの放送がありさえすればいい」として、緊急事態宣言下でも開催に固執した。その判断を菅首相は歓迎し、開催一筋に邁進したのだった。
強気一筋だったNBC
NBCのジェフ・シェルCEOは開会前次のように強気の姿勢を語っていた。「前回2016年のリオ五輪でジカ熱感染症の問題があり人々は不安を抱えていた。だが開会式が始まるとすべての人々がそのことを忘れて17日間の五輪を楽しんだ。今回の東京五輪も開幕すれば同じようになる」(6/14ロサンゼルス・タイムズ)
同じ日、NBCの東京五輪の広告収入が12億5000万ドル(約1370億円)に達し、記録を更新すると見込んでの発言だった。NBCによるとプライムタイムの30秒CM料はリオ五輪の15%増、12万ドル(約132万円)に達した。
ところが世界の中で最も視聴人口が高いはずのアメリカ国内でNBCの視聴率が激減し最大スポンサーとして威力をふるっていたテレビ会社NBCに衝撃を与える結果となった。
米国視聴者42%減
NBCは放送権として、IOC収入の75%を負担しているスポンサーだ(22~32年冬夏6大会の放送権料、120億ドル日本円換算約1兆3200億円)。IOCの五輪収入にも影響を与えかねない。東京五輪でNBCが負担し、IOCに支払っている放送権料は12億ドル(約1,300億円)と推定される。
ところが、東京五輪の米プライムタイムの視聴者数は1550万人にとどまった。2016年のリオデジャネイロ五輪との比較では、42%の減少だった。開会式の視聴者数も1700万人弱、過去33年間で最低だった。
NBCは広告主との間で、補償策について、五輪中の8月上旬から交渉を始めていると米メディアが報じ始めた(米ブルームバーグ通信)。
プライムタイムの体操女子のシモーン・バイル選手の棄権や、人気種目である陸上400メートルリレーの予選敗退など盛り上がりを欠いた、とNBCは説明している。またその他諸のテニスのココ・ガウラ(米)、ジョン・ラーム(米)、クレー射撃のアンバー・ヒルなどなど人気アスリートが数多く欠席したしたことも挙げられるだろう。
また直前に感染増加で無観客になったことや、日本とアメリカの時差(東部時間で13時間,西部時間で16時間、いずれも夏時間)の影響もあり、プライムタイムに録画の放送が多かったことも、少なからぬ影響をもたらしたようだ。
ストリーミング視聴に流れる
視聴者がテレビ画面を離れ、「ピーコック」というストリーミングサービスで視聴する人々が増大したことも原因の一つに挙げられている。この会社は2020年4月、NBCの親会社「NBCユニバーサル」が発足させた無料動画配信だ。NBCは地上波テレビ、ケーブルテレビ、に加えて、ピーコックストリーミングも合わせて過去最長の7000時間放送をおこなった。地上波テレビの番組視聴者がじりじりと減少しつつあることに備えてのことだとみられる。若い世代がTikTokなどのソーシャル・メディアを通じて東京五輪を追ったことも伝えられている。また他のスポーツなどでも視聴率は落ち込み始めているとも報じられている。
オリンピックも北京(2022冬)、パリ(2024夏)、ミラノ/コルティナ・ダンペッツオ(2026冬)、ロサンゼルス(2028夏)までは決まっている。しかしそれから先、果たして順調に開かれるのかどうか、放送権を巨額負担しているNBCがテレビ放送続けることができるのかどうか、コロナの余波を考えると、オリンピックをめぐる混迷がどうなるのか、予想がつかない事態だ。
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