くらしを見つめる会つーしん NO.216から 2021年8月発行
- 2021年 9月 13日
- 交流の広場
- 村山起久子
ミクロとマクロについて考える 夏休み推薦図書
コロナ禍の2年間、目に見えないウイルスやら抗体やらのミクロの世界と、世界的パンデミックや格差などのマクロの世界に目を向けざるを得ませんでした。とは言え、目には見えないものに目を向けるのって大変なことです。その手助けになりそうな本と映画を紹介したいと思います。もし学生の頃にこんな本と映画を教材にして学んだら、目からうろこが落ち、視野が広がるかも?と、勝手に「夏休み推薦図書」に認定させていただきます。
まずはミクロの世界から。『ライフサイエンス』日経BP吉森保(大阪大学教授・生命科学者)著
「科学が発展しすぎた時代に、まどわされず、自分で考えるための基礎教養」という本の帯の言葉に惹かれて購入しました。抗体、免疫、DNA、病気、老化などという人体のミクロの世界の営みを超わかりやすく講義してくれます。重要なところは太字にラインまで引いてあり、途中で読者が置いてきぼりになっていないかフィードバックしてから次のステップに話を進めるという親切さ。難しいはずの生命科学の世界が見えて?きます。一番の推しは、第一章「科学的思考を身につける」から始まる点です。科学とは、仮説と検証を重ねて真実に近づける営みで、教科書に載っていることも真理っぽい仮説であるという押さえから始まります。だから、「断定する人は科学的に怪しい」し、ニュースを聞いてそれは「検証のない相関関係の話か因果関係のはっきりした話か考える」クセがつくし、「比べる対照群がないものはエセ科学」かもと考えられる。帯の言葉に納得の展開。マクロな視野でミクロを考えていきます。
次は歴史、社会、経済の流れや変化といったマクロで見えにくい世界を見せてくれた映画。
『21世紀の資本』原作・監督・出演トマ・ピケティ 2014年、世界的ベストセラーとなった経済書「21世紀の資本」の著者ピケティ自らが制作した映画です。728ページの分厚さの著書は敬遠しましたが、103分の映画ということでレンタルして鑑賞。実はピケティさん、大の映画好きらしく、経済の負のスパイラル300年の歴史を「二都物語」「プライドと偏見」「レ・ミゼラブル」「怒りの葡萄」「ウォール街」「エリジウム」…といった映画を使って時代と社会の説明をしてくれます。さらに世界の名だたる経済学者の話や、絵画、写真、アニメ、モノポリゲームの心理実験等も総動員して、膨らみ続ける資本主義社会、格差社会、差別問題の真相をわかりやすくひも解いてくれます。れいわの山本太郎さんもネット動画で「この映画を学校の必須教材に!」と紹介していましたが、教材としてはネタの宝庫だと思います。
私も最近は、ネット検索の断片的な情報で満足してしまうことが多いのですが、時間も手間もかかるけれど、本や映画は想いを拡げてくれる気がします。今回の推薦図書は、難解な内容のはずだけど、語り口の分かりやすさで途中離脱なく完走でき、しかも様々な景色を見せてくれました。オススメです。 (アマノ・若)
…中略…(発行者の要望により)
編集後記
福島原発事故後、放射能汚染が止められない福島原発を「アンダーコントロール」と偽ることで誘致したオリンピック。その運営に関わる人たちによる差別的な発言や、過去の犯罪的暴行を得意げに語っていたことなどが世界中に知れ渡って、日本の人権意識の低さも改めて浮き彫りになりました。差別発言の当事者だけでなく周りの誰も問題を指摘せず、止められなかったこと、そうした人たちを重用している「電通」が政治と組み、マスコミを牛耳って表舞台を取り仕切っていることも、日本社会の問題だと思います。差別発言と言えば、安倍政権になってから、政権中枢がヘイトスピーチを後押しするような発言も相次ぎ、本屋にヘイト本が平積みされ売れています。そんな状況を作ってきた安倍元総理は、森友・加計・桜を見る会問題、公文書改竄など、日本の屋台骨を壊しまくった挙句、そっくり菅総理に引き継いでいます。検察が正常に機能していれば、安倍元総理はとっくに刑事責任も問われているはずで、少なくとも政治責任を取って早い時期に辞任すべきでした。
安倍・菅政権がこんなに長く続いてしまっている大きな要因はやはり「マスコミ」なんだと、今回のオリンピックでも痛感しました。大手新聞各社がそろってスポンサーになるという前代未聞の今回の五輪。おざなりな批判しかできないまま、始まったら連日どの番組もず~~っと五輪中継。NHKなど酷いものです。元官房長官の河村健夫さんから出た「五輪がなければ国民の不満が政権に向けられ選挙が厳しくなる」との発言は、まさに、五輪報道によって政権の失態・無能さを隠せるということ。コロナ感染が拡大し危機的状況になっても、メダルや感動物語を報じ続けるTVや新聞。人権の問題も数人のクビを切ってオシマイではありません。忖度マスメディアと、人々の無関心・あきらめのツケはこれから、重くのしかかってくることでしょう。政権交代させ、積み重なった膿を出してまともな政治へ舵を切りたいものです。(きくこ)
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