ドイツ通信第178号 速報:連邦議会選挙 SPD勝利するも 曲がり角に立つドイツ
- 2021年 9月 28日
- 評論・紹介・意見
- T・K生
連邦議会選挙直後のドイツの現状です。
今日、9月27日(月)早朝の各TV局でも投票結果に関して流動的な報道でしたから、今後の連立政権の見通しを確定するのは困難です。しかし、その中に読み取れるいくつかの要素を整理してみます。
私たちは、日曜日の朝9時半に自転車で投票に行ってきました。コロナの影響で郵便投票をする比率が高いといわれていましたが、秋の好天もあったのでしょう、「今までにない出足だ」と投票所で出会った人は話しかけてきました。確かにそうですが、もう一つ見逃せないのは、長い、混沌とした選挙戦でした。3人の首相候補者からだれを選ぶのかははっきりしていたとはいえ、政権の組み合わせは読み切れないできました。そこでの投票ですから、各自が確信する一票をと、とにかく早く投票を済ませいろんな思念から解放されたかったのだと思われます。これでとにかく肩の荷が下りたというところでしょう。それから18時の開票を待つことになります。
SPDの選挙勝利ですが、約1.5ポイントの僅少差でCDU/CSUが二番手につけていますから、ここが連立政権交渉でのネックになってくるのはその通りです。両党が、当然にも「政権へ権利がある!」と主張するからです。
そこで、どういう連立が考えられるのかということになります。
1.SPD主導のCDU、そしてFDPあるいは緑の党との連立
2.SPD、緑の党、FDPの信号連立(赤―青―黄)
3.CDU, 緑の党、FDP のジャマイカ連立
編集部注:SPD=赤、CDU/CSU=黒、FDP=黄、緑の党=緑
CDUの狙いは3.になりますが、緑の党がこの連立に参加することになれば、FFF等若い年齢層の反発を食らうことは必至で、党の将来は広範な大衆的な政治運動から乖離していくことが予想されます。それを承知でジャマイカ連立(「黒緑黄」)に踏み込むのか。
FDPは選挙戦からCDUとの連立を希望し、SPDとの連立は排除してきましたから、両党にとってみれば、最終的に緑の党との交渉次第になりますが、CDU内部に第二党で政権を主張する傾向に反対する部分が既に名乗り出てきていますから、候補者の資格問題を含め党内対立が激化することが考えられます。
SPDには緑の党と左翼党を含む連立可能性は、左翼党が5%を突破できなかったことにより消え、残るはそれに代わって2.のFDPとの信号連立です。ここでFDPが拒否すれば、残る可能性は1.となります。
しかし、SPD主導にしろCDUとの大連立への批判が今回の選挙で示されたことにより現実性は薄く、ただ一つの可能性として残されることになります。
こう考えると連立政権のイニシアチブをとるのは、緑の党とFDPということになります。従来のように、第一党が各党に呼びかけて連立工作に入るという伝統は過去のこととなったのが、今回の選挙の第一の特徴といっていいでしょう。
誰の下で連立政権が組まれていくかを、そのパートナーが決定権を握ることになります。そういう意味では、政治の多様性と民主主義(原理)というものの本質を描き出したことになります。
現実的にもそうです。SPDが第一党といえど得票率は約26%です。緑の党約15%、FDP約11%ですから、後者二党の得票率を合計すれば、第一党のSPD と同率になり、第二党のCDUを凌ぐことになります。この中では、従来の政治用語であった、「コックとボーイ」の関係は成立しなくなります。同等の権利と目線で政治内容が議論される必要が出てきます。
そしてそれが、今回の選挙の第二の特徴といえるかと思います。三党の連立に見られるのは社会関係の多様性ということであり、社会各層によって政治への対応と要求に様々な傾向が認められ、それが各政党への得票率になって表れてきていると思います。そして、そこでの政治議論です。メルケル政権16年間に失われてきたものです。
ここで一つ付け加えると、緑の党とFDPは中間層を代表し、この中間層が政権のイニシアチブを握ることになると、表現していいかと思います。テーマとしては、環境保全か個人の自由権か、に要約できるでしょうか。
二大政党時代には、SPDもCDUも「中間」路線を強調していました。中間層を獲得するというのが路線問題でした。しかし今回みられるのは、自立した個人のインディヴィジュアルな中間層が、二つの政党に代表され、その分二つの国民政党の20%台への得票率を 強制し、歴史的な伝統にクギを刺したことになります。
この傾向が、今後の一つの政治の流れになっていくことは間違いないだろうと思われます。
ドイツの政治が活性化していくのか、政党間の単なる色の組み合わせに終始するのか。色は時間とともにはげていきますが、政治は社会の中に根を張り巡らせることができます。この曲がり角にドイツは立っていると思います。
とりあえず選挙直後の第一報です。 ( つづく)
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