岸田政権の現状認識と経済政策について
- 2021年 10月 26日
- 評論・紹介・意見
- 岡本磐男
今日の岸田政権は就任後まだわずかしかたたないにもかかわらず、経済政策等についてずいぶん明確な発言をしているなとここ数日間におけるメディアでの発言を聴いて思っていたが、10月14日における衆議院解散時における発言を吟味して、ようやくその意味が分ってきた。すなわち、同氏は所得の循環を是正し所得の再配分を適正に行うことによって安倍政権から菅政権によって遂行されたアベノミクスに伴う格差の拡大を是正する一億総中流社会をうち立てようとするものである。だがこのような対策が早急に実現するかといえば、それは極めて困難といわざるをえない。岸田氏はこれを新資本主義と呼んでいるが、私見では、むしろこれは新社会主義と呼ぶにふさわしい概念であるとさえ思われてくる。以下これを困難とみられる理由を論じていきたい。
岸田氏は一体現代の日本資本主義において階級関係はいかに貫徹されているかについて十分に理解されているかという問題がある。日本社会において目下支配層と目される人たちは、資本家または事業者または大株主と呼ばれる人達である。さらに株式会社の発達によって目立つようになった経営者層の人達や経営者に代わって会社の事務をとり行うサラリーマン層やホワイト・カラーと呼ばれる人たちである。さらに中小企業の経営者および大地主等も支配層に含まれるであろう。これに対して被支配層と呼ばれる人達は労働現場で働くような労働者階級の人達であり、この人たちにおいても10数年前からは正規労働者と非正規労働者と二分されて、前者の個人所得は後者の個人所得の2倍程度となったとみられている。また被支配層における正規労働者・非正規労働者の所得の分化のみならず、男子労働者と女子労働者との間の所得の分化等々についても指摘されている。
一般的にいえば支配層の人達の所得は被支配層の人達の所得よりも圧倒的に多く、5倍から10倍あるいはそれ以上の場合すら存在しうるであろう。このような所得格差は、これまでの10年間の安倍・菅政権の過程においては、いっそう顕著になったとみられている。それは多分、アベノミクスの失敗によって、日本経済がデフレから脱却できなかったことに関係するのであろう。その点はともかく、日本経済がこのように格差拡大から脱却できないもう一方の根源的理由は、資本主義が生産の社会的性格と所有の私的性格という基本矛盾をかかえこんでいるためである。すなわち、私的所有制というものが資本主義の特殊性であるために、支配層の人達は自から獲得した利益(利潤または基本的には剰余価値と呼ばれる)を手放そうとはしないのである。
繰り返すことになるが、この私的所有を資本主義の砦としてしがみつこうとする支配階級が容易には自らの利権を他人に手放そうとはしないだろう。その一つの証拠としては、今日では大企業の内部留保資金(固定資金の減価償却資金および余剰利益資金等)が、400兆円からそれ以上もの規模で銀行に預託されていると聞くが、企業経営者の方から貧困者のために役立ててほしいという話は聞いたことはないという点に示されているであろう。今日ではコロナ禍をはじめとする災害によって、失業者をはじめとする仕事をもたない多くの貧困者が生存しているが、これらの人々は経営者によって救援されるのではなく、政府の借金によって救済されるのみである。
また岸田氏は一億総中流社会の樹立を主張しながら、その財源については触れることがない。ここでも同じことをいわざるをえないが、政府の赤字国債発行による借金に依存せざるを得ないのである。だがこれはきわめて甘い考え方である。日本政府が借金に依存する財政支出を続けていけば、いつかは政府財政は破綻せざるをえず、日本国家自身も破綻せざるをえないからである。
最後に指摘しておかねばならぬ点は、岸田氏を含めて多くの政治家が日本政府の民主主義の危機を叫ぶようになってきた。だが民主主義とはあくまで政治的概念である。今日民主主義の危機が叫ばれるのは、実はこれを支える経済的システムの平等化が進展しなくなったためであろう。それ故私は岸田氏のように経済システムの平等化を主張する理念には賛同したい。ただしその経済システムの平等化は資本主義のシステムによってのみ実現されるわけではない。別の経済システムによっても達成されるのである。但し今日の世界では、資本主義のシステムとこれに立脚する政治システムとしての民主主義のみを正しいものとして、政治運動を行う地域が顕在化するようになった。
例えば香港の民主化運動などがその一例である。だが私はこの運動は誤っているとみている。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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