あまりに無内容、しかも厚顔 ー自民党の政策パンフレットを読んでみた
- 2021年 10月 30日
- 時代をみる
- 田畑光永自民党選挙
明日は衆院選の投票日となったので、自民党の「令和3年 政策パンフレット」という小冊子を読んでみた。縦横ともに21センチの正方形、42頁。表紙は岸田総裁の上半身写真に「新しい時代を皆さんとともに」という文字が配されている。郵便受けに入っていたものだから、おそらく全戸に配られたのであろう。
今回の選挙は与野党間に大きな政策上の争点があって、それなら民意で決着をつけようとなったものではない。コロナ禍への対応に追われた政府与党が衆議院を解散するチャンスをつかめないまま任期切れが迫り、ぎりぎりのところで解散した「とにかく解散」である。
しかし、たまたまであるにしても政府与党の自民党の総裁任期も終了時期であったために、選挙直前に党首選挙がおこなわれて新総裁が誕生し、連動して新内閣が誕生しての新政権デビュー選挙となった。
****数字は語らず****
その新政権は国民に何を訴えているのか?
まず、下の一覧表を見ていただきたい(といってもつまらないものなので、目を走らせていただくだけで結構)。
11月、3回目(ワクチンの話)、人生100年時代(一般論)、5か年加速化対策(防災)、約10年後(太陽光パネルの廃棄問題)、2030年、46%削減、2兆円基金(環境)、3歳から5歳(幼児教育)、50万人(介護問題)、2025年2兆円、2030年5兆円(農産物輸出目標)、5年間(森林整備)、3つの視点(ヒューマン、デジタル、グリーン)、2020年代(東日本大震災関連)、2020年、1日平均13憶6600万回(サイバー攻撃)、令和4年度から(防衛力)、10兆円規模、2022年度まで(人材力)
なんだこれは、と思われるだろうが、前記の自民党の政策パンフレット全42頁に登場した数字をとりあえず全部拾い出したものである。カッコ内はそれがどの分野の説明に使われたかを示している。
政策パンフレットにしては数字自体が著しく少ない。しかも、お分かりのように、大部分は何かを説明するための既存の数字か、将来に向かう数字でもごく大枠を示すもので、新内閣の新政策を具体的に解説する数字は1つもない。
いくら短期間で作ったからといっても、岸田氏は総裁選に立候補した以上、かねてからそれなりの抱負、理念を持ち、それを実現するための政策を温めていたはずではなかったのか。総裁選では「成長から分配へ」とか、「新しい資本主義」とか、経済社会のこれまでとは違う姿を自らの中にすでに思い描いているようなことを口走っていたではないか。
総理総裁の座に上っての最初の選挙というのに、なぜその新しい経済社会の姿を国民の前に具体的に示さないのか。とくに「成長」とか「分配」とかの用語はきちんとした数字の裏付けなしには何の意味も持たないことは誰でも知っている道理である。
冊子の7頁。02.「『新しい資本主義』で分厚い中間層を再構築する。『全世代の安心感』が日本の活力だ」と大きな文字が並び、その下にやや小さい活字がこう続く。「経済には『成長』と『分配』の両面が必要です。『成長』に向けた『大胆な危機管理投資・成長投資』とともに、『分配』によって所得を増やし、『消費マインド』を改善します。日本経済を、新たな成長軌道に乗せていきます。」
では聞きたい。「分厚い中間層を再構築する」とはどういう意味か。中間層とは年間所得の上限、下限どの程度を指すのか。分厚くするとは、現状(国民の何割)をどの程度(何割)に増やすのか。その方法は?これらに答えがなければ、引用した文章はなんの意味も持たない。
「『成長』に向けた『大胆な危機管理投資・成長投資』とともに『分配』によって所得を増やし、『消費マインド』を改善します。」というのも不思議な文章である。「大胆な危機管理投資」とはいったい何を意味するのか。自然災害、国際緊張、あるいは財政破綻、感染症蔓延と国家的危機はさまざま起こりうるが、その管理のための投資を「大胆に」とはいったい何をどうしようというのか。
「分配によって所得を増やし、・・・」というからには、成長の果実を待ってそれを分配するのではなくて、現在の所得分配構造を変えるということであるはずだが、いったいどの層の所得をどのくらい削って、どの層の所得をどのくらい増やすのか。
****ご用心!ここだけはハッキリ****
これらにきちんとした回答なしに、ただ耳障りのよさそうな言葉を並べるのは、国民の隙をついて票を盗み取るに等しい。しかもこうした意味不明のままの文章の横に、この冊子はうっかりすると読み落としそうな形で、危険千万なことを得意の説明抜きでしのびこませている。
8頁の最後に「財政の単年度主義の弊害を是正する」という見出しの下に以下の言葉が並ぶ。「企業に長期的視点を求めることと同様、政府も、科学技術の振興、インフラ整備や経済安全保障などの国家課題に長期的・計画的に取り組みます。」
例によって「財政の単年度主義の弊害」とは何なのか、説明がない。続く文章を読むと、その弊害のためにさまざまな「国家課題に長期的、計画的に」取り組めないので、その弊害を是正する、としごくもっともなことを言っているだけと受け取られそうである。
実際はなにが問題なのか。国の予算は原則として単年度主義である。至極、当然のことである。そこには別に単年度主義の弊害などというものは存在しない。長期的に考えなければならないものは、長期的な計画の基礎の上に各年度の予算をのせていけばいいだけの話である。
それをこの冊子はあたかも単年度主義にはだれもが認める「弊害」が存在するかような書き方でそれを是正すると言う。いったい自民党の政治家が言う単年度主義の弊害とは何か。巨額の財政赤字を抱える日本では当然、支出はきびしく査定される。当然のことである。これが彼らの言う「弊害」である。だから大きな長期計画を立てて、政治優先でそれをいったん決めてしまえば、翌年度以降の予算編成では無条件でその支出は認められるようにしよう、というのが、彼らの言う「弊害」の是正である。そこに「企業の長期的視点」を引き合いに出すのは笑止千万な猿知恵にすぎない。
初年度、次年度あたりは支出をなるべく少なくして、長期計画を認めさせ、後になるほど財政負担を大きくする。しかし、いったん決めた計画は後から動かせない既定経費として財政を縛る。財政赤字がどうなるかなど先のことは知ったことではない。
岸田新首相はこんな自分たちの都合しか考えない議員の横暴に手を貸そうというのである。核兵器禁止条約に参加せよ、金融所得課税を強化せよ、企業の巨額内部留保をなんとか国政に動かせ、非正規雇用を減らすか、少なくとも正規雇用との賃金格差をなくせ、こうした国民の声には横を向いて答えず、議員たちの身勝手で大局を見ない要求だけはまず通す。そういう政治がまだ続くのか。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4865:211030〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。