日本人は立憲民主党ではなく、自民党を選んだ
- 2021年 11月 30日
- 評論・紹介・意見
- 民主主義自民党選挙阿部治平
――八ヶ岳山麓から(351)――
今回の衆議院議員選挙では、日本の有権者は政権交代を望まず、自民党政権の継続を選んだ。見聞きした限り、立憲民主党敗北の原因は共産党と組んだからだとする見方が有力のようである。
立憲民主党代表だった枝野幸男氏は、立党当時革新リベラル層が枝野氏らに抱いた期待に相反して、著書の中で自分の政治的立場を「保守本流」とし、自民党歴代内閣のいくつかの政権を高く評価し、自民党リベラル派との親和性を強調した。
ところがこの数年国会をみると、 立憲民主党は自民党と対決する姿勢を貫き、党所属議員らは政権批判を声高に叫び、総選挙がちかづくと右派労組の連合に批判されながらも共産党・社民党・れいわ新選組などと野党共闘を結んだ。さらに共産党とは「限定的な閣外からの協力」の関係になるとした。
「閣外協力」は有権者の多くにとってわかりにくいものだった。たとえば、もし立憲民主党政権によって敵基地攻撃能力の整備、防衛予算の限度をGDPの2%までとするような軍備増強法案や予算案が提出されたら、共産党はどう「閣外協力」するのだろうか。まさか頭ごなしにこれを「人殺し予算」として拒否することはできまい。
同じことだが、核兵器禁止条約の批准についても、立憲民主党は核抑止力が必要だという立場だが、「閣外協力」の相手の共産党は核の廃絶、条約の即時批准を主張している。選挙協定では「批准を目指す」ことで合意したが、政権をとったら具体的にどうするつもりなのか。
その上、共産党の「限定的な閣外からの協力」は有権者に立憲民主党の左傾化を強く印象付けるものだった。枝野立憲民主党は総選挙に際して、いわばイデオロギーと実際行動とがまた裂き状態になったのである。
立憲民主党が右側に政策的な手を伸ばさず、共産党と組んだことが敗因だとする見方からすれば、この「閣外協力」は立憲民主党の致命傷だったと思う。
保守本流を真剣に貫く気があるなら、枝野氏は共産党などの左派と結ぶのではなく、むしろ立憲民主党と自民党安倍派の間に位置する人々の支持を得る政策と行動があってしかるべきだった。共産党が候補者をおろした小選挙区では、共産党系90%の支持票があったからある程度得票をのばせたが、比例区で激減したのは立憲民主党の右側に連なる保守層の支持を失ったからであろう。
戦後の政治をふりかえると、日本の有権者は大まかには自民党政権だけを選び続けた。その第一の理由は、自民党の対米一辺倒の外交・安全保障政策に慣れ親しんだからだと思う。
日米安保条約によって日本は誇りを捨て、この70年間アメリカに国家主権のかなめを割き、目下の同盟者としての地位に甘んじて生きてきた。だから今回の総選挙でも有権者のかなりの部分は、台湾有事の際、アメリカとその配下の自衛隊が尖閣を守ってくれると期待して自公政権の継続を支持したのである。
ところが、いまやアメリカは衰弱し、中国の勃興を抑えることはできず、米中の軍事的対立は緊張の度を加えている。皮肉にも日本の貿易相手国の第一は中国である。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で日本の対世界貿易額は10%減となったが、日本の対中国貿易は、輸出が22.1%で前年比3.0ポイント上昇、輸入は25.8%で2.3ポイント上昇し過去最高になった。
中国市場を失えば日本経済は破綻する。対米従属外交はすでに中国に見透かされている。いまや、アメリカに追随していれば何とかなるという状況ではない。日本には独自の安全保障政策・対中国外交が求められている。
自民党には日米軍事一体化、対中国抑止力の強化というお定まりの政策がある。だが、野党共闘は東シナ海の緊張に際して有権者に安心感を与えるような、説得力のある安全保障政策を提起できなかった。共産党は選挙に当たって日米安保条約の破棄を棚上げした。立憲民主党は「日米同盟重視」政策のほか、米中対立から距離を置くような日本独自の外交政策など考えもしなかった。
枝野氏は「私は、短期的な外交・安全政策について、政権を競い合う主要政党間における中心的な対立軸にすべきでないと考える」というのだから、そもそも独自の政策によって自民党に対峙する気がないのである。これでは外交・防衛政策で、右であれ左であれ有権者をひきつけることはできない。
日本の有権者のかなりの部分は、忘れっぽいうえに、権力者の失政を許しがちである。
総選挙でモリ・カケ・サクラが争点にならなかったことはその証拠だが、そのほか産業・経済・社会政策でも歴代政権は失政を重ねてきたのに、世論はそれをきびしく非難しない。
小泉政権以来、臨時工・非正規雇用は全労働者の4割という悲惨な状態になった。先進国中日本の賃金だけが低下し、1人あたりGDPの順位は韓国の後塵を拝している。
1990年代、世界GDPにおける日本の割合は15%程度であった。「失われた30年」のあいだに現在の6%にまで落ち込んだ。バブル破裂の直前1989年に、日本企業は時価総額ランキングで世界のトップ50社に32社入っていたが、いまやトヨタ自動車1社が残るだけだ。
技術力では、2007年には4位であったものが、2020年には韓国・香港・中国が日本の上位にランクされ、日本は前年から1位落とし16位に落ちた(Global Innovation Index」2020年版)。
IT革命への参入がひどく遅れた。このためコロナ禍のなか、医療だの在宅勤務だのの社会基盤のIT化がきわめて不十分であることが明らかとなった。地球温暖化対策でもCOP26で日本は2年連続でNGOから化石賞を受ける次第となった。
ここで、新型コロナ対策としてPCR検査を縮小した愚劣な政策を徹底的に批判し、立憲民主党独自の産業・科学技術政策を示すことができれば、中間的な人々を引き付けられたのだが、そうはできなかった。
また日本人は民主主義の基本原則に対して、あまり敏感ではない。
たとえば権力者がマスメディアに圧力をかけても、批判の声が高く上がることはない。2014年自民党は「報道の公平中立ならびに公正の確保」という名目で各テレビ局に自民党に有利な放送を暗に求めた。16年には高市早苗総務相は、総務省にはテレビ電波の停止権限があると発言してテレビ局を脅しつけた。
この効果はてきめん。わたしは自民党総裁選以来、複数のテレビ局のプログラムを点検し、ニュース・ショーを毎日見たが、そこで衆院選に割かれた時間は、自民党総裁選に割いた時間の半分以下だった。
立憲民主党は、ここでも民主主義の危機を訴えれば、穏やかな保守派の幾分かでも引き付けることができたのに、その声は小さかった。
今後、立憲民主党が枝野流に保守本流を標榜して政権交代を実現させようとすれば、共産党はもちろん革新リベラル派とも絶縁しなければならない。そうするためには地方組織を地道に充実する努力をしなければならない。
そのようにして国会でそこそこの力を獲得したとき、あなたがたは第二自民党といわれないだけの社会・経済政策、外交安全政策、教育・文化政策を掲げることができるだろうか。そして枝野氏がいう「豊かさ」から「支え合い」「分かち合い」の社会への展望が幾分かでも開けるだろうか。
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