三度「世界記憶遺産」への登録を目指す 原爆文学の保全を願う広島の市民団体
- 2021年 12月 27日
- 評論・紹介・意見
- 世界記憶遺産原爆文学岩垂 弘
広島の市民団体「広島文学資料保全の会」(土屋時子代表)と広島市は、被爆作家3人の日記や手帳などを、「広島の被爆作家による原爆文学資料」として国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」(世界記憶遺産)に登録するよう文部科学省へ共同申請していたが、国内審査で選に漏れたことが分かった。同保全の会と広島市は2015年にも同様の申請をし、やはり国内審査で落選しており、再度の落選に関係者の落胆も大きい。でも、同保全の会は「次回の国内審査が2023年度にあるので、そこでの登録を目指す」と意気軒髙だ。
「世界の記憶」とは、ユネスコが1992年から始めた事業で、世界的に重要な記録物件への認識を高め、保存やアクセスを促進することを目的としている。この事業を代表するものが、人類史上特に重要な記録物件を国際的に登録する制度で、1995年から行われている。登録を決定するのはユネスコ執行委員会だが、審査は2年に1回、1カ国からの申請は2件以内とされている。ユネスコに申請をするのは文科省内にある日本ユネスコ国内委員会である。
保全の会と広島市が共同申請したのは5点。2015年に申請した∇原爆詩人・峠三吉(1917~53年)の「ちちをかえせ ははをかえせ」で知られる「原爆詩集」の草稿∇詩人・栗原貞子(1913~2005年)が代表作「生ましめんかな」を書いた創作ノート∇小説「夏の花」の作者として知られる作家・原民喜(1905~51)が被爆直後の状況を記録した手帳、の3点に、峠が原爆投下前後の広島の状況を克明に書きつづった日記とメモを追加した。いずれも、遺族や関係団体から寄贈、寄託され、現在、原爆資料館が保管している。
これまでに日本から世界記憶遺産に登録された物件は、「山本作兵衛炭坑記録画・記録文書」、「舞鶴への生還―1945~1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録―」など7件。今回は、文科省管轄の日本ユネスコ国内委員会が11月中に2件の国際登録候補を選ぶのではと言われていた。
保全の会によると、今回の審査には11件の申請があり、次の2件が国際登録候補に選ばれたという。
① 浄土宗大本山増上寺三大蔵(申請者:浄土宗、大本山増上寺)国指定重要文化財
② 智証大師円珍関係文書典籍(申請者:円城寺、東京国立博物館)全て国宝
この結果について、保全の会の土屋会長は「世界の記憶遺産の審査基準は、資料の ①真正性②世界的な価値ですが、私どもは、原爆文学資料こそ被爆から76年を経て、体験の継承が難しくなっていく中で、 国や時代を超えて伝えていくべき貴重な資料であり、世界の記憶遺産に相応しいと確信していた。今回の結果は、申請者のみならず、広島市民にとっても、国内外の多くの賛同人の方々にとっても遺憾と言わざるを得ません」と語る。
さらに、土屋会長は、これまでは公表されていた申請件数、申請内容、申請者、申請結果の委員長所見などが、今回から全て非公開になったことを問題視し、「国内選定においても、審査プロセスの透明性、公平化は世界記憶遺産制度をさらに発展させる上で必要不可欠な課題です」と話す。
保全の会としては、次回の申請にあたっては、峠三吉、栗原貞子、原民喜の作品に広島市出身の被爆作家・大田洋子の作品も加えたい、としている。
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