天皇制の行方(3)憲法との矛盾、整理してみると
- 2022年 1月 23日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子天皇制
今年の「歌会始」
私のしたことが。18日の「歌会始」のNHK中継を見逃してしまった。カレンダーにも、日記帳にも書いておいたのに。その頃、何をやっていたのだろう。加齢現象とするには悔しい。18日のNHK、夜7時のニュースでは、めずらしく、関係の報道はなかった。何しろ、オミクロン株の急激な感染拡大状況とその対策が、時間の大半を占め、トンガの火山爆発関連、春闘関係のニュースが続いた。他のニュースと一緒に、あのなんとも奇妙な歌の披講を聞かずに済んだのは可としなければならないだろう。
「皇位継承問題」国会に投げられたが
皇位継承問題についても、18日の7時のニュースではスルーしていた。1月の有識者会議の報告を受けた岸田首相が両院議長に投げ、その報告の説明を受けた各党代表の対応は、9時からのニュースウオッチナインでの報道となった。
当ブログの「天皇制の行方」(1)(2)でも述べたように、有識者会議の報告は、次の2点に尽きる。
①女子皇族が結婚後も皇族としての身分を保持する
②旧宮家(1947年廃止され、11宮家51人が皇籍離脱)の男系男子を養子として皇族復帰する
の二案であった。「安定的な皇位継承策」は先送りとなったが、NHKは、世論調査を実施、①案賛成65%反対18%、②案蚕糸41%反対37%という結果であった。各党の反応はまちまちで、自民党の茂木敏充幹事長は「バランスの取れた報告だった。皇位継承の問題と切り離して皇族数を確保することが喫緊の課題」と表明している。「皇族数の確保」って、山からくだって街に出没する猪やクマを「確保」[捕獲」するかのような扱いではないか。とりあえず、①の女性皇族の「確保」を目指すらしい。②に至っては、75年前に廃止された宮家の男系男子を養子に迎えよ、とは、何を考えているのかわからず、時代錯誤もはなはだしい。戦前に「万世一系」などと言われた天皇家ではあるが、そもそも歴代天皇が確定したのは大正時代の末期、1926年3月、宮内省に「帝室制度審議会」のもと「臨時御歴代史実考査委員会」が立ち上げられ、同年10月には、皇統譜から神功皇后が排除されたという経緯がある。明治、大正天皇は、皇后の実子ではなかった。そんな風に継承されてきた皇位である。
「憲法にてらして女性・女系天皇を認める」という共産党の対応
そして、私が、あらためて驚いたのは、共産党の対応だった。「しんぶん赤旗」の電子版(2022年1月19日)によれば、小池晃書記局長は「日本国憲法では、第1条で、天皇について『日本国の象徴』『日本国民統合の象徴』と規定している。この憲法の規定に照らせば、多様な性を持つ人々によって構成されている日本国民の統合の『象徴』である天皇を、男性に限定する合理的理由はどこにもない。女性天皇を認めることは、日本国憲法の条項と精神に照らして合理性を持つと考える。女系天皇も同じ理由から認められるべきだというのが、日本共産党としての基本的な立場だ」と述べている。
たしかに、平成からの天皇代替わり直後の「しんぶん赤旗」(2019年6月4日)の「天皇の制度と日本共産党の立場 志位委員長に聞く」(聞き手 小木曽陽司・赤旗編集局長)のインタビューで、
志位委員長は「私たちは、憲法にてらして女性・女系天皇を認めることに賛成です」とし、つぎのように、続けている。
「日本国民統合の象徴」とは、天皇が積極的・能動的に国民を「統合する」ということではありません。もしかりにそのよう な権能を天皇に認めたら、政治的権能を有しないという憲法の制限条項と矛盾するという問題が生まれてくるでしょう。「日本国民統合の象徴」という憲法の規定は、さまざまな性、さまざまな思想、さまざまな民族など、多様な人々によって、まとまりをなしている日本国民を、天皇があくまで受動的に象徴すると理解されるべきだと考えます。
理解しがたい説明、ますます窮地に
「日本国民を、天皇があくまでも受動的に象徴する」というが、象徴に受動的、能動的もないように思うし、天皇が勝手に「国民統合の象徴」になってもらっても困る、というより、「統合される国民」と「象徴となる天皇」とう存在を認めること自体が「法の下の平等」に反するのではないか。同時に、憲法に天皇の「世襲」条項がある以上、その不平等な枠内で、男女平等をうたって、女性、女系天皇を認めるということは、本末転倒ではないのか。
志位委員長自身も、「皇室の内部での男女平等という見地からこの問題に接近すると、『もともと世襲という平等原則の枠外にある天皇の制度のなかに、男女平等の原則を持ち込むこと自体がおかしい』という批判も生まれるでしょう」と自覚しながら「私は、そういう接近でなく、国民のなかでの両性の平等、ジェンダー平等の発展という角度から接近することが重要ではないかと考えています」と言って、天皇を男性に限定している現状をただすことは、国民のなかでの男女平等の発展に寄与するから、ということらしい。
さらに、公明党の山口代表の衆院解散直後の演説(2021年10月14日)で、共産党が「天皇制は憲法違反、廃止すべきだ」と言っているなどとの攻撃をされたのに対して、共産党の小池晃書記局長は10月15日、記者会見で、「わが党の綱領には、『天皇の制度は憲法上の制度』と明記しており、『憲法違反』であるわけがない。しかも、天皇の条項を含め、『現行憲法の前文をふくむ全条項をまもる』としている」と指摘、「二重の意味で誤りであり、荒唐無稽で完全なデマ発言だ」と厳しく批判した。
また、昨年末には『中央公論』(2022年1月)において、山口代表が、共産党は「法の下の平等、国民主権と天皇制とは両立しないから」「天皇制は憲法違反の存在」と主張していると指摘したことに対して、『しんぶん赤旗』には、次のような記事があったらしいが、電子版では見当たらなかった。記事は、山口代表が、共産党綱領の「一人の個人が世襲で『国民統合』の象徴となるという現制度は、民主主義および人間の平等の原則と両立するものではなく」の部分を取り上げて、「法の下の平等原則と世襲の天皇の制度が両立しない」と曲解しているという(「公明代表、共産党攻撃を正当化」『しんぶん赤旗』2021年12月28日)。
その根拠としてつぎのような一文が続く。「そもそも憲法14条は『国民』の『法の下の平等』を保障したものであって、天皇は象徴としての地位にあるかぎり、その憲法上の地位は『国民』とは区別されたものであり、『法の下の平等』を享有しません。このことは広く共有された論点です」と。さらに、綱領の「人間の平等の原則」は「自然人である人間がすべて平等であるということであり、現在の憲法の枠内で天皇を除外した『国民の平等』とは異なります。」というのである。
天皇は自然人ではない?!
「え?天皇は自然人ではない」と私には読めたのである。そうだとしたらいったい何なのだろう。人間天皇と地位とを区別せよとでもいうのだろうか。天皇の象徴としての地位は「国民」とは区別されたものであり、「法の下の平等」は享有しないというならば、何をいまさら「女性天皇、女系天皇」に賛成などというのだろう。基本にたちかえれば、天皇制を「天皇の制度」と呼び変えたところで、「国民主権」と「天皇の制度」とは両立しないのは、当然のことではではないのか、と私は考える。ただ、宮中祭祀と神道との関係に触れないまま、創価学会を母体とする公明党が言うことか。「おまいう」の部類かもしれない。
また、先の綱領の続きでは「一人の個人が世襲で『国民統合』の象徴となるという現制度は、民主主義および人間の平等の原則と両立するものではなく、国民主権の原則の首尾一貫した展開のためには、民主共和制の政治体制の実現をはかるべきだとの立場に立つ。天皇の制度は憲法上の制度であり、その存廃は、将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべきものである。」と宣言しているわけで、少なくとも、「国民主権の原則の首尾一貫した展開のため」に努力をすべきはずなのに、共産党は、目の前の、ともすれば、情緒的で移り気な国民の動向を気にするばかりで、現憲法内の矛盾を、「矛盾」として認めることをなぜそれほど拒むのだろう。言を弄して、矛盾を矛盾として認めないことを助長するような解釈や弁明を繰り返している。それでいて、支持者を増やすばかりか、減っているのが現実である。
いま、天皇家が断絶して、天皇制が消滅したからといって、困るという国民がどれほどいるのか、とくに、若年層にあっては、なおさらのことであろう。何が何でも天皇制を残したい人たちというのは、どこかで利用してきた、利用したいと考えているからではないか。
そもそも、共産党が、2004年の綱領改定のとき、「君主制の廃止」を綱領から削除したのはなぜか。前述の志位委員長のインタビューでは、「日本国憲法の天皇条項をより分析的に吟味した結果」だとし、改訂前は、戦後の天皇の制度について「ブルジョア君主制の一種」という規定づけをしていたが、主権という点では、日本国憲法に明記されている通り、日本という国は、国民主権の国であって、君主制の国とはいえないことから、民主主義革命が実行すべき課題として「君主制の廃止」を削除した、という主旨のことを話している。現憲法施行後、半世紀以上も経っていたのに、「より分析的に吟味した結果」というのも、にわかに信じがたい。
かつての、2010年、鳩山由紀夫首相の「沖縄の普天間基地移転、県外を断念」表明の折の「学べば学ぶほど」の言を思い出してしまうのだが。
https://www.youtube.com/watch?v=h7md9o_4_SE
初出:「内野光子のブログ」2022.1.22より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2022/01/post-445670.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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