岡口基一判事の弾劾裁判・初回期日は3月2日 ー 罷免の判決をさせてはならない
- 2022年 2月 14日
- 評論・紹介・意見
- 司法制度澤藤統一郎
(2022年2月13日)
仙台高裁の岡口基一判事(55)が、国会に設けられている裁判官弾劾裁判所(裁判長・船田元)に罷免訴追されたのが昨年(21年)の6月。その第1回公判期日が3月2日に指定され、召喚状が送付された。
弾劾裁判所は衆参両院の議員7人ずつ計14人の「裁判員」で構成され、3分の2以上の賛成で罷免される。罷免以外の処分はなく、仮に罷免判決となれば不服申し立ての手続はない。罷免の効果として、岡口判事は法曹資格を失う。弁護士としての登録もできない。
報道によれば、罷免訴追は、2012年に盗撮事件で罰金刑を受けた大阪地裁の判事補以来で9人目(10件目)となった。そのうち過去7人が弾劾裁判で罷免判決を受けているという。また、初公判では人定質問や訴追状朗読などの手続きが行われ、2回目以降の期日は未定だが、判決は今国会中に言い渡されると言われている。
法廷は公開である。傍聴手続は以下のとおり。
○事 件 名 罷免訴追事件(令和3年(訴)第1号)
○開 廷 日 時 令和4年3月2日(水)午後1時30分
○場 所 裁判官弾劾裁判所(参議院第二別館南棟9階)
○傍 聴 席 数 19席
○申込み方法等 2月24日(木)の正午までにメール又ははがきで申し込まれた方を対象に抽せん。
メールで申し込まれる方はこちらから
https://www.dangai.go.jp/info/boucho.html
はがきで申し込まれる方は、住所、氏名、電話番号を明記の上
郵便番号 100-0014
東京都千代田区永田町一丁目11-16参議院第二別館内
裁判官弾劾裁判所事務局総務課宛てに申し込みを
私は、昨年8月にこの件についての記事を当ブログに掲載した。目を通していただけたらありがたい。
弾劾裁判所は、岡口基一裁判官を罷免してはならない。
(2021年8月28日)
http://article9.jp/wordpress/?p=17458
「不当な訴追から岡口基一裁判官を守る会」が作られ、罷免に反対する共同声明への賛同者を募集し集約している。
https://okaguchi.net/
https://okaguchi.net/?page_id=93
岡口基一裁判官の罷免に反対する共同声明
本年(2021年)6月16日、仙台高等裁判所判事である岡口基一氏が、裁判官訴追委員会により裁判官弾劾裁判所に罷免訴追された。訴追状によれば、都合13件にわたる訴追事由が挙げられているところ、いずれも職務と関係しない私生活上の行状であり、その全てがインターネット上での書き込み及び取材や記者会見での発言という表現行為を問題とする訴追となっている。
訴追事由13件のうち10件は、殺人事件被害者遺族に関するものであり、その中には遺族に対してなされたものもあり、内容的あるいは表現的に不適切なものもないわけではなく、この点同判事にも反省すべき点があるのかもしれない。しかしながら、弾劾裁判による罷免は、裁判官の職を解くのみならず退職金不支給、法曹資格の剥奪という極めて厳しい効果をもたらす懲罰であり、裁判官の独立の観点から、軽々に罷免処分がなされてはならない。重大な刑事犯罪により明らかに法曹として不適任な者に対してなされてきた従前の罷免の案件とは異なり、本件には刑事犯罪に該当する行為はなく、行為そのものも全て職務と関係しない私的な表現行為であって、従前の罷免案件に比べ明らかに異質である。このような行為に対する罷免は過度な懲罰であり、岡口氏個人としての人権上も極めて問題であるばかりか、裁判官の独立の観点から憂慮すべき事態である。また、本件が先例となることにより、裁判官の表現行為その他私生活上の行状に対する萎縮効果も極めて大きい。本件行為に不適切性があるとするなら、話し合いや直接の謝罪等で解決されるべきであり、罷免とすることは相当ではない。
私たちは、裁判官弾劾裁判所に対し、従前の案件との均衡や弾劾裁判所による罷免の重大性等を十分考慮の上、罷免しないとする判決をされるよう要請する。
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現在、元裁判官(21人)と、弁護士(985人)、および「裁判所職員、司法書士、その他の士業、司法修習生」が賛同者として名を連ね、コメントを寄せている。
まず私のコメント
澤藤統一郎 司法の独立の核心は、個々の裁判官の独立にある。司法行政の統制に服することなく市民的自由を意識的に行使しようという裁判官は貴重な存在である。最高裁にも政権にもおもねることなくもの言う裁判官の存在も貴重である。その貴重な裁判官を訴追し罷免することは、司法の独立の核心を揺るがすことであり、政治権力による司法部に対する統制を許すことにもなる。けっして罷免の判決をさせてはならない。
そして、元裁判官の何人かのコメントをご紹介したい。
井戸謙一
弾劾裁判による罷免は、比例原則に違反します。更に他の裁判官は、表現活動で枠を踏み越えると強烈なサンクションが待っていると学習すれば、今以上に、内に閉じこもることになるでしょう。裁判所全体に与える悪影響は図り知れません。
森野俊彦
「私たちの主張」にもあるとおり、岡口氏の言動中には不適切なものもあるが、これに対して死刑ともいうべき「弾劾罷免」に処することは、到底納得し難く、それでなくとも社会に対して発言しない裁判官をますます萎縮させることになるから、百害あって一利なしというべきである。
山田徹
岡口君ほど,法律関係の最新の情勢をフォローし,調べた上で自ら考え,臆さずに発信してくれる現役の裁判官はいない。だからこそ今回の件では言い過ぎたところがあるかもしれないが,裁判官としての能力や資質は、明らかに人並み以上である。彼を罷免することなど,法曹界だけでなく社会にとって大きな損失であるし,戒告処分で終わったはずのことである。たくさん物を言ったからといって,そのごく一部分だけをとらえて,これも表現の自由を体現している白ブリーフ写真などと適宜リンクさせるなどして,出る杭は打つかのごとく,自由に物を言える雰囲気を,国家が奪おうとするのであれば,ヒラメ裁判官の養殖こそが優先されることにもなり,貴重な情報に市民が触れることもできなくなり,これこそ表現の不自由展を国が主宰しているようなものだ。訴追委員会や弾劾裁判所を構成する国会議員は,そういったことをわかっているのか。
仲戸川隆人
裁判官弾劾法2条2号は,「その他職務の内外を問わず,裁判官としての威信を『著しく』失うべき非行があったとき」を弾劾による罷免の事由と規定している。弾劾による裁判官の罷免は,裁判官を失職させるばかりか,法曹資格を5年以上の長期にわたって喪失させるもので,その法律効果が極めて重大な制裁であるから,その法律要件である同号の「裁判官としての威信を『著しく』失うべき非行」の解釈適用にあたっては,『著しく』を厳密に解釈し,過去に弾劾裁判で罷免された事案の様に,刑事罰に該当する行為や明確な違法行為に匹敵する行為に限定して適用すべきものである。そうすると,本件で,仮に,訴追状記載の13の各事由が認められたとしても,また,これらを総合して評価をしたとしても,同号の「裁判官としての威信を『著しく』失うべき非行」に該当すると判断することはできない。万一,本件で岡口基一裁判官を罷免する判決がなされた場合,同号の構成要件を幅広く拡張して解釈して適用する悪しき先例となるから,裁判官の表現行為にとどまらず,裁判官の身分保障,裁判の独立,裁判官の市民的自由に対して計り知れない深刻な影響を与えると考える。
下澤悦夫
1 岡口基一裁判官が、2015年11月12日発生の強盗殺人、強盗強姦未遂刑事事件及び犬の返還請求民事事件に関して、インターネット上で発言した行為は、いずれも憲法が保障する表現の自由に基づいて裁判官に許された行為である。
2 したがって、岡口基一裁判官の前記表現行為は、裁判官として、裁判官弾劾法第2条第1号所定の職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠ったときに該当せず、また、同条第2号所定の裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったときに該当しない。
3 裁判官弾劾裁判所が岡口基一裁判官に対して、前記刑事事件及び民事事件に関してインターネット上で発言したことを理由に罷免の裁判をすることは違法かつ不当である。
なお、裁判官弾劾裁判所裁判員等名簿は以下のとおり。
裁判長 船田 元(衆・自民)
第一代理裁判長 松山 政司(参・自民)
第二代理裁判長 階 猛(衆・立民)
衆議院選出裁判員
山本 有二(自民)
稲田 朋美(自民)
山下 貴司(自民)
杉本 和巳(維新)
北側 一雄(公明)
参議院選出裁判員
有村 治子(自民)
野上 浩太郎(自民)
鉢呂 吉雄(立憲)
古賀 之士(立憲)
安江 伸夫(公明)
片山 大介(維新)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.2.13より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=18550
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion11756:220214〕
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