「菅直人新首相、民主支持のV字型回復に成功か―反小沢人事が奏功」「組閣・党役員人事の大勢固める」
- 2010年 6月 6日
- 時代をみる
- 瀬戸栄一
枝野幸男民主党幹事長、仙石由人内閣官房長官―。4日に新首相に指名された菅直人民主党代表が7、8両日に正式決定する菅政権の柱である。いずれも2日に辞任した小沢一郎前幹事長の「全盛期」には想像できなかったアンチ小沢の有力議員たちの登用だ。
菅新首相は6日夜にはやはり小沢氏の意向で廃止されていた民主党政策調査会を復活させ、政調会長に非小沢議員のひとり、玄葉光一郎衆院財務金融委員長(46)の起用を固めた。同時に「事業仕分け」作業で仙石、枝野両氏を助けて不振の鳩山前政権に唯一の光明をもたらした蓮舫・参院議員(42)を枝野氏の後任の行政刷新担当相に内定した。
菅氏が務めた財務相の後任には野田佳彦・財務副大臣を昇格させ、普天間飛行場移設問題を抱える岡田克也外相と北沢俊美防衛相、社会保障関係の難問を多く抱える長妻昭・厚生労働相、ダム建設計画の中止や高速道路料金引き下げ問題で小沢氏と対立する前原誠司国土交通相、連立政権の与党である亀井静香金融・郵政改革担当相ら計11閣僚の再任を内定した。
再任閣僚はこのほか、原口一博総務相、千葉景子法相、川端達夫文部科学相、直嶋正行経済産業相、小沢鋭仁環境相、中井洽国家公安委員長である。小沢氏に近い赤松広隆農水相は口蹄疫感染拡大の「責任は免れない」として、再任を辞退しており交代させる方針だ。
▽親小沢議員にも配慮
党内に約150人のシンパを擁する小沢前幹事長は、鳩山由紀夫前首相の「刺し違え辞任」「抱き合い心中」に虚を突かれる形で辞任したものの、菅新首相との会談を拒否するなど不満と不機嫌の固まりのようになっている。もし小沢氏に近い議員をすべて要職からはずした場合、菅政権への報復やサボタージュさえ起きかねない。
そこで、これまで小沢氏の信頼が厚かった輿石東・参院議員会長はすんなり留任させ、近づく参院選に集中させることにした。輿石氏自身が7月参院選の改選組であり、鳩山内閣の支持率低落のあおりで「当選危うし」の危機感を抱いているため、6日朝のNHK番組では早速、菅新首相に忠誠を誓う姿勢に変わった。
さらに小沢側近の中では国民的好感度の高い細野剛志副幹事長を幹事長代行に格上げ処遇した。それでも最も側近度の高い山岡賢次国対委員長は更迭し、後任に4日の代表選で菅直人氏の対立候補となり、小沢グループからも票を集めた樽床伸二氏を充てるなどの配慮をした。山岡氏についても単にクビにするのではなく、党副代表に任命。菅新代表を本部長とする選挙対策本部の本部長代理に石井一前選対委員長を据えた。
▽菅に期待が57・6%に
こうした一連の人事と鳩山首相―小沢幹事長のダブル辞任は民主党への支持を一転、再上昇させた。民主党が「善戦」しそうな風も吹き始めた。
6月4、5日に共同通信が行った世論調査では、まだ組閣前とはいえ、菅新首相への「期待」は57・6%に跳ね上がった。鳩山内閣の最後の内閣支持率19・1%からの、まさにV字型上昇である。その反映として民主党の政党支持率は前回(5月29、30日)の20・5%から急上昇し36・1%にジャンプした。前回調査で21・9%と民主党をやや上回った自民党は逆に20・8%と微減した。
比例代表の投票先も民主は前回19・9%→今回32・6%と10ポイント以上増え、自民党は前回の20・9%→今回23・4%と上昇したものの、民主党との差がこれまた10ポイント近く開いた。調査の度毎に支持を伸ばしてきた「みんなの党」は11・4%から8・6%に減り、同党内に不安感が漂った。
このほか、公明党が5・0%→3・1%、共産党は2・7%→4・7%、社民党は5・4%→4・4%など、民主の回復によって少数政党が軒並み劣勢に立ったことが目立つ。
▽イラ菅最大の正念場
こうした世論調査結果を見て、民主党の石井一選挙対策委員長は「予想以上だ。民主党単独過半数の目的達成も可能だ」と声を弾ませ、輿石参院議員会長も「国民はもう一度、期待してくれている。新首相を先頭に参院選勝利を目指したい」と述べた。ふたりとも親小沢の長老議員だが、民主党支持が急に上がったと見るや、親分そっちのけで興奮する。
過去にも代表を務めた菅新首相に「新鮮さ」があるわけではないが、前任者のあまりの「夢想家ぶり」によって過去8ヶ月間で失った支持が戻ってくるかもしれないと見て、一転して態度を変える楽天家ぶりだ。
しかし、数ヶ月間の財務相経験ですっかり財政再建派や消費税引き上げ容認論に素早く転向した菅新首相が、どこまで人事で示した勇気を政策で振るえるのか。全く未知数である。
オバマ米大統領との電話会談で普天間移設―日米共同声明での協力を約束した菅新首相は、この問題で退陣に追い込まれた鳩山前首相の轍を踏まないまま乗り切れるのか。沖縄県民にとって「未知数そのもの」の新首相に胸襟を開くことが可能なのだろうか。「イラ菅」の最大の正念場は目前だ。(了)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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