「週刊金曜日」と共産党
- 2022年 3月 17日
- 評論・紹介・意見
- 共産党週刊金曜日阿部治平
――八ヶ岳山麓から(364)――
去る2月、雑誌「週刊金曜日」(2022・02・25)が「日本共産党結党100年『揺らぐ野党共闘』」という特集をした。
特集は、次の4つの記事で構成されている。
1)日本共産党委員長、志位和夫氏への単独インタビュー「わたしたちはどんな社会を目指すのか/経済政策から安保まで」(7ページ)、
2)市民連合‘@新潟共同代表、佐々木寛氏へのインタビュー「共産党が叩かれる時代はいつも戦争の前夜だった」(4ページ)、
3)制作中の映画『日本共産党と私』(仮題)の監督、西原孝至氏へのインタビュー「映画を通して考えたかった/なぜリベラル勢力が根付かないのか」(5ページ)、
4)党員とされる仲間健氏の手記「内部から見た日本共産党の現状と課題/一党員の覚書」(6ページ)。
わたしは、次の参院選でも革新リベラル勢力と左翼政党が衰退を食い止め、増勢に転じるよう望み、知人や親戚に共産党や社民党、れいわ新選組への支援を求めるつもりである。そのような頭でこの「特集」を見た。
志位委員長へのインタビューは特集の中心であるが、ロシアのウクライナ侵略直前のものだから、これには触れていない。
志位氏の発言は、議会制による革命、アメリカと財界支配からの脱出、ASEAN頼りの平和外交、共闘の正しさと反共攻撃への反撃、党規約の民主集中制擁護、ジェンダー平等、日米安保と自衛隊についての従来からの方針など、ほとんど2020年の党大会決定とおなじである。
衆院選で後退したが、前進したかのように自己評価をし、さらに次の参院選の比例代表では得票650万、5議席確保をめざすという。だが衆院選では党員27万と「赤旗」読者100万の党勢で比例得票416万票、得票率7.25 %であった。同じ党勢でどうやって234万票も増やせるのだろうか。
「週刊金曜日」(2月25日号)が発売されると、共産党はただちに、広報部長植木俊雄氏の名において『週刊金曜日』に抗議した。抗議対象は、党員と称する仲間健氏の手記である。
植木氏は、抗議文の中で「指摘した内容はいずれも事実にもとづかないもので、公党である日本共産党の名誉を著しく棄損する内容」であって看過できないとし、またこのような虚偽の内容を掲載した責任は「週刊金曜日」編集部にあると、大変な権幕である。私は植木氏をこんなにも怒らせた仲間氏の内部告発に強い関心を持った。①、②、は「虚偽」だとして植木広報部長が抗議している内容、――は阿部の感想である。
① 「一党員の覚書として正体不明の人物を登場させ、日本共産党の歴史には指導部の『無謬(むびゅう)主義』が底辺にあり、事実を正視できていない」と決めつけたうえ、「志位委員長独自で、時には幹部会や中央委員会の論議を十分に経ず、脱線気味の主張までしてきた」「特に政権構想で他党との連立のネックである、天皇制や自衛隊の存在についてはリップサービスすら見られた」などとしている。
――志位氏は、2021年の衆院選直後「(野党共闘)路線は正しかったのだから辞任はしない」と発言したが、2003年以後国政選挙で後退するたびに同じことを言っている。無謬主義といってもおかしくはない。政治路線と活動方針に問題があるから、この20年間共産党は衰退しているのではないか。
リップサービスではないが、志位委員長の脱線発言は仲間氏の指摘のほかにもある。かつて日産事件のゴーン被告の国外逃亡に関して「保釈金を積んでも保釈すべきではなかった」と発言し、それを批判されると「赤旗」記者のせいにした。最近では自民党の安倍氏や高市氏が担ぎまわった「北京冬季オリンピックの外交的ボイコット」にただちに同調したが、幹部会全体もその意見だったのか?わたしにはあまりにも軽率に思えた。
② 規約上も明記している民主集中制について、「これは上意下達を正当化するために今なお機能している」と決めつけたうえ、「20年以上も党首が同じ人物で、党首の直接的選出に党員がかかわれないのは致命的である」と非難している。
――私も仲間氏と同じように、民主集中制には問題があると思う。特にこの制度は、分派を作らせない目的で、支部や地区など組織の横の連絡を許さない。これでは情報が党中央のみに集中し下部党員はつんぼ桟敷に置かれる。したがって上意下達になりがちだ。これは共産党のすぐそばにいる者にとっては常識である。
また、最高指導部が20年も変らないのは、有権者に与える印象がたいへん悪い。まず幹部は余人をもって代えがたい超能力を持ち、それ以外の党員はみんなぼんくらだということになる。ひとによっては、共産党が天下を取ったらスターリンや毛沢東のような個人独裁が始まるという。
市民連合‘@新潟の佐々木寛共同代表は、インタビューのなかで、「野党共闘は新味が減退している」と指摘したほか、共産党は委員長を女性にし、比例代表候補名簿のトップ5位までは若い女性にして、新しい実践の「見える化」をしてはどうかといっている。
わたしも共産党最高幹部を直接選挙で選ぶ仕組みにすればかなり新鮮味が出ると思う。その得票数を公表すればもっと民主的だ。
自民党は総選挙直前にこれをやって選挙民の関心を引き付けたではないか。
③ 「特に(党員の)数以上に質が問題」として、「私の感じでは党費を納めるのが半数。日常的な党活動に加わっているのはその半分にも満たない」「経営支部は空洞化」「退職者のサロン」だとし、若者が入党する事例もあるが紹介されても「その後の行方は定かでない」などとしている。
――党費納入割合などはわからないが、党活動がにぶっているのは周知の事実だ。さきの幹部会決定を読むと、中央の選挙総括を党員の6割強が1ヶ月かかっても読み終わらないではないか。
仲間氏は「経営支部(企業内の支部)は空洞化」というが、意味がよくわからない。間違いないのは共産党支部が消えていることだ。共産党が公表したところでは、2006年には全国で2万4000支部あった。2020年の党大会では1万8000支部だというから毎年430支部が減少している勘定だ。
わが村にかぎっては、共産党は拡大している。だがほとんど都市の高齢退職党員の移住によるものだ。原住民たる農家の党員は数軒で長年変らない。新入党者はいない。だから「退職者のサロン」というのは見ていてわかる。仲間氏の指摘は正しい。
なお、仲間氏は「長野県のような農村部での支持基盤の崩れは少ない」と判断し、それは共産党の施策が崩れゆく農村社会の歯止めになっているからだという。共産党がどこかで野菜・コメの低価格対策とか、農機具・種苗・農薬肥料の価格高騰を抑える対策などをやったのだろうか。
わたしの知っている限り、スタンディングと称して、農協の前で「国政レベルの正しいスローガン」を叫ぶだけだ。だからわが村では一時は4人もいた党員村議が2人になり今はゼロだ。
わたしは定期購読者ではないが、ときどき「週刊金曜日」を読む。この雑誌には革新リベラルの主張が登場することが多い。だが、特別共産党のお世話になっているわけではない。記事の内容が共産党の認識・方針と違うことがあってあたりまえである。
植木氏は、仲間氏の議論を一概に「虚偽だ」と決めつけているが、事実にもとづいて冷静に反論したほうがよかった。金切声は公党としてみっともない。
(2020・03・03)
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