青山森人の東チモールだより…投票を待つ大統領選挙
- 2022年 3月 19日
- 評論・紹介・意見
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小さかった三番目の山
「東チモールだより第451号」で新型コロナウィルスの第三の山ができつつあると書きましたが、その後の一日の新規感染者数をざっと見てみましょう。
【2021年2月】
19日=53, 20日=44, 21日=48, 22日=79, 23日=43.
24日=56, 25日=52, 26日=13, 27日=19, 28日=25.
【2021年3月】
1日=23, 2日=16, 3日=4, 4日=5, 5日=16,
6日=2, 7日=3, 8日=6, 9日=9, 10日=7,
11日=2, 12日=3.
2月18日に三桁123人を記録しましたが、19日以降は二桁となって数字が小さくなっていき、3月3日に一桁になりました。5日に二桁に戻りましたが、それからはまた一桁が続いています。オミクロン株がもたらす山はどうやら小さな山で済んだようです。
2月の終わりごろから、マスクを着用して道を歩いている人がポツリポツリとでてきました。通学する中高校生たちのなかにもマスクを着用する姿が見うけられます。それまでは道を歩くだけなのにマスクをしているわたしは奇異の目で見られている気がしたものですが(たんなる意識過剰かもしれないが)、いまではそうではありません。庶民の足である「ミクロレット」と呼ばれるミニバスの中の様子を覗いても、1月は誰もマスクをしていませんでしたが、いまでは少人数ですがマスクをしている人がいます。2月にオミクロン株による感染拡大が懸念されたとき、政府は、頻繫な手洗い、マスク着用、最低1メートルの社会的距離をとること、これら基本三対策を徹底して呼びかける取り組みが功を奏したのかもしれません。一日の感染者数が少なくなった今も基本三対策をメディアを通して強く呼びかけているのは心強いことです。
ただしわたしの身の回りに関して言えば、これら基本三対策なんぞどこ吹く風という環境にあるため、どうしたらよいものかと悩んでいるしだいです。
16人の立候補者、あとは有権者の判断を待つだけ
5年の任期満了に伴う大統領選挙の投票日(3月19日)を前にして3月16日、選挙運動は終わりました。暴力事件が何件か起きましたが、おおむね滞りはなかったといえましょう。投票用紙や投票箱などの投票道具が全国各地の投票所に届けられればあとは有権者の出番です。投票道具の地方への運搬は、大雨によって劣悪な状態になっている道路事情が障害となって難航しているしているところもあると報道されています。どうなることでしょうか。
選挙運動期間の最終日、最大与党フレテリン(東チモール独立革命戦線)の支持者たちが首都デリを練りまわり気勢を上げる。看板は有権者に投票をこう呼びかける。
「大統領選挙、2022年3月19日。忘れてはいけません…!!! あなたが有権者登録をした地区で投票しましょう…あなたの権利を行使するため選挙カードを持参して下さい…投票時間は午前7時から午後3時までです。参加しましょう…!」。
投票する女性モデルがちゃんとマスクをしているのがいい。
マンダリンの環状交差点にて。
2022年3月16日、ⒸAoyama Morito.
選挙戦を闘い、あとは有権者の判断を待つだけの16名の立候補者は以下の通りです。番号は控訴裁判所がくじ引きで決めた立候補者番号です。
①イザベル=フェレイラ、1974年4月生まれ。人権活動家。元法務副大臣。タウル首相の妻。
②エルメス=ダ=ロザ=コレイア=バロス、1972年5月生まれ。官僚職を休職しての立候補。
③アンジェラ=フレイタス、1969年11月生まれ。前回2017年の大統領選では0.8%の得票率。2度目の立候補。
④ロジェリオ=ロバト、1949年7月生まれ。フレテリン創設当時の党幹部。英雄・ニコラウ=ロバトの弟。フレテリン政権下で起こった2006年の「東チモール危機」のとき不正に武器を流用した罪で有罪となるが、その後ラモス=オルタ大統領(当時)によって恩赦をうける。2012年の大統領選に出馬し約3.5%の得票率。2度目の立候補。
⑤アナクレト=ベント=ペレイラ、1971年12月生まれ。小政党「チモール共和民主党」の党首。
⑥フランシスコ=グテレス=ルオロ、1954年9月生まれ。現職の大統領が再選を目指す。最大与党フレテリンの公認候補。
政府庁舎近くに設けられたルオロ候補の選挙事務入り口。
2022年3月7日、ⒸAoyama Morito.
⑦マリア=エレーナ=ロペス=デ=ジェスス=ピレス、1966年6月生まれ。通称・ミレーナ=ピレス。国連永久代表の地位を蹴っての立候補。
⑧ティト=ダ=コスタ=クリストバン、1952年2月生まれ。通称・レレ=アナン=チムール。国防軍司令官を辞職しての立候補。解放軍ゲリラの英雄。フレテリンの公認を得られなかったことでマリ=アルカテリ党書記長と確執が生じているようだ。
⑨アルマンダ=ベルタ=ドス=サントス、1974年10月生まれ。連立政権を構成する与党KHUNTO(チモール国民統一強化)の党首。現職の社会連帯包括大臣兼副首相。
⑩アンテロ=ベネディト=ダ=シルバ、1968年4月生まれ。平和構築論を専門とする大学教師。
⑪コンスタンシオ=ピント。アメリカで活動した元外交官。
⑫ビルジリオ=ダ=シルバ=グテレス。公的機関「記者評議会」の議長を休職しての立候補。
⑬マルチーニョ=グズマン、1968年5月生まれ。神父を辞めての立候補。
⑭ジョゼ=ラモス=オルタ、1949年12月生まれ。「ノーベル平和賞」の受賞者。外相・首相・大統領の経験者。政権奪還を狙う最大野党CNRT(東チモール再建国民会議)の公認候補。大統領になったら国会を解散する約束をCNRTと交わしている。
クルフン地区に立つ看板。ラモス=オルタ候補の看板というより白い髭のシャナナ=グズマンCNRT(東チモール再建国民会議)党首の看板だ。シャナナ=グズマンはラモス=オルタに国会を解散してもらい、前倒しの総選挙で勝利して首相になるつもりだ。
2022年3月4日、ⒸAoyama Morito.
⑮フェリスベルト=アラウジョ=ドゥアルテ、1978年6月生まれ。今回の一番若い立候補者。2015年、投資専門局長だったが解任されている。
⑯マリアノ=アサナミ=サビノ=ロペス、1971年4月生まれ。野党・民主党の党首。
民主党本部前のアサナミの看板。選挙戦の最終日、党本部前に舞台が設置され音楽を鳴らして支持を呼びかける。すぐ近くをフレテリンの車両集団が通り過ぎるが、殺気だった雰囲気はなかった。
2022年3月16日、ⒸAoyama Morito.
過去最多の立候補者数
16名というのは過去最多の大統領立候補者数です。
2002年の初の大統領選挙は独立(独立回復)直前という特殊事情から、立候補したのはシャナナ=グズマンと1975年11月独立宣言をしたシャビエル=ド=アマラルの2人だけで、シャナナの圧勝でした。。
2007年の大統領選挙は8人が出馬しました。このときはルオロとラモス=オルタが決選投票に駒を進め、ラモス=オルタが勝ちました。
2012年では13名が立候補し、途中でシャビエル=ド=アマラル候補が亡くなったため、12名による大統領選挙となりました。タウル=マタン=ルアクとルオロの決選投票の結果、タウル=マタン=ルアクが選ばれました。一回目の投票で最高投票数を得てもルオロはまたしても決選投票で涙をのみました。
前回2017年は8名が出馬し、三度目の正直、ルオロが大統領に選ばれました。このときタウル=マタン=ルアク大統領はCNRTとフレテリンの大連立政権と対立していました。そのためCNRTのシャナナはフレテリンのルオロ候補を応援し、そのおかげでルオロ候補は決選投票を不要とする一回目の投票で大統領の座を仕留めました。
そして今回2022年の大統領選挙は16名です。政党の公認を得て出馬したのは4人、あとは無所属での出馬です。勝ち負けは別として個人が自己主張する場として、あるいはまた自己顕示欲を満たすために、大統領選挙を表現の場として利用することを選んだわけです。その背景には2017年の総選挙から始まったいわゆる「政治的袋小路」、そして2000年から始まった「コロナ禍」、これら二大出来事による閉塞状態があります。閉塞感を打開するために、世代交代や女性の社会進出などの変化を求める世論の息遣いが16名という過去最多の立候補者出馬をもたらしました。
「国際婦人の日」(3月8日)を記念する横断幕に4人の女性立候補者が登場した。4人という女性立候補者数も過去最多だ。左から、ミレーナ=ピレス候補、アンジェラ=フレイタス候補、アルマンダ=ベルタ候補、そしてイザベル=フェレイラ候補。政府庁舎の接する歩道にて。
2022年3月14日、ⒸAoyama Morito.
現役続投と後退(交代)、どっちが優位?
変化を求める世論の息遣いがあるとはいえ、今回の大統領選挙でわたしが注目するのは、「政治的袋小路」をもたらした張本人たちの勝敗です。現職のルオロ候補か、政権奪還を狙うシャナナの支持を得たラモス=オルタ候補か。わたしは二つの観点から両者の勝敗を見たいと思っています。
一つ。シャナナとラモス=オルタという東チモールを独立に導いた代表的な指導者2人が疲れを知らずにまだ(あるいは「また」)権力を握ろうとしていることに、有権者たちがどう思っていることでしょうか。いくら歴史的な指導者とはいえ、もう「賞味期限切れ」だという感情を抱く人はわたしの周りでは決して少なくはありません。そしていくら選挙運動時に美辞麗句を並べても、何もしてくれないではないか、生活は楽にならないではないか、このような政治家にたいする庶民感情が一般的になっていることは確かです。この状況において、シャナナとラモス=オルタという往年のコンビが放つ”輝き”が現在の東チモールに果たしていかほどの影響力があるのか、この大統領選挙の結果で観ることができます。
二つ。フレテリンはこのコロナ禍のなかで党大会を開催することができませんでした。そのためにマリ=アルカテリ書記長はいまの座におさまり続けることができるのだとよく揶揄されます。つまり党大会が開かれれば新しい指導層が党を率いることになるだろうといわれているのです。新しい党指導者として取りざたされているのが、ソモツォ議員とルイ=マリア=デ=アラウジョ医師です。そしてよくいわれることは、マリ=アルカテリが退けばフレテリン支持率は上昇するであろうということです。このような世論を意識してか、マリ=アルカテリは今回の大統領選であまり目立ちませんでした。そう遠くない時期にマリ=アルカテリが退くという期待感(それはつまり若い世代がフレテリンを担うという期待感)が、どれほどのものなのかをこの大統領選挙の結果で観ることができます。
ラモス=オルタを大統領にして権力を再奪取しようとする現役バリバリのシャナナの影響力と、こちらもまた歴史的な指導者であるマリ=アルカテリが退く日が近いといわれることで醸し出すフレテリンへの期待感、はたしてどちらが勝るでしょうか。
青山森人の東チモールだより 第454号(2022年03月18日)より
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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