ゼレンスキーの国会演説に反対する! -紛争は武力では解決しない-
- 2022年 3月 22日
- 評論・紹介・意見
- 小島四郎
この国は、1945年8月15日にポツダム宣言を受諾し無条件降伏をした。そして46年に新しい憲法を定めた。「恒久の平和を念願し、・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」(「憲法前文』)これは、この国が戦争でアジアの国々と人々に多大な犠牲を強いた反省に立ち、二度と軍事力を持たない決意を示している。しかし、当時は連合国の占領時代。全面的実施は、1952年のサンフランシコ平和条約での独立を待たねばならなかった。残念な事に、この国は独立したその夜のうちに、日米安全保障条約を結び、米軍が占領軍時代から使用してきた「施設及び区域」の使用をみとめた。この条約第三条に基づいて結ばれた日米地位協定は、米軍にはこの国の法的支配が及ばないのが明記されていた。こうして、この国の人々は、憲法と安保体制の矛盾の中で、憲法の決意を貫くために闘って来た。「集団的自衛権の否定」「非核三原則」「武器輸出三原則」は、その成果である。この国の人々は、戦争の残忍さと平和の重要さを知っている。南京虐殺や731部隊による生物化学兵器使用というジェノサイド・汚い戦争を行う一方、45年3月の東京大空襲や8月6日の広島・9日の長崎への人類史上初めての原爆投下という想像を絶したジェノサイドを体験した。それ故にどんなに難しくて困難であっても、平和を誰よりも求め、そのための努力を惜しまない。ウクライナの人々の苦難に、心を痛め、一日でも早い平和を望んでいる。だが、国会で戦争の一方の当事者がTV演説することは、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(『憲法』9条)原則に反する。ここに、「恒久の平和」を目指すこの国の一人として反対の意を表明する。
ウクライナ戦争は、2月24日のロシア軍よる突然の国境超えによって始まった、と言うのは大きな嘘だ。突然に起きた事ではなく、内戦状況の継続で在り、内戦から戦争へと闘争の質が飛躍的に強まったのだ。越境を根拠に侵略対自国防衛へと質が変わったと主張するのは、侵略の口実として「領土と主権の一致」を常に叫んできた米国を先頭とする欧米諸国とそのメディアである。また、米国に追随するこの国の政府とメディアだ。振り返れば、1991年のウクライナ独立以来、2004年のオレンジ革命や2014年のロシアによるウクライナ割譲とマイダン革命、そして15年のミンスク合意という経過を経て、2019年に大統領に就任したゼレンスキーは東部在住ロシア住民に対する迫害や武装攻撃を強めた。これに対するロシア系住民の反撃によって内戦的状態が続いていた。つまり、ゼレンスキーの手は、在住ロシア人への排撃・武力の威嚇と攻撃で血まみれになっていた。ロシア軍の越境を契機に、その手を背中に隠し、Tシャツ姿の祖国防衛・愛国の旗手へと変貌し、武装闘争を継続している。
越境について、ロシアはウクライナ在住のロシア人保護と24日直前に成立したドネツクとルガンスクの二つの人民共和国からの軍事支援の要請に応えたものだと説明している。ゼレンスキー政府は「主権と領土の一致」を侵す侵略行為だと非難し、自衛権を発動させた。国際法上の原則にどちらも違反してはいない。要するに、国際法の原則とは、国連の安保常任人理事国らの戦争を正当化する理由づけに使われてきた方便にしかすぎない。今も世界各地で起きている紛争は、其々が国際法の正義を掲げ武力行使を繰り返して解決の目途さえついていない。この国の政府とメディアは、戦争は紛争を解決する手段にならないとの原則を、ウクライナ戦争にも厳格に適応すべきである。
私は、ロシア軍のウクライナ政府の首都キエフにまで侵攻したことに抗議する。これは、越境に関して公式に述べた理由からの逸脱であり、虚偽の説明を世界にして騙したことになる。ましてや、政権の交代を目指すというのは論外である。政権交代はウクライナの人々の自主的判断で行われるべきである。故に、ロシア軍に強く要請したい。主権者たる国民の核心的権利である投票権を尊重すべきであると。一方、ゼレンスキーは、二つの事をはっきりさせるべきだ。一つは、19年の大統領選の時、東部に投票所を設置せず在住ロシア人の投票権を剥奪した上で当選した事だ。在住ロシア人は約400万人であり、ウクライナの総人口(4000万人)の10%を占めており、全ウクライナ人の公正な選挙で選ばれたのではない。言わば、片肺政権なのだ。厳格に言えば、ゼレンスキーの政権をウクライナ政権と呼ぶのはおかしい。多くの人々が、この事実を知らないままに、ウクライナの抵抗する愛国主義者として称えている。二つには、米国から軍事・経済にわたり強力な支援を受けている事に関してである。米国政府(当時オバマ大統領)は、2014年12月に「ウクライナ自由化支援法」を可決し、それまで以上の経済支援と軍事支援を行い、ウクライナでの反ロシア排外主義とNATO化を進めて来た。これを裏付ける証言は沢山ある。そして、2月24日の直前にも、第101空挺部隊他5000人をポーランドに送っている。バイデンが「我が国の軍隊はウクライナ国内でロシア軍と‥対戦することはない」(「一般教書」)と述べつつ、ゼレンスキーの要請に従い、軽機動戦用の最新型や兵器や巨額の軍資金を送り続けている。又、志願兵募集にも英国と並んで積極的に応えている。何故か、米国との深い繋がりを公表するのを避けている。つまり、米国がこの戦争の三人目の主役である事を隠している。米国の対応は、明らかに戦争の煽り行為として非難されるべきである。所が、在日米軍約3万人が常駐するこの国では、大きな影響が政治・メディアの報道に現れ、武力では紛争が解決しないという基本原則が置き去りにされている。
24日から三週間が過ぎた。私は、ウクライナの人々は重大な試練と選択に向かい合っている、と考える。⓵既に300万人以上の国外避難民を出している。別の説では、避難民は1000万人を超えている。②キエフ以外にマリウポリ等の大都市で多くの人々が生活ラインを絶たれ人道的危機下にある。既に、マリウポリでは35万人が孤立している。③原発稼働したままの戦争遂行という、この国の常識では考えられない状況の存在。放射能汚染危機がすぐそこにある。放射能汚染は、人類全体に関わることである。広島・長崎、第五福竜丸、そして福島第一原発による被爆体験を抱えるこの国の多くの人々にとっては、放射能汚染の拡散危機、それだけの理由からでも、即時の停戦と稼働中止を求めたい。
ウクライナの人々は、「国家総動員令」下に有り、ロシア軍の銃火に抗して、激しい抵抗を続けている。しかし、戦争を継続すべきか否かを冷静に判断し選択すべきだ。戦争の継続は、避難民の更なる増大と、大都市部でのジェノサイド・悲劇は続く。原発損壊・放射能拡散の危険性はより高くなる。ゼレンスキーはロシア軍兵士の多くがウクライナで死んだと語っている。未だロシア兵の血が欲しいのか。人道違反の都市攻撃で多くの人々の命が亡くなっていくのを、無策故に黙って見ていてよいのか。また、核大国のロシアなら核戦争に勝者はいない事を知っている筈だと高を括り、第三次世界大戦に言及するのは正しい愛国者の態度なのかと。今は、ウクライナの人々の安全と平和のために、ゼレンスキーもプーチンも停戦へ向けて協議すべき時である。直ちに、戦争の狂気ではなく平和の理性を取り戻すべきである。米国も、野望を捨てて、停戦の邪魔をするな。
この国の多くの人々は、この国の憲法と安保体制の矛盾に苦しみつつ、戦後責任も稚拙にしか取り切れない限界に歯がゆさを抱えながらも、それでも反戦平和を貫き、度重なる被爆体験を重ねながら必死になって核廃絶を求めきた。その一人として、ウクライナ戦争の停止を強く訴えたいし、停戦合意から平和同盟への進展を期待する。例えわずかな時間でも国会演説するより、ウクライナの人々の平和のために、血に濡れた手を洗い、停戦のために時間を使うべきだ。
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion11873:220322〕
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