ハンガリーのEUに対する面従腹背政策
- 2022年 4月 16日
- 時代をみる
- EUハンガリー盛田常夫
ハンガリー政府がプーチンの要求にしたがって、天然ガス代金のルーブル支払いを検討していることはご存知と思います。EUはロシア制裁の一環として、ロシア通貨の暴落を防ぐために編み出されたルーブル決済を拒否する姿勢を明確にしていますが、ハンガリー政府は「支払い方法は技術的問題」として、プーチンの意向に沿う方向で検討を始めており、欧州委員会から警告を受けています。
口ではEUやNATOの基本的立場を共有していると言いながら、なんとかプーチンを貶めないような方策がないかを検討しているように見えます。こうして、ハンガリー政府は、口先だけの制裁遵守で、抜け道を探る面従腹背政策を展開しています。
このハンガリーの姿勢には、ウクライナからだけでなく、対EU闘争の盟友であるポーランドからも厳しい批判が寄せられています。これに加え、オルバン首相がブチャの虐殺を問われて、「現代ではいろいろなフェイクニュースが流れているから、注意しなければならない」と述べて、明確な批判を避けたことにたいしても、ポーランド政府首脳は厳しいオルバン首相批判を展開しています。その後、オルバン首相はこの見解を変えてブチャの虐殺を認めましたが、すべての事柄について、プーチンを慮った消極的姿勢が目立つため、ポーランドはオルバン・ハンガリーとの友好関係は終わりだと批判しています。スロヴァキアもチェコの武器の提供を行っているなか、武器の搬送すら拒否するハンガリーはV4内で孤立しつつあります。
また、ハンガリーの選挙管理委員会は、政府提案の国民投票(反ペドファイル法の是非)が不成立になったことに関連して、無効票での投票を呼びかけた団体に、選挙妨害があったとして罰金を科しました。この投票では、野党が一斉に無効投票を訴えたために、160万票の無効票が出て、有効投票が有権者の過半数に届かず、国民投票が不成立となりました。このため、アムネスティ・インターナショナル・ハンガリーyなどの無効投票推進団体にたいして、罰金を科したのです。この運動を推進した主要な2つの団体に300万Ft(「フォリント」1Ft≒0.36円)ずつの罰金を科しました。これにたいして、この運動に参加した団体が連名で最高裁判所の判断を仰ぐことを表明しています。
なお、政府は国民投票結果について、とくにコメントしていません。これは反ペドファイル法が総選挙勝利のための一つの戦法だったことが関係しています。反ペドファイルと名付けながら、その中身は反LGBTが中心になっており、教育からすべての性的少数者にかんする情報を排除することを謳っており、欧州委員会からの修正が求められている法律です。保守勢力を結束するために、反自由主義、反LGBTをスローガンとする政治的法制を強行したものです。およそ360万票の賛成票を得ましたが、有効投票が有権者の過半数である410万票に届かなかったために、不成立となったものです。総選挙に勝利してしまえば、政権政党にとって、国民投票結果はとくに議論する値のないものなのです。ただし、今後、この法律をめぐって、欧州委員会からの撤回要求や修正要求が強くなることが予想され、その際にハンガリー政府がどのような態度を取るかが注目されます。
海外在住者の投票整理が終わり、国会の議席が確定しました。ブダペストで接戦を繰り広げていた二つの選挙区の勝敗が決まりました。ブダペスト第13選挙区で野党統一候補が38票差で政権政党を追っていましたが、最終的に逆転して468票の差をつけて政権政党の候補者を破りました。隣の第14選挙区は政権政党の候補者が381票差でかろうじて議席を獲得し、ブダペストで唯一の議席を得ました。この結果、首都ブダペストの18総選挙区の結果は、野党統一候補の17勝1敗となりました。
野党候補が選挙区で勝利したところは、ブダペスト市17選挙区、ペーチ市選挙区、セゲド市選挙区の19選挙区です。この以外の87地方選挙区はすべて政権政党の候補者が当選しました。
都市では野党統一勢力が圧勝し、地方では政権政党が圧勝するという構図がはっきりしました。都市と地方の分裂、若者と年配者の分裂、家庭内での政治的志向の深刻な分裂状態など、Fidesz政権発足以降、ハンガリー社会には各種の分裂状況が蔓延しており、これを憂慮する声が首都圏では強くなっています。それがブダペストでの政権政党の大敗に繋がりましたが、中央政府のお金に縛られている地方では社会分裂を憂慮する声はかき消されているようです。
政権政党支持層は利害関係者と一般市民に分けられますが、地方の一般市民の間では感情的で熱狂的なオルバン首相支持が目立ちます。理屈ではなく、感情的な支持なので、議論することが不可能な状況になっています。プーチン支持と似通った状況だと言えます。
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