シカゴ大学政治学部教授・ミアシャイマー氏の見解:ウクライナ危機の責任は欧米にある
- 2022年 5月 14日
- 評論・紹介・意見
- ウクライナ戦争グローガー理恵ミアシャイマー教授
ジョン・ミアシャイマー教授について John Mearsheimer教授 CC BY-SA 3.0
[ソース:http://mearsheimer.uchicago.edu/images/jjm-photos/jjm04-2228×2782.jpg ]
ジョン・ミアシャイマー (John Mearsheimer)教授は、米国の政治学者、国際関係学者、空軍軍人。シカゴ大学政治学部教授。ミアシャイマー教授はご自身のブログで、こう自己紹介している:
『私は国際関係理論家である。もっと具体的に言うと、私は、大国が国際システムを支配し、常に安全保障上の競争を繰り広げ、それがときには戦争につながることもある、と考える、リアリスト(現実主義者)である。私は学問に人生を捧げてきたが、同時に、その時々の政策論争にも関わるように努めてきた。例えば、私は、2003年のイラク戦争勃発以前から、最も率直なイラク戦争反対論者の一人であった。』
ミアシャイマー教授の一貫した主張:ウクライナ危機の責任は欧米にある
2013年11月以来、徐々にエスカレートしていったウクライナ・キエフの反政権デモ ー2014年2月18日撮影 CCBY-SA 3.0 撮影:Mstslav Chemov氏
国際関係論の現実主義者・ミアシャイマー教授が主張する「ウクライナ危機の責任は欧米にある」とのアーギュメントは、今に始まったことではない。
ミアシャイマー教授は、すでに、ウクライナでクーデターが起こり、親ロシア派のヤヌコビッチ政権が崩壊し、親西欧・反ロシア派の新政権が生まれた年・2014年に、『Why the Ukraine Crisis Is the West‘s Fault – The Liberal Delusions that Provoked Putin (なぜウクライナ危機は西側の責任なのか ー プーチンを挑発したリベラルの妄想 – 仮訳)』 と 題された評論を著し、評論は米国でもっとも影響力のある外交政策の学術誌とみなされている ”Foreign Affairs (フォリン・アフェアーズ )” に掲載された。
この評論の中で、ミアシャイマー教授は、「なぜ西側諸国のウクライナ政策が、ロシアとの大きな衝突の下地を作ることになったのか、その理由を把握するためには、クリントン政権がNATOの拡大を主張した1990年代半ばにさかのぼる必要がある」と、述べている。 すなわち、ミアシャイマー教授は、「ウクライナ危機の主要因は、すでに、1990年代に始まっていたNATOの拡大にある」と言明しているのである。
ウクライナ戦争について
2022年3月11日、ミアシャイマー教授は、英紙 ”エコノミスト”に掲載された記事 『John Mearsheimer on why the West is principally responsible for the Ukrainian crisis(ジョン・ミアシャイマー:なぜウクライナ危機の主要責任は西側諸国にあるのか)』の中で、「NATOの無謀な拡大がロシアを挑発した、と考える」と、述べている。 さらに、彼は、「ウクライナ戦争は、1962年のキューバ・ミサイル危機以来、最も危険な国際紛争である。 我々が戦況の悪化を防ぎ、戦争を収束させる道を見出すためには、その原因を根本的に理解することが必須である」と、警告している。
2022年4月17日、ミアシャイマー教授は、CGTNとのインタビューで、「米国やヨーロッパのメインストリーム・メディアは、西側諸国がロシアを追い詰め、それがロシアを侵攻に導いた、というミアシャイマー氏の見解をほとんど完全に否定し、この危機を引き起こしたNATOや西側諸国を非難するのではなく、むしろプーチンを非難することを好んでいる」と語った。
ウクライナ危機の解決法はある
「ウクライナ危機に対する解決法はある」と、ミアシャイマー教授は、前述した評論『なぜウクライナ危機は西側の責任なのか – プーチンを挑発したリベラルの妄想』の中で、言及している。彼は解決法として、次のような提案をしている:
『 ウクライナの危機を解決するには、欧米が、ウクライナという国について根本的に、これまでの考え方・認識を変えることが必要になってくる。米国とその同盟国は、ウクライナを西欧化する計画を放棄し、その代わりに、冷戦時代のオーストリアが緩衝ゾーンであったように、ウクライナをNATOとロシアの間の中立的な緩衝国にすることを目指すべきである。欧米の指導者たちは、プーチンにとってウクライナは非常に重要であり、彼は反ロシア派のウクライナ政権を支持することはできない、ということを認めるべきである。この事は、将来のウクライナ政府が親ロシア派または反NATO派でなくてはならない、ということを意味するのではない。そうではなく、ウクライナが、ロシアにも西側にも属さない、独立した国家となることを目標とすべきである。』
ミアシャイマー教授が提案する解決法は、イデオロギーに囚われることなく、まず何よりも、西側諸国とロシアが共存していけることに重点を置いた、レアルポリティークであると言えるのではないだろうか。
動画 『ウクライナ戦争を起こした責任はアメリカにある!』について
ご紹介させていただく動画『ウクライナ戦争を起こした責任はアメリカにある!』は、2022年3月2日に、米国の無所属・非営利団体 ”Committee for the Republic (共和国のための委員会)”が主催し、ゲスト・スピーカーとして、ジョン・ミアシャイマー教授およびレイ・マックガヴァン氏(元米陸軍歩兵隊/インテリジェンス・オフィサー & CIA アナリスト)を招いて、「プーチンのウクライナ侵攻」というテーマで行われたオンライン・ディスカッションから、ミアシャイマー教授のスピーチの部分を抜粋したものである。 ちなみに、Youtubeにアップされた、ディスカッションが全て収録されている、オリジナルの動画は、すでに、100万人以上の視聴者を得ている 。
なお、『ウクライナ戦争を起こした責任はアメリカにある!』の日本語字幕は、マキシムという方が翻訳し作成してくださったもので、解りやすく、ミアシャイマー教授の簡潔で明快なアーギュメントは、私たちの思考を大いに刺激してくれるのではないかと思う。
日本語字幕つき動画へのリンク: https://www.youtube.com/watch?v=cZaG81NUW
以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12030:220514〕
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