ウクライナの対ロシア大戦事前戦略――ウクライナ大統領側近の2019年テレビ・インタビュ――
- 2022年 5月 19日
- 評論・紹介・意見
- ウクライナロシア岩田昌征
セルビアの親露容中系週刊誌『ペチャト』Печат(2022年4月22日、p.28)に「戦争を通してEUとNATOへ加盟:キーウの計画」と題する半ページの小文が載っていた。そこで、現在ウクライナ大統領室長顧問オレクシイ(アレクセイ)・アレストヴィチが2019年にTV Apostropheへのインタビューで「我国のNATO参加は99.9パーセントの確率で対ロシア大戦を惹起するだろう・・・。最適の結末は対ロシア大戦であり、対ロシア勝利に基づくNATO加盟だ。」と語っている。
Wikipedia ウィキペディアで検索すると、アレクセイ・アレストヴィチの項の注(6)に2019年2月18日に彼が行った13分ほどのインタビューの録画録音を見つけた。英語の訳文がスーパーインポーズされていた。以下に要点紹介する。
ドンバス地域、すなわちATO(反テロ作戦)圏の戦争を止める手立てはない。
プーチンの目標は、ソ連邦再興、冷戦勝利、欧州集団安保の解体、事実上のNATOとEU破壊だ。2032年頃に実現を目指す長期計画だ。
それを阻止するには、ウクライナの中立化ではなく、唯一NATOへの接近だけだ。西は、ロシアがジョージアやウクライナと戦争しているのではなく、西と戦争している事を遅くとも2018年までに悟った。我国ウクライナをNATOに受け容れる場合、4千万の国民と対露戦争経験ある百万人の兵士が手に入る事を理解した。
しかし、NATOへ接近したからと言って、ドネツクやルガンスクの戦争が終わるわけではない。逆だ。ロシアを対ウクライナ大軍事作戦に更に駆り立てることになろう。「99.9パーセントの確率で、NATO加盟の代償は対ロシア全面戦争だ。我々がNATOに入らなければ、10-12年以内にロシアに吸収される。我々はここで岐路に立つ。」「どちらがベターか。勿論、対ロシア大戦争だ。ロシアに対する勝利の結果としてNATOへ移行する事だ。」
2020年、21年、22年が最も危機的だ。2024-2026年、2028-2030年、おそらく、ロシアと三度戦争することになろう。
NATO加盟の代価は、ロシアとのより大きな戦争、あるいは一連の持続する衝突だ。しかし、西から積極的に支援される。武器、装備、対露制裁、出来ればNATO軍のキーウ(キエフ)周辺配置、飛行禁止ゾーン設定。我々は負けない。
ゼレンスキー大統領の側近グループが開戦3年前に上記の如く予言している。単なる予言・予測ではなく、ウクライナ指導部の主体的戦略方針の開陳だと理解すべきであろう。外交交渉の含み一切なし。
ウクライナ民衆は、全く受け身の気の毒な侵略被害者である。他方、ウクライナ国家指導部は、そんなイメージにあてはまらない。露の好戦性非難、プーチン告発弾劾が主に日々耳目に入る。かかる日本言論界の単耳単眼性が大変気がかり。両耳両眼を使うべし。ロシア悪者論だけでは見落とすところ大ならむ。
令和4年5月19日(木)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12046:220519〕
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