賭博は不幸を作る犯罪である。IRを作らせてはならない。オンライン賭博を起訴せよ。
- 2022年 5月 22日
- 評論・紹介・意見
- 刑事司法澤藤統一郎維新
(2022年5月21日)
山口県阿武町の4830万円「誤送金」事件。容疑者は誤入金があった4月8日から19日までに、34回にわたって当該口座から計約4633万円を出金。振込先は決済代行会社3社で、このうち27回の計約3592万円が1社に集中。4月12日には300万円と400万円が別の会社にそれぞれ送金された。…県警によると、容疑者は「オンラインカジノに使った」と供述している、と報道されている。
「オンラインカジノ」とは、インターネットを通じての賭博である。「自宅に居ながらにして、簡単にギャンブルを楽しむことができます。お金を儲けることもできます」「パソコンとインターネット環境さえあれば、海外のカジノサイトで直接プレイをすることが可能です」「もちろんお金を賭けて勝負をしますし、勝てば配当も獲得できます」という甘い誘引が、インターネットに並んでいる。こんなもの、野放しにしてよいはずはない。
あらためて、賭博の害悪、賭博の反社会性を深刻なものと受けとめざるを得ない。公営の博打場を作ろうなどという自民や維新の「犯罪性」を追及しなければならない。IRを作らせはならない。そして、オンラインカジノを取り締まらねばならない。
安倍晋三の守護神と言われた黒川弘務東京高検検事長。番記者との賭マージャン報道を切っ掛けに賭博罪で告発され、略式起訴されて有罪(罰金20万円)となった。検察組織ナンバー2で検事総長に最も近いとされた人物も、可罰的違法性がないなどと無罪を争わなかった。賭博罪の犯罪性・可罰性は明白である。
刑法185条が、「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」とし、同186条1項が「常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する」と定める。法定刑はさして高くはないが、賭博は正真正銘の犯罪なのだ
賭博罪の構成要件行為は「賭博をする」ことである。賭博とは、改正前の刑法の条文では、「偶然ノ輸贏ニ関シ財物ヲ以テ博戯又ハ賭事ヲ為シタル者ハ」とされていた。随分難しい熟語を使っているが、「輸贏」とは「負けと勝ち」のこと、「勝敗」「勝負」と言っても同じことである。「偶然で決まる勝負によって、カネやモノの遣り取りをする」ことが賭博である。相互に合意の上でのこととは言え、他人のカネを我がカネとし、他人の物を我が物とし、他人の不幸をもって我が幸せとする、人倫に反する反社会的行為といってよい。
偶然の要素は少しでもあればよいとされているので、賭博の手口はサイコロ賭博やルーレットに限られない。カネやモノを賭ければ、囲碁・将棋・麻雀、相撲も野球もゴルフもジャンケンも、全てが賭博になり得る。もちろん、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときはこの限りでない」が。
賭博の蔓延は大きな社会的害悪である。社会的な害悪という所以は、これに参加する多くの人に射幸心を煽り、健全な労働意欲を失わしめるからである。さらには、多数市民をギャンブル依存症に陥らせ、その家族にも大きな苦しみを与える。
安倍政権は賭博という犯罪行為を大規模に奨励することでの経済振興策を思い立った。これがIRである。多くの人の不幸を不可避とする「経済振興」の愚策。批判が集中する中で、維新の大阪と、長崎のみがこの愚策に乗った。とりわけ、大阪の強引さが際立っている。
いま、国民世論がIRという賭場の犯罪性を糾弾している。これ以上の不幸の源泉をはびこらせてはならない。もし、今「夢洲」(大阪市此花区)に、IRができていたら、阿武町の容疑者はそこに町のカネを注ぎ込んだに違いない。公営賭場だから、犯罪ににはならなくても実質的な反社会性がなくなるわけではないのだ。
オンライン賭博も同様である。賭博の害悪は胴元がどこの誰であるかに関わらない。胴元が国内にあるか国外にあるのか、あるいは違法か合法かに関わりなく、賭博行為は犯罪である。
インターネットでする賭博は、国内のパソコンへの入力で完結する。その先の胴元が、国内にあろうが国外にあろうが、あるいは違法か合法かに関わりなく、賭博行為は明らかに犯罪である。オンラインカジノでの起訴件数は過去2件しかないようであるが、これを野放しにしていては、賭博罪を創設した意味がなくなる。社会的害悪の蔓延を防止し得ない。
阿武町の詐欺容疑者は、30回ものオンラインカジノへの賭博を繰り返していたようである。金額も大きい。明らかに常習賭博である。国民注視のせっかくの機会である。容疑者を常習賭博として起訴のうえ、公判を通じて「オンラインカジノ参加は刑法上の賭博行為であり、犯罪行為である」ことを明確にされるよう検察当局に期待したい。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.5.21より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=19189
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12052:220522〕
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