ちきゅう座 公開講演会(5/21 13時~17時)/塩原俊彦:「ウクライナ戦争の世界史的考察」/菱山南帆子:「暗黒の3年間にさせない 市民の力で政治を変える」
- 2022年 5月 30日
- 評論・紹介・意見
- 塩原俊彦村尾望菱山南帆子
塩原俊彦 「ウクライナ戦争の世界史的考察」
3回も戦争保険に入り、チェチェンで戦争の悲惨さを見てきた上で分析してきた。雇ったタクシーの運転手は爆弾で殺害され、グロヌズイの役所の前は大きな穴が開いていた。昼は砲弾、夜は機関銃の音におびえた。政治家が勝手な判断で民主的な手続きなしに経済制裁をし、ウクライナかわいそうといってテレビで勝手な事をしゃべっている。本当にマスメディアはひどい。
世界史的考察として意識しているのは、近代国家、主権国家、領土主権、ネーションといった認識であるが、これは西ヨーロッパに生まれた独特のもので、中国では天命に基づいて天と皇帝が統治する。東方正教の世界は政教一致で、神である教皇と皇帝は一致している。永続性を持った国家が残っていくところでソヴリニテイーの考えが成立した。主権の概念はイタリア中心に伝えられローマ法という成文法を基に、至高の権力というものが成立可能となり、領土にしても国家にしても絶対性、永続性を持って続いていくという考えである。それを輸入した日本は、しかし誰もそれを知らない。ウクライナ戦争により、これがどういうふうに揺らいでいるのか。領土主権は、パスポート問題で、国内パスポートとはソ連時代に復活し、14歳から持たせて永住地を記載していた。農村に住む者は、勝手に都市に移動することができないようにしたもので、ロシアになり義務でなくなるが、依然としてある。ドネツク地方の人にこれを持たせれば、保護する名目が立ち、領土主権を越えていく。領土主権の侵害のやり方はいろいろあり、鉄道はその一つ。日本が満鉄の利権を得た時、ロシアが持っていた駅周辺の治外法権もついてきた。パイプラインについても、それが誰の持ち物でどう運営されるかをみるとわかる。ロシアはパイプラインの安全を確保するため、進攻するかもしれない。この戦争の中でもウクライナのパイプラインは維持されている。長期契約なので違約金をとられるし、通過料は2500億円くらい入っている。それらを考えず、あほな政治家が勝手にガスを止めろと言っている。それで私がさまざまな問題を分析している。
また、井上達夫が『世界正義論』で書いているパスカルの金言がある。「ピレネー山脈の此方の真理は此方で誤謬」で、ヨーロッパでは川ひとつで隔てる国境というものの敏感さを日本人は理解できない。伊丹万作が書いた戦後なって「だまされた」といって平然としていたような日本人には、理解できるはずはない。国家主権を前提にした考えしかもてない頭では想像できないだろうが、ウクライナが18から60歳の男性を出国禁止にしたのは明らかに主権国家の横暴である。戦争になったら逃げるのは当たり前、基本的人権である。移動する権利をウクライナという国は奪っている。また44人の国会議員を追放し、親ロシア系の財産を没収している。国家主権とは、人権保障を義務付けられていて、これを守る前提で作られている。2010年のアラブの春は、青年が腐敗した公務員に抗議して自殺したのが発端だった。ウクライナの政治は腐敗しきっていて、人権も抑えられている。腐敗認知指数というものもあるが、2021年は180国中で122位、ロシアは136位である。それだけでなく、2021年9月のEUの報告は、法の支配の弱さとオリガルヒの強さが、経済発展の障害になっているとしている。そんな国にカネを出すのか?今カネを出しているのはアメリカと追随するEUと日本だが、それでよいのか?
きちんと考え政策を提言する人は日本にも世界にもいない。ステファン・コーエンの本ではウクライナは2014年からアメリカの植民地化の過程にあり、腐敗しきっているとされている。少なくとも2014年以降、アメリカが軍事面、経済面で主導権を握っているといえる。2017年頃、国連の平和維持活動をする計画が実現しかけたことがあり、プーチンも了解していた。それが出来なかったのは、国連がいかに役立たずかを示している。そうしたことも議論されずにいるのは、マスメディアも学者も全く不真面目である。
(質疑・意見) ▽は講演者 ▼は参加者
▼プーチンの腐敗ぶり、アメリカの介入ぶりについて説明を。
▽2014年はヌーランドという当時の国務省次官補が仕掛けたものであることは確実。ネオコンの多くは東欧やロシア出身のユダヤ人で祖国の民主化を推進している。1990年代からウソと暴力を平然と使って計画し活動している。その手段がナショナリズムである。ウクライナ語は西ウクライナで出来たもので、ここの人は東側に住んでいる人とは別で、ソ連に冷遇された。こういう連中を焚きつけて超過激な右派セクターなどに武力訓練してクーデターを仕掛けた。暴力好きなので、ロシア系住民を迫害したため、プーチンが介入していった。その後、2015年にボロシェンコ大統領になって、オデッサで虐殺も起こった。彼らは軍隊に取り込まれた。マウリポリにはもともとナショナリストが多かったところで住民を閉じ込めた。ポロシェンコはひどく腐敗していて、巨額蓄財して国外に資金を移していた。日本も同じだが国民もひどくて、深く考えて政治家を選ぶことが出来ない。
▼アメリカとEUが資金を潤沢に投入し武器も送って、ウクライナの人を戦わせ、死なしている。代理戦争的で、情報を押し流して世界を導いている。戦争の仕方は従来とは違っているが、ウクライナの人はどういう方向に向かっていくのか。また、自衛戦争についてどう考えたらよいか?
▽偏った報道は見ないので何ともいいようがない。すべての報道は甘いのでいやになる。
▼自分が理解していること、主張していることが正しいとして、他の人をあほという根拠は何なのか。それは体験の直接性なのか、メディアや学者の勉強不足なのか。それは独我論的ではないのか。独我論を互いにぶつけあっているのではないか
▽正しいという漢字は、権力者がそう言っていることを意味している。私が絶対正しいと言っているわけでなく、民主的な議論をしてほしいといっているだけ。政治家は法律以外のことで勝手にやっているだけ、それがいいかどうか議論してほしいだけである。
▼たちどまって考えることがあるべきで、日本人はメディアに従順で、メディアは権力側に沿った報道しかしていない。
▼逃げる自由があるべきだというのはわかるが、ロシア側の侵略についてどう評価されるか聞きたい。プーチンが不必要に虐殺などの行動をしているのは、どこに問題があるのか。
▽2008年にグルジアで5日間戦争が起きた。サーカシビリは南オセチアを攻撃したが、その前にロシアが挑発している。これと今回は似ているが、2021年に先に挑発したのはウクライナである。挑発であると知っているのにもかかわらず、プーチンが戦端を開いたのは、それほどまでに追い詰められたからではないかと推測できる。プーチンが挑発にのるとは私は全く予想できなかった。
ソ連軍は昔から盗み常習犯である。なぜソ連が工業化に成功したかというと、ラーゲリの労働もあるが、ドイツから大量の工業設備を運び去ったからである。そういう伝統があるとしかいいようがない。ウクライナは戦争に勝つとか言われているが、軍事の常識として攻める側のほうは圧倒的に人員が必要であるから、ロシアがうまくいかないのは当たり前である。今度、ウクライナが攻めていったらうまくいかないのも常識で、そうなったらウクライナ側が大変なことになるだろう。
▼ブチャの虐殺には国連の調査を経た上でないと、断定できないことは確かである。
▼旧ユーゴスラヴィアでのことだが、同じことをやっても大義名分を持っていると世界の評価は違ってきて非難されない。西側の報道に対して現場ではそうでなかったといっても受け入れられない。こういうことは根深いものとしてある。民衆がマウリポリにこもっているが、ロシアは水攻めのような無理なことはしていない。それはロシアも民衆の命を考えているので、まったく残虐とも思えない。
▼アメリカは、中ロ相手に二正面作戦に出ているようだが、ネオコンはどうしようとしているのか。
▽第三次大戦になるという人もいるが、この代理戦争の長期化、消耗戦化でそうなりかねないことはあると思う。プーチンを追い詰めることでそうなるかもしれないが、ロシアには前々からそれを予想している面もある。いいかげんなことをいって、ウクライナを焚きつけていけば、逆にプーチンが思い切ったことをやりかねない。とにかく停戦しろと世界中で叫ばないと大変なことになる。
菱山南帆子 「暗黒の3年間にさせない 市民の力で政治を変える」
小学6年の時、担任が「座れない子は障害者だから、特別学級に行きなさい」と言ったのに抗議して、クラスの半数を率いて授業拒否を3か月間 続けたので、「嵐を呼ぶ少女」という本のタイトルになった。1999年の国旗国歌法の制定時、卒業式で、君が代斉唱時の不起立を貫いた。中学生の時のイラク戦争ではアメリカ大使館前で座り込みをした。その後、3.11福島原発事故を受けて市民運動を再開して今日に至っている。
戦時下の性暴力の問題は、すでに被害の報告が出ている。ロシアばかりでなくウクライナ兵によるものもある。女性だけの梯団をつくって350人以上がデモした。総がかり行動実行委員会は毎月19日に集会しているが、最近韓国でも始まり、毎月19日に韓国の日本大使館前でやっている。ありがたいのと申し訳ないという気持ちだ。日本は戦争責任のとりかたもきちんとしていないのに、韓国の人からアジアの宝だから一緒に守ろうと言われ、ずっしりと来るものがある。イラク戦争についてアメリカでも謝る動きがあるのに、日本では議論さえない。自民党はウクライナのようになりたいと戦争支持を訴えている。我々はウクライナの国を支持するわけではなく、そこで闘っている市民に連帯している。攻撃が始まってからロシア料理店に医師が石が投げられたり、ひどいいやがらせが起こった。戦争反対もナショナリズムに取り込まれてしまう恐ろしさがあり、戦争とは排外主義を呼び込むものだというがわかる。こうしたことはコロナの時もあった。働いていた障害者施設に、緊急事態宣言が出ると「障害者が街に出ている」「バスに乗っている」などの通報が頻発し、つねられたり叩かれたりした子もいた。日本人は、緊急事態や非常事態に本当に弱い民族だと思う。ウクライナ危機に乗じ、改憲の動きも強くなっている。憲法審査会など開くべきではないのに毎週開いている。そんなに開きたい憲法審査会で、与党には寝ている、立ち歩く、私語をしている、スマホを見る、欠席する議員が多い。とくに共産党の委員の発言時にはわざと私語して妨害する。驚くべき発言も多く、「弁護士として、私は憲法を使ったことはない」「解釈改憲が横行するから変えた方が良い」とか、維新の足立は、「共産党は、市民に火炎瓶を持たせて守るのですね」など暴言がひどい。稲田朋美は、「日本が何もしなくても・・・ロシアや中国が悪いことをする。だから憲法変えたい」と無内容なことを言っている。
この間、沖縄に行き、南部戦跡などを回った。ガマの前に慰安所があったことを伝える立て札が前に行った時にはあったのになくなっていた。こうして歴史が少しずつ変わっていくと思った。ガイドが米軍基地の解説すると始末書や出勤停止処分にあうとのことだった。若い兵士は特攻隊に乗る時、不時着しても捕虜にならず沈むようにコンクリートの塊を腰に結びつけていたという話も聞いた。こうした悲劇を招いた天皇の戦争責任も問われていない。戦争は本当に恐ろしいが、今、何も知らない政治家が戦争戦争と叫んでいるのはひどい。
安倍一強政治のせいで、憲法改正が至上命題になり、ハト派のはずの岸田も政権維持のため古賀誠を切って、安倍にゴマをすりまくり、憲法改正推進本部を実現本部にした。古賀は、岸田は「悪魔に魂を売った」と言っている。安倍・菅改憲の第二章が始まったといえ、維新はその尖兵になっている。参議院選挙と国民投票は同日にはできないのにそういって煽っている。市民と野党の共闘バッシングも強くなっている。これはひとつのバックラッシュだ。韓国でも、市民が強い文政権下で、女性の運動が盛り上がり、決定するところの半数が女性になったが、ユンは若い男たちに向かって「女が男の役割を奪っている」と非難して得票を集めた。私たちの運動も逆風を受けているが、野党共闘を批判しても敵を喜ばせるだけである。最近我々の中では、振り切ることが大事だという話をしている。ぐずぐず言っていると支持されない。昨年も五輪反対をはっきり言ったから支持された。参院選で3分の2をとられたら間違いなく改憲発議にすすみ、来年の今頃から本格化するだろう。怖いのは維新が強いことで、わかりやすい言葉で語るが、内容は自民と同じだ。地道に電話かけ、握手、小集会めぐりをやって有権者に浸透している。就職氷河期で苦労した団塊ジュニア世代に多く支持されている。儲けることがカッコいい、弱いのが悪いということで、公務員には恨みを持っている。大阪で、身を切る改革は我々の身が切られると訴えると、コロナで死んだ方が悪い、弱い者は死んだほうがよいと普通の人からいわれる。自己責任を内面化させている。維新の草の根型運動は、私たちがやってきたことでもある。これは学習会、署名、集会などの積み重ねはやはり強いので、あちら側が嫌がることだ。萎縮している場合ではない。有明の集会は1万5千人、対する改憲派は500人であった。
参院選をやるにあたり、何を訴えかけていくか。自民党には絶対できないことを訴えるべきで、それは「いのちと暮らしが守られる政治」だ。維新の大阪は全国一の死者を出している。女性たちの相談会もやっていて、こんな無理なことしなくても生きていけると呼びかけている。お子さんを連れてくる人も多く、みんなお腹を空かしている。自助をふりかざした菅政治が、助けての一言がいえない、言わさせない社会にしている。渋谷の女性はDVで離婚してコロナで首を切られて、路上で殺された。女性の差別構造が浮き彫りになった。憲法審査会で「憲法を使ったことがない、知らない」などというが、今憲法25条を使わないでいつ使うのか。生活保護申請にいくと、「受けるとお子さんがいじめられるがいいか」といわれる。維新の石井は、「顔で選べば一番」という発言をした。
女性差別の塊の彼らにはジェンダー平等もできない。自民の丸川珠代は「どうかこの候補を男にしてください」と演説していた。こういう人たちには女性差別の問題はできない。長いこと差別に取り組んでいた私たちにはできる。しかし、総がかりの会議でも男性が圧倒的に多いし、国会も女性が少なすぎる。女性にしても勉強しないと内なる差別に気づかないし、まず私たちが変わる必要がある。
若い人への継承の問題は、たださえ子供は少ないのでやむをえない面があるが、若い人がいやにならないやり方も必要。チラシ配りと署名はふたり一組でやるとか、幟の立て方、SNSコールも大事で、韓国キャンドル革命は親指と人差し指の闘いと言われた。しっかりと昔のやり方を継承しながら、新しくなっていくことが大事。仲間をどう守るかは、古い人はできているが、若い人は知らない。八王子駅前では私有地だからだめといわれたのに対し、その警備員の昔の担任教師を呼んできて説得した。権利は行使してこそ獲得できる。公道なら宣伝は自由ということも実際使われないとどんどん後退していく。若い人を育てることが重要だ。
国会のゼレンスキーの演説よりも、山東国会議長の発言のほうがよほど怖い。悲壮感の言葉は人を動かしやすいが、それは軍国主義につながる。運動も悲壮感から手を切ることが必要で、沖縄読谷村では、カチャーシーを踊って機動隊を撃退したことがあったが、それがよい。誰かヒーローになってくれないかなという代行主義もよくない。私はよくジャンヌダルクといわれるが、死んでしまうので拒否したい。八王子の運動では、高尾山ビヤガーデン帰りの人を狙い署名を沢山とったりと楽しくやっている。市民連絡会の会報誌「私と憲法」、メルマガ「ねことトラメガ」の購読をお願いします。
(質疑・意見)
▼ジェンダー平等について、各政党が取り組むべきことは?
▽男性が、席を譲るしかない。若い人にもデモ出しとか、仕切りをやらせないといつまでたっても覚えない。医大の入試差別も、女は女というだけで不利にされる。男性は特権をすてるべき。市民連合に出てくる人も男が多い。勇気をもって女性に役割を譲ることが必要。
▼労働組合についてはどう思うか
▽旧総評系や全労連の人とは仲良くやっている。日教組と全協が一緒に旗を並べている。組合の若い人に呼ばれて話すこともある。市民運動と労働組合は地域活動の車の両輪で、組織的動員ができる組合と、動員できないが行動の早い市民運動が一緒にやると効果的である。
▼安保法制の違憲訴訟埼玉の会でやっている。
▽私も原告団で、署名もして裁判所に届けたが全然とりあげてくれない。国会前だけでなく裁判闘争もとても大切だと思っている。
▼振り切るというのは大事だと思った。差別についてだが、差別に対して良くないといった時なぜと聞かれたらどう答えるか。差別は悪いから悪いといってもなぜ悪いかと子供は聞くだろう。
▽差別だからでは根本的解決にならないだろう。私たち自身も労働者というだけで差別されるし、親も選べないからこそ平等に生きる権利がある。差別がよい社会になってしまうと生きにくいことになるから差別はよくないと思う。なぜ差別になるのか自覚していないことも原因である。言葉でいうのはなかなか難しく、学んでいくことも重要。人権教育などで考えていく中でわかってくる。
▼答えが準備されていないと説得はできないと思う。
▼日本を変えるには政党選択をすることになる。今の話は、れいわと重なることが多いようだが、れいわの候補者の7割は女性になっているのをどう評価されるか。
▽市民連合の運営委員なので、どの政党がどうということはいえない。
▼以前、練馬で地域ごとに集会を自治体とも組んでいろいろな形でやったのがよかったと思う。ミャンマーは公然と女性差別があるが、日本でも同じ事をやっていて驚いた。
▼ポーランドにいた時、知識人のグループは2つあり、ひとつは根っからの非共産党の人と、優遇されてきた共産党系の人とで、前者は後者を信じない。その種の差別は間違いなのかどうか。
▽議論も大事だが、いかにどう変えていくかの実践も大事で、被害が出ていることに取り組むことが必要だろう。差別する方は気づかないことが問題。言葉狩りに終わらないよう、まずは自分自身がどうなのかに向き合っていくことが大事だと思う。 以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12081:220530〕
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