平和・反軍国主義を棄てたドイツ緑の党と その追従者(Mitläufer)たち
- 2022年 6月 8日
- 評論・紹介・意見
- ウクライナ戦争グローガー理恵
はじめに:スペインのアンダルシアから
今、私はスペインのアンダルシアにある小さな村にきている。コロナ・パンデミックのために2年以上、訪れることができなかったところで、久しぶりに、太陽に照らされて輝くアジュールの地中海を目にしたときには、感動して思わず涙が出た。 写真:[2022年5月23日、 スペイン・アンダルシアにて、筆者撮影 ]
最近、通りかかった 石垣に、赤い文字で “戦争にノー!(NO A LA GUERRA)”と書かれたグラフィティを見つけた。好戦ムードにあふれたドイツに耐えられなくなっている私に、このグラフィティは、さわやかな風のように、一種の安堵感のようなものを与えてくれた。
世論調査の結果:ドイツ人の過半数がウクライナへの武器供与増加に賛成
2022年3月21日、ドイツの時事週刊誌”デア・シュピーゲル (Der Spiegel)”に掲載された記事 “過半数がウクライナへの武器供与の増加を支持(Mehrheit für verstärkte Waffenlieferungen an Ukraine)”によると、Civey-Methodikによって、3月18日から21日にかけて、5074人を対象にして行われた世論調査は、回答者の53%がウクライナへの武器供与の増加に賛成、およそ35%が反対、との結果を示した、という。
《緑の党支持者の70%が武器供与増加に賛同》
さらに、この世論調査の回答者が支持する政党別に分けてみると、No.1は緑の党 (Die Grünen)で、緑の党支持者の70%が武器供与の増加に賛成し、No.2はCDU/CSU(ドイツキリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟)で党支持者の60%が賛成、No.3はFDP(自由民主党)で党支持者の59%が賛成、No.4 はSPD(ドイツ社会民主党)で党支持者の57%が賛成、No.5が左翼党で党支持者の24%が賛成、最後のNo.6は右翼のAfD(ドイツのための選択肢)で党支持者の17%が賛成、という結果であった。
意外なのは、右翼政党AfDの支持者の中で武器供与増加に賛成しているのは17%と一番少なく、ほとんどのAfD支持者が武器供与に反対している、ということだ。THE EPOC TIMESの4月6日付けの記事によると、ドイツ連邦議会のAfDリーダーであるチェルパラ議員は、「武器提供が戦争を終わらせることはない。できるだけ早く、外交的手段をとることが必要である」と述べた、という。
それに対して、かつては平和主義を信条として生まれたはずである緑の党の支持者の70%が、ウクライナへの武供供与の増加を支持している、という世論調査の結果には愕然とさせられる。そういえば、知り合いの長年の緑の党支持者である女性も「ロシアは悪い!かわいそうなウクライナ人を応援しなくちゃ。だから武器供与は賛成よ」と言っていった。悲しくも、こうした ”ウクライナ善・ロシア悪”という善悪論に徹し、武器供与に賛成する人々の口からは「和平交渉・外交手段」という言葉はまったく出てこないのである。
どうやら、武器供与賛同者の主張は、 「より多くの兵器で平和を成し遂げる – Frieden schaffen mit mehr Waffen」 ということらしい。この主張は、ジョージ・オーウェル作の「一九八四年」の中で、オセアニア国の党が掲げた“戦争は平和 (War is Peace)” というスローガンに匹敵し得る ”オキシモーロン(矛盾語法)” だと言えるのではないだろうか。
2001 年2月 13 日 、プーチン露大統領と握手する緑の党所属のヨシカ・フィッシャー独外相
[ CC BY 4.0 ソース:クレムリン・ロシア ]
《”オリーヴグリーン党”に変貌した緑の党》
平和主義をモットーにしてきたはずのドイツ緑の党は、このウクライナ危機をきっかけに、好戦的な政党へと急変した。だからドイツでは近頃、緑の党をグリーンではなく、”オリーヴグリーン”と呼ぶようになった人も出てきている。言うまでもなく、オリーヴグリーンとは軍服の色のことである。しかしながら、ドイツのマスメディアは、緑の党のきわめて好戦的なスタンスに対して疑問を投げかけたり、批判をしたりするようなことは一切しない。
ドイツ日刊紙 “ユンゲ・ヴェルト (Junge Welt)“の記事: 「緑の党は戦車を進ませる」
どのようにしてドイツ緑の党が平和主義・反軍国主義を放棄し好戦的政党へと豹変していったのか、その経過を簡潔に描写している記事があるので、皆さまに、今ドイツで起こっている懸念すべき現象を少しでもご理解していただけたらと願い、この記事を和訳してご紹介させていただく。
記事 (独語)へのリンク:Grünen lassen Panzer rollen
緑の党は戦車を進ませる (Grünen lassen Panzer rollen)
著者:クリスティアン・シュテムラー (Kristian Stemmler)
[翻訳:グローガー理恵]
2022年5月2日
オリーヴグリーン
反軍国主義よ、さらば!:環境リベラルである緑の党の州評議会が、幹部会と連邦大臣の外交政策方針を承認
1999年5月13日、ビーレフェルトのザイデンシュティッカー・ホールでは火花が散っった。バルカン半島での戦争をテーマにした緑の党 (Bündnis 90/Die Grünen)党大会では、事態が沸騰していた。論戦、叫び声、しゃがれ声のやじ、赤いペンキの入った袋がヨシュカ・フィッシャー外相の耳に命中した。外では、1,500人の警察が抗議デモを食い止めていた。そして結局、NATOのユーゴスラビア攻撃にドイツが参加することに賛成したのは444票(イエス)対318票(ノー)というわずかな票差の投票結果だった。これは、ずっと昔のことである。*
〈*注:この1999年の党大会については記事の最後にある訳注を参照してください〉
そして先週の土曜日 (2022年4月30日)、緑の党は、グリーンのカモフラージュ服からオリーヴグリーンの軍服へとの”衣替え”を、あのとき(1999年)よりも素早く、騒音を立てることもなしに、静かに、やって退けたのである。
かつては環境・平和運動から芽生えた緑の党だったのに…。2022年4月30日、デュッセルドルフのラインテラッセンで、緑の党の州評議会の代表99人は、たいした議論もなしに、「ウクライナへ重火器を供与すること、そして1000億ユーロ(約13兆円)にのぼる特別資金をドイツ連邦軍のために設けること」に頷いたのである。国内総生産の2%を軍事費に投資するという、いわゆるNATO目標については、彼らは無理に決定する気にはなれなかった。
今回の緑の党の路線転換に対する抗議は、 生ぬるい微風が、ちょっと吹いただけで終わった。緑の党の青年部によって作成された修正案は否決された。青年部組織は、この修正案で、ドイツ連邦軍に追加資金を投入する前に、まず、軍需品調達システムを改革すること、および、必需性に基づいて必要な軍事費を決定するということを要求していた。さらに、緑の党青年部のリーダーであるティモン・ジーナス(Timon Dzienus )氏は、「青年部が1000億ユーロの特別資金を拒否する立場をとった理由は、いくつかあるが、その中のひとつとして挙げられるのは、特別資金が現在の戦争においてウクライナを助けることには全くならないという理由からだ」と述べた。
アンナレーナ・ベアボック(Annalena Baerbock)外相は、紛争区域へ武器輸出するという方針転換の理由は、「戦争に直面して緑の党は責任を行使しているからである」と、紛争地域への武器輸出を正当化した。そして、「私たちは、今まで想像もつかなかったようなことを決定しなければならない」と述べた。オミド・ヌリプール党首は、緑の党が、かつての党の本質的要素(平和主義)を放棄したことを、よりによって「我々は常に平和の党であり続ける」という言葉で弁明した。同時に、「我々は政権政党として現実を直視している」と語った。
ビデオでつながった、ロベルト・ハーベック(Robert Habeck) 連邦経済・気候保護大臣は、ウクライナ戦争が始まって以来、緑の党がすでに、いくつかの立場を突然変えたことを、ほとんど誇らしげに指摘し、「我々は現実が変われば、変わることができる立場にある」と述べた。
連邦議会欧州委員会のアントン・ホーフライター(Anton Hofreiter)委員長は、緑の党州評議会で、またもや、オリーブグリーン色の好戦派グループを先導した。かつては”左派”とみなされていたバイエルン出身の彼は、金曜日(2022年4月29日)、ビルト局のテレビ番組で、「連邦議会で承認された50挺のゲパルト自走式対空砲のウクライナへの供給を”とても、とても迅速に” 実行しなければならない」と述べた。そして、ホーフライター 氏は即座に、新しい議論を始めた: 彼は、「ウクライナへの武器供与がゲパルト自走式対空砲だけにとどまらず、もっと多くの武器が供与されることを望んでいる」と語り、さらに、「軍需産業にはもっと多くのオファーがあり、レオパルド1戦車やマルダー歩兵戦闘車を提供できる可能性もある」と付け加えた。
緑の党の共同創設者であるユッタ・ディトフルト(Jutta Ditfurth) 氏はツイッターで、今回の州評議会の結果を「もはや緑の党には反軍事主義の少数派すら存在しない」と、総括した。かつてディトフルト氏は党内左派のもっとも著名な代表者として知られ、1984年から1988年まで緑の党の共同党首であった。彼女は、すでに1991年、緑の党が変換したことに抗議して辞職している。
少なくとも、緑の党の委員会の外では、党の好戦的な変身ぶりに対して抵抗なしでは、いられないことを、土曜日(2022年4月30日)に、ハンブルグ近郊のシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州アーレンスブルクで行われた選挙キャンペーンに、ベアボック氏が登場した時に示していた。警察の発表によると、およそ150人がタウンホールの広場で、この選挙キャンペーン・イヴェントを妨害しようとしたとのこと。彼らは、サイレンを鳴り響かせ、「戦争屋!」「うそつき!」と叫びながら、ベアボック外相を迎えたのである。
ひょっとしたら、ここで、あの慣例が復興されるのかもしれない:コソボ戦争に関わったヨシカ・フィッシャー氏は、何年もの間、イヴェント会場で罵声を浴びさせられ、「戦争屋」と罵られたものである。
– 翻訳おわり –
最後に
ガンジーが挙げた7つの社会的罪のひとつに”理念なき政治 (Politics without Principle)“という罪があるが、ドイツ緑の党の好戦的政策への転換は、これまでの理念を放棄した、理念なき政治への転換である、と言えるのではないだろうか。彼らは、党の創立者が理念として掲げていた平和・反軍国主義を、いとも簡単にポイッと棄てて、「紛争区域に武器供与することを支持する理由は、戦争に直面して、緑の党が責任を行使しているからだ」などと、エンプティーなレトリックを唱えて、彼らの好戦主義を正当化しているのだから。
以上
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【*訳注】ー1999年5月13日に開催された緑の党・党大会について
1999年5月13日、ドイツ西部のビーレフェルトにあるザイデンシュティッカー・ホールで開催された緑の党の党大会で、およそ800人の代表が集まり、ヨシカ・フィッシャー外相(緑の党)が支持する、NATOのセルビア攻撃にドイツが参加することに賛成するか否かの投票が行われた。投票は、444人が賛成し、318人が反対した、という結果であった。この投票は、ゲアハルト・シュレーダー首相が率いる社会民主党と緑の党の7カ月におよぶ連立政権の存続を脅かすような激しい緑の党内の内紛の末に行われものだった。およそ800人の代表は、「平和主義で築かれた政党が、NATOの戦争政策を支持できるのか、どうなのか?」とのジレンマと格闘した。
この党大会は、ドイツ緑の党がもはや平和主義の政党ではなくなった、ということを示唆する、緑の党のこれまでの20年間の歴史(1999年の時点で)における分岐点となった。
参考にした記事:
https/www.theguardian.com/world/1999/may/14/greenpolitics
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12103:220608〕
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