斎藤貴男・坂本雅子合作を読む -この衝撃を伝えなければ-
- 2022年 6月 14日
- 時代をみる
- 半澤健市日米同盟経済安保
本稿は、月刊誌『世界』(22年7月号)に掲載された斎藤貴男(さいとう・たかお)氏の論考を読者に紹介するものである。ベテラン・ジャーナリストによるこの文章は、日本における5月の「経済安全保障法」の成立と、その1年前に行われた菅義偉首相とジョセフ・バイデン米大統領による日米外交を扱う。斎藤氏の論考のタイトルは『経済安保の人脈と文脈 第2回 法成立 看過された議論』である。
《「経済安全保障法」と菅・バイデン外交の衝撃》
私(半澤)は、この一文に大きな衝撃を受けた。読者諸兄姉に是非読んで欲しいと願う。
斎藤氏の文章は雑誌8ページ、内容は濃密である。そして氏自身も強調しているが、文中に登場する経済史家坂本雅子(さかもと・まさこ)氏による日米外交の分析に強い説得力がある。坂本氏は今年4月21日に参議院内閣委員会に参考人として出席し上記分析を発表した。この委員会の動画はインターネットが視聴可能なので読者にはそれを見て頂きたい。
坂本雅子氏(名古屋経済大学名誉教授・経済史)は、学会中心で活動しており大手メディアで見る機会は少ないが、米日帝国主義の実証的研究者として第一級の存在である。
斎藤貴男氏は、(国会での坂本氏の発言が)「経済安保の核心にもっとも迫っていた」、「坂本氏の議論が、新聞をはじめとするマスメディア、ジャーナリズムに重視されていない現実が(私には)理解できない。私たちの置かれた状況は、それほどまでに切羽詰まっている。否、詰まらされている」と書いている。
動画映像は、22年4月21日の参議院内閣委員会の「国会中継」で視聴可能である。
しかし、YouTubeでみる限り、なぜか発言が消されたり画面が消えたり暗転したりする。意図的な視聴妨害だと思われる。全編を見続けるにはストレスを伴うが我慢して是非見て頂きたい。
《参院内閣委での坂本発表理解のために》
以下は、私(半澤)が斎藤論考の一部を書き直したものである。画面理解のためのつもりである。
坂本参考人はまず、(参考人発言として)配布してある報告書を読み上げた。〈一部抜粋〉
「今回の経済安保法案は、軍事面での日本の安全保障体制が新しい段階に入ったこと、その根本には、日本の重要な同盟国米国が軍事面と経済面で新しい戦略、中国との対抗を軸に据えた世界戦略を展開しつつあることを一体で浮上したものである」。
坂本氏はここで、二〇一〇年代後半以降のアメリカが中国を敵視した国防文書を次々に作成していること、特に一八年には戦争を前提とする機密の作戦文書までまとめていることを指摘。その流れにある宣言が、昨21年四月に訪米した菅義偉前首相と、ジョセフ・バイデン大統領による日米共同声明だったと強調した。
「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」と名付けられ首脳会談後の記者会見で菅氏が、「今後の日米同盟の羅針盤」だと自画自賛した声明に、「経済安定」の文言はない。が、以下の記述は今回の新法と見事に符号していた。
《参勤交代外交どころではない》
〈菅総理とバイデン大統領は、第五世代無線ネットワーク(5G)の安全性および開放性へのコミットメントを確認し、信頼に足る事業者に依拠することの重要性につき一致した。(中略)日米両国はまた、両国の安全および繁栄に不可欠な重要技術を育成・保護しつつ、半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携する〉
坂本氏は次のように語った。この部分は法案にある「基幹インフラ」に関わる制度に繋がる。「信頼に足る事業者」云々というのは、アメリカが二〇一九年に制定した国防権限法で、情報インフラから「ファーウェイ」など中国の主要IT企業五社を排除した事実と、日本も同調することを示している。
共同声明は軍事的な安全保障でも日米は新たな段階に入ったと表明していた。中国による既存の国際秩序と合致しない行動には、日米共同で反対し、台湾問題にも踏み込んだ。日米首脳間の共同文書に「台湾」と記されたのは、一九六九年以来五二年ぶりのことだった。
《バイデン来日の深い深い意味》
坂本氏のレクチャー(内閣委発言)から一ヶ月後の今年五月二三日、今度はバイデン大統領が来日して岸田首相と会談した。新しい共同声明「自由で開かれた国際秩序の強化」は冒頭から、〈今日、日米両国は、その歴史上かつてないほど強固で深いパートナーシップを確認している〉と謳う。
〈いかなる場所における国際法及び自由で公正な経済秩序に対する脅威も、あらゆる場所において我々の価値と利益に対する挑戦となることを確認する〉として、両国は一体だとアピール。可決・成立したばかりの(日本の)経済安保法にも言及があった。〈経済安全保障を強化するための更なる協力を追求していくことで一致した〉。
(中略)
バイデン氏が会談後の記者会見で、台湾で紛争が起きた場合の意思を問われ、「イエス、それがわれわれの責任だ」と明言したことが注目された。岸田氏も彼に、防衛費の「相当な増額」を確保する強い意思を表明するとともに、敵基地攻撃能力を含めた「あらゆる選択肢を排除しない」と伝えたという。
(以下略)
この後も斎藤氏文章は長く重要な指摘が続く。是非雑誌に当たられたい。(2022/06/09)
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