『朝日新聞』川柳欄への批判は何を意味するのか
- 2022年 7月 23日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子
わたしは、長年、短歌を詠み、かかわってきた者ながら、新聞歌壇にはいろいろ物申したいこともあり、この欄でもたびたび書いてきた。最近は、毎日新聞や朝日新聞の川柳欄をのぞくことの方が多くなった。
・疑惑あった人が国葬そんな国
・利用され迷惑してる「民主主義」
・死してなお税金使う野辺送り
7月16日の「朝日川柳」は「国葬」特集なのかな、とも思われた。短歌やブログ記事ではなかなか言えなかったことが、短い中に、凝縮されていると思った。
安倍元首相の銃撃事件について、「民主主義への挑戦」といった捉え方に違和感を持ち、さらに、全額国費負担で「国葬」を行うとの政府にも疑問をもっていたからでもある。こうした川柳をもって、安倍元首相や政府方針を「揶揄」したのはけしからん、ということであれば、安倍批判や政府批判を封じることに通じはしまいか。政府への「忖度」が、言論の自由を大きく後退させ、自粛への道をたどらせたことは、遠くに、近くに体験してきたことである。
大手新聞社やNHKは、たださえ、安倍元首相と旧統一教会との関係、政治家と統一教会との関係に、深く言及しないような報道内容が多い。もっぱら週刊誌やスポーツ紙が取材や調査にもとづく報道がなされるという展開になっている。テレビのワイド番組が、それを後追いするような形でもあることにいら立ちを覚える昨今である。
朝日新聞社は19日、J-CASTニュースの取材に対し「掲載は選者の選句をふまえ、担当部署で最終的に判断しています」と経緯について説明。「朝日川柳につきましてのご指摘やご批判は重く、真摯に受け止めています」と述べ、「朝日新聞社はこれまでの紙面とデジタルの記事で、凶弾に倒れた安倍元首相の死を悼む気持ちをお伝えして参りました」とし、「様々な考え方や受け止めがあることを踏まえて、今後に生かしていきたいと考えています」と答えたという。どこか腰が引けたようなスタンスに思えた。さらに7月22日には、重大な訂正記事が載っていた。上記「利用され迷惑してる『民主主義』」の作者名が編集作業の過程で間違っていたというのである。なんとも「シマラナイ」話ではないか。
二句目のの作者が、「群馬県 細堀勉」さんだったとの訂正記事があった(『朝日新聞』2022年7月22日)
また、今回のNHKの報道姿勢について、当ブログでも若干触れたが、視聴者団体「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は、7月19日、「犯罪捜査差の発表報道に偏せず、事件の社会的背景に迫る公正な調査報道を」とする要望書を提出した。番組のモニタリングから、容疑者の銃撃の動機についての解説や識者のコメント、安倍元首相の政治実績の情緒的な称揚、東日本大震災の復興政策、経済再生政策、安全保障政策において、事実と国民の意識とはいかに離反していたかの分析もない報道を指摘している。NHKはどう応えるのか。
NHKには「政治マガジン」というサイトがある。事件後の関連記事には、安倍元首相と旧統一教会、政治家と旧統一教会の記事は一本も見当たらず、もっぱら警備体制、国葬に関する記事ばかりで、7月19日号の特集では「安倍晋三元首相銃撃事件<政治が貧困になる>」と題して、政治学者御厨貴へのインタビュー記事が掲載されている。「戦後日本が築き上げてきた民主主義が脅かされていると同時に、今後の政治全体の調和までもが失われる深刻な事態だと警鐘を鳴らした」という主旨で、今度の事件は「民主主義への挑戦」とのスタンスを展開している。NHKよ、どこへゆく。
初出:「内野光子のブログ」2022.7.22より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12213:220723〕
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