SJJA& WSJPO【西サハラ最新情報】492 アルジェリア宣言に署名したマクロン仏大統領
- 2022年 8月 28日
- 評論・紹介・意見
- アルジェリア宣言サハラフランス平田伊都子西サハラ
2022年8月27日から28日にかけて、マグレブと総称される北アフリカのチュニジアで、日本が指導するTICAD8が開催されました。 そのチュニジアを始め、マグレブ諸国は西サハラとリビアを除き、モーリタニア、モロッコ、アルジェリアと、フランスの植民地でした。 なかでもアルジェリアは、熾烈な独立戦争でフランスから独立を勝ち取って以来、誇りと信念をもって、フランスと対等にわたりあってきました。
① アルジェの戦い:
被占領庶民が戦ったアルジェリア独立戦争がどれほど悲惨で過酷だった
か? 私たち日本の庶民には想像もつかない。が、幸い<アルジェの戦い>という1966年の名画が2014年にデジタル・リマスター版で観れるようになった。たかが映画とバカにしてはいけない。下記にてざっと紹介します。
―<アルジェの戦い(白黒映画)>.概要―
<アルジェの闘い>は、イタリアとアルジェリアの共同製作で、イタリア人ジッロ・ポンテコルヴォが監督し、5年かかって完成した。テーマは、1954年から62年にかけてフランス植民地のアルジェリアで起こった独立戦争で、元ジャーナリストのジッロ監督は目撃者や当事者の証言、残された記録文書をもとに、戦争の実体をドキュメンタリータッチでリアルに再現した。現存するアルジェリア首都アルジェのカスバでオールロケをし、主要キャストには実戦経験者を含む一般人も多数出演し、合計約8万人のアルジェ庶民が協力した。戦車、武器類はアルジェリア軍が調達した。マカロニウエスタンのエンニオ・モリコーネが音楽を担当している。1966年ベネチア映画祭でグランプリの金獅子賞を受賞した時、フランス代表団が「反仏映画だ」と怒り、退場したとか、、
―あらすじー
1957年9月末、アルジェリア独立闘争組織FLN(民族解放戦線)の掃討を目指すフランス軍第10空挺師団マチュー中佐は、FLN幹部アリのアジトを仲間の拷問で突き止めた。カスバのアパートにあるアリたちのアジトに爆弾を仕掛け、中佐は投降を呼びかける、、
その一年前の1956年6月20日10時32分、フランス人兵士が人の群がるカスバで、殺害される。それ以降、カスバを中心に白人入植者を狙ったテロが頻発した。フランス占領当局はカスバにFLNの拠点があるとし、住人やアラブ人を不法逮捕しては拷問し、FLN幹部やアジトの残忍な殲滅作戦を展開した、、
そして、(トップシーンに戻り)
マチューの呼びかけに答えないアリ。、アパートのビルから外へ追い出されたアルジェリア人民が祈りを捧げる中、マチューの合図で起爆装置が押され、アリたちは爆死してしまう。。カスバにいるFLNを壊滅させたと、空挺師団は思った。が、、
1960年12月11日。突然、反フランス政府のデモが勃発。「アルジェリア万歳!」と叫び自由を訴え、手作りの国旗を何千も作って掲げるアルジェリア人民が、何の前触れもなくアルジェリアの独立のために動き出した。そして、2年後の1962年7月5日、独立国家アルジェリア民主人民共和国が誕生した。
② マクロンの元植民地アルジェリア訪問:
「私は植民地時代を知らない世代だ」と開き直ったエマニュエル・マクロン・フランス大統領は、アルジェリアを「古いイデオロギーに固執した時代錯誤の軍事的政治組織が蔓延っている」とバカにしてきた。対するアルジェリアは、「信念と尊厳に礎を置く主権国家をバカにされる所以はない」と、2021年末に、駐パリ・アルジェリア大使を本国召還した。
とろが2022年2月にウクライナ戦争が勃発し、「同じ言葉を喋る兄弟じゃないか、、」と、マクロン大統領はロシアとウクライナの指導者を宥めようとした。が、不発に終わる。戦争が長引きヨーロッパ諸国の原油がひっ迫した5月、イタリアはアルジェリア産原油に、フランスに先駆けて唾を付けた。そして、仏大統領自らが、バカにしていた旧植民地に出かけることになった。プラグマティズムでご都合主義のマクロンはアルジェリア革命60周年を利用することにした。
2022年8月25日、政治経済音楽スポーツなど計90人の同行者を引き連れたマクロン・フランス大統領は、アルジェリア首都アルジェのブーメデイアン空港で、アブデルマジド・テブン・アルジェリア大統領に迎えられた。フランス大統領は大統領官邸でアルジェリア大統領と歓談し、アルジェ市を見下ろす独立記念搭の慰霊祭壇で黙祷した。<植民地時代を知らない世代>と嘯くフランス大統領は、革命記念搭の前にあるアルジェリア独立戦争博物館を見学したかな?。革命戦争の拠点だったカスバを訪れたかな?フランス大統領として、<知らない>はないでしょ!?
8月26日に、テブン・アルジェリア大統領とアルジェリア軍最高幹部は、マクロン・フランス大統領とフランス軍最高幹部に対峙した。アルジェリアがフランスから独立した1962年来、初めての対決だった。両軍は、未来の軍事協力について、話し合った。8月27日、両大統領は「関係更新のアルジェリア宣言」に、サインをした。様々な分野で、5項目にわたる行動計画が表明された。
そしてマクロンご一行は、アルジェリア最大の港湾都市オランを訪問した。西サハラ難民キャンプへの支援物資も、その大部分がオラン港で荷揚げされる。貿易と作家カミユと<ペスト>の舞台で有名だったオランは、6月25日から7月5日までの<地中海オリンピック>の大成功で爆発した。2024年パリ・オリンピックの成功を目論むマクロンは、同行させたスポーツ関係者とライ音楽やパリ・オリンピックから正式競技になるストリート・ダンスを楽しんだ。<ライ>の源泉は、オラン周辺のベドウィン(砂漠の人)がオラン訛りのアラビア語で歌う歌謡曲だ。
2022年8月27日、アルジェで、アルジェリア宣言に署名する
マクロン仏大統領(左)と、テブン・アルジェリア大統領(右)
③ マクロンのアルジェリア訪問を受けたモロッコの動き、西サハラの動き:
アルジェリア革命60周年のフランス大統領訪問を危惧するモロッコは、<王と臣民の革命69周年>なるものを創り、モロッコの存在をアピールし、サハラ(西サハラのモロッコ式呼称)の領有権を主張した。王の主張に対し西サハラ難民政府情報省は、「西サハラの法的地位は、UN国連、AUアフリカ連合、EUヨーロッパ連合、ICJ国際司法裁判所、ECJヨーロッパ司法裁判所などが独立国としている。モロッコと西サハラは別々の国だ」と反論した。
8月19日、西サハラ難民キャンプの大統領官邸で、ユベレ・リッシデ氏が、西サハラ・南アフリカ特命全権大使としての信任状を、SADRサハラウィ・アラブ民主共和国大統領ブラヒム・ガリに捧呈した。駐南アフリカ・西サハラ全権大使は、ムハンマド・ベイサット氏だ。8月24日、WFPアルジェリア支部が国連本部に、西サハラ難民キャンプの食料不足を訴えた。
モロッコは、マクロンがアルジェリア訪問で西サハラ支持を表明するのではないかと、心配した。そこでモロッコは同じ時期にアンナレナ・バーボック・ドイツ外務大臣をラバトに招待し、モロッコ支持の言質を取ろうとした・が、ドイツ外務大臣は、「国連の和平工作を支持する」と述べるにとどまった。
そんな中、チュニジアTICAD8首脳会議に参加すべく、ブラヒム・ガリ西サハラ難民大統領が4人の閣僚を伴って、チュニスの飛行場に降り立った。赤い絨毯が敷かれ、カイス・チュニジア大統領以下チュニジアの閣僚が出迎えた。TICAD8 (東京国際アフリカ開発会議) 首脳会議は、8月27日、28日だ。
8月26日、「モロッコはTICAD8に参加しない」と、モロッコ外務省が発表した。「分離主義者たち(SADR西サハラ難民政府)をチュニジア首脳が迎えるなどとは許しがたい」と、駐チュニジア・モロッコ大使を本国召還した。
フランスは1999年まで独立戦争を認めず、<北アフリカに於ける秩序維持作戦>と扱ってきました。 サハラ砂漠で開始した原爆実験も認めず、2009年になってやっと、作業員や兵士などの被爆被害者に補償を約束しました。
フランスとアルジェリアが署名した <アルジェリア宣言>の未来は、マクロン・フランス大統領の本気度にかかっています。。
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「サラー西サハラ難民アスリート」の出版情報です。
著者:平田伊都子、写真構成:川名生十、画像提供:アマイダン・サラー、SPS、
定価:本体1,800円+税、
発行人:松田健二、
発行所:株式会社 社会評論社、東京都文京区本郷2―3―10、電話:03-3814-3861
同じ「社会評論社」が出版してくださった「ラストコロニー西サハラ(2015年)」、「アリ 西サハラの難民と被占領民(2020年2月)」にも、お目を通してください。
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Youtube2018年7月アップの「人民投票」(Referendum)もご案内。
「人民投票」日本語版 URL :https://youtu.be/Skx5CP3lMLc
「Referendum」英語版 URL: https://youtu.be/v0awSc25BUU
Youtubeに2018年4月アップした「ラストコロニー西サハラ」もよろしくお願いします。
「ラストコロニー西サハラ 日本語版URL:https://youtu.be/yeZvmTh0kGo
「Last Colony in Africa] 英語版URL: https://youtu.be/au5p6mxvheo
WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名生十 2022年8月28日
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12332:220828〕
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