『DHCスラップ訴訟』「松の廊下事件」紹介 ー 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第206弾
- 2022年 8月 30日
- 評論・紹介・意見
- DHCスラップ訴訟
(2022年8月29日)
本日は、私の誕生日。夏の終わりの誕生日、誰も気にする人とていない、のだが、「お誕生日おめでとうございます」の便りが届いた。 はて? 私の誕生日を知る人とてないはずだが…。たよりの末尾に、「2014年のお誕生日とは違う、よい誕生日でありますように」という一文。ああ、この方、『DHCスラップ訴訟』を細かく読んでくださったのだ。
DHC・吉田嘉明から、私に2000万円の名誉毀損損害賠償請求の訴状が届いたのが2014年5月16日。その後当ブログで反撃に出たところ、2000万円の請求が6000万円に跳ね上がった。その、6000万円請求拡張記念日が2014年8月29日、はからずも私への高額な誕生日プレゼントとなった。
この方の読後感も、「松の廊下事件」に言及している。献本差し上げた方からの暑中見舞い・残暑見舞いの中のこの本の感想が面白い。私と妻のことを知っている人は、口を揃えて「東京高裁松の廊下事件」のくだりが一番面白い、とおっしゃる。それは、そうかも知れない。その一節の抜き書き。
✦東京高裁「松の廊下」事件
反撃訴訟結審の日のこと、思いがけない小事件が出来した。私の妻・政子の筆になる一文を記録しておきたい。
「閉廷します」と裁判官3名が正面扉の奥に消えると同時に私は素早く、傍聴席後ろにある出入り口の前に立った。
6年余り、1回も休まずこの裁判傍聴に通っていたので、DHC吉田氏側代理人の今村憲弁護士と会うのは、これが最後の機会と思ったからだ。今村弁護士は、判決の法廷には姿を見せないし、いつも法廷が終わるとさっと消えるように法廷を立ち去ることも知っていた。
いつもの通りそそくさと帰りを急ぐ今村弁護士の前に立ちはだかって、私は声を上げた。「今村さん、私は澤藤の妻です。今日で法廷が終わりなので、もうお会いすることもないでしようから、一言申し上げたいのです。…本当にこの6年間、大きな迷惑を被りました。こんな裁判の代理人をして、弁護士として恥ずかしくないのですか」と一気に言った。それに対して、今村弁護士は「ハア」と言いながら廊下に出ようとした。相手にしたくはないという感じ。
続いて私も廊下に出て、しつこいと思いながらも「こんな事件の代理人をして恥ずかしくないんですか」と、再び言い募った。すると今村弁護士は、「仕事ですから」とだけ言いながら、脱兎のごとく駆け出した。私は思わず追いかけた。「あなたは仕事ならなんでもするのですか」「こちらにはたいへんな迷惑ですよ」と大声で言いながら、東京高等裁判所の長い広い廊下を大の男が逃げ、小さな白髪の私が追いかける珍妙なことになってしまった。
おそらくこの人は、これまでこんな羽目に陥ったことが一度もないんだろう。でも逃げるんだから、きっとやましい思いはあるに違いない。そう思いながら追いかけた。弁護士が逃げるので同伴していたDHCの社員らしき人も必死について行く。
それを私がわめきながら追いかける。法廷から出てきた私の息子が、これもなにごとならんと追いかけてくる。思い出せば思い出すほどにおかしい。
今村弁護士も、きっと悪人じゃないんだ。他人には言えない事情があって代理人引き受けたんだろうなとは思ったが、それでもこんなことはやっちゃいけない。もう2度と、こんなみっともない仕事をすることがないようにと心から祈るばかり。
息子(澤藤大河弁護士)には忘れられない情景になったろう。どんな事情があろうとも自分は、こんな恥ずかしいことはするまいと心に刻んだに違いない。
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「DHCスラップ訴訟 」ースラップされた弁護士の反撃そして全面勝利
著者名:澤藤統一郎
出版社名:日本評論社
発行年月:2022年07月30日
≪内容情報≫
批判封じと威圧のためにDHCから名誉毀損で訴えられた弁護士が表現の自由のために闘い、完全勝訴するまでの経緯を克明に語る。
【目次】
はじめに
第1章 ある日私は被告になった
1 えっ? 私が被告?
2 裁判の準備はひと仕事
3 スラップ批判のブログを開始
4 第一回の法廷で
5 えっ? 六〇〇〇万円を支払えだと?
6 「DHCスラップ訴訟」審理の争点
7 関連スラップでみごとな負けっぷりのDHC
8 DHCスラップ訴訟での勝訴判決
9 消化試合となった控訴審
10 勝算なきDHCの上告受理申立て
【第1章解説】
DHCスラップ訴訟の争点と獲得した判決の評価 光前幸一
第2章 そして私は原告になった
1 今度は「反撃」訴訟……なのだが
2 えっ? また私が被告に?
3 「反撃」訴訟が始まった
4 今度も早かった控訴審の審理
5 感動的な控訴審「秋吉判決」のスラップ違法論
【第2章解説】
DHCスラップ「反撃」訴訟の争点と獲得判決の意義 光前幸一
第3章 DHCスラップ訴訟から見えてきたもの
1 スラップの害悪
2 スラップと「政治とカネ」
3 スラップと消費者問題
4 DHCスラップ関連訴訟一〇件の顛末
5 積み残した課題
6 スラップをなくすために
【第3章解説】
スラップ訴訟の現状と今後 光前幸一
あとがき
資料(主なスラップ事例・参考資料等)
https://nippyo.co.jp/shop/book/8842.html
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.8.29より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=19848
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12335:220830〕
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