中央委員の選挙はどのように? ― 中国共産党大会を考える 7
- 2022年 10月 26日
- 時代をみる
- 中国共産党田畑光永
中國共産党の第20回大会は22日に閉会した。最終日のメイン・イベントは第20期の中央委員とその候補委員、それに中央規律検査委員会の委員の選挙であった。
そして前者では205人の中央委員と171人の候補委員が選出され、後者では133人の規律検査委員が選ばれた。これらの委員は任期の5年間、つまり2027年の次期大会までその地位を保つ。
中央委員とその候補委員は9600万人の党員の代表であるが、日本の国会議員のようにそれ自体が職業ではなくて、それぞれが本職ともいうべき仕事を持つ。といっても、この人たちは各地の党委員会の書記(この地位はその単位のトップを意味する)とか、行政機関のトップとか、大学や研究機関の学長や所長といった重要な仕事を担う。
規律検査委員というのは、もっぱら汚職に目を光らせる人たちである。汚職取り締まりには国の機関として国家監察委員会というのがあるが、この2つは一冊の本の表裏の表紙のタイトルのような関係で、規律検査委は共産党の委員会という看板だが、その実体は国の検察機関といった関係である。
さて、中国共産党で中央委員会の上にある機関は中央政治局(24人)と、そのまた中枢の中央政治局常務委員会(7人)の2つの機関だけである。そのメンバーは中央委員会が選挙で決定する。つまり中央委員会というのは、自分たちは全党員の代表から選ばれ、自分たちは最高機関のメンバーを直接選出するというきわめて重要な集団である。
と、ここまでの説明で、ちょっと待てよ、という疑問が生じないだろうか。大会代表には2300人近い人数がいて、それが中央委員とその候補委員、合わせて400人近い人を選出するのだ。落選者もいるはずだから、投票する候補者は400人より多いはずだ。
つまり2300人が約400人の候補者から自分の意中の人を選ぶわけである。しかし、2300人も400人も全国から集まっているわけだから、お互いに知っている人間はほとんどいないだろう。それで選挙になるのだろうか。
地域別に選挙すればいいではないか、という議論もありうるが、中央委員と候補は得票数が意味を持ち、中央委員候補は中央委員に欠員が生じた場合、選挙の際の得票の多かった順に候補から正規の委員に繰り上げ当選することになっているから、地域別に投票したのでは順番がつけられなくなってしまう。
中国を長年、見てきても、じつはこういう簡単なことで分からない、知らないことが多い。勿論、そんなこと知ってるさ、という人も多いだろうが、恥ずかしながら、私は今まで知らなかった。
ところが今大会の最終日、22日の新華社電が「新中央委員会および中央規律検査委員会誕生記」という記事を配信した。それによって疑問の一部は解消したので、今回はそれを紹介したい。というのは、選挙といっても、中國ではこんなことをするのか、と驚いたからである。
記事によると、今次党大会の約2年前、2020年の年末、習近平総書記と党中央は早くも今次大会の2つの委員会の人事上の全体的準備に入った、という。そして翌21年、つまり昨年の3月、習総書記と共産党中央は「20回党大会幹部考察指導小組」というのを立ち上げ、習総書記自らがその組長に就任した。
そして6月には党中央政治局常務委、同政治局の会議で「第20期(つまり今回の大会で決定する)『両委員会』(中央委と規律検査委)の人事工作に関する意見」が採択された。
7月には「第20期『両委』人選考察総体法案」なるものによって、その具体案が決まった。ところで、ここまでに「考察」という単語が出てきて、なんのことかと首を傾げた方も多いと思うが、ここでは日本語の「選抜」という意味に近い。つまり「両委人選考察」というのは中央委、規律検査委の委員にする資格のある人間を選ぶことなのである。
党大会における人事の選挙とは党員の中から出てきた役職候補者を党員の代表が選ぶもの、というのがわれわれの理解だが、中国の場合、その候補者を党のほうでまず選抜するのである。そこがこの選挙のミソである。具体的にどう進められたか。
2021年7月末、党中央は45の「考察組」(選抜班)を3グループに分けて、31の省、区、市、124の党と国家の機関、中央金融企業、在北京中央企業に派遣し、また中央軍事委員会は8つの「考察組」を全軍25の軍事委員会と大きな機関に派遣して選抜にあたった、という。
選抜の基準といえば、当然のことながら、習近平総書記の党中央の核心、全党の核心としての地位を断固として守り、党中央の権威と集中的統一指導を断固として守り・・・・・と、党員として優等生であるか否かである。
選抜の基準が「忠実な党員」であることには驚きはないが、驚いたのはその選抜の対象となった人数である。一般的な地方の省、区、市に赴いた「考察組」は毎組1400人余り、中央や国家機関では1万人近い数の人間と面談したという。
そして最終的な決定は「20回大会選抜指導小組」で5回の会議を重ね、党の最上級機関である中央政治局常務委員会も7回、報告を聞いたそうである。
こうした作業の結果、今年9月7日に中央政治局常務委員会が総合的な判断として「第20期『両委』人選提案」をまとめ、同29日、中央政治局会議が「第20期『両委』候補者予備人選提案名簿」を決定、という運びとなった。
興味深いのは、こうして選ばれた候補者たちが、本番の党大会では1割弱くらいが、落選することだ。
中央委員選挙では候補者222人、当選205人、落選17人(8.3%)、中央委員候補では候補者188人、当選171人、落選17人(9.9%)、中央規律検査委員では候補者144人、当選133人、落選11人(8.3%)というのが最終結果である。
はじめに書いたように、私はこの選挙の方法が分からなかったのだが、要するに候補者を決めるのは党本部で大会出席者はその信任投票に1票を投じるだけである。
民主は国によってそれぞれ違うのだ、というのが、民主についての最近の中国の決まった言い方であるから、これについても、「なるほど、こういう選挙ですか」としか言いようがない。
それにしても、昨日の(6)で取り上げた、最終日、採決前に強引に退席させられた胡錦涛前総書記は、議席にいたら習近平の威信強化がもりこまれているという党規約改正案(のはず)にどういう態度を示したか(採決は投票でなく、挙手だった)知りたいものだ。
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