津波と原発の被災地の村と浜から―「水産特区」反対の動きが広がる 「漁業権と浜の集落は一体」
- 2011年 7月 31日
- 時代をみる
- 大野和興水産特区
村井宮城県知事が提唱し、首相の私的諮問機関である東日本大震災復興構想会議が提言で明記、国の政策に盛り込まれることになった「水産特区」に対し、批判が高まっている。
漁業協同組合の全国組織である全国漁業協同組合連合会(全漁連)は今月6日「水産特区反対の」の緊急集会を開き、水産得反対を決議した。集会には全国の漁業者ら約230人のほか、自民党の石破政調会長、共産党の志位委員長ら野党幹部も出席、反対に同調するあいさつを行っている。民主党からは農林水産部門会議の佐々木隆博座長も出席したが、「皆さんの思いを政権幹部に伝える」と述べるにとどめたと、新聞報道は伝えている。
宮城でも県漁連はもちろん反対だが、民間団体も動き出している。7月3日、石巻市の石巻専修大学でみやぎの漁業の未来を考える県民のつどい「『水産特区・漁業権をめぐる問題』でのシンポジウム」が開かれ、「水産特区を撤回させよう」というアピールを出した。主催は東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センターで、学者、弁護士、消費者、それに漁業関係者ら400人が参加した。
シンポでは法律家の立場からセンター世話人の庄司捷彦弁護士が「漁協の意志、意向を無視した特区の提案に漁業者の怒りが強まっている。課題山積の中、水産県宮城を多面的に考え、水産復興の道筋を探りたい」と述べた。
元山形大教授の綱島不二雄さんが、村井嘉浩知事の特区構想について問題提起し「民間企業への漁業権の開放、漁港の集約というが、民間企業が入らないと、水産復興が動かないというのはおかしい。小さい浜で漁が再開できる仕組みを早急につくるべきだ」と指摘、「漁村は家族が役割分担して成り立っている。漁村が崩壊し、漁業権が消滅する。海は国民のもの。漁民が生き生きと働くことで浜は守られる。漁業権を守ることの大切さを確認してほしい」と強調した。
基調報告した県漁協の木村稔経営委員会会長は、「一部漁業者の同意があるからといって、漁場の調整・管理を企業に委ねた場合、漁場の一元管理は崩れ、安定した生産の維持は難しい。企業は魚価の低落で採算に合わないと撤退する。復興は企業のためではない。50年続いた漁業の復興策として、漁協が漁場の一元管理をし、流通、加工業者、漁業者が連携する枠組みをつくる必要がある。何とか特区を阻止したい」と力説。
水産加工業、消費者などの代表4人も、それぞれの立場で特区をめぐる問題で意見を述べた。
地域でも反対の動きだ出ている。その一つ、津波で壊滅的打撃を受けた女川町では、5月中下旬に復興をめぐる公聴会を開催している。漁港の集約化を提示する町長に対し、ほとんどの地域で、「漁港はこれまでの形で復興し、集落を再建したい。集落と漁業権は一体のものであり、それを企業に開放することは、地域に暮らし、働く住民の生存権を否定することになる」、という意見が出された。
大野和興の「農業資料室」より、著者の許可を得て転載
(http://www.the-journal.jp)
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