くらしを見つめる会つーしん NO.222から 2022年10月発行
- 2022年 11月 4日
- 交流の広場
- 村山起久子
人には言えない話
母は、80歳を過ぎた頃から認知の面でやや気になる言動が増えてきた。デイサービスを勧めたが行きたがらない。どうやら尿漏れ便漏れが頻繁になってきて外出が億劫になっていたようだ。世は高齢化社会。TVや新聞でも尿漏れ用パンツやパットの宣伝が当たり前になってきた。しかし、母にすれば尿漏れ・便漏れは秘め事であり、便利グッズを使う術も知らなかった。
そこへコロナがやってきた。他県に住む母とは会う機会も減り、私は母の悩みに応えられなくなっていった。なんとか近くに住む弟夫婦の奮闘で、母はデイサービスに通所するようになった。心配とは裏腹に母はデイの日を楽しみにするようになっていたが、突然「行きたくない!」と言い出した。原因は入浴サービス。この騒動で、母の股間からは卵ほどの子宮が飛び出していたことが分かった。それを浴場で人に見られたくなかったのだ。母は自分の体に何が起こっているのか人に言うことも聞くこともできず、ただただ日々出にくくなる尿、突然漏れる尿・便、飛び出したまま引っ込まなくなった卵のようなもののことで苦しんでいたのだ。
母の症状は『骨盤臓器脱』。骨盤内には膀胱、子宮、直腸があるが、それらをハンモックのように支えてきた骨盤底筋が弛緩して、臓器が膣から突出する病気だ。進行すると排尿便の不具合だけでなく、腎不全になることもある。実はこの病気の前兆である『尿モレ』は、高血圧の人よりも多く、女性の35%にある症状だそうだ。そして、米国では女性の11.1%が骨盤臓器脱で治療手術を受けているそうだから、日本に換算すると350万人が骨盤臓器脱になる可能性があることになる。原因は妊娠・出産・肥満・更年期・加齢による骨盤底筋の緩み・損傷。だから誰でもなりうるのだ。母のような高齢者だけではなく、出産時の骨盤底筋の損傷で直後から臓器脱で苦しんでいる人、産後のスタイルを気にして腹を締め付けすぎて臓器脱になった人、中高年で臓器が下がってきているのに腹筋運動をしすぎて臓器脱になる人もいるそうだ。生活の質に大きく関わる疾患にもかかわらず、日本では病気という自覚も認知度も低い上に、気軽に人には言えない話だけに我慢の限界まで我慢してしまう人が多いようだ。
母のことがあって、この疾患について検索中、骨盤臓器脱元患者の会『ひまわり会』を見つけた。病気や治療方法の情報が得られる上に、元患者ならではの悩みへの共感や、多くの人に正しい情報を届けたいという使命感が感じられる充実したHPだ。人には言えない話を話せる場にしようと定期的な電話相談や講座、勉強会もずっと続けておられる。先日、30歳代から骨盤臓器脱に苦しんでこられた方の体験談を聞く機会があった。「無知と過信は禁物」「自分が自分の身体を大切に」「最適な治療を受けるためにきちんと調べて」と訴えておられた。まだまだ女性泌尿器科も少なく、医師の間でも正しい情報が共有されていない。しかし患者は大勢隠れているのだ。あたりまえに話ができるようになることが、大事ではないだろうか。
(ミチコ)
・・・中略・・・
♪こんな本いかが?
千代田区一番一号のラビリンス 森達也著 現代書館
天皇夫妻の日常とはどのようなものか、小説という形で書かれた本著。原発問題を直訴しようとした山本太郎さんなど実在人物も多数登場し、天皇についてのそれぞれの思い、歴史的事実も多く語られるので、どこまでが事実かと興味津々。主人公である『森克也』が、「天皇に会いに行く」ドキュメンタリーを作ってTVで放送しようと試みる中で、何がタブーになり、何が人々を委縮させるのか。天皇の戦争責任に対する苦悩、沖縄への思い、水俣病やハンセン病、原発被災者に心を寄せた行動・・。登場人物が語る言葉に共感し、驚き、歴史を含め様々考えさせられる。重いテーマでありながら話の展開が面白く、引き込まれる。本著の購入を拒む図書館も多いようだが、亀岡市立図書館はリクエストして読むことができた。
〈編集後記〉
安倍元総理の国葬儀当日、私は京都の国葬反対デモに参加しました。京都市役所前に集まったのは220人ほど。河原町通りを太鼓など鳴らしながら「国葬反対!」と歩くデモに、沿道から若い人が何人も手を振ってくれました。一方、「当日にデモをするのは死者を悼む人に失礼ではないか」という意見も聴きました。通常の葬儀ならその通りですが、デモに参加している人たちは個人の『葬儀』にでなく国がする『国葬』に反対しているのです。死者を利用し冒涜しているのは国葬を強行し、人々の思いを分断させた政府。当日に何も抗議をしなければ、国葬が際立ち、反対の意思も薄められてしまいます。国葬は、弔砲、海ゆかば等・軍歌の演奏、ズラリと真ん中に整列する自衛隊員と、極めて軍事色の強い、戦前回帰を思わせるものでした。
重要なのはそのような国葬の「後」です。安倍元総理の下で強行採決された安保法を根拠に台湾有事を煽り日本が米軍の手下となって戦争に加担していく、防衛費を増大させ福祉や教育、庶民の暮らしを削る、統一教会問題を曖昧にして終わらせる・・など、国葬によって安倍元総理を神格化させ、彼の数多ある負の遺産、罪にフタをさせてはなりません。3年間国政選挙はないものの、政治に意見を伝える手段は多数。デモやSNS、TVや新聞、自治体や国に意見を伝えるなど、一人ひとりが暮らしを守るために行動していくことが大切と思います。(きくこ)
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