ミャンマー、最新の軍事情報から
- 2022年 11月 10日
- 評論・紹介・意見
- ミャンマー野上俊明
軍事政権がこの9月以降拡大させている空爆作戦は、民主派武装勢力のみならず一般市民にも大きな損害を与えている。国際的な武器支援、わけても対空兵器の支援なくして、このまま民主派勢力は戦い続けられるのであろうか。独立系地元メディア各紙は、世界世論も関心を寄せているこの点について特集している。本日はその一班をご紹介し、軍事政権打倒に向けた、ミャンマー国民の不屈の闘争精神を感じ取っていただきたい。
<激化する空爆への対抗―対空兵器の供与なしで戦えるのか>
「ラジオ・フリー・アジアRFA」(10/18)※によれば、スティムソン・センターの報告書は、2.1クーデタ以降、今までに12,000〜15,000人の国軍兵士が死亡した可能性があるとしているという。さらに数千人の兵士や警察官が離反したと考えられており、人員面での国防治安部隊の弱体化はもう取り繕いようがない。しかも戦場は同時多発的に全土に広がっており、歩兵派遣で対応するには追いつかない規模になっている。
そのため9月以降、軍事政権は地上戦での連続的な敗北から戦略的な方向転換を策し、ジェット戦闘機や武装ヘリによる空爆撃や砲撃に重点を置きだした。これは「殺し、焼き、破壊する」一種の焦土作戦で、民主派勢力の部隊だけでなく、一般民間人も無差別に標的にしている。これにより、36,000戸以上の家屋が焼失し、少なくとも100万人が家を失い、2,000人以上の市民が死亡したといわれている――これは治安弾圧による都市部での犠牲者2,300人余りとは別であろう。
特に反政府武装勢力が強力な拠点を築いているザガイン管区、ラカイン州、シャン州、カチン州、カレン州、カレニ―州などでは、被害が広がっており、民主派武装勢力にとって打開すべき重要な戦略上の隘路になっている。既報のように、9月16日、サガイン管区ディペイン郡区では授業中の学校にヘリから機銃掃射や80名の地上部隊の包囲発砲により子供11名死亡、15名行方不明という甚大な犠牲者を出した。また10月24日、国軍はミャンマー北部のカチン族支配地域で行われていたカチン独立機構(KIO)設立62周年を記念したコンサート会場(参加1000名以上)をジェット機で夜間空爆、その結果、死者66名、負傷者100名以上を出すという大惨事となった。
※https://www.rfa.org/english/news/myanmar/airpower-10282022131143.html
中国やロシア供与の空軍装備による攻撃 RFA
国際世論の大方は、ウクライナに供与されている、対空携帯兵器のせめて百分の一でもミャンマーの民主派勢力の手に渡れば、戦局の大転換を図れるのにと、歯ぎしりする思いでいる。しかし西側諸国はウクライナ支援で手一杯、ミャンマーで第二戦線を開く危険を冒すことができない。また域内での自力解決のそぶりを見せているアセアンを無視する訳にもいかない。それ以上に厄介なのは、中国の影がちらつくことである。中国からの軍事援助で最強の軍隊にのし上がった「ワ州連合軍」(旧ビルマ共産党系)など、中国と国境を接する辺境地域のいくつかの少数民族武装勢力を中国は囲い込み、自らの地域戦略の道具として使えるよう手当に余念がない。ことほど左様にロシアや中国は陰に陽に軍事政権を後押ししているのに――ロシア製の無人航空機や中国製のK-8攻撃機・輸送機が供与された――、ミャンマーの民主派勢力は孤立無援で戦わざるを得ない、まことに不公平極まりないではないか。
英国に本拠を置く防衛情報企業ジェーンズ社のアナリストによると、ミャンマー空軍は100機以上の戦闘可能な航空機を保有しており、さらに多くの航空機の取得を目指している。ミャンマーは今年初め、より高性能のスホーイSU-30SM戦闘機2機をロシアから受け取っており、さらに4機がまだ納品されていないというのだ。しかし軍事アナリストの多くは、対空兵器なしでも対抗する方法はあるとしている!先のRFAの記事によれば、ロシアによる支援はそれ自体に脆弱性があるという。ロシア軍はウクライナ戦争においても、半導体はじめ自らの航空装備の備品調達にさえ困難をきたしている。だから頻繁に故障するヘリコプターのスペアパーツを提供するロシアの能力は、極めて限られているというのだ。
カチン州パカン郡区セージン村―空爆と地上焼き討ちで甚大な被害 イラワジ
さらに別の軍事アナリストは、「反乱軍が航空資産を破壊する最良の方法は地上だ」と述べたという。どういうことであろうか。その一つは、「ドキシング」という手法。航空機のパイロットの自宅住所を公開して、テロ攻撃の標的とすること。もう一つは、航空機に不可欠の補給、わけてもジェット燃料がミャンマーではトラック輸送で行われているので、その脆弱性を突くという作戦が有効だという。
この点では、国際人権団体のアムネステイ・インターナショナルが、ソフトパワーを発揮している。同団体は、民間機用のはずの航空燃料が、民間人を攻撃するミャンマー政権の航空機に転用されていることを調査、暴露、報告している(イラワジ 11/4)。
――2021年2月から2022年9月中旬にかけて、ヤンゴン近郊のティラワ港に陸揚げされた航空燃料8本を追跡調査したものである。アムネスティは、この貨物は石油大手プーマ・エナジーのミャンマー子会社と、政権支配下の企業であるナショナル・エナジー・プーマ・アビエーション・サービス(ネパス)との合弁会社が取り扱い、保管、流通させているもので、その一部の貨物は軍事基地とつながりのある保管庫に送られたという(以下のフローチャート)。
この件につき、先月ミャンマーからの撤退を発表したプーマ・エナジー社は、「特定のネパスの空港施設で軍が強制的に燃料を要求しているという報告を知った」と述べたという。その他、アムネスティは、ペトロチャイナが100%出資するシンガポール石油、ロシアのロスネフチ、タイ石油、エクソンモービルの4社が航空燃料の供給で重要な役割を担っており、人権侵害につながると指摘したという。
アムネスティは、輸入航空燃料がなければ、軍事政権の空爆も不可能になるので、サプライチェーンに関わるあらゆる業者に事業から撤退するよう要請したという。戦争こそ最大の人権侵害であり、最大の自然破壊である、この闘い方は他も見習うべきであろう。
<元空軍将校や軍事専門家も証言>
同じような特集を、このたび軍事政権から発禁処分を受けた独立系メディア「イラワジ」も組んでいる(11/3)。
――ハワイのアジア太平洋安全保障研究センターのビルマ系アメリカ人教授で元米陸軍中佐の ミーミーウィン・バード博士は、次のように語っている。
「空爆には費用がかかります。 出撃ごとに、使用する弾薬の種類に応じて 20 万ドルから 35 万ドルの費用がかかります。政権の悲惨な財政的および経済的状況を考えると、そのような費用のかかる攻撃をいつまで維持できるかという疑問が生じます」
さらに、「空爆を妨害する方法は、航空機を空から撃つ以外にもたくさんあります。航空機が飛ぶためには、パイロット、燃料、部品、車輪、滑走路などが必要です。これらの要素のいずれかが破壊されれば、航空機は飛べなくなる。燃料や部品はどこからか供給され、運ばれてくる。いつ、どこから供給されたかを知ることは、サプライチェーンの脆弱性を知る手がかりになります。レジスタンス連合軍は、対空ミサイルを待つ必要はありません。綿密な計画を立てれば、抵抗勢力はこれらの航空機を混乱させ、飛行を阻止することができます。私は、ミャンマー人の創意工夫と能力を信じています」と。
空軍の脱走将校ザイトゥアウン氏 ビルマ系米国人将校 Dr. ミーミーウィンバード イラワジ
また空軍の脱走将校であるザイトゥアウン氏によれば、軍の柱は陸軍であり、陸軍が崩壊すれば、空軍や海軍はそれ自体では何もできない。軍事政権は、兵力が不足し、地雷攻撃や待ち伏せに直面しているため、反政府軍基地を奪取するための地上攻撃を行えなくなっている。ではアメリカがベトナムでとった兵法―近接支援や歩兵部隊との共同作戦、歩兵部隊の大量移送―はどうかというと、物量に限りがあるので不可能。そうすると、ロシアンスタイルのインフラ破壊、無防備な民間地域の残忍な無差別爆撃方式をまねるほかない。
ザイトゥアウン氏のアドバイス――私たちが対空兵器を入手するのは容易ではないので、政権側の苦しみを最大化するための【さまざまな】方法を戦略的に考える必要がある。中国空軍のパイロットの一団を訓練のために中国に派遣した後、中距離戦闘機FTC-2000Gを中国に注文した。私は国際社会に対し、FTC-2000GdやSu-30ジェット戦闘機を含む新しい航空機のミャンマーへの納入を停止させるための支援を(国際社会に)強く求めるのである。
<最大の武器―ドローン攻撃>
カチン州、カレン(カイン)州、カヤ―州、ザガイン管区など反政府武装勢力が支配する地域での戦闘で際立っているのは、ドローンによる攻撃の成功である。2021年9月、国民統一統合政府(NUG)が「空軍」air forceを結成したと発表したとき、民主派支持を自認する人々も、誇張したプロパギャンダのひとつくらいに思い、まじめには受け取らなかったのではなかろうか。それから1年余、事態はどう変わったであろうか。
独立系地元メディア「Myanmar Now」10/26は、「ミャンマーのレジスタンス『空軍』、政権との戦いで大空を舞う」と題して、特集記事を組んでいる。以下、簡単に紹介しよう。
https://myanmar-now.org/en/news/myanmars-resistance-air-force-flies-high-in-fight-against-
中型ドローンを駆使するフェデラル・ウィングスのメンバーたち( Facebook)Myanmar
10月1日に発表された声明で、フェデラル・ウィングス(「連邦の翼」NUGの新生空軍の名称)は、カレン州のワウレイ、カインセイクギ、カワカレイクの各町村で実施した89回の無人爆撃で計48人の政権関係者を殺害したと主張している。直近では、ザガイン管区アヤードゥ郡区で、PDFによるドローン攻撃で、国軍兵士15名死亡、20名以上負傷という戦果を挙げている。多くの人民防衛軍(PDF)グループには、NUGの指揮下にあるものもあれば、より自律的に活動しているものもあるが、いずれも軍事政権との戦いのためにドローンを採用しているという。
ドローン攻撃は、標的に直撃しなくとも、敵はこれから起こるであろう攻撃を心配せざるを得なくなり、精神的に疲弊していく。ある意味、心理戦の効果を持つ。このことに気づいたのであろう、8月、ミンアウンライン最高司令官もドローンの過小評価を戒め、十分警戒するよう内部通達を出したという。その3週間後、政権は記者会見で、複数の軍事基地にシグナルジャマーと対ドローン兵器の設置を始めたと発表した。
新しい動きもある。ザガイン地方のミャウン郡区にある「T.G.R Women’s Drone Force」は、爆弾の製造を行ない、それを軍基地や親軍派に投下する特別製の無人機の操縦を行う女性だけの部隊である。国軍もまた無人航空機を飛ばして、EOIR(電気光学・赤外線)システムによる暗視・監視を行いながら、ターゲットを監視している。こうした近代的な探索システムをかいくぐって敵を攻撃するには、今やあらゆる知恵と力を結集した総力戦で立ち向かわなければならなくなっている。
しかしそれにしても孫子の兵法の正しさに感心するばかりである。「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」というが、ミャンマー軍にしてもロシア軍にしてもその反対で、敵を侮り、味方を過信したがために、手痛い敗北を喫しつつある。現場が事実や実際に即して問題点をくみ取り、それを上部へとフィードバックし、上部はそれを解決すべき課題として組み立て直して、下部へ命令として伝達する―こうした情報と指揮命令の組織循環が活発に行われる組織は、たとえ失敗してもすぐに立ち直ることができる。それに反し、近代的な信念体系や合理的思考、人権という観念が欠如している場合、疑似宗教的な使命感―その実、野郎自大なうぬぼれと慢心―を肥大化させ、幹部団の能力不足を下部の責任に転嫁し、下部に多大な犠牲を背負わせるということになる。まさにウクライナ戦争におけるロシア軍や、ミャンマー内戦における国軍のありさまである。「戦争は別の手段をもってする政治」と断じたクラウゼビッツを待つまでもなく、戦時も平時も組織の真実においては変わるところはないのである。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12530:221110〕
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