青山森人の東チモールだより…国家予算案に激しく怒る学生たち
- 2022年 11月 24日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
東チモールの人口は約133万人
今年9月4日から10月5日にかけて行われた国勢調査の暫定結果として、東チモールの人口は132万9809人と発表されました(『タトリ』、2022年10月18日)。調査終了から一か月以上たっても正式な発表がまだされていませんが、とりあえず今のところ東チモールの人口は約133万といってよいでしょう。
東チモール、ASEAN加盟へ
11月11日、カンボジアのプノンペンで開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議において東チモールが加盟することで「原則合意」「基本合意」したと日本でも報じられました。これを報じる文章は、「合意」ではなく「原則合意」または「基本合意」という表現を使用しています。「合意」と「原則/基本合意」はどう違うのか、また加盟時期が来年か?2~3年後か?具体的に決まっていないのが気にならないでもありませんが、1999年カンボジア加盟以来、東チモールが11番目のASEAN加盟国となることは確かなようです。正式に加盟するまで東チモールはオブザーバー資格で会議に参加することができます。
東チモールの加盟に「原則/基本合意」した理由について各報道機関は、中国とアメリカが対立するなかで東南アジア地域内における大国の綱引きが激しくなる状況にASEANは危機感を抱き、この事態にたいして10ヶ国から11ヶ国体制に拡大して国際的な存在感を高めて対応していこうという背景があると報じています。
東チモールの加盟がはたしてASEANが憂慮する事態に対応するだけの効果があるのか、つまり東チモールの加盟がASEAN体制拡大あるいは存在感の高まりに結びつくとは直観的にピンときません。もし「危機感」が理由ならば、ASEANはさっさと東チモールに加盟してもらい11ヶ国体制に拡大すればよさそうなものです。
それよりもASEAN首脳会議が東チモールの加盟に「原則/基本合意」したのは、ひとえに東チモールのコツコツとした外交努力の賜物としてではないでしょうか。もうそろそろ東チモールを仲間に入れてもいいのではないか、インドネシアもそういっていることだし…とASEAN加盟国の意見が一致したのではないでしょうか。
東チモールのASEAN加盟について数ある記事の中で(インターネットで見たかぎりではあるが)、「東ティモール ASEANに平和を呼べ」というタイトルを付けた『東京新聞』の社説は東チモールの役割に焦点をあてたという点で他社とは別物でした。『東京新聞』は、東チモールを「長年の民主化運動で独立を勝ち得た歴史を持つ」国として捉え、東チモールのASEANへの「仲間入りは、軍事クーデターで民主政権が倒された加盟国ミャンマーの正常化への働き掛けにも生きるのではなかろうか」、「民主的に平和を希求する同国のありようが、ミャンマー国軍を動かす理念的なテコになるよう願う」と、東チモールによる積極的な役割に期待を寄せているのです。このような文章は東チモールの「ありよう」について一定程度の知識を身に着けないと書けないと思います。そうでないと東チモールのASEAN加盟について記事を書こうとすれば、東チモールの表面的な表記とASEANと大国の綱引きの関係を書くことに逃げざるを得ないのですが、『東京新聞』はそうなっていないことに共感を覚えます。
東チモールが悲劇を乗り越え、平和の使者として世界に翼を広げることで東チモールが自らの閉塞感を打破することができるとわたしは期待します。
2023年度国家予算案、国会を通過
11月7日(月)、2023年度の国家予算案の審議が国会で始まりました。11月9日(水)、まず予算一般案について採決され、賛成40票・反対ゼロ・棄権票が24、賛成多数で可決されました。その後、修正案を含んだ分野ごとの審議に入り、修正を盛り込んだ最終案が11月17日(木)に採決、賛成42票・反対21そして棄権が2、賛成多数で総額31億ドル6000万ドルの2023年度国家予算案が国会を通過しました。
反対票の21という数字はシャナナ=グズマンを党首とする最大野党CNRT(東チモール再建国民会議)の議席数と一致します。可決された予算案は大統領府へ送られ、大統領の判断を待つことになります。シャナナ=グズマンを後ろ盾とするラモス=オルタ大統領がこれを発布するか、来年実施される議会選挙を見据え拒否権を行使して対決姿勢を濃厚にするか、注目されます。
学生による抗議活動から逮捕者がでる
「国民マウベレ連盟」という学生団体は、10月21日、同月の初旬に国会議員のために30台の公用車と65台のラップトップ型パソコンの購入費用を2023年度国会予算に計上することを国会が決めたことにたいして、大半の国民は栄養不足や無職の状態に置かれて貧しく、保健・教育制度の質が依然として低い状態にあるのに、国会議員のために贅沢な公用車購入は認められないと、反対する声明を発表しました。
2023年度国会予算案の国会審議が11月7日に始まると、国会の駐車場から国会議員の公用車が出れば、そこはもう東チモール国立大学の正面でもあることから、抗議活動をする学生たちの罵声が待ち受けています。
11月7日の時点では国会は新たな公用車購入の姿勢は崩しませんでした。ところが国会が予算の修正審議に入ると、11月11日、アニセト=グテレス国会議長は学生たちの訴えに耳を傾け、公用車購入をキャンセルしたいと述べました。そして採決の結果、キャンセルに賛成が38票、反対1、棄権が20、賛成多数で30台の新たな公用車購入がキャンセルされたのです。
このことに勢いをつけたのか、あるいは公用車購入がキャンセルされたことをまだ知らなかったのか、11月12日、モタエル教会からサンタクルス墓地への行進の道中、若者たちがシュプレヒコールの気勢を上げました(前号の東チモールだより)。それは「国会は公用車とラップトップを買うな~っ!」という「サンタクルスの虐殺」とはなんの関係もない訴えでした。しかし周囲の人たちの反応は若者たちの叫び声に好意的でした。
新たな公用車購入はキャンセルされましたが、保健・農業・教育部門への予算が少ないという国家予算の配分内容に不満がある学生たちは国家予算案を審議する国会前での抗議活動を止めませんでした。
デモ活動を取り締まる警察は、デモは重要な建物(国会)から100メートル以上離れなければならないという規則を適用するなどして、11月14日、13名の目の不自由な人(すぐ家に帰されたと報じられた)を含め39名の抗議活動参加者を拘束したのです。このうち11名が現在、依然として拘留中で裁判手続きが審議されています。
規則は規則なのかもしれませんが、あるいは危険行為に及んだ者もいたかもしれませんが、若者たちの健全な反権力志向を温かく見守る度量が政府当局にほしいものです。
『ディアリオ』(2022年11月16日)より。
「警察、障がい者13名を含むデモ参加者39名を拘束」(見出し)。
『東チモールの声』(2022年11月16日)より。
「国会は批判にアレルギーをもつべきではない」(見出し)。
「パジェロの購入する時ではない」(小見出し)。
東チモール国会議員の公用車として三菱の「パジェロ」が採用されている。
国会議員は学生たちの発する「泥棒」「貪欲者」という自分たちへの言葉遣いに傷つくということにたいし、国会議員は「批判にアレルギーをもつべきではない」という反論がでた。
『東チモールの声』(2022年11月21日)より。
「裁判所、デモに参加した『国民マウベレ連盟』の学生11人に移動制限を適用」(見出し)。
ディリ地方裁判所は抗議活動をして拘束されている「国民マウベレ連盟」の学生11人に移動制限を適用し、裁判手続きを進めている。検察側はこの11人にたいし、規則違反や当局の公共施設にたいする妨害行為そして挑発行為など三つの罪状があるとしている。
青山森人の東チモールだより 第475号(2022年11月23日)より
e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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