「大軍拡」への中国の反応
- 2022年 12月 27日
- 評論・紹介・意見
- 中国安保3文書日米安保軍拡阿部治平
――八ヶ岳山麓から(408)――
岸田政権は12月16日、国家安全保障戦略など安保関連3文書を閣議決定した。同文書は、安全保障上の対象に中国と北朝鮮、ロシアの3カ国を明記し、中国の軍事動向を「最大の戦略的な挑戦」と位置付けた。
これに対して、中国共産党機関紙「人民日報」国際版の「環球時報」は、12月17日、「日本軍刀の『包囲突破』、陣営対立の危険激化」と題する項昊宇氏の論文を掲載した。項氏は中国国際問題研究院特聘研究員で、中共中央政策ブレーンの一人とみられる。
項氏は、まず安保関連3文書を「これは第二次大戦後の日本の安保政策が『守りから攻め』に重大な転向をしたことを示している。日本は戦後の束縛から脱却し、『軍事大国』に邁進することは争う余地のないこととなった」と断定した。
氏は、近年の日本国憲法による軍事的規制を緩めようする傾向からすれば、これは『正面突破』と『横向転回』の二本線であるという。「前者は軍事力に対する『平和憲法』の制約を漸進的に突破することを意味する。それは3文書にある防衛支出と攻撃的兵器装備の大幅拡大のふたつが集中的に体現している。後者は、日本の安全行動範囲の拡大と『準同盟』ネットワークの拡張を示すものである」
「日本の今次軍拡は日本の『自主防衛』能力強化が焦点だが、我々は日本の対外防衛協力がさらに加速度的に進展し、またそれが『点を面に広げる』『虚から実へ向かう』ことを知らねばならない。これはアジア太平洋の平和的安定ないしはグローバルな力関係に深刻な影響をもたらす」
また項氏は、「日本が日米安保を重点に、アメリカが極力進める対中国戦略の『指揮棒』の下、アジア太平洋の忠実な盟友として軍事的拡張と大国地位という二つの目標を追求していることは間違いない」と指摘し、日本が対米従属下の軍事大国を目指しているという。
さらに今日の日本はかつての日英同盟、日独伊三国同盟の野心をもう一度復調させているように見える、日本がアメリカを助けて「アジア太平洋のNATO化」をはかっているといい、米・日・オーストラリア・インドはイギリス・フランス・ドイツなどとともに頻繁に連合演習をしていると指摘している。
項氏だけでなく中国の軍事専門家たちは、上に見るように近年日本のNATO接近を神経質に観察・警戒しており、上記の演習についてもかなり詳細な分析をしている。
さらに、日本は「民主自由価値観」など西側イデオロギーで線引きをし、「自由で開放されたインド太平洋」の旗印を振り、大国(米中)の競争と地政学的な勝負に積極的に参与し、国際秩序変革期において、「主導権を握ろう」という戦略的野心をあからさまにしていると非難している。
また日本国内の世論の動向については、「自民党政権は長年『外部からの脅威』をあおり世論を誘導してきた。このため現今の日本民間の平和主義はすでにかなり衰えている」と分析している。
同時に日本の軍備拡張には一定の歯止めがあることを認め、「強軍拡軍をすすめようとする岸田内閣は依然『平和憲法』と財政、反戦の民意など多くの制約に直面し、対外防衛任務協力を通して軍事力の拡大を隠蔽し……」という。
項氏は、日本は昔ながらに再び地政学的な政治と陣営対立を復活させたいようだが、その戦略思想は古臭く狭隘であるし、日本の防衛協力なるものは、地域の軍事バランスと戦略の安定に重大な衝撃を与える、という趣旨をのべ、終わりに次のように言う。
「特にその目標は東アジアの海洋領土争いと台湾海峡に向けられ、特定の国家へ向けられている」「これは矛盾を激化させ、対立を激しくさせ、地域分裂をさせ、時代の潮流に逆らっているだけでなく火中の栗を拾う冒険でもある。今日の日本はまじめに自身の置かれた地理的位置を考え、国家の永遠の発展に思いを致すべきである」
以上、項昊宇氏の論文は極めて冷静で、日本で議論の中心となっている「敵基地攻撃能力」、その攻撃対象である「指揮統制機能」、さらに「台湾有事は日本有事」といった議論については、通り一遍の批判しかしていない。
12月20日「人民網日本語版」の記事は、中国が岸田内閣の軍拡の何に関心を持っているかを明らかにした。それは以下に見るように自衛隊の軍事力である。
――中長距離ミサイルによる攻撃能力の他に、敵軍事目標を特定する情報偵察能力も「反撃能力」構築の重要な一環だ。読売新聞の報道によると、日本政府は敵の地上の軍事目標や海上の艦艇の位置情報をリアルタイムで偵察するため、小型衛星50基からなる衛星コンステレーションを構築することをすでに決定した。自衛隊は11月29日、他国軍の所在・行動情報を共有するための『日米共同情報分析組織』を設置した。
自衛隊の「反撃能力」構築は、米軍による日本領土への中距離ミサイル配備に一定の「説得力」を与えることにもなる。日本自らが中距離ミサイルを保有すれば、日本国民は在日米軍基地への配備もより受け入れやすくなるからだ。しかし、日米両国によるミサイル攻撃能力の不断の強化は、北東アジア地域の安全保障秩序を深刻に破壊することになるだろう。
日本政府は「反撃能力」の構築を続けると同時に、宇宙、サイバー、電磁波、さらには認知など新たな領域における能力の強化、南西方面に配備する兵力の大幅な増強も計画している。
このほど日本は陸上自衛隊第15旅団に普通科連隊1つを加えることを決定し、3000人規模の「沖縄防衛集団」を構築した。岸田政権による自衛隊の攻撃能力の大幅な強化は、武器輸出規制の緩和、集団的自衛権の容認といった軍事モデル転換の延長線上にある――
安保関連3文書が示す日本の安保防衛政策の主たる対象は中国である。特に自民党は反撃能力の中に「(目標は)ミサイル基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含む」としている。「指揮統制機能」とはあるがままに言えば北京中南海である。だが激しい言葉による非難はない。
「強い中国」「戦えば必ず勝つ人民解放軍」を呼号する習近平主席がこのままで終わるはずはない、これではあまりに不自然だとおもっていたところ、中国は行動でそれを明らかにした。
中国海軍は、今月16日から沖縄県南方の西太平洋で空母「遼寧」を中心とする空母打撃群が、日本の南西諸島への攻撃を想定した訓練を実施している。中国政府関係者によると、演習期間は16~26日で、空母打撃群には遼寧のほか、対地攻撃も可能な最新鋭大型ミサイル駆逐艦「055型」も複数参加している。日本が南西諸島へのミサイル配備を検討していることへの「対抗戦略」として、西太平洋の海上から、南西諸島へのミサイル発射を想定した遠距離打撃の訓練を行う。
これは恒例の演習だというが、演習の開始を安保3文書の閣議決定があった16日からとしたのは、習近平国家主席じきじきの指示によるものだという。また中国国防省によると、中国海軍は21日から、浙江省舟山沖でもロシア海軍と合同演習を開始した。対潜水艦や海上封鎖などの訓練を行うとしている(読売・北京 2022・12・22)。
やはり、通り一遍の対日批判では終わらないようだ。安保3文書による軍拡への習近平政権の対応は厳しいものとなるだろう。
(2022・12・22)
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