私の新刊『日本再占領:消えた統治能力と第三の敗戦』
- 2011年 8月 2日
- 評論・紹介・意見
- 中田安彦
日米関係についての書籍は05年の『ジャパン・ハンドラーズ』以来です。かなり文献など証言を調べたり、一部、直接取材やマスコミ関係者の情報提供も含めて書かれています。力を入れて書きました。
内容については「あとがき」に要約してありますので、こちらを転載します。
(転載開始)
おわりに
「打ちのめされた国で、最初からやり直す」
2011年3月11日、すべての日本人にとって「空気」が変わった。これは自身を取り巻く環境だけではなく、原発事故で放出された放射性物質により、物理的な意味でも空気は変わった。
震災が起きて4カ月半が経過した。本書では、一貫して、「日本が統治能力を失ったので、日本はアメリカに再度占領されたのだ」と論じてきた。嫌なことかも知れないが、このことをまずはっきりさせなければならなかった。
日本が自国を自力で統治する能力を失った理由は幾つかある。まず、民主党政権が官僚機構の徹底的なサボタージュ(嫌がらせ)を受けて、マニフェストで掲げた重点政策の実現に行き詰まったことである。この事実について、私は「ウィキリークス」による米流出公電を引用しながら、この官僚の政治家への・反逆行為・を裏付けた。
しかし、政治主導を目指した民主党の政治家にも問題がなかったわけではない。鳩山由紀夫前首相が重点政策に掲げた普天間基地移設交渉の見直しには、十分な事前の準備と根回しが必要だった。数年に一度の選挙で交代する心配がない官僚たちは、政治家とは異なり、長い時間をかけて政策を実現する余裕があるという優位性を持っている。
同じく政治主導を目指して政治家と官僚との関係を根本から見直そうとした小沢一郎元民主党代表の苦闘についても触れた。この国を支配しているのは古代からの「律令制度の亡霊」であることも十分に論証できたと私は自負している。
2009年9月以来、官僚機構によって日本の統治能力が骨抜きにされていくなかで、この大地震が起きた。そして、日本は再びアメリカに占領された。
しかし、「なんだ、日本はもう再占領されてしまったのか。もう何をやってもアメリカの言いなりか」と悲観的になるのは早い。民主党政権がなぜ行き詰まっているのかを、本書では明らかにした。その正体とは、戦後の日米関係を動かしてきた日米双方の官僚がつくる「日米事務方同盟」による不透明な「談合体制」だった。これを突き崩すことが重要である。
これを書いているとき、民主党政権の首相は菅直人である。震災直後は危機対応の不手際でバッシングされた菅だが、脱原発政策についてはじっくりと時間をかけてやっていくつもりのようだ。アメリカからの圧力もうまく利用しながら、国内の経団連や経産省といった20世紀の日本の経済発展の主役となった既得権益を相手にノラリクラリとうまくやっている。細野豪志・原発担当大臣も菅の意向を汲んで、アメリカや官僚との折衝を粘り強く行っている。細野は次の総理大臣になる器を持った政治家の一人だろう。
むろん、菅政権が延命しているのは、米ホワイトハウスの原発・エネルギー専門家たちの意向をふまえて、福島第一原発の「封じ込め」のタイムテーブル(工程表)を実行しているからだ。細野豪志に指示を与えているのは。ジョン・ホルドレンというホワイトハウスの科学技術担当補佐官だ。ホルドレンはジェイ・ロックフェラー上院議員が高く評価する一人だ。
確かに日本政府の「統治能力の消失」は必然的に日本再占領に繋がっている。しかし、その占領を行っている側のアメリカだって、いつまでも日本の面倒をみることができるわけではない。アメリカでも日本と同様に、連邦政府の財政赤字が深刻だ。数年以内に、米国債の債務不履行(デフォルト)も確実に起きるだろう。そうなると、世界中にいつまでも軍隊を展開できる状況ではなくなる。つまり、世界覇権国アメリカの衰退は始まっている。アメリカは世界から軍隊を撤退させ、戦略的な再編を行っている。その時に否応なく日本はアメリカからも・自立・せざるを得なくなる。政治家も官僚も、自分の頭脳で国のサバイバルを考えなくてはならなくなる。
今、日本の真の意味での自立を阻んでいるのは、「アメリカに依存しておけば日本は大丈夫だ」と言い続け、結果的に日本独自の国益、それに基づいて編み出される国家戦略を定義してこなかった政財界人たちである。その人たちは、前原誠司という新しい自分たちの代理人を育てている。
アメリカが〈日本再占領〉を行う際、日本に重点的に要求してくるのは、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加である。これは太平洋地域でのアメリカ主導のグローバリズムを深化させようというものである。日本には参加メリットはほとんど無いことがすでにわかってきている。TPPは正式名称は、Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreementという。生々しいイメージを持つ“Strategy”(戦略)という言葉が含まれている。なぜか日本ではその部分が、メディアでは訳されない。
戦後日本は、そのアメリカの「戦略」の意のままに動かされてきた。だが、そういうことはそろそろ終わりにしようではないか。これからの日本は「自立した国家」として国益を定義する。その際、アメリカとも友好国のひとつとして過度に敵対することなく、付き合っていけばいい。もちろん次の超大国・中国とも同様だ。だから、「日米同盟の深化」の名のもとで主体的判断を政治家が放棄し、外務省にすべてを委ねてしまってはいけない。
ただ、同時にアメリカには国家としての・したたかさ・があるし、米軍が持つ危機管理能力もある。このことを、今回の震災への米軍・米政府のすばやい対応は示している。そこは日本も見習いたいところだ。だから、その部分は、日本は今回の〈再占領〉の機会に十分に学んでいけばいい。
国内の政治改革においても、小沢一郎が掲げた「自立した個人」を主体とする「1200年ぶりの政治革命」の意義を踏まえ、私たちが新しい世代の政治家を育てていく必要がある。国民のレベル(民度)以上の政治家は誕生しないからだ。
この「学び」の期間で日本が政治改革と国民の意識革命を成し遂げれば、新しい覇権国・中国がアジアに登場しても、日本はその荒波を自分の力で乗り越えることができるだろう。
本書はそのような「新しい日本」を次の世代に残すための格闘をしてきた前の世代の政治家の成功と失敗に学ぶ本でもある。
最後に、アメリカの歴史家、ジョン・ダワーの言葉を紹介したい。『敗北を抱きしめて』(岩波書店)という本の中でダワーは、先の大戦の後、アメリカの庇護の下で復興した日本の社会の姿をありのままに記録している。
私は震災後、ダワーが朝日新聞のインタビューに答えているのを読んだ。ダワーは、「当初、この本の名前は『打ちのめされた国で最初からやり直す(Starting Over in a Shattered Land)』というタイトルで考えていた」と言う。
今の日本も、「原発震災で打ちのめされた国で最初から国づくりをやり直す」時であるだろう。そのように強く思う。
2011年7月21日 中田安彦
(貼り付け終わり)
この日本再占領、英文では”Re-occupied Japan : lost governance and the third defeat”となります。現在進行で進む日本における「失われたガバナンス」(統治能力)と親米ロビー派による日本の国益の売渡し行為、それに立ち向かうことのできない、民主党政権の政治家たちについて描いております。放射能汚染について混乱した日本に対して「手負い(財政危機)の覇権国アメリカ」は何を求めてくるのか、この一冊で一般向けにわかりやすく解説しました。
さらに、本書は朝日新聞が報じた日本関連のウィキリークス公電も多数紹介し、分析を加えています。日本史における小沢一郎の位置づけ論も力を入れて書きました。親小沢・反小沢のそれぞれの立場の皆様に納得いただけるような分析になっております。
http://amesei.exblog.jp/より一部を転載。
(『日本再占領:消えた統治能力と第三の敗戦』(成甲書房)は8月6日発売予定です―編集部)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0576 :110802〕
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