ミサイル騒ぎの1人芝居 北朝鮮はまさかあの男に踊らされているのでは
- 2023年 1月 5日
- 時代をみる
- プーチンロシア北朝鮮田畑光永金正恩
新年。日本はおおむね好天に恵まれたようだが、ミサイルにおびえながら、極寒の中で電気や水にも不自由しているウクライナの人々に、どうしても思いが行く。かつて戦場とは当事国以外には概して「遠きにありて思うもの」であった。しかし、最近は近隣の交通情報を見る如く、距離は離れていても、時間を追って状況が知らされるので、思いが途切れることがない。そして日常では考えられない非人間的な行為を平気でするのは人間だけで、ほかの動物はこんなことはしないのに、とあらぬ方向に考えが進む。
そして、もう一つ、常識では考えられない振る舞いが身辺で継続していることが気にかかる。ほかでもない北朝鮮である。昨年来、三日にあげずとは言わなくとも、一週間にあげず、ミサイルやらなんやらを射ちまくって、あの独裁者が1人で力んでいるのはいったいどうしたことだろう。
この年末年始にも、大晦日に3発の弾道ミサイルを打ち、年が明けた元旦の未明2時50分ごろにさらに1発を発射した。朝鮮中央通信によれば、これらは「超大型放射砲」の試射とされる。
この結果、「防衛省の発表に基づくと、昨22年の北朝鮮による弾道ミサイル発射は推定を含め計31回、すくなくとも59発だった。韓国軍が探知した黄海への発射や距離が極めて短いミサイルも含めると過去最多の69発にのぼる。防衛省の発表ベースではこれまでの最多は19年の25発だった」(1月1日『日経電子版』)そうである。
そればかりではない。昨年末には、北朝鮮は5機の無人機を軍事境界線の南側に侵入させた。26日の午前10時半ごろから4機が北西部の江華島上空に入り、1機は北部の坡州(パジュ)市上空からソウル北部に到達、折り返したという。無人機は幅2メートル以下で高度3000メートル前後の空域を時速100キロメートルで飛行したとされる。
韓国軍も侵入を座視していたわけではなく、戦闘機や攻撃ヘリコプターで対応したが、撃墜できなかった。「市街地への被害を考慮し射撃を控えざるをえなかった」(12月27日『日経電子版』)という。
こうした北朝鮮の行動は一体、何を意味しているのだろう。北朝鮮が朝鮮戦争以来、引き続き米韓両国を敵対国として軍備を増強しているのはよく知られているところだが、昨年来、急に惜しげもなく高価なミサイルを周辺諸国のひんしゅくを買いながら射ちまくっているのは理解に苦しむ。
私は北朝鮮については門外漢であるが、10年ほど前に短期間ながら3回、同国を訪れる機会を得た。その時の印象では、あの国の一般庶民の生活レベルはアジアにおいて最低と言わざるをえないものであった。巨大な大陸間弾道ミサイルを開発、保有することと、民衆の生活レベルの低さを直列につなげて批判するのが妥当かどうかには議論があろうが、無関係ではないだろう。
いずれにしろ、昨年来の北朝鮮の行動には理由があるはずである。しかし、かねての敵対国である米、韓両国が急に従来以上に北朝鮮に対する敵性を増したとは思えない。
そこで考えはどうしても、ウクライナに飛ぶ。昨年2月、ロシアのプーチン大統領が「特別軍事行動」なる奇態な名前を付けてウクライナに侵攻を始めた時には、戦いは鎧袖一触、すぐにウクライナの現体制は崩壊し、同国はロシアの属国となるという予定表を懐に入れていたはずだ。
ところが、ウクライナの予想以上の戦意と西側諸国によるウクライナへの武器支援という予期せざる事態によって、同大統領の目論見は大きく狂い、やめようにもその口実に困るという事態に陥っている。その難局を打開するためには、戦線を広げて世界戦争の危機を演出し、危機の一括解決の枠内にウクライナも包み込んで、なんとか面子を保つというところに落とし込むしかない、と考えたのではなかろうか。
それにはアジアでも火の手が上がることが必要である。アジアで今、緊張しているのはやはり朝鮮半島だ。そこで金正恩総書記に舞台回しを持ちかけた。手段は問わない。アジアで火の手を上げろ。但し、絶対条件が1つある。最初の一発は韓国に撃たせろ。それでないと東西のバランスがとれない。
その結果、うまく米を引き出して東西両面の合同平和会議に持ち込めば、どちらも原状回復でけりをつけられる。金正恩にはたっぷり石油と小麦をやろう。国民は寒さに震え、腹をすかせているのだから。
こんなストーリーが頭に浮かぶ。しかし、韓国はおいそれとそんな挑発には乗らなかった。ソウルの近郊にまでドローンを飛ばしたのは焦った金正恩の苦肉の策ではなかったか。
昨年末、12月27日から北朝鮮は朝鮮労働党中央委員会総会を開いた。元旦に報道されたところでは、そこで金正恩は「23年に推進する自衛的国防力強化の新たな核心目標」として「戦術核兵器の大量生産」を掲げたという。これは韓国との地上戦を前提としていることを明示しているとしか受け取れない。
大晦日から元旦未明にかけて発射された前述の「超大型放射砲」は固体燃料を使う新型短距離弾道ミサイルの一種で、射程は400キロメートル程度、戦術核搭載可能、とされる。そして発射の成功を祝って、金正恩出席のもとで式典が開かれたと朝鮮中央通信は伝えているそうである。(『日経』1月3日)
なにか大きな力で事態は悪いほうへ、悪いほうへと引っ張られていきそうで不気味である。(230103)
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