ミャンマー、悪化する戦況に苦悶のクーデタ政権 ――秘密対策会議の記録が漏洩
- 2023年 1月 23日
- 評論・紹介・意見
- ミャンマー野上俊明
2008年憲法の規定では、本年2月までにクーデタによる非常事態宣言を終了させて権力を「移行評議会」に移譲し、そのもとで8月までに総選挙を実施する必要がある。軍事政権にとって、選挙を実施するにはまず軍事的に全国をコントロール下において治安を安定させ、さらに有権者名簿を作成しなければならないが、いずれもが遅々として進まず焦りの色を濃くしている。アルジャジーラ(1/7)によれば、なるほど1月初めシャン州進歩党、ワ州連合党、国家民主同盟軍の三つの民族武装勢力が、軍事政権との選挙協議に参加したという。しかしシャン州北部の領土を支配するシャン州進歩党のスポークスマンが、軍が「我々の地域で自由で公正な選挙を行わせるよう我々に要請して来た」が、「我々としては、彼らの選挙に反対するつもりはない」と述べたことからわかるように、彼らは強いて選挙に反対はしないという程度の姿勢でしかない。カチン独立軍(KIA)、国家民主同盟軍(NDAA)、タアン民族解放軍(TNLA)などの有力な武装勢力は、政府軍と激しい戦火を交えており、そこでは選挙どころではない。おそらく大都市でも、銃を突きつけてでも有権者を投票所に向かわせようとするであろう軍と、それを阻止しようとする民主派勢力との激突が予想される。いたずらに犠牲者を増やさないためには、国際社会は徹底して軍事政権を包囲し、選挙を諦めさせなければならない。
そのような状況下、反体制メディァ「イラワジ」(1/18付)は、ミャンマー軍事政権のトップレベルの「対テロ」会議から漏洩したメモをすっぱ抜いた。それには軍事政権が民主派抵抗勢力の制圧に失敗、立ち往生している様が赤裸々に浮かび上がっている。トップ・シークレットの会議のメモが漏洩すること自体が、政権の求心力が相当劣化している証拠であるといえる。ベトナム戦争当時も、南ベトナムの傀儡政権中枢部まで解放勢力のスパイが潜入、B52の爆撃予定地などの軍事機密がタダ漏れしていたことを思い出させる。
革命政府NUGの西部地域司令部における特殊コマンド訓練 イラワジ
以下、その特集の摘要である。
このメモの正体は、「中央テロ対策委員会」の 12 月の会議から流出した文書であり、Khit Thit Media によってオンラインで共有されたもの。この会議には、50人を超えるトップレベルの軍と警察関係者が出席した。それによれば、人民防衛軍 (PDF) らの抵抗勢力が制御不能にまで拡大しており、今年はいっそう攻撃が激化すると予想されるという結論であった。会議に出席した当局者の誰も、政権が8月に予定して選挙を首尾よく実施できるとは思っていないという。
内務大臣によれば、懸念すべきことは、PDF が手製の107 mm ロケット・ランチャーを使用して砲撃をエスカレートさせてきていることであるそうである。しかもPDFが軍事政権の標的を攻撃するために使用する武器や爆発物の約75%が、軍事政権のセキュリティ・チェックポイントを通過したものだという。軍律の弛緩や買収によるお目こぼしなど、ロシア軍と同様の腐敗現象が蔓延しているせいだと思われる。
さらに問題点は、抵抗勢力に関する情報の入手がうまくいっていないことである。情報提供への報酬制度を設けたり、情報提供のネットワークづくりのための予算措置が講じられたが、ほとんど活用されていない。それは当たり前で、はした金で命を危険にさらしてまで軍に協力したいと思う人間は、一般市民のなかにいるはずもなく、どれだけ自分たち軍が国民から浮いた孤立した存在になっているかの自覚もないのである。国防大臣と国境問題担当大臣から各地域ごとの報告があり、レジスタンス運動が拡大して制御不能に陥っているようである。上ミャンマーのカチン州ではカチン独立軍 (KIA)の拠点であるライザ市で、ザガイン、マグウェ、マンダレー地域のレジスタンス部隊に供給するための武器を製造しているとともに、人民防衛隊PDFに軍事訓練を施している。PDFは当初の小さな武装組織からいまや大きな戦闘部隊に成長しており、ソーシャルメディアを活用して公的支援を強化するための新しいイニシアチブを実施しており、そのネットワークはシャン州へも拡大している。本年度は抵抗勢力の大規模な反転攻勢がありうると警告している。
他方、政府軍は様々な困難に直面している。たとえば、頻繁な停電により、CCTV 監視システムが反政府軍を検出する能力が損なわれている。東部国境地域では、森林に覆われた地形がカヤー地域の政権軍にとって物流上および作戦上の問題を引き起こしている、軍事政権の部隊は、地形や現地の言葉を知らないため、困難に直面している。総じて地元の人々は「テロリスト」組織、つまりPDFによる報復を恐れて、政権当局との協力を拒否している。首都ヤンゴンでは警備が強化されているにもかかわらず、900件以上の爆弾テロが発生しているという。こうした事態にかんがみ、抵抗勢力に関するより多くの情報を得るために監視技術を使用することについても話し合われた。犯罪捜査局(CID)の担当者は、同局が運輸通信省に「ハイエンド技術ガジェット」の要請を行ったと述べた。しかしいくらAI技術を使おうと、人心が離反してしまった政権に生き残る余地は限られているといえる。
ミャンマー政権は、8月に実施する予定の選挙に向けて、1月から有権者名簿を更新するための国勢調査を行っている。タアン民族解放軍、カレン民族同盟、カチン独立軍を含む民族武装組織は、政権による選挙を拒否し、管理者に参加しないように警告した。抵抗勢力によると、すでに先週、警察官2人を含む5人が殺害され、行政機関や入国管理局が攻撃されたという。テロ行為は抵抗勢力内部でも議論があるようであるが、内戦状態にあるなか、それ以外に阻止する手段がなければ、続けられるであろう。
1月4日の独立記念日パレードにて、軍が新たに導入したMMT-40戦車の行進。イラワジ
さらに軍事政権を追い込む外圧が強化された。「修正ビルマ法」を含む、2023年度「国防権限法(NDAA)」が米国で12月23日に成立したのである。これによりミャンマー国軍に対する制裁、ミャンマーの挙国一致政府(NUG)など民主派抵抗勢力への支援と民主体制への復帰など、今後の米国の対ミャンマー政策の法的根拠が与えられた。具体的には、国軍関係者を含む軍幹部、軍政関係者、ミャンマーの軍需産業に従事する者、国軍の重要な外貨獲得源であるミャンマー石油ガス企業(MOGE)に対する制裁を推奨。民主派武装勢力の「国民防衛隊(PDF)」や少数民族武装勢力への武器以外の支援も認めている。
アセアンの動向もまた注目される。軍事政権に批判的なインドネシア、マレーシア、シンガポールと、軍事政権寄りの姿勢を示すベトナム、カンボジア、ラオス、タイとの亀裂が深まるなか、5項目の合意の実行に向けていくらかでも前進できるのか、新しい議長国インドネシアの手腕が問われている。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12759:230123〕
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