ミャンマー、軍事独裁者からの勲章受ける ―日本の政治の現状映し出す
- 2023年 2月 24日
- 評論・紹介・意見
- ミャンマー野上俊明
唖然とするような出来事である。大量虐殺の血で汚れ、中露といくつかの国を除く国際社会から、戦争犯罪や人道に対する罪で告発され、轟轟たる非難を浴びるミンアウンライン軍事政権。彼ら自身の策定した憲法によれば、この1月で非常事態宣言は失効し、この夏には総選挙を行わねばならないはずであったのに、全土の治安状態の悪化から当初の政治的ロードマップは断念し、全国330の郡区のうち40郡区に戒厳令を発令。その代わりに小手先の反転攻勢に出ている。その一つが、国内外に味方を拡大すべく始められた叙勲攻勢。この20日、ミンアウンライン軍評議会議長は、「日本ミャンマー協会」の渡邉秀夫央会長(元郵政大臣)と自民党・麻生太郎副総裁(同協会顧問)をミャンマーの発展と平和に貢献したとして、名誉称号と勲章を授与。日本の二人の重鎮、恥じ入って固辞かと思いきや、まったく悪びれず、首都ネピドーで開かれた式典には渡辺会長が麻生氏の代理出席もかねて臨場、今後も両国のさらなる友好関係の発展に尽くしたいと述べたという。
渡邉会長とミンアウンライン議長 Myanmar Japon
2/22日経新聞によれば、政府の要人たる麻生氏と元大臣の渡邉氏の関わる事案であるのに、日本政府は国軍のクーデタを認めず、早期の民主体制回復を求めるとしてきた手前、「個人として勲章を受章したと承知しており、政府としてコメントする立場にない」(松野官房長官答弁)と、逃げを打った。鵺(ぬえ)的といっていい、ぬるぬるとして正体不明のミャンマー外交の醜い姿をさらけ出している。
四面楚歌で窮地に立たされている軍事政権にとって、友好関係を受け入れてくれる日本政府関係者の姿勢は、干天の慈雨に値するものであろう。日本の支配者―そのすべてとは言わないが―の方も、人権や法の支配をふりかざす民主派勢力よりも、日本の権益を丸ごと守ってくれそうな軍の強権支配を好ましいと思っているにちがいない。しかしそれにしても、政治道徳も社会道徳も、すべて底抜けてしまったような惨憺たる日本の有様、しかし、それもこれもこうした状況を許しているのは我々自身なのだ。我々自身のふがいなさを大いに反省すべきであろう。高齢者は集団自殺が唯一の社会貢献だなどと、優性思想丸出しの言説が闊歩する新自由主義派のSNS空間―それはまちがいなくファシズムの前駆症状なのだ。まだ一貫した意志が欠けているが、その下地はできつつあるのではないか。
ウ・ロ戦争も政治・社会道徳の疲弊に一役買っていることは間違いない。ロシアの白を黒というプロパガンダは、嘘も百回言えば真実になるというニヒリズムを助長する。法の支配、合理的なルールに基づく国際秩序という観点を抜きに、ウ・ロのどっちもどっち論的立場から和平を説く一部の傾向には私は組みしない。ミャンマーで長く暮らしてみて、法の支配の欠如した社会は、弱肉強食、ホッブスの「リヴァイアサン」の世界になることを思い知らされた。内戦下、国民の半数が食べるに事欠いている悲惨な現状でありながら、信じがたいことに大都市郊外を中心に不動産市況が活発化しているという。軍とその取り巻きのクローニー(政商)たちにとって、戦争状態もまた投機と利殖の機会となる。
ドイツ通信社DPAによれば、ウクライナ侵略戦争を遂行するロシア、自らの戦争に使う武器装備にも不足を来しているというのに、ミャンマー軍事政権に戦闘機、防衛システム、ドローンを供給し続けているという。地上戦では勝てなくなっている国軍は、供与された航空装備を使って、抵抗拠点となっている村々を空爆。そのため国連推計では、国内の避難民(家を失い、仕事を失い、戦場から避難する人々)は270万人に達し、1日の収入約2ドル以下の貧困線で暮らす人々は、全人口の40%に上るという。さらに国連開発計画(UNDP)によれば、ヤンゴン管区(500万人以上)内の8郡区で行った調査では、住民の1/4は、この1年間給与を受け取っていないという。経済不振による通貨チャットの暴落や世界的な物価高騰
ヤンゴン市内―食料の無料配布に長蛇の列。 Myanmar Japon
が、これに追い打ちをかけている。当然、農村と違って都会では現金がなければ生活できないので、犯罪は多発する、保健衛生、医療、教育などの公共サービスは、ほぼ壊滅状態。それでも弾圧をくぐりぬけて、公務員たちはセーフティ・ネットを維持すべく悪戦苦闘しているという。
すでに死者は判明しているだけで3000人を超え、1万7000人以上が拘束されたという。これまでに140人以上に死刑判決が出ており、4名にはすでに昨年死刑が執行されている。ウクライナとともに、ミャンマー国民への人道的支援、民主派勢力への物心両面での支援と連帯が、ますます重要になってきている。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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