松竹除名に足を取られた共産党‐―友人へのメール
- 2023年 3月 2日
- 評論・紹介・意見
- 共産党阿部治平
--八ヶ岳山麓から(418)--
Y君へ
先日は凍みるなかの立ち話だったので、共産党の松竹信幸氏除名問題についてあまり詳しい話はできなかった。それであらためて、ぼくが松竹除名に抗議して「しんぶん赤旗」の購読をやめた理由を言おう。
ぼくらは、小中学の同級生N君が長い間共産党村議をしていたこともあり、共産党は国政の不正を暴き、村政にも良い影響を与えている政党だと考えて、いろんな不満を持ちながらも村の共産党を支援してきた。
2月23日、信濃毎日新聞(信毎)は社説で共産党批判をした。<共産の除名問題――かたくなに映る党の対応>という見出しで、全体はかなり遠慮した表現だが、「党規約違反で処分したとはいえ、閉鎖的な組織と見られても仕方ない面がある」と指摘している。
朝日・毎日・産経の各紙はそれぞれ社説で除名を巡り「異論封じ」「強権体質」などと批判した。他のメディアも「松竹氏は共産党のあり方を真剣に考えて問題提起をしたのに除名したのでは、世論は、共産党は異論を許さない政党だと受取るだろう」とか、「共産党の体質は古すぎる」と批判している。体質というのは、共産党の組織原則である民主集中制のことだ。
これに対して共産党は、松竹除名は異論を提起したからではない、規約違反をしたからだ、だからメディアの批判は事実にもとづかない「反共攻撃」だと反論した。さらに党規約をどう決めるかは共産党の自由だ、これを批判するのは憲法の「結社の自由」を否定するものだと、メディアの論調に激しく反発している。信毎は「(メディアの)批判や指摘を自主性への侵害と切り捨てるだけでよいのか。謙虚に受け止め、今後に生かす姿勢が欲しい」という。
メディアによる政党の内部問題批判を「結社の自由」の否定だとか「民主主義の破壊」だといい始めたら、自民党や立憲民主党の派閥あるいはグループについてメディアは何も言えなくなるのだが。
共産党の幹部は「除名」処分がどんなに悪い印象を世間に与えたか、どんなに政治的にマイナスになったかわかっていない。それにひきかえ自民党は、「安倍晋三は国賊だ」と罵倒した元行政改革担当相の村上誠一郎氏を党の役職停止1年間という処分にとどめた。安倍晋三氏をめぐる世評の動きをよく読み取っていると思う。
共産党中央幹部の多くは、人生の大半を党本部だけで過ごしてきた人たちだから、視野が狭いのはがまんするが、党中央と異なる意見を発表した人をいきなり除名では、「ビョーキ」といわれてもしかたがない。
共産党は、なぜ松竹除名を選び、なぜこれを批判するものを糾弾しつつけるのだろうか。それはわりにはっきりしていると思う。共産党幹部はいま薄氷の上にある。
志位和夫氏が共産党中央委員会委員長を務めた20年間に、党員・「しんぶん赤旗」読者・国会議員を減らし、財政的にも苦しくなり、いまや「しんぶん赤旗」のページ数を減らすところまで落ち込んだ。2021,22年の衆参両院選挙敗北ののち、最高幹部のやり方に疑問を持つ人は、党の内外に生まれた。僕らのようなシンパだけでなく、村の党員にも指導の仕方に不満をもらす人がいた。
だから志位委員長の地位を揺るがすような「党首公選」などの提案に対しては、理屈ではなく、反射的に拒否するのではないか。松竹除名に疑問を呈するメディアに対して「反共攻撃」という居丈高な言葉で反論するのは、共産党幹部の置かれた危機状況の反映だと思う。ぼくはこういう反応しかできない政党指導部に失望した。
だが、そうはいっても、党内では松竹除名を支持する党員が比較的多いと思う。というのは、共産党は1960年代、70年代入党の老党員が大きな割合を占めている。彼らは「党の決定を無条件に実行し、個人は組織に、少数は多数に、下級は上級に、全国の党組織は党大会と中央委員会の指導に従わなければならない」という、レーニン由来の「鉄の規律」で教育されているからだ。だから多少の不満を持っても、彼らは党中央に忠実であろうとする。党中央が「松竹は規約に違反したから除名した」といえば、ただちにこれを認める。それは村の党員も変わりがない。
共産党が他の野党との選挙協力を言い出したとき、僕は村の党員に「日米安保条約を認める他党候補でも支持するのか」と聞いてみた。それまで共産党は日米安保条約を容認する政党とは選挙協力はできないとしていたからだ。そうしたら彼は即座に「私はだれであれ党中央の指名した候補者を支持する」と答えた。
教員として生徒に自分の頭でものを考えるように求めてきた身からすれば、やはりこれは認められない。
さらに、共産党の安全保障政策は、1961年綱領の「中立自衛」から94年の「非武装中立」へ、それから2000年の「自衛隊活用論」に変った。党の決定が急迫不正の侵略には自衛隊を活用するといっているのに、「しんぶん赤旗」は、防衛予算や自衛隊についてほとんど毎日否定的なキャンペーンを打ってきた。
だから党員の多くは、松竹氏の「核抑止力抜きの専守防衛論」はもちろん認めるはずはない。志位氏の「自衛隊活用・安保条約5条による対応論」なども、本当は文句のひとつも言いたくなるはずだが、党員の誰かが公然と批判したという話は聞かない。
話がややずれるが、共産党において防衛論議が生まれたのは、この20年間に日本を取り巻く国際環境に大きな変化があったからだと思う。以前から共産党は、日本人民の敵は、アメリカ帝国主義と日本独占資本の二つだといってきた。50年もむかしのことだが、ある党員は、いつも職場でこれをいうので陰で「二つの敵」というあだ名で呼ばれていた。
ところがいまや大戦争のリスクは、共産党が諸悪の根源とするアメリカからではなく、ロシアと中国からうまれている。
台湾有事で、アメリカが介入すれば日米安保条約第5条は発動される。沖縄の日米軍事基地はまともにミサイル攻撃を受け、軍民共に大きな損害を被る。このリアリズムを共産党中央幹部がしっかり認識していれば、松竹氏のいう「核抑止抜きの専守防衛」という提案を全党でまともに議論して、日本がアメリカと中国の間を仲介する現実的な台湾戦争防止策がうまれたかもしれない。しかし、もう期待できない。
ところで、次の村議選では、松竹除名がなくても、共産党は議席回復ができるかどうかあぶないところだ。村議選では共産党でなくてもしっかりした人物がいれば、だれを担いでもいいとおもう。ぼくらは何十年ぶりかで共産党支持をやめるか、それとも引き続き支持するか、ここは思案のしどころだ。
(2023・02・18)
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