来年の「歌会始」はどうなるのだろう
- 2023年 3月 10日
- 評論・紹介・意見
- ポトナム内野光子
『ポトナム』三月号に歌壇時評を書きました。
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一月一八日の午前中、NHKテレビによる皇居での「歌会始」、忘れずに、いま、見終わった。コロナ禍のもとでの開催は三年目で参加者全員のマスク着用、距離を置いての着席、陪聴者をかなり少なめとするのが定着したようだ。皇族は、天皇・皇后のほか、秋篠宮家からは夫妻と次女、三笠宮、高円宮両家の母娘、合わせて九人であったか。天皇家の長女は学業優先で不参加ということが前日から報道されていた。入選者一〇人と選者の内藤明、召人の小島ゆかり、皇族代表の何首かが朗詠された後、天皇の短歌が三回朗詠されて終了する。いつも、この中継を見ていて思うのは、短歌の朗詠中の画面と短歌の解説なのある。朗詠される短歌の作者の居住地の風景や短歌にふさわしいと思われる風物を背景に、行書による分かち書きをした短歌のテロップが流れる。独特の朗詠では、短歌を聞き取れないことが多いので、こうした措置が取られるのであろう。行書である必要はない。その上、作者への入念な事前取材によって一首の背景や職歴などが詳しく、皇族の場合は、宮内庁の解説に沿って、アナウンスされ、「~という気持ちを表現しました」と作者に成り代わっての解説なのである。NHKは、すでに、入選者の発表があった昨年一二月二六日の時点で、「おはよう日本」は、入選者の何人かに取材し、入選作の背景などを語らせている。入選の短歌自体の発表は当日までお預けというのは、一種の権威づけで、宮内庁とNHKの情報操作の結果にほかならない。もともと、短歌には、鑑賞はあっても、読み手にゆだねられる部分も多い。詳しい解説が必要なのかどうかの思いから、私には、NHKの解説がむしろ煩わしく思えるのである。
「歌会始」の選者は、岡井隆が退任後、二〇一五年来、篠弘、永田和宏、三枝昻之、今野寿美、内藤明の五人が務めていた。昨年一二月に亡くなった篠弘の後任は誰かと気にはなるが、女性なら栗木京子かなと思う。すでに召人になり、NHKの短歌番組への出演も長く、「観覧車」の歌がすべての中学校の国語教科書に載ったことで若年層にもなじみがあり、現在、現代歌人協会の理事長でもある。ただ、すでに選者である永田と同じ「塔」の同人である。現在、選者の三枝・今野夫妻も同じ「りとむ」なのだから、あり得るかもしれない。また、知名度抜群の俵万智は師匠筋の佐佐木幸綱が、かつて「俺は行かない」と宣言している関係もあって、その壁を乗り越える必要がある。今年、召人になった小島ゆかりが、本命かもしれない。男性では、経歴、歌歴からも「かりん」の坂井修一辺りが打診されている可能性もある。いずれにしろ、七月初旬には、来年の選者が発表される。私の拙い予想がせめて外れてくれればと思う。
いま宮内庁サイドが腐心しているのは、平成期に比べて、詠進歌数が一万五千首前後で低迷していることではないか。また、令和期になって、元旦の新聞に天皇夫妻の短歌が載らなくなったことである。平成期には、必ず天皇家の集合写真と天皇五首、皇后三首が掲載されていた。二〇〇一年からは、宮内庁のホームページでも、解説付きの八首が発表されていた。(平成の天皇・皇后 元旦発表短歌平成二~三〇年 https://www.kunaicho.go.jp/joko/outa.html)もともと天皇制には平等の観念はないが、天皇五首・皇后三首はいかにも具合が悪く、発表を控えたのか、あるいは、現在の天皇夫妻の短歌への思い入れはそれほどでもなかったのか。宮内庁は、四月に広報室を新設し、情報発信の強化をはかるという。「短歌」が「情報」となり、強化され、利用されることのないようにと願う。(『ポトナム』2023年3月)
スイセンの最初の一輪、3月9日。1988年、当地に転居した際、親類よりいただいたイチジクの苗、大きく成長したが、枯れ始めたので、昨年の夏、切ってもらった、その切り株である。
「内野光子のブログ」2023.3.9より許可を得て転載
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〔opinion12886:230310〕
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